梓「な、なな……」ワナワナ

憂「うひゃー……」

梓「どど、どういう展開ですかこれは!」

梓「途中まで絶対唯憂だと思ってたのに! 最後の最後でなにしてくれちゃってんの私!?」

憂「お姉ちゃんすごかったね……」

梓「まったく、人をあんな風に使われては困るって」

梓「というか、なんとなく唯先輩にとっての私が醤油と同レベルって言われてる気がするんだけど」

憂「それはないと思うけどなぁ……」

 ポイッ

梓「ん……純だ」

梓「人の処女膜をあんまりとやかく言うもんじゃないよ!」

梓「……っ」カアッ

梓「処女〝作〟だろうがあああ……」プルプル

憂「梓ちゃんすごいこと言うねぇ」

梓「でもそうは言うけど、私なんてほとんど登場してないじゃん」

梓「どうして最終的に私になったのやら……」

 ポイッ

梓「唯憂のつもりだったけど途中で道を踏み外した」

梓「次はちゃんと唯憂だからね! ボンバヘッ」

梓「なんか、唯憂にこだわってるね」

憂「それは純ちゃんからの私への愛だよ!」

 ポイッ

梓「……えーと」ガサ

梓「ドキーン!」

梓「……っていうか、なんで出てこないのあいつ?」

梓「投げ文だけで出演されるってすごいむかつくんだけど」

梓「開いてみたら記号含めて5文字きりとかふざけてんだろ」

 ポイッ

憂「あ、また来た」

梓「次の作品には私も憂の想い人として登場します!」

憂「唯憂じゃなかったの!?」ガタンッ

梓「つーか読む前にボロボロ言いすぎでしょ! ちょっと黙ってなよ!」

 ポイッ

梓「」ブチッ

憂「梓ちゃんが黙っちゃった」

憂「私が読んじゃお。えーと……それじゃ憂、今度は唯先輩っぽくタイトルコール!」

憂「うーん、難しいなぁ。お姉ちゃんの可愛さなんてそうそう表現できないよ……」

梓「『ことだま!』」

憂「ああー! 私が言えって言われたのに!」

梓「ごめん。付き合いきれる自信がなかった。はいスタート」

憂「ぜんぶ持ってかれたー!」




 唯「ことだま!」




唯「むむむ……」

唯「ごはんも食べたし、お風呂も入ったのにまだ夜の8時」

唯「憂はあずにゃんのうちに泊まりに行っちゃってるしなあ」

唯「なんか今日という日は長いなあ……」

唯「テレビもつまんないし」ピッピッ

唯「……おろ?」

テレビ「つまり、言霊は実在するんですよ」

唯「ことだま……?」

テレビ「というわけで、これにてお別れでーす♪」

唯「あ、ちょっ、待ってよお!」

唯「……終わっちゃった」

唯「……ことだま」

唯「ことだま」ニヘ

唯「なんか可愛いかも」

唯「なんだろうなあ、ことだまって」

唯「たまねぎみたいな感じかな?」

唯「おいしいのかな?」

唯「澪ちゃんに訊いてみおっと」

唯「……ぷくく」

 プルルルル プルルルル

 ピリリリリッ ピリリリリッ

律「澪、うるさーい」

澪「はいはい……お、唯から電話だ」ピッ

澪「もしもし」

唯『澪ちゃーん? おっはー』

澪「こんばんは」

唯『ぶー。おっはー』

澪「こんばんは」

唯『……こんばんは』

澪「わかればよろしい」ピッ

澪「いけない……つい勢いで切っちゃった」

律「……バカだな?」

唯「切られた!?」ガビーン

唯「も、もう澪ちゃんなんて頼らないもんね!」ピピッ

――――

 ブー ブー

律「お♪ 私に来たぞ? 澪は好感度マイナス1ってわけですなあ」

澪「あとで詫びのメール入れとこう……」

律「もしもーし唯たーん」

唯『りったーん! おっはー!』

律「お、おっはー!」

唯『ねぇりっちゃん、ことのはって知ってる?』

律「こ、ことのは?」

唯『おっと間違えた! ことだまって知ってる?』

律「言霊? サザンか?」

唯『? たぶんサザンじゃないよ。今やってた変な番組で言ってたんだ』

律「わ、わかってるよー。ボケだって!」タラ

唯『ほんで、りっちゃん。ことだまってなーに?』

律「そ、それはだな……えーと」チラ

唯『教えてくれないの……?』

律「……そうじゃないんだけど、実はその……しらな」パッ

澪「言霊っていうのはな」

唯『ひゃっ、澪ちゃんいたの!?』

律(サンキュー澪)ニコ

澪(お安い御用だ)ニコ

澪「ああ、今律の家にいるんだ。……さっきはごめん、間違えて切っちゃったんだ。言霊について知りたいんだろ?」

唯『うん、いーよ! おせーておせーて! 澪ちゃんせんせー!』

澪(なんか今日の唯、いつにも増して……可愛い)

