―あれ?
校舎裏の方に人?・・・というかあれは、和ちゃん?
一体こんなところで何して―
女生徒「好きです、真鍋先輩」
憂「―――!」
え?今、何て?
女生徒「ずっと憧れてました、私本気なんです」
嘘、うそ・・・。
和「・・・」
女生徒「・・・お返事、いただけませんか?」
嘘、嘘、嘘・・・!
和「私は・・・―――」
気がつくと、私はそこから逃げるように走り去っていた。
私は、何を勘違いしていたんだろう。
和ちゃんは私やお姉ちゃんだけのものじゃない、そんなことわかりきっていた筈なのに。
こんな時間が、ずっと続くなんてありえないのもわかっていた筈なのに。
あんなに素敵な和ちゃんが、他の人から好かれない訳がないのに。
あの笑顔は私だけに向けられるものじゃないってわかっていたのに。
私は全部自分の都合の良いように解釈して、ずっと私は和ちゃんと居られるなんて思っていたんだ・・・。
憂「嫌だよぅ・・・和ちゃん・・・」
私は人の来なさそうな場所で、一人泣いた。
自分の余りに身勝手な考えにも嫌気が差したし、
さっきの人は私がずっと言えなかったことを言ってみせたのかと思うと、
私の気持ちなんてその程度だったのかと思えてしまった。
何より和ちゃんの笑顔が、さっきの人だけに向けられることになるかもしれないと思うと涙が止まらなかった。
純「・・・憂?」
憂「!」
しばらく泣いた頃に、純ちゃんがやって来た。
憂「ど、どうしたの純ちゃん?今部活中の筈でしょ?」ゴシゴシ
純「・・・早退してきた」
憂「え?」
純「中学からの大事な友達が、この世の終わりみたいな顔して走ってるのが見えちゃったから部活どころじゃなくなってさ」
憂「・・・あはは」
純「笑わなくていいよ、憂。泣きたい時に無理して笑うことなんて無いよ」
憂「・・・」
純「私じゃちょっと頼りないかもしれないけど・・・何があったか話してくれないかな?」
純「話したくないなら話したくないでも、泣いてる憂に胸を貸すとか隣に居てあげたりくらいはできるからさ」
憂「う、うぅ・・・っ、うわぁぁぁぁぁん」
私は純ちゃんに抱きついて、泣いた。
今は純ちゃんの言葉が、優しさが、素直に嬉しかった。
純「・・・なるほどね、そういうことだったんだ」
憂「うん・・・」
私はありのままを話した。
自分の身勝手さに嫌気が指したこと。
和ちゃんを好きな気持ちでも負けてしまったと思えてきたこと。
何より和ちゃんが離れていってしまうのが恐ろしかったこと。
純「でさ、とりあえず憂は、どうしたいの?」
憂「え?」
純「今までの話を総合した上で、憂はどうしたいと思うの?」
憂「私は・・・」
純「憂だって自分の気持ちを伝えたいって、思ったんじゃないの?」
純ちゃんの言う通りだ。
私だって自分の気持ちを伝えていれば良かったと、心からそう思った。
けど、そう思ったけどそれでも・・・。
憂「自分でも情けなくて仕方がないけど、それでもね・・・」
憂「やっぱり、今の関係が壊れるのがどうしても怖いの・・・」
純「・・・」
憂「和ちゃんのことが好きだって伝えて、女同士でそんなの気持ち悪いって思われたら・・・!」ポロポロ
もし和ちゃんに、侮蔑を込めた視線で自分を見られてしまったら・・・。
考えることすら恐ろしい。
こうやって少し考えてしまっただけでも、涙が止まらない。
憂「怖い・・・!やっぱり私怖いよ・・・!」
純「・・・大丈夫だよ」
憂「え・・・?」
純「和先輩がそんなこと思うなんて絶対に無いから、きっと大丈夫だよ」
純ちゃんはきっと、私を励ましてくれようとこんなことを言ってくれているのはわかるけど。
ここで純ちゃんに何か言っても、それはただの八つ当たりでしかないということもわかっているけど。
憂「他人事だからって無責任なこと言わないでよ!」
今の私はそれが抑えられる程、冷静じゃなかった。
純「あー今のはちょっと傷ついたなー・・・他人事なんて全然思ってないのに」
憂「じゃあ何でそんなこと言えるの!?純ちゃんはそんなこと言えるくらい和ちゃんのこと知ってるの・・・!?」
純「んー、全然わかんない。数える程しか話したこともないしね」
憂「じゃあ何で・・・!」
純「・・・でもさ、私、憂のことならよーく知ってるんだよね」
憂「・・・え?」
その時私には、純ちゃんが何を言ってるのかわからなかった。
純「だからね、わかるの」
純「憂は和先輩のことを心から本当に、ずっとずっと好きなんだよ」
純「和先輩の話になると、こうやって普段優しい憂が大声出したりするくらいさ」
憂「・・・」
純「でね、私の知ってる
平沢憂って子はすごーくいい子なんだよね」
純「こんな自分勝手で無責任なことばっかり言っちゃう奴と何年も一緒に居て笑い合ってくれたり」
純「自分のお姉ちゃんも含めて周りの人に対してすごく気配りができたり、あとは・・・宿題見せてくれたりとか?」
