遭難五日目Bパート!

澪は恨みごとを言いながら水を飲んで口の中を清めた。
事実、久々の動物性たんぱく質は美味かったが、
一度食べた後でも思い出すだけで怖くてたまらない。
梓はのりのりで、また食べるなどと言っていたが勘弁してほしい。
しばらくして落ち着いてからは、
澪は延々とたんぽぽの葉を摘んで水に曝す作業を続けた。

澪(この作業は楽しいんだけどなあ。味はいまいちだよなあ)

以前ほどの不満はないものの、澪はやはりまだ苦さが好きではない。
最近では文句も感じないが、くせの少ないものを食べたいのも事実だ。

梓は流石にバッタの解体作業が後になって精神にきたのか。
今晩はもうバッタを調理する気にはなれなかった。
でもタンパク質は食べたいにゃん、そんな矛盾が心の中で起きる。
どうするにゃん、自問自答しても梓の中に答えは出ない。

途方に暮れて上流に向かって歩いて行くと、ぴちゃんと音がする。

梓(にゃ……、なんだいまの音)

注意して目を凝らすと川には小さいが魚がちらほら見えた。
川は思ったよりも深さがあるようで、悠々と泳いでいる。
これにゃ!梓の中で何かがはじけた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

こういう単純作業は気持ちを落ち着けるのにいい。
それに楽だし、確実に食えるし、タンポポカーニバルである。

梓「澪先輩!こんなとこにいたんですね!」

梓がすさまじい速度で駆け寄ってくる。
しかし澪はかまわずタンポポを摘んでいた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

梓「ええいっ、目をさませいです!」

梓が目の前に立って釣り具をこれでもかと見せびらかす。
ぼろい作りの木竿だが、糸も針も健在である。
それを見て初めて澪は梓の存在に気づく。

澪「ああ、すまん、タンポポに夢中になっていてな、どうしたんだそれ?」

梓「小屋にありました!」

澪「あったなあ、餌がないから仕舞っちゃってたけど。どうすんだそれ」

梓「餌ならあるじゃないですか!」

梓が自信ありげに餌を取り出した。


バ ッ タ !である。


倒れた澪をよそに梓はさっき魚を見たあたりに行く。
水はきれいで水底まで見渡せる。
梓につりの知識はないがいけるようなきがしてきた。
川釣りというのは難しい釣り方もたくさんある。
アユ釣りなどはその最たる例だが、
梓のような適当な釣りなら難しくもない。
しかも、この川は何年も手つかずで魚も少なくない。
釣れるまでやれば何かが釣れる。

梓は自らのにゃん的な要素を信じ、釣りを始めたにゃん。

じたばたするバッタを針にぶっ刺して、
針を水中にそっと投げ込み糸を垂らす。
このとき使ったバッタは梓もドン引きのラージサイズ。
よくわからないが大物が釣れるような気がしてきた。

以外にも最初の感触はすぐに訪れた。
竿がぐぐっとひかれるのを感じる
大きいのか小さいのか初めてなので良くわからないが、
食いついたことはまず間違いなく確実であろう。

サバイバルでは挑戦精神が重要である。
よくわからないを逃げ道にせず、チャレンジするのが重要だ。
知識もないのにキノコを食べたりする無謀ではなく、
生存の可能性を高めるために行動を広げる。
梓はこの点において一番たくましい存在だろう。


梓「どっせいやああああああああああああああ!」

力比べなどという考えは梓にはなかった。
食いつき云々などとホビーで釣りをやってる人間ではない。
とりあえずいけそうだと思ったら引く。
それがへたくそな素人なりの釣りである。
だがにゃんということだろう。
にゃにが起きたか最初はあずにゃんもわからなかったにゃん。

魚が川底からお天道様のもとい引きずりだされる。

梓「ちょっと待って、なにこれ……」

踏ん張りとスナップで引き揚げた獲物は、


デカイ

梓「ちょっとまって、なにこれ!」

魚は大きさ約55cm、リアルな大きさなのでかえって怖い。
とりあえず釣りあげたがバケツも何もない。
なんかすごいビチビチ言ってるしどうすればいいかも分からない。

梓「ふん、そいやあ!」

とりあえず釣りあげた魚をつかんで、
ぬるぬるするので大変だったが、
近場の岩にたたきつけた。
まだ少しビチビチ言っていたが二三回やったら死んだ。
今となっては少し後悔している。

口から針を引っこ抜き、口を持って運んで行く。
一匹釣れたが、釣った後の対応が分からないのと
調理できるるのか、食えるのか、
澪に報告と相談をしたいので急いで帰った。


澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

こういう単純作業は気持ちを落ち着けるのにいい。
それに楽だし、確実に食えるし、タンポポカーニバルである。

梓「澪先輩!こんなとこにいたんですね!」

梓がすさまじい速度で駆け寄ってくる。
しかし澪はかまわずタンポポを摘んでいた。

澪(タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで水に曝す、タンポポを摘んで……)

梓「ええいっ、目をさませいです!」

梓は釣れた巨大な魚を目の前に持っていく。
デカイ。なんというか生魚特有のグロさとデカさに澪は気絶しそうになった。
しかし、目の前の褒めてほしげなかわいらしい梓と
久々に魚が食えるという結構な喜びが意識を保たせる。
まるで餌を前胃にした猫のように梓が物欲しげにこちらを見る。

澪「梓、よくやったな!」

梓「えへへ、ヤッテヤッタデス!」

なにこれかわいい。

梓「でも一つ問題がありまして、私魚の調理法が分かんないんですよ」

澪「そもそも、これって食えるのか?」

目の前の魚は忘れたころにまた少しビチビチした。
奇怪な見た目ではなかったが見たことはない。

梓「澪先輩って、お魚さばけます?」

澪「いや、さばくまえにまず締めるってのが必要なんじゃないか?」

梓「締めるってなんですか?」

澪「なんかあるだろ、殺してさ、血抜きとか」

梓「知りませんし、できません!」

澪「私もだ!」

にっちもさっちもいかない状態だったが、
魚を食べたいという二人の真剣な欲求はほんものだ。

梓「とりあえず、なんとかしましょう!」

澪「とりあえず、できる範囲でやってみるか!」

梓「魚って釣ったあと陸地でビチビチさせて大丈夫ですかね?」

澪「バケツに入れてみよう。なんか釣りってそんな感じだよな」

梓「はい。水をはったバケツに入れときます!」

澪「鱗だっけ、あれってとらなきゃいけないんだよな」

梓「鱗なら、やり方なんとなくわかりますね」

澪「おぼろげながら、とりあえず梓は石かなんかで鱗とってくれ」

梓「はい!でも洗ったりしないんですか?ぬるぬるしますよ?」

澪「そうか、最初は洗うんだ!!!!!梓きれいな水で洗っといてくれ、そのあとは待機だ」

梓「やってやるです」

まさしく右往左往、魚のさばき方を知らない現代人は多いだろう。
それは彼女たちとて例外ではない。
食の魚離れの原因はこんなところにもあるのかもしれない。

梓はとりあえず表面を丹念に洗ってからバケツに入れることとした。
結構な量の水を使ってぬめりを取る。そのあとでバケツにぶち込んだ。

梓「このあとどうします?」

澪「鱗は取らなきゃだめだよな、間違いなく」

二人はそこらへんのギザギザしたのや硬い石で、
鱗をバケツに入れたまましっぽのほうから落としていく
何回かごとにバケツの水を替えてせっせと落とす。

澪「これって落ちてるのか?」

梓「不安を抱えたままよりはいいです。とりあえず落としましょう」

鱗はとりあえずとれてぬるぬるもない。

梓「このあとどうしましょう?」

澪「まて、調理法はどうするんだ?」

梓「もちろん、まるかじりでしょう」

澪「生はだめええええええ!」

梓「なんでですか?」

澪「なんかいろいろあるだろ、寄生虫とか病気とか」

梓「たしかに川魚は生で食べるなとか聞いたことありますね」

澪「魚の臭みとかえぐみをとるには焼いたほうがいいんだ。消化にもいいし」

生はだめ、夏などは生で肉や魚は基本的に食べるべきではない。
一部の海の魚を除けば寄生虫や病気のリスクがあるからだ。
焼いた場合ビタミンなどの一部の栄養素と水分が犠牲になるが、
食中毒のリスクを大幅に下げ、消化しやすくなる。

梓「じゃあさっそく焼きましょう」

澪「ちょっと待て」

澪「エラ……エラってなんだっけ……」

梓「エラがどうしたんですか?」

澪「そうだ、エラだ。エラをとらなきゃいけないんだ」

エラ、これはあまり知られていないが魚の鰓袋は多くの場合取るのがべたーだ。
海魚や料理では基本中の基本でもあるが、
ぶっちゃけ川魚や焼くだけの場合はではどうでもいいという人が多い。