澪「まあ大雑把に説明すると、言葉に宿る霊力なんだよ」

唯『わからん』

澪「私たちがこうやって話している言葉のひとつひとつにも、こう……特別な力があるといわれているんだ」

唯『食べ物じゃないの?』

澪「ああ、食べられない。それで、言霊の持ってる力なんだけど」

澪「唯は、初詣の時や流れ星を見た時、願い事を何回言う?」

唯『え? 三回かなぁ』

澪「どうして三回も言うと思う?」

唯『いっぱい言ったほうが願いが叶いそうな気がするから、かな?』

澪「そうだな。私もそう思う。いっぱい言えば言う程、言霊の力が効果を発揮するんだ」

唯『ってことは、ことだまの力って願いを叶える力なの?』

澪「それはちょっと違うな。それは一つの使い方だよ」

唯『むー?』

澪「言霊の本質は、『嘘も言い続けていると真実になる』というやつでな」

澪「たとえ望もうが望むまいが、本当になるんだ。だから、願いを叶える力じゃない」

唯『言ったことが本当になる力なんだね?』

澪「まあ、そういうことだな。……つまり」

唯『つまり?』

澪「律は唯が好きだ」

唯『へ?』

律「ちちょっ、澪!?」

澪「と何度も何度も言っていれば、律にその気がなくても、律は唯のことが好きになる」

唯『へぇー。なんかロマンチックだねえ』

律「……そうか?」

唯『りっちゃんは私が好きだー!』

律「!?」ドキッ

唯『これで私とりっちゃんはラブラブだね!』

澪「一回だけ言っても大した効果はないと思うけど……」

澪「まあ、だいたい分かったみたいだな」

唯『うん! ありがとう澪ちゃん! 澪ちゃんも、私のことが大好き!』

澪「へ、変な言い回しだな……はは……」

唯『それじゃ、また明日ねー!』

 プツッ ツーツー

律「……」ハァハァ

澪「……」ハァハァ

律「どーすんだよ、みおぉ」

澪「……ごめん」

律「ごめんじゃねー! この調子じゃ唯、明日からことあるごとに好き好き言ってくるぞ!」

澪「い、いいじゃないか。好きな相手に言われたら嬉しいだろ?」

律「唯の言ってる好きと私たちの言ってる好きは違うんだよ! 澪はそれでもいいのか!?」

澪「……嬉しいから」

律「へたれだ……」

澪「あぁー」

律「くそっ」

律澪「唯かわいすぎなんだよ……」


――――

唯「ことだまかー。食べ物じゃなかったんだ」

唯「でも、なんか凄そうだったな……言葉に宿る力って言ってたっけ」

唯「……まだ8時」

唯「暇だなあ。もう、憂のバカ」


 チッ チッ チッ

唯「8時5分」

 チッ チッ チッ

唯「8時5分45秒」


 チッ チッ チッ

唯「8時6分!」ピーン

 チッ チッ チッ

唯「……ういー」
ゴロゴロ


唯「……」

唯「憂は私が好き」

唯「……わぁ……なんてすばらしい響き……」

唯「憂は私が好き」

唯「憂は私が好き」

唯「……言えば言う程、って言ってたよね」

唯「憂は私が好き」

唯「憂は私が好き」

唯「憂は私が好きー」ゴロゴロ

唯「憂は私が好きー」ゴロゴロ

唯「憂は私が好き……」ピタッ

唯「むなしい……」

唯「だいたい、ことだまさんの力なんてなくたって、憂は私のこと大好きだもん!」

唯「ハッ……でも最近あずにゃんとずいぶん仲いいよね」

唯「二人きりでお泊りだなんて……りっちゃんと澪ちゃんじゃあるまいし!」

唯「あ、ってことはあの二人くらいに仲がいいってことかあ」

唯「ってことは!」

唯「ま、まさか憂……今夜はあずにゃんといけないことを……!?」

唯「いやだああああああ」ゴロゴロゴロゴロ

 ガツッ

唯「いたた……ういー、ぶつけちゃったよ……」

