――――
唯「ういっ、ういっ、どこにいるの?」タッタッタッ……
唯「会いたいよう……」
ピリリリリッ
唯「うん? 携帯……」
唯「憂だ!」パアァ
唯「もしもし憂!」
憂『お姉ちゃん! どこにいるの!?』
唯「へ? いま、通学路だけど……」
憂『通学路……え、お姉ちゃん? 今日学校お休みだよ?』
唯「……あれ? あ、創立記念日かー」
憂「もう、ぼけてないでよ……早く帰ってきて」
唯「はーい♪」
憂「お姉ちゃんの返事、かわいいね!」エヘヘ
憂「それじゃあ切るね? お願いだから、すぐ帰って来てよ?」
プツッ ツーツー
唯「ういういー♪」
ダッ
ドドドド
律「あっ、唯が戻ってきた!」
澪「つかまえっ……られなかった」
律「速かったな……ん?」スン
律「唯が走り抜けた後の空気うめー!」スンスン
澪「あっ、一人占めはずるいぞ律!」スンスン
梓「……律先輩、澪先輩。何やってるですか」
律「げっ、梓……」
澪「いや、これには訳があって……」
梓「どんな訳ですか。今日は休みなのに二人で制服着て……学校で練習するんですか?」
律「いやぁ、そういう訳じゃ……ん?」
澪「今日は……なんだって?」
梓「今日は創立記念日で休みですよ。てゆーか学校開いてません」
律「……み、みお?」
澪「……いや、冗談のつもりだったんだけどな。あ、梓。教えてくれてありがとう」
梓「まったく、澪先輩まで……しっかりして下さいよ」
澪「面目ない」
梓「ところで……憂を知りませんか? 昨日家に泊まっていったんですけど、目を覚ますなり飛び出して行っちゃって」
律「憂ちゃん? いや、見てないけど……」
澪「心配だな。一緒に探そうか?」
梓「助かります。憂がこっちの方向に走っていったのは確かなので、このあたりを探してみましょう」
澪「じゃああっちに行こう」
梓「あっち……さっきキラキラした人型のものが驀進していった方ですか? 気が進まないんですけど」
律「先輩命令だ!」
梓「いやまあ、行きますけど」
――――
唯「ういー! ただいまー!」
憂「お姉ちゃん!」
唯「会いたかっt」
憂「そこになおりなさい!」
唯「ハイィ!?」ビシッ
憂「お姉ちゃん……」
唯(あれ、何だろう……憂がいつもの30倍かわいい)
憂「急にいなくならないでよ……お姉ちゃん起こそうと思って帰ってきたのに、お姉ちゃんいないから……」プルプル
唯(えっ!? どうして憂泣きそうになってるの? ちょっと待って、そんなに可愛い顔しないで)
憂「お姉ちゃんに嫌われたと思って……私がお姉ちゃんをないがしろにしたから、出て行っちゃったんだと思って……」
憂「ほんとに心配したんだから……」ギュウッ
唯「う、うい……(う、憂から抱きついてきた!?)」
憂「もう勝手に私のそばから離れないで! わかった、お姉ちゃん?」
唯「……う……ん。えへへ、嬉しいよ憂。心配かけてごめんね?」
憂「ずっと一緒だよ、お姉ちゃん」チュ
唯「!」キュウウンッ
唯「ああ、だめだよ憂、お姉ちゃんせっかく我慢してたのに……」
憂「?」
唯「玄関開けたら2分でご飯。いただきます」ガバッ
憂「お、おねえ……ひゃあっ!?」ドタッ
――――
梓「……唯先輩の家ですね」
律「な、着いただろ?」
梓「律先輩。さっき走っていった人……あれが唯先輩だってのはわかりましたけど、どうして唯先輩の通った道がわかるんですか?」
律「唯の通ったところは匂いで分かるだろ。梓はわかんないのか?」
梓「そこまで鼻が良くないので」
澪「いつも抱きついてもらってるくせに……」
梓「関係ないですよね」
澪「関係あるっ! 唯の匂いに包まれていれば、その匂いを最大限享受しようと嗅覚が発達するはずだろ!」
梓「そうですか。憂が家に帰っているかもしれませんので、私ちょっと見てきます」
律「ああ、行ってきてくれ。私たちには神々しすぎてこれ以上立ち入れない」
梓「汚れてるって自覚はあるんですね」
梓「全く……少しは隠そうって意識を持たないんですかね」
梓「そんなんだから唯先輩に抱きついてもらえないんです」
ピンポーン
