唯(なんや、いったいなんなんやこのいんぐりっしゅな宿題は?)

唯(わたしに英語の問題が解けると思うとるんか?)

唯(このわたしに英語なんてものはノーサンキュー!)

唯(……しかし、日本社会をちょーりょーばっこするいんぐりっしゅができないのはさすがにマズイ)

唯(落ち着いて。クールビズだよ。そう、難しい問題を前にしたときこそクールビズだよ!)

唯(シーイズクレイジーアバウト……なに、クレイジーアバウトって?)

唯(クレイジーは狂ってるでしょ。アバウトはテキトー。つまり……)

唯(彼女はテキトーに狂っている?)


和「……どうしたの、唯?」

唯「ああ、和ちゃん……」


和「どうしたのよ? 珍しく休み時間に宿題なんてして」

唯「今日、憂の借りてきたコナンを見たいから宿題を終わらせておこうと思って」

和「動機はともかく、いい心がけね。これからもそうしたら?」

唯「うぅ~でもわたしに英語なんて解けないよ! 解ける問題がないよ! ノープロブレムだよ!」

和「問題大アリね」

唯「和ちゃん」

和「なによ?」

唯「困ったときはお互い様だよね? 友達は助け合って生きていくべきだよね?」

和「そうね。お互いに頼り頼られる関係になりたいわね」

唯「その言葉が聞きたかった。和ちゃん、宿題見せてくだせー」

和「いやよ」

唯「じゃあ答えを教えてくれるだけでいいよ」

和「そうなんだ、じゃあ私、生徒会行くね」

唯「お待ちなすって」

和「……あのね唯。アンタは今年、受験生なのよ。勉強しなくてどうするの?」バンッ!