純「あはは・・・まぁとにかく、すごくいい奴。私の自慢の友人だね」
憂「純ちゃん・・・」
純「そんな憂がずっと本気で恋してる人がさ、そんなこと思う訳ないって私は思うんだよね」
純「・・・で、更にこの予想が確かだってことを証明してあげるけどさ」
純「和先輩のことをずっとずっと、本気で大好きな平沢憂さんに質問です」
憂「・・・何?」
純「愛する
真鍋和さんが、誰か同姓から自分のことを好きだと聞かされたとします」
憂「うん」
純「では真鍋和さんは、そのことでその人を差別しちゃうような人なのでしょうか?」
憂「・・・和ちゃんは、そんなことをしたりする人じゃないよ」
―そんな訳、ない。
あの誰よりも優しい和ちゃんが、そんなことする筈が無い。
純「ね?もう憂の中でも、答えは出てたじゃん」
憂「うん・・・!」
またもや涙が溢れそうになる。
今度は悲しみの涙じゃない。
私のことをこんなにも思ってくれる、大切な友人が居てくれること。
それが嬉しくてたまらなかった。
純「あーまだ泣いちゃ駄目だってば、憂。泣くのは和先輩に気持ちを伝えてからにしてよ」
憂「うん・・・純ちゃん、本当にありがとう!私、純ちゃんと友達で本当に良かった!」
感謝の気持ちを伝えると、私は純ちゃんに背を向けて走り出す。
本当はわかっていた、自分の気持ち。
本当はわかっていた、自分がどうするべきかということ。
純ちゃんは色々なことに気付かせてくれて、私の背中を押してくれた。
だから、それを無駄にしないためにも私は和ちゃんのところに向かわないと。
純「だからそういうのも告白した後でいいんだってばー・・・」
純ちゃんがまだ後ろで何か言っていたのが聞こえた。
けれど、今の私は止まれないからその言葉に対する返事は後でいい。
純ちゃんの言う通り、私の気持ちを和ちゃんにぶつけてからで―――
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
純「・・・さて、もう憂行っちゃいましたし、出てきてもいいんじゃないですか?」
唯「あれ?ばれてたんだ?」スッ
純「ちょうど憂の方を見た時に、視界に入ったもので」
唯「何でその時には言わなかったの?」
純「途中でそんなこと言える空気でもありませんでしたし、それにお姉さんなら聞かれてもそれ程不味くないかと思いまして」
唯「はぁー・・・憂はいい友達を持ったものだねぇ~」
純「あはは、ありがとうございます」
唯「純ちゃんだけでなく、あずにゃんもね」
純「梓、ですか?」
唯「うん、偶々泣いてる憂を見かけたらしくてね。部活に来るなり」
梓『唯先輩!憂が泣いてるのを見かけちゃったんです!早く憂のところに行ってあげて下さい!』
唯「って言い出してね。慌てる私の背中を押して、『もうとにかく行けー!』って言うんだよ」
純「あははは、それ何か梓らしいですね」
唯「でねー、あずにゃん本人は行かないの?って言ったらね?」
梓『私で力になれるならそうしてあげたいですけど、きっと唯先輩の方が憂の力になってあげられます・・・』
唯「『だから早く行ってあげて下さい!』なんて言うんだよー。・・・そんなこと、ないのにね」
唯「私も勿論憂のことは大切だけど、そんなに憂のことを思ってくれるあずにゃんだって充分憂の力になってあげられるのにね」
純「そうですね・・・まぁそういうところも梓らしいとは思いますけどね、ふふ」
唯「うん、あずにゃんらしいね・・・憂、上手くいくといいな」
純「お姉さんでも、どうなるかわかりませんか?」
唯「だぁってぇー、和ちゃんったらそういう話全くしないしさー」
唯「私や憂に抱きつかれようと、男の子に告白されようと、表情すら殆ど変えないんだもん」
純「流石、というべきですかね・・・じゃあ、お姉さん個人の感想としては?勘でも何でもいいので」
唯「・・・そりゃー上手くいくに決まってるよ」
純「どうしてですか?」
唯「憂は私の自慢の妹だし、和ちゃんは私の自慢の幼馴染だからね」
唯「それに何より・・・私が上手くいってほしいと思ってるから!」
純「・・・あははははは!何ですかそれ!」
唯「うへへへへ・・・」
純「あーおかしい・・・」
唯「・・・さて私達は成功を祈って待ってるとしますかー、純ちゃんも一緒に待ってよう?」
純「え、いや私が行っても他の方の邪魔になっちゃいますよ」
唯「大丈夫だよー、ほらお茶も出してあげるから来なよー、ね?」
純「お茶出してくれるのって絶対お姉さんじゃないですよね・・・」
唯「細かいことは気にせずにー!」グイッ
純「わわっ!?もう、急に引っ張らないで下さいよ・・・」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
プルルルル…プルルルル…
和『もしもし、憂?どうしたの?』
!