梓「ゆ……憂、いるー?」
ピンポーン
梓「……いないのかな」
梓「でも、自分の家じゃなかったらどこにいるんだろう……」
梓「電話もでてくれないしなあ」
梓「……」
ガチャ
梓「鍵開いてる……」
梓「……いや、さすがに駄目でしょ。親友の家とはいえ」
梓「でも、緊急事態だし……」
ガタッ
梓「ん?」
やっ……だ……
梓「……へ? 憂?」
憂「来ないで、あっ……ちゃん……」
梓「……そう言われても、憂! 大丈夫!?」
憂「だい、じょうぶ……だからぁ……」
梓「……憂っ! 開けるよ!」
カシャン
梓「えっ……?」ガチャガチャ
憂「……来ないでって言ってるの」
梓「う、うい……」
憂「私とお姉ちゃんの時間を邪魔しないで。心配なんていらないよ。ここは私たちの家なんだし」
梓「そ、それはそうだけど……どうしたの、憂? さっきと様子が全然違うよ」
憂「そう? 邪魔されてちょっとイライラしちゃったのかな」
梓「憂……わかった、じゃあしばらく外してるよ……」
憂「ありがとう、梓ちゃん」
梓「……」
タタッ
――――
梓「というような事が、いまそこのドアであったんですけど」
律「うーん……まさか、唯と憂ちゃんがそういう関係だったとは」
澪「律! そうと決まった訳じゃないだろう。憂ちゃん……いや、憂が唯を襲っているのかも知れない」
律「だとしたら、助けに行きたいが……」
澪「が……?」
律「きっと、唯はこうなることを望んでいたんだと思う」
梓「なっ……」
澪「それじゃあまさか、身を引くっていうのか?」
律「それが可愛い可愛い唯の望むことなら……私は邪魔したくない」
梓「ちょっ!」
澪「律……そうだな。唯の望みなら、しょうがないな」
梓「澪先輩!」
律「じゃあ梓、私たちもう行くよ」
梓「いやいや、ま、待って下さいよ!」
梓「おかしいじゃないですか! 人間が人間を匂いで嗅ぎ分けるほど愛してるのに、横から奪われてもいいんですか!」
梓「私は嫌ですよ、憂相手でも、唯先輩は渡したくありません!」
律「……ふむ。梓ちゃん、今のもっかい言ってごらん?」
梓「で、ですから……あ!! な、違いますよ! そういうんじゃ……」
律「なにが違うんだ……」
澪「なるほど、梓は唯のことが好きなんだな。だから憂ちゃんに奪われたくない」
梓「クッ……そうですよ。だから先輩方を頼ったのに……もう一度考え直して下さいよ! 唯先輩ですよ!」
律「いや、私たちは唯が可愛かったらそれでいいから。……そりゃあ、できればイチャイチャしたいけどさ」
梓「そうでしょう? それに、本当に唯先輩が憂のことを好きなのかも分からないじゃないですか!」
律「いや、間違いないって。唯は憂のことが好きだよ。ずっと見てるからこそ分かる」
澪「梓には分からなかったのか? いや、分かっていても認められなかったんだろう?」
梓「そんなことありません! 私にだって可能性はありますよ!」
律「梓、もう……」
澪「待て、律。可能性がある、と言ったな梓?」
梓「ハイ!」
澪「それなら私にも協力させてくれ。そして、もし梓が唯の心を射止めたら」
梓「射止めたら……?」
澪「私にも分け前をくれ。……つまり、一回でいい。唯を抱かせてくれ」
律「おい澪っ! お前、そんなの無しだろ!」
澪「ごめん律……私、やっぱり唯に触りたい」
澪「あのフワフワの髪を撫でて、柔らかい躰を抱きすくめて、可愛い唇とキスがしたい」
梓「私はされたいです」
律「……」ピクピク
澪「なあ、律。ここのところ、唯がどんどん可愛くなってる」
澪「私、いいかげん限界なんだよ。毎日毎日我慢する辛さが増していってる」
律「……」
澪「もう無理なんだ……唯が欲しいんだよ!」
律「澪ォ!! いい加減にしろよ!!」ドンッ
澪「……律」
律「そんな風に言われたら、私まで我慢できなくなるだろ!! ……協力させろよ」
澪「律!」ジーン
梓「というわけで、変態同盟成立ですね」
律「その名前でいいのか、梓」
澪「吹っ切れたんだろ。私たちと同じように」
律「そうだな。私たちはもう、変態という名の紳士じゃない。ただの変態だ」
