彼女は、すごく優しい人で
彼女は、すごくかっこよくて
でも彼女は、実はすごく可愛い人で
気がついた時には、もう彼女のことを好きになっていました。
ピンポーン
玄関のチャイムを押す。
ドアを開けて現れるのは、私の大好きな人。
ガチャ
和「はいどちら様・・・、ってあれ?」
憂「あ、おはよう和ちゃん」
和「憂、どうしたの?こんな朝早くに」
ある日の朝、私はいつもより早く家を出て彼女―
真鍋和ちゃん―の家に向かったのでした。
憂「んー・・・、何か久々に和ちゃんと一緒に学校行きたくて早起きして来ちゃった」
和「もう・・・、姉妹揃って突然変なことしたがるのね」
憂「えへへ」
和「とりあえず上がってなさい、もう少しで私も準備できるから」
憂「うん、急にごめんね」
和「とりあえず、私の部屋で待ってて」
憂「うん、ありがとう。急がなくてもいいからね?」
和「はいはい」
和ちゃんの部屋、何か久しぶり。相変わらず可愛い、女の子らしい部屋。
あ、やっぱりまたぬいぐるみ増えてる。
学校ではすごくクールでかっこいいから、割とこういうのが好きだなんて思われてないんだろうなあ。
憂「―ふふ」
―嬉しいな。
皆が知らない和ちゃんを、私は知っているんだと思うと。
ベッドに横になってみる。まだ微かに残っている、彼女の体温。
この体温に、本当に抱かれることができたのなら、どんなに幸せなことなんだろう。
でも、いいんだ。私は彼女の傍に居られるだけで。
彼女の笑顔が私だけを向いていなくても、それでいい。
ただでさえ私とお姉ちゃんは、彼女の中では『特別』なんだから、それ以上は望まなくても。
和「憂、ごめんね待たせちゃって ―って、何してるのよ?」
憂「ごめん、何か横になってみたら気持ち良くて・・・」
和「はいはい、ほら唯みたいなこと言ってないで行くわよ?」
憂「うん!」
和「で、何でこんなこと?」
憂「え?最近和ちゃんとあんまりお話してないなーって思ったから、お話したいなーって」
和「・・・本当にそれだけなの?」
憂「そうだよ?」
だって、和ちゃんのことが大好きなんだもん。
和「だったら、こんな朝早くに無理して出てこなくてもいいじゃない。私は生徒会の作業があるからいいけど・・・」
憂「だって和ちゃんもうすぐ受験生だし、生徒会の方も忙しそうだからなかなか声かけにくいんだもん」
憂「それで、負担になったり迷惑だったら嫌だなーと思って・・・」
和「―憂」
和ちゃんは、歩を止めると真剣な面持ちで私を見ていた。
和「憂は私が、そういうのを迷惑がると思っているの?」
憂「ううん、思ってないよ」
憂「ただ、私が勝手に和ちゃんの邪魔したくないって思ってるだけだよ」
憂「昔から、姉妹揃って面倒を見てもらってるのに更に負担になりたくないって勝手に思っている、だけ」
和「―そっか」
憂「うん」
そういうと、私達はまた歩き始めた。
和「ねえ」
憂「何?」
和「憂は言う程私に面倒かけたりしてないわよ?」
和「まぁ、唯に関してははっきりそう言ってもあげられないけど・・・」
憂「ふふ、そうかもね」
和「まぁ、そんなことは関係無く、いいんだからね?」
和「私を頼っても、私に面倒を持ち込んでも」
和「私にとっては、それよりもそういう時頼りにもされない方がよっぽど辛いわよ」
憂「あはは、和ちゃんなら本当にそうかもね」
和「もう、年上をからかわないの」
貴女のことが、ずっと前から好きだったんです。
貴女に、私を見ていて欲しいんです。
ずっと、貴女の隣に居たいんです。
そんなこと、言える筈が無い。
彼女はきっと、困った顔をするだろう。
彼女はきっと、罪悪感に苛まれるだろう。
そして何より、今のこの関係が壊れてしまうかもしれない。
だから、私はこのままでいいんだ。
このままなら、私は彼女にとって一番ではないかもしれないけど、彼女にとっての『特別』でいられるから。
和「ごめんね、朝から生徒会の仕事手伝ってもらっちゃって」
憂「いいよー、どうせ皆登校する時間まで暇だったし」
和「飲み物くらい奢るわ、何がいい?」
憂「えー、いいよ別に」
和「駄目よ、それじゃ私の気が済まないわ」
本当に、真面目なんだから。
憂「じゃあ、和ちゃんと同じのがいいや」
和「わかったわ、じゃあちょっと待ってて」
和「はい、どうぞ」
憂「ありがと、和ちゃん」
和「どういたしまして」
憂「・・・」
和「・・・」
憂「・・・何かね?」
和「うん?」