唯「コナン見たいもん」

和「なんで今さらコナンなのよ?」

唯「だって第二話で、コナンが大岩を砕くシーンがまた見たくなったんだもん」

和「まさか名探偵じゃなくて未来少年のほうとはびっくりね」

唯「あはは、まさか今さら名探偵コナン見ようなんてそんなのアリエッティだよ」

和「アリエッティは宮崎駿監督じゃないわよ」

和「まあ宿題見せるのはダメだけど、勉強を教えるならいいわよ」

唯「それだよ」

和「なにがよ」

唯「世の中は結果がすべてだって言うくせにさ」

唯「どうして、こと宿題に関してはまずやることが重要みたいな風習があるの?」

和「一見、まともな疑問のようでも馬鹿が言うと台なしね」

唯「うん、馬鹿だから宿題見せて」

和「うまい会話運びね。でも宿題は見せてあげないけど」

唯「せっかく頭を使ったのに不発に終わっちゃったかあ」

和「普通に勉強に頭を使いなさい」


……

唯「というわけで、今日は和ちゃんに宿題を教えてもらうことになったんだ」

律「ふうん、まあ和になら安心して勉強教えてもらえるもんな」

唯「わたしとしては答えさえ教えてくれれば、それでいいんだけどね」

律「唯が勉強できない理由がよくわかるな」

澪「そこでサラリと自分のことを棚にあげるから律も勉強できないんじゃないのか?」

律「澪があげるのは手だけどな」

澪「そうだ、な!」ボコッ

律「ボケにコブシが決まった……!」

唯「わたしはお手上げだよ、りっちゃん!やっぱり答えだけみせてもらえるように努力するよ」

梓「和先輩が唯先輩に気を揉む理由がわかる気がしますね」

唯「ほほう」ジーッ

梓「揉む、という単語に反応して私の胸を見つめるのはやめてください」

唯「やだなあ、あずにゃんの胸なんて揉めるわけないよ。わたしが見てたのは肩だよ、かーた」

澪「『揉み』つながりか」

梓「…………」モミモミ


唯「まあ、とにかくわたしとしては和ちゃんからさっさと答えだけ教えてほしいわけでして」

澪「いや、勉強しろよ。勉強していくうちにおのずと自分で答えを出せるようになるぞ」

唯「催眠術とか使えたらいいよね。今から勉強しようかなあ」

梓「催眠術覚えている間にきっと宿題が終わりますよ」

唯「ていうか宿題のしかたがわからないよ」グデー

澪「期末試験の唯はなんだったんだ」

唯「なんだったんだろうね」

律「とりあえずガンバったらいいじゃん。せっかく和が教えてくれるんだからさ」

唯「うん、なんとか答えを教えてもらえるようにガンバるよ」

梓「どんだけ勉強嫌いなんですか」

唯「あ、ムギちゃん、紅茶おかわりー」

紬「はいはーい」

唯「というわけで、あと10分ぐらいしたら和ちゃんが来るから。なにかおやつを用意してほしいんだ」

憂「急だね。でも安心して。いちごのショートケーキを買っておい

唯「却下」

憂「いちごのタルトが

唯「却下」

憂「いちご100パーセン

唯「却下。いちごのたぐいは全部ダメだよ」

憂「まだ和さんにケーキのいちごを食べられたこと、気にしてるの?」

唯「うん、ありとあらゆる意味で気にしてるし、許せないね」

唯「だいたいどこの世界にケーキのいちごから食べる人がいるの?」

唯「そもそも和ちゃん、いちごの食べ方じたい間違ってたし」

憂「私はその場にいなかったからなにも言えないけど、どうやって食べたの?」

唯「こう、尖端からパクリっ、と」

憂「べつに変じゃなくない?」

唯「イモトー……いもうとぉ、しっかりしてよ!」

憂「珍獣シスター……」

唯「え?」

憂「うん?」

唯「まあムギちゃんが一番イモトに似てるけどね」

憂「眉毛だけで判断してるでしょ」

唯「いちごの話に戻るけど、和ちゃんの食べ方がおかしかったんだよ」

憂「どうして? 普通に尖端から食べたんでしょ?」

唯「実はいちごは尖端が一番甘くて、へたがあるほうに行くにつれて味が薄くなるんだよ」

唯「だからおいしくいちごをいただくなら、へたがついている側から食べたほうがいいんだよ」

憂「知ってるよ。それをお姉ちゃんに教えたのは私だもん」

唯「ですよねー」

憂「お姉ちゃんの胸のいちごも和さんに取られないようにね」

唯「んん? 意味がわからないよ?」

憂「じゃあ私、純ちゃんの家に行くから」

唯「んー。いってらっしゃあい」

唯「ひとりになってふと思ったけど、憂に宿題やらせればそれでこの話終わってたよねえ」

唯「和ちゃんは大好きだけど、勉強に関しては人一倍うるさいしなあ」

唯「宿題見せてって言ってもけんもほろろにしか扱ってくれないだろうし」

唯「全然関係ないけど、実際(アニメ)は和ちゃんがいちごを食べたときは、へたの部分から食べたんだけどね」

唯「思いっきり憂にウソついちゃった」

唯「まあいいや」

唯「……うん、まあいいや」


和「おじゃまします。はい、さっさと宿題を終わらせましょう」

唯「答えをわたしに見せてください」

和「残念ながら私もやってないの」

唯「甘いよ和ちゃん。わたしの席は一番後ろ。周りを見渡すには絶好のポジションなんだよ」

唯「実は宿題やってたでしょ?」

和「よく観察してるわね。見せてあげないけど」

唯「ではどうすれば見せてくれますか?」

和「きちんと宿題をやったら見せてあげる」

唯「やったあとじゃ意味ないじゃん!」

和「答え合わせになるじゃない」

唯「じゃあ今から和ちゃんの答えに合わせるよ」

和「いいからやりなさい」

唯「仕方ない。宿題やるか」

和「ようやくやる気になったみたいね」

唯「ところで和ちゃん。わたし今すごく眠いんだけど、仮にここで寝たらどうなるかな?」