澪「それでも、唯を手に入れる。いいんだな、律?」
律「何度も言わせるな。もう突っ切るしかない!」
梓「それじゃあ、唯先輩の奪還を目指して!」
澪律梓「ゴー! 変態オー!」
犬「ワンワン!」
「こら、ペロちゃんやめなさい! い、行くわよ!」
犬「わんわんお! わんわんお!」ズルズル
律「……」
澪「一旦私の家に行って、態勢を立て直さないか?」
梓「気持ちは分かりますが、事件が起こっているのは唯先輩の家です。そして今突入しなければ、唯先輩は憂のものになってしまうんです!」
ダッ
ガシッ
律「梓落ち着け! 確かにそれは事実かもしれないが、憂ちゃんはお前の親友でもあるんだぞ!」
梓「は、放して下さい! 友情が何ですか! あったかくて可愛い唯先輩ですよ!」
律「唯は確かに可愛いよ! 地球が滅亡するほどかわいい!」
律「だけど、梓が唯を手に入れるために、お前と憂ちゃんが争ったら、唯は喜ぶか!?」
律「憂ちゃんから唯を奪い取って、それで憂ちゃんが元気をなくしたら、唯が素直に喜ぶと思うのか!?」
澪「間違いなく、今までのようなかわいい笑顔を見せてはくれないな。どこか、翳る」
梓「だけど、だったらどうしたら良いんですか! こうなった今、唯先輩を奪うことになるのは必至ですよ!」
梓「憂と唯先輩はもう今頃……ですから! 今のうちに止めないと!」
澪「落ち着くんだ梓。論理がなっていない。それに、策がないわけじゃない」
梓「くっ……しかし」
澪「律、行こう。この場から離れれば、梓も落ち着くだろう」
律「ああ。それにしても参ったねーこりゃ。唯ってばとんでもないハーレムだよ」
澪「まあ、私たちほどコアな唯ジャンキーは少ないだろうが……唯のかわいさなら、これも仕方ないんじゃないか」
律「唯も大変だねえ……私たちの気持ち、気付いてんのかなあ……」
澪「気付いてないからこそ、あれほどまでに可愛いのかもしれないけどな」
律「……そうだなぁ。梓を加えてもう5人か。それだけの人間に愛されてるって気付いたら、どんな反応するんだろうな」
澪「どんな反応しても可愛いけどな」
澪の家
澪「落ち着いたか?」
梓「は、はい……一応は」
律「で? 澪が言ってた策って何なんだ?」
梓「律先輩は何も考えてなかったんですね……」
律「唯の可愛さで頭がいっぱいだった」
澪「ほらほら、作戦会議だ。みんな座れ」
律「ほーい」
澪「それで梓、唯が梓を好きな可能性がある、というのは間違いないな?」
梓「間違いないかと訊かれると困りますが……でも、毎日抱きついてくるんです。なきにしもあらずという奴ですよ」
澪「うん、確かに毎日無条件で抱きついてるのは梓くらいのものだな」
律「私もふざけあいの中でならあるけどなー」
澪「う、うらやましくないうらやましくない……」
澪「とにかく、可能性はゼロではないだろう。となると、この作戦で最も重要なのは梓だ」
梓「でも、澪先輩や律先輩は? 二人だって、可能性ゼロではないと思いますけど」
律「ハッ」
梓(うざっ)
律「ありえないって。なんたって世界のカワ唯だぞ? どこに唯が私なんかに惚れる要素があるんだよ。澪は別としてもさ」
澪「同感だな。律はともかく、私じゃ望み薄というものだ」
律「いや、私は無いだろ。澪ならいける」
澪「それこそ無い。でも律だったら大丈夫だ」
梓「もういいですから、作戦の説明をしてください」
澪「ラジャー」
律「ブラジャー!」
梓「律先輩、蹴っていいですか?」ガスッ
律「もう蹴ってる……なんてベタなことを」
澪「さて作戦だが、まずは後腐れがないように唯と憂ちゃんを引き離す必要がある」
律「後腐れがないように、ってとこが重要だな。天使が笑わなくなるぞ」
梓「それ最悪ですね。唯先輩が笑わない世界なんか滅んだほうがマシです」
澪律(乗ってきたな)
律「で、あの仲睦まじい姉妹かつカップルをどうやって引き離すんだ?」
澪「唯は超絶かわいいだけだが、憂ちゃんはかわいくて真面目だろう? そこを利用する」
梓「どういうことですか?」
最終更新:2010年09月12日 22:36