憂「普段居ることもない時間に、普段居ることのない生徒会室で缶コーヒー飲んでるのってすごい変な感じ」
和「ふふっ、そうかもね」
憂「和ちゃんはいつもこうしてるの?」
和「そんなことないわよ、いつもこうやって朝早く来てる訳じゃないし」
和「来たら来たで、今日は憂が手伝ってくれたからいいけど・・・いつもはもっとぎりぎりまで作業してるしね」
憂「他の生徒会の人は?」
和「基本的に私が一番早く来るのよ、上に立つ人が率先して動かなかったら示しがつかないもの」
憂「そうは思っててもなかなかやれる人は居ないと思うよ、和ちゃんは相変わらず真面目だね」
和「良くも悪くも、それが私だからね」
憂「そうかもね・・・。基本的には早くって言ってたけど、それじゃ他の人そろそろ来ちゃうんじゃないの?」
和「そろそろ、来る頃かもしれないわね」
憂「私、部外者なのにここに居ちゃっていいのかな?」
和「いいのよ、手伝ってくれたし。それで文句なんて言わせないから」
確かに、学校での和ちゃんのイメージだと文句言える人なんて殆ど居なさそう。
純ちゃんも、
純『生徒会長さんってさ、鉄の女!って感じだよねー』
なんて言ってたもんね。
和「とは言っても、憂って結構人見知りなところあるし他の皆が来る前に教室に行っちゃってもいいわよ」
憂「うん、じゃあそろそろ私は教室に行くね。コーヒー、ご馳走様」
和「どういたしまして、こちらこそ手伝ってもらって助かったわ」
和「・・・ねえ、憂」
憂「何?」
和「明日は休みだし、一緒に出かけましょうか?」
憂「え?」
和「確かに、最近あんまり憂と話したりとか遊んだりって無かったからいいかなと思って」
和「急な話だし、勿論憂の都合もあるだろうから無理にとは言わないけど・・・」
憂「い、行きたい!」
和「じゃあ決まりね。どこに行く、とかは希望があれば聞くし、無ければ適当に二人で歩いてみてでもいいしね」
憂「うん!うん!」
嬉しいよー!久々に和ちゃんと二人でお出かけだー!
和「・・・はぁ、ごめんね憂」
憂「え!?ど、どうしたの・・・?」
ま、まさか冗談だったとか・・・!?
和「憂がこんなに喜んでくれるなら、もっと早く誘えば良かったわ」
そ、そういうことだったの・・・。あんまり驚かせないでよ、もう。
和「私って駄目ね・・・周りには過大評価されちゃってるけど、可愛い幼馴染のことを満足に構ってあげたりすらできないわ」
か、可愛い幼馴染って言われちゃった・・・///
どうしよう、すごく嬉しい・・・。
けど、今はそうじゃなくって!
憂「そんなこと、無いよ。誰だって、本当の意味で他人の気持ちをわかってあげたりなんてできないもん」
憂「それより和ちゃんは、私が喜んだからもっとこうしてあげたいとか、そういうことを思えるんだよね?」
憂「だったらそれは、すごく素敵なことだよ。和ちゃんは自分が思ってるより、優しくてすごい人なんだから」
和「憂・・・」
憂「ずっと傍に居た、幼馴染の私が保証するよ!」
和「・・・そっか、ありがとね憂。すごく嬉しいわ」
憂「うん、・・・じゃ流石にそろそろ行くね」
和「うん、引き止めちゃってごめんね」
憂「全然いいよ。・・・それより、明日楽しみにしてるね」
和「私もよ」
さて、和ちゃんと話してたらちょうどいい時間になったことだしお姉ちゃんを起こそう。
プルルルル…プルルルル…
唯『もしもしぃ~・・・?』
憂「あ、お姉ちゃん?おはよう」
唯『あれぇ~?何で憂が電話を・・・?』
憂「私今日、早く家を出たんだー」
唯『ほえ~?そうなの?何で~?』
憂「それよりお姉ちゃん、そろそろ準備しないと。朝ごはんとお弁当はリビングにあるからね」
唯『ふぁーい・・・今起きまーす』
憂「じゃあね、お姉ちゃん。遅刻しちゃ駄目だよ?」
唯『はーい、じゃあねー』
これでお姉ちゃんも遅刻しないかな。
純「あれ?憂?」
憂「え?」
この声は、純ちゃん?
純「あ、やっぱり憂だ。いつもより早いじゃん、どしたの?」
憂「ちょっとね、純ちゃんはいつもこの時間なの?」
純「んー、まぁ何となくね。いつもって訳じゃないよ」
純「・・・で、憂はどんないいことがあったの?」
憂「へ?」
純「いつも憂はにこにこしてるけど、今日はそんなもんじゃないよ」
憂「え、えぇ?」
純「自覚無かったかもしれないけど、にやけすぎ。そんなんじゃ今日はいいことありましたーって言ってるようなもんだよ」
そ、そんなに顔に出ちゃってたのかな・・・?