唯「……また憂呼んじゃった。いないって分かってるのにな」

唯「……憂……好き」

唯「一緒に寝たいよ……」グス

唯「憂、憂、ういういうい!」

唯「うっうういっ! うっうういっ! うっうういういっ!」だばだば

唯「……くそう、ツッコミ不在だよう……」グス

唯「もうやだ」

唯「ことだまさん! オラに力を貸してけろー!」ゴオオオ

唯「よかろう。ユイ・ヒラサワ……ぬしに我が力を……」キィィン……

唯「うおおおおお! みなぎるよぉー!!」フンス

唯「……憂は私が好き」

唯「憂は私が好き」

唯「憂は私が好き。大好き」

唯「大好きだからいつも一緒にいてくれる」

唯「憂は私が好き」

唯「大好き」

唯「憂は私を愛してる」

唯「好きすぎて離れられない!」ボフッ

唯「唯は……あっ、間違えちゃった」テヘ

唯「寝よ」

唯「憂は私が好きぃ……」ムニャ



 翌朝

唯「昨日は早く寝たから寝坊せずに済んだね」

唯「さてと……朝ごはん朝ごはん」トントン

唯「一階にとうちゃーく!」

唯「さーて今日はたまごちゃんを私の熱く燃える愛で完熟にしてあげるよっ!」

唯「コンロ・オン!」ボゥッ

唯「えーとフライパンフライパン……」ガタガタ

唯「そうだ、パンも焼こうっと。ラピュタトーストだ!」

唯「トースターに入れてっと……」

唯「たまごたまご」ガチャ

唯「コンコン、そしてパカッ!」

 ジュウウウウゥ

唯「炭だね」

唯「愛が強すぎたんだね、ごめんね」

唯「普通にジャムを塗ろう……」

唯「ぬりぬり」

唯「いただきます……」

唯「うん、おいしい」

唯「もう学校行こうかな」

唯「そうと決まれば顔を洗いましょうか」

 バシャバシャ

唯「ふぅー……」

唯「おろ?」

唯「横顔」クイ

唯「45度」クイ

唯「正面」クイ

唯「くるっとターン」クルリン

唯「……」ドキドキ

唯「なんか今日はイケてるかもっ!」

唯「よーし! 憂をメロメロにしちゃおっと!」


――――

 とこ、とこ

律「あー、眠いぜ……」グデー

澪「しっかりしろよ律……このペースじゃ結局遅刻だぞ……」

律「澪があんなこと言ったから……唯がかわいくて寝れなくなったんじゃないか」

澪「外が明るくなるまで『唯かわいい』って言いあってたからな……駄目だな、私たち」

律「唯かわいい」

澪「かわいいな」

律「我慢できないくらいかわいいよ」

澪「かわいいけど我慢しなきゃ」

律「理性なくなるほどかわいいよ」

澪「抱きつきたくなるよな」

律「かわいい……」ガックリ

澪「律、律。唯の息遣いが聞こえる」

律「ほんとだ。唯の革靴の足音だ」

唯「あ、りっちゃんみおちゃーん! おっはー!」

律「おっは……」

澪「おはよう、ゆ……」

唯「ほえ? どうかした二人とも? 私の顔になんかついてる?」

澪(おい律、手がつけられないくらいかわいいんだけど)

律「もう無理」

唯「えっ?」

律「おい唯ぃ、今日は学校休みだぞぉ?」

唯「そ、そうだったっけ」

唯「でも二人も制服着てるし……」

澪「まあ私たちもさっきそこで憂に会って言われたんだけどな。今日は創立記念日だってことを忘れてたよ」

律「あっ、バラすなよ澪ー!」
ニヤニヤ

唯「えっ、憂がいたの?」

律「そうそう、でさー、今から唯の家に……」

唯「ういー! どこー!」ダッ

 ピュー

律「行っ……て……」

澪「行っちゃった……」

律「唯としっぽりしたいと思ったんだけどなあっ!!」

澪「律、さすがに声が大きい」


5
最終更新:2010年09月12日 22:34