和「とりあえず宿題は終わらないでしょうね」

唯「いやいや、わたしが寝て起きたら宿題が終わってたりして……ね?」チラッ

和「宿題は終わらないわよ。だって終わらせるものだもの」

唯「かっこいいこと言ってるように思えたけど、普通のこと言ってるだけだね」

和「ところで唯は知ってる?」

和「人間は反射的に身体を動かさない場合でも、まず無意識に身体のどこかを動かして、それから考えて行動するのよ」

唯「……………………………………………………………………………………………………つまり?」

和「とにかく手を動かしなさい」

唯「はい」

………

唯「か、か、和ちゃん」

和「『か、か』がすごい気になるわね。で、なに?」

唯「休憩しよっか?」

和「宿題開始から三分しか経過してないわよ」

唯「されど三分だよ。ウルトラマンが地球にいられる時間だよ? そう思うと結構な時間だよね?」

和「ウルトラマンは三分の間に怪獣を倒すけど、アンタはまだ一問すらも問題解いてないじゃない」

唯「うん、もうへりくつはいいや。お菓子食べよ。わたしがもってくるから待ってて」

和「まあなんでもいっか。じゃあおねがい」

唯「ヤハハハ、それじゃ少し待っててね」


唯「お待たせ。さあさあ食べて、和ちゃん」

和「……こんなお菓子初めてみるけどなにこれ?」

唯「ごめんね和ちゃん。こんなものしかなかったんだ」

和「…………不思議ね」

唯「なにが?」

和「なんで唯はいちごのショートケーキを食べてるのかしら?」

唯「あとで和ちゃんにもあげるから、今はそれと一緒にジュースを飲んでほしいなあ」

和「よくわからないけど……いただくわね」

唯「どうぞお召し上がりになって」

和「もしかして、唯。私がお菓子を食べさせてくれたお礼に宿題を見せるとか思ってないわよね?」

唯「いやいや、さすがにそれは浅はかってもんだよ」

和「ふうん。いただきます」ボリボリ

唯「どうぞどうぞ」

和「……これ、すごく喉がかわくわね」

唯「そのためのジュースだよ、和ちゃん」

和「気が効くわね……ん」ゴクゴク

唯「おいしい?」

和「不思議ね。オレンジジュースなのにすっぱいわね」ゴクゴク

唯「最近の炭酸飲料は炭酸が弱くなってるからね」

和「いや、それオレンジジュースに炭酸が効いてる理由にはなってないし」

唯「ぐふふ、そうだね」

和「…………?」

唯「ほら、和ちゃん。チーザーがまだ残ってるよ」

和「このお菓子、よく見たらお酒のつまみじゃ…………あれ?」

唯「どうしたの和ちゃん?」

和「あ、あへ……? ぁたまが……ぽーっと……するぅ?」

唯「あらら、それは大変だー(棒)」

和「ちょ、ちょっとぉ……ゅひ、あんひゃ……わたひの……じゅーちゅに、なにいれはの?」

唯「なにも入れてないよ?」

和「ウソ……おっひゃい……!」

唯「あ、でもそのジュースはよくお父さんが食卓で飲んでたなあ」

和「そうなんだぁ……じゃあ、わらひ……せいとくぁいにひっく!……ね…………」ガクッ


唯「ウっシシシ……成功したよ」


唯「いやあ、マジメな和ちゃんはやっぱりお酒なんて飲んだことなかったみたいだね」

和「…………」

唯「わたしもお酒、飲んだことないけど」

唯「それにしてもこんな天才的な罠を思いつくなんて、わたしってばまさに天才」

唯「お酒を飲ませて、和ちゃんを酔わせて宿題を盗み見る」

唯「……和ちゃんは酔うどころか酔いつぶれて寝ちゃったけど」

唯「よーし、和ちゃんが寝ている間に宿題を写すぞー」

唯「ぺらぺら~」

唯「やっぱり和ちゃんのノートはキレイだね~。これならすぐに写せるよ」

唯「……あれ? 答えが書いてない」

唯「あ、これ全部、問題の解説だ」

唯「もしかして、和ちゃん……」

和「すぅーすぅー…………」

唯「私のために授業中にノートを作ってくれてたのかな……?」

和「…………ゅい」

唯「和ちゃん……」

和「勉強、しなさい……ょ」

唯「和ちゃん、予想外だよ」

唯「……普通に宿題やっておいてくれたほうが嬉しいよ、もぉ!」

和「なかなかお酒もいいわね……ねえ、唯?」

唯「和ちゃん、まさか起き上がるなんてびっくりだよ」

和「私はアンタが私にお酒を飲ませたことにびっくりよ。なんのつもりかしら?」

唯「あ、あはは、わたしらしい天然ボケミスかなあ? ……なんちゃって」

和「天然って便利な言葉ね」

唯「ていうか和ちゃんが意外にお酒に強いなんて……」

和「酔ってベロンベロンになった私なんて想像できる?」

唯「言われてみるとたしかにね」

和「うふふふふ、ねえ、唯」

唯「なあに、和ちゃん?」

和「唯って女の子に興味あったりする?」グイッ

唯「の、和ちゃん? 顔が近いよ?」

和「いいじゃない、女同士だし。それに……」

唯「それに?」

和「今なら誰もいないし、誰も見ていないし、誰も邪魔しないし、つまり二人っきり……えへへ」

唯「うわ、完璧に酔ってるよこの人」

和「そうね。最高にハイね。だって気分がよすぎるから……はいっ」

唯「きゃっ」

和「このように私は唯をベッドに押し倒してしまうの」

唯「あ、あの、和ちゃん……?」

和「唯、知ってる? ……ねえ知ってる? 知らないと、生徒会に行っちゃうわよ?」

唯「行ってよ」

和「つれないわねえ。私にあんなお酒飲ませておいて」

唯「あんなお酒?」


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最終更新:2010年09月11日 20:37