純「・・・和先輩絡み?」
憂「え!?」
純「やっぱりそっか~」ニヤニヤ
憂「ななな何で!?」
何でバレてるの!?
純「憂は気づいてなかったかもしれないけどね」
純「中学の時からあれだけ『和ちゃんが』『和ちゃんが』って大切な幼馴染とやらの話を聞かされれば、誰だって気付くよ普通」
憂「う、うぅ・・・」
純「それに和先輩が生徒会長になった時に私が『鉄の女』とか言った時だってさー・・・何て言ったか、覚えてる?」
純「『確かに和ちゃんは真面目でお堅いところもあるけど、本当はすごく優しい人なんだから!』って声を大にして言ってたよ?」
そういえば私そんなこと言った気もする・・・。
うぅ、恥ずかしいよぅ・・・。
純「あの時言われて私もびっくりしたよー、まさか生徒会長さんが噂の『和ちゃん』だったなんてねー」
憂「じゅ、純ちゃん・・・もう勘弁して・・・」
純「あはは、ちょっとからかいすぎちゃったかな?・・・うわぁ、顔真っ赤」
憂「あ、あんな風に言われたら当たり前だよ!」
純「いやぁ、私から見たら全く隠す気なんて無いように見えてたからつい」
憂「・・・そんなに?」
純「うん、憂って和先輩と話してたり、和先輩のこと話してる時が一番幸せそうだもん」
憂「あれ?じゃひょっとして、梓ちゃんも・・・?」
純「あー前に『憂って和先輩のこと好きなんだよね?』って聞かれたよ」
憂「そ、そうなんだ・・・」
純「まぁ適当に誤魔化しといたけど、バレてるだろうね」
本当に手遅れだったなんて、うぅ・・・。
あれ・・・?
じゃあ、ひょっとして・・・?
憂「・・・ねぇ、純ちゃん?」
純「ん?何?」
憂「和ちゃんも・・・気付いてると、思う?」
純「んー・・・多分気付いてないとは、思うかな」
憂「そっか・・・何で、そう思うの?」
純「まず第一に、和先輩はあくまで自分と話してる憂を普段通りの憂だと思ってるだろうってこと」
純「だから自分と話してる憂が特別嬉しそうなんて思ったことないんじゃないかなー」
憂「それもそうだよね、確かに私は和ちゃんの前だといつもにこにこしてると思う」
純「あと、どっちかというとこっちが大きいんだけど」
憂「うん」
純「和先輩ってそういう話にはものすごく疎いと思う」
憂「・・・確かにそうかも、和ちゃんってそういう話全然しないもん」
純「でしょ?だから多分憂の気持ちにも気付いてないと思うよ」
憂「そっか」
純(・・・他にも和先輩のこと好きな人って結構居るけど、和先輩全く気付いてないっぽいしね)
純(でもこれは、憂が余計な心配しそうだから言わないでおこうっと)
純「でも和先輩も罪な人だねー、こんなに可愛い女の子がずっと慕ってくれてるのに気付かないなんて」
憂「もう、純ちゃんったらからかわないでよ」
純「へへへ、・・・でも私は真面目に言ってるつもりだよ。もうちょっと自信持ちなよ、憂」
憂「・・・ありがとう、純ちゃん」
純「いえいえ、どういたしまして」
私は、何を期待していたんだろうか。
さっきは自分で、
この気持ちが伝えられなくても、
自分だけを見ていてくれなくても、
和ちゃんの一番でなくてもいいなんて思っておきながら・・・
『和ちゃんも私の気持ちに気付いている』
そんなことを期待しているなんて。
私の気持ちに気付いている上であんなに私に優しくしてくれてるんだって、
きっと和ちゃんも私のことを想ってくれてる筈だと思いたいなんて、
梓「あれ?憂と純?二人共早いね、おはよう」
純「あ、梓だー。おはよー」
憂「梓ちゃん、おはよう」
―放課後―
純「あぁー!やっと終わったー!」
梓「純は結構寝てたでしょ・・・」
純「そんなことないって。あ、後で数学のノート見せてね」
梓「やっぱり寝てたんじゃない」
純「ふへへ」
憂「純ちゃんも梓ちゃんも、この後は部活?」
梓「うん、そうだよ」
純「あたしもー」
憂「そっか、二人共頑張ってね」
梓「うん、じゃあまた明日ね」
純「じゃあねー」
- 掃除が終わったら、和ちゃんに逢いに行ってみようかな。
何時に生徒会が終わるかわからないけど、それでも和ちゃんと一緒に帰りたいもんね。
さて、掃除も終わったことだし・・・。
というか、よく考えるとわざわざ生徒会室に行くことは別に無いよね。
特別な用事でもないから生徒会室にも入って行きにくいし、
メールだけしておいてあとは今日出された宿題でもやってようかな。
最終更新:2010年09月11日 21:50