出てくれた!
憂「和ちゃん!今どこ!?」
和『え?生徒会室からそろそろ出ようかと思ってたけど・・・それよりそんなに息を切らしてどうしたのよ』
憂「気にしないで!それより今一人で居たの!?」
和『そうだけど・・・』
憂「じゃあ待ってて!すぐ行くから!それじゃーまたすぐにね!」
和『ちょっと憂―――』
ごめんね和ちゃん、話の途中で切っちゃったりして。
でも、もう駄目なんだ。
電話で話すだけじゃ我慢できないよ。
今すぐ、和ちゃんに逢いたい。
逢って、直接声を聞きたい。
私ね?今でも和ちゃんとの関係が崩れたらと思うと怖いんだよ?
でも怖がってるだけじゃ駄目だって、わかっちゃったんだ。
我侭かもしれないけど、
やっぱり和ちゃんの隣が別の誰かだなんて、悲しくて耐えられそうにないよ。
私が―、私がずっと和ちゃんの隣に居て笑っていたいの。
そして和ちゃんにも、私のことを特別に思っていて欲しいの。
だって私、ずっとずっと和ちゃんのことが好きなんだもん。
恋してる。愛してる。どんな言葉でも言い表せないくらいに、心から―
憂「和ちゃん!」
勢いよく、生徒会室のドアを開け放つ。
そこには、私にとって誰よりも愛しい人が居た。
やっぱり、待っててくれたんだね。
もう、本当に人がいいんだから。
和「あーもう、さっきも言ったけどそんなに急いでどうしたのよ?」
和「そんなに急がなくても、私は逃げたりしないわよ?」
憂「えへへ、ごめんね和ちゃん」
憂「・・・和ちゃんに、お話があって」
和「私に?」
憂「うん」
和「明日は一緒に出かけるんだから別に明日でもいいのに・・・」
憂「ごめん、私の我侭だけど・・・それじゃ駄目なの」
憂「どうしても今日、ううん、今伝えないといけないことなの」
和「・・・」
憂「和ちゃん、今日告白されてたよね?」
和「・・・何で憂が、それを?」
憂「ごめん、偶然通りかかっちゃったの」
和「まぁ、憂はそういう嘘をつく子じゃないしね・・・で、それがどうかしたの?」
憂「和ちゃんは、どう返事をしたの?」
和「・・・まぁ、どうしたかなんてこれからの私を見てれば一目瞭然でしょうしね」
和「お断りしたわ」
憂「どうして?」
和「その子のことを、そういう対象として見ることができないからよ」
憂「それは、女の子同士だから?」
和「それもあるかもしれないわね。私にはその子とキスしたりとか、そういう自分が想像できなかったわ」
憂「そっか・・・ごめんね、和ちゃん」
和「どうしたの?」
憂「私の言うことは、和ちゃんのことを困らせちゃうと思う」
憂「でも、ごめん。それでも、もう言わないでなんていられないよ」
和「・・・うん」
だってもう私にはこの気持ちを止めることなんて、できない。
和ちゃんを困らせて、私自信もショックを受けるかもしれないけど、それでもどうしても伝えたいの。
憂「私、和ちゃんのことが好き。ずっと前から、ずっと好きだったんだよ?」
憂「本当は和ちゃんを困らせちゃうのが嫌だし、言わないつもりだったんけどね」
和「この会話の流れだと・・・それは私が貴女達姉妹と普段から言い合ってるような、『好き』ではないわよね?」
憂「・・・うん、私は和ちゃんと・・・恋人同士になりたい。手を繋いだりとか、キスしたりとか・・・したい」
和「本気、よね?憂は冗談でそういうこと言わないだろうし」
憂「う、うん・・・女の子同士でこんなの、変かもしれないけど・・・」
どうしよう・・・言いたいこと言って落ち着いてきたら、何か今更怖くなってきちゃった・・・。
和「確かに女同士でなんて、考えたことも無かったわ」
憂「・・・」
やっぱり、そうだよね・・・。
和「でも、不思議なものね。憂とだったら、そういうのも嫌じゃないわ」
憂「え?」
ちょっと待って、何を言ってるの?
和「・・・うん、憂とキスしてるのを想像しても嫌じゃないわね。むしろ、嬉しいかもしれないわ」
憂「え?」
私には、和ちゃんが何を言ってるかよくわからなくなってきたよ?
和「今まで気付いてあげられなくてごめんね、憂」
和「そしてこれからは、恋人としてよろしくね」
憂「・・・」
えっと・・・ちょっと落ち着いてみよう私。
和ちゃんは女の子同士なのもあって、今日告白してきた子にはお断りした。
それは、その子とそういう関係にっていうのが考えられなかったから。
うん、ここまではいいよね?
和「・・・ちょっと、憂?」
最終更新:2010年09月11日 21:52