梓「エラですか。とりあえずこのブニっとした袋をぶちっと!」

梓は器用に石でエラを取り除く。
そのあと再び水で洗っていおいた。

なんというか非常にグロテスクな光景だったが、
集中を前回まで高めている澪はそれに気づかない。

澪「はらわただ。次にはらわたをとるんだ」

梓「はらわたですか?なんか食べられそうですけど」

はらわたは食べられる場合が多いらしい。
筆者はくわしくないのでいつもはらわたをとっている。

澪「駄目だ。ママがそこに注意しろって言ってた」

梓「ママ?」

澪「!、お母さん!」

お腹をナイフで少し開いて内臓を取り出す。
はらわたをとったあとやはり入念に水洗いした。
きれいに洗った木の枝を口から通して固定する。
その上にこれでもかと塩をかける。

梓「刷り込むぐらいの勢いでいきましょう」

澪「そうだな。たぶんそのほうがいい」

大漁の塩をかけて、かまどの火の近くに刺す。
直火の熱でしっかり中まで焼きこむためだ。

澪「勢いだけでやったけど、案外なんとかなりそうだな」

梓「ええ、焼きあがりが楽しみです」

それからしばらくして魚の脂の匂いがしてきた。
塩の香りと相まってえもいわれぬ野性的な匂いだ。

梓「少しだけ泥臭くないですか?」

澪「しっかり焼けば泥臭さがとれると思う」

これは大正解。
「臭けりゃ焼け」とは筆者の曽祖父の言葉であるが、
澪は助けもなしにこの真理に自らたどりついた。
天性のサバイバラーであることがうかがえる。

その後もしばらくじっくりと焼きあがりを待つ。
この間に二人は塩作りやグミの実摘みも並行しておこなった。

表面が焦げる寸前で魚を引き上げて食す。
身はそこまでしまっていなかったが脂が乗っているのか、
はらはらと崩れて塩味がきいたうまみが広がっていく。
少しだけ臭みが気になるが食べるのに問題はない。
塩味がしっかり効いているので食が進む。
付け合わせのタンポポの汁の苦みがいい感じに臭さを消す。
小骨がかなり多かったが、身はうまく。
55cmほどの大きさだったので食べきるころには満腹だった。

澪「百合根とどんぐりとは違ってなんというか……」

梓「wildですね」

澪「ああ、wildうまいな」

梓「wildうまかったです」

二人は魚のうまさに感動しつつ、
初めてだらけの魚をばらす作業で疲れたのか
食べ終えてすぐに小屋に入って休憩し、
タンポポ茶と蛇苺と水を飲んで寝た。



遭難5日目Aパート!

最悪の状況だった。日はすでに大きく傾き、相本は暗くなってきている。
三人は休まずに歩きとおしたが、一向に休憩可能な場所にはたどりつかない。
ますます足が速くなるが、荷物の重さや足場の悪さで、
三人が思っていたよりも歩くスピードは上がらない。
鞄をいくつも背負ったりかけているため腰や背中も痛む。

せめて平らな場所を探そうと苦心するが、
三人が寝れるようなスペースは見つからない。

道は続いている。
続いているが、どうにも次の地点にたどりつけない。
いたずらに体力を消費しているのかもという焦り、
焦燥感はさらなる徒労を生み出し、体力をすり減らす。

三人は口には出さなかったが、そろそろ限界である。

どこまで歩けばいいのだろうか。すでにお堂はずっと下だ。
これから先にどれだけ行けば建物があるのか。
すでに山は勾配をきつくしていて、建物の雰囲気はない。

紬(山越え……)

紬の頭にある想念が浮かび上がる。

このままいけば、自分たちが休憩できる場所にたどりつくのに山を越えなくてはならないのではないか。

登っても山頂まではなにもない。
つまりはこのまま一気に登山しきってしまい、
休憩所目指して下山するという具合だ。

やみくもに進み続ければ体力を消費する。
律の焦りは無謀に近いその行程を選ぶかもしれない。
何とかして休ませなければならない。

だが、休ませる口実がない。
休まない原因はあってもy住む原因がない。

結構な長さの登山道にもかかわらず、
山小屋はおろか休憩所や水道も井戸もない。

道の感じからして、かつてはここを通った人間も多数いたはずだ。
なのに、いまのここにはあまりにもなにもなさすぎる。
畑の跡や民家の跡もない。

なぜこの道を使用した痕跡があるのに、
それに付随するあらゆる条件の痕跡がないのか。

この島は歪だ。

この島は本当に人が住んでいたのか。
隠したかのようにみつからないものがあれば、
わざと用意したように揃いすぎているものもある。

この島はまるで、まるで……。


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最終更新:2010年09月12日 22:03