律「憂ちゃんがよがってくれても、憂ちゃんは心の底で唯を嫌がってるんだぞ? それでもいいのか?」

澪「……それだけじゃない。唯がこれ以上憂ちゃんをひどい目にあわすんだったら……私だって」

唯「澪ちゃん、私を嫌いになるの?」

澪「……ああ」

唯「そうなんだ。残念だなぁ」

澪「それだけか」

唯「うん。だって澪ちゃんが私を嫌いになっても、ことだまさんに頼めばまた好きになってもらえるもん」

唯「だから、残念なだけ」

唯「憂だってそうだよ。たまに私のすることを嫌がるんだ」

唯「でも、『憂は私が好き』。そう10回言ったら、またなんでもさせてくれる」

律「唯。その憂ちゃんは、唯が好きになった憂ちゃんとは別物だと思うぞ」

唯「別じゃないよ。私が好きになったのは、妹の平沢憂っていう、漠然とした一人の人間」

唯「憂のなにかが欠けても、私にはそれは憂だもん。憂の全部が好きだから」

律「欠けてるんじゃない。余計なんだ。唯を好きって気持ちが大きすぎて、余計だ」

律「唯……今までの憂ちゃんと、言霊で操ってからの憂ちゃん……本当に違うと思わないのか?」

律「思わないんだとしたら、唯にとって憂ちゃんってなんだったんだよ? 答えてくれ」

唯「……憂は、私の大事な妹だよ」

律「……」スゥ

律「なぁ唯。聡、知ってるよな」

唯「うん。りっちゃんの弟でしょ」

律「ああ、聡も私の大事な弟だ。だけど、私は聡を犯したいなんて思わない。どうしてだかわかるか?」

唯「愛が足りないんです!」

律「……大事に思ってるから、大事にしたいんだ。大好きでも、壊したくなんかない」

律「唯は憂ちゃんを大事に思ってなんかいない。ただ好きで、セックスしたかっただけだろ」

唯「……」フルッ

梓「なんとか言って下さいよ、唯先輩」

唯「……ただ好きだったら、エッチしちゃいけないの?」

梓「……ええ、だめです。もしそれがまかり通るんだったら、私だって我慢なんかしません」

梓「私、唯先輩のこと好きです。好きで好きでたまりません」

律澪(この場面で抜け駆けしたー!?)

唯「あ、あずにゃん……急になに言うのかな、もう」テレテレ

梓「冗談ではありません。……でも、唯先輩は気持ちを返してくれませんよね」

唯「うん。私は憂だけが好きだからね」

律澪(そして巻き添えくらって私たちまでフラれたー!!)

梓「そうです……よね。……ですから、私は唯先輩とえっちしたくありません」

唯「へぇ。梓ちゃんも私を嫌いになったの?」

梓「違います。私、どんなに好きだって、心の通じ合わない相手とはしません」

梓「唯先輩だってそうですよね。憂が好意を返してくれるまで、待ちましたよね?」

唯「……」ビクッ

澪「そうなんだろう、唯」

唯「……うん。そうだった。憂がいやだったら、私もしないつもりだった……」

梓「唯先輩……」

唯「はじめはことだまさんの効果だって気付かないで、憂を襲っちゃった」

唯「憂が私のこと好きなんだって思ったから……」

唯「でも一回憂を抱いたら、憂のほんとの気持ちなんてどうでもよくなっちゃってたよ」

紬(唯ちゃん、折れてきてる……?)

澪「唯。私も……唯のこと大好きだ」

律「私もだぞ!」

紬「ふふ。私もよ」

唯「……みんな」

澪「正直、唯を手に入れるためならなんでもやろうって……そう思ってた」

澪「だけどさ、変なんだよ。いつの間にか唯を好きっていうみんなで集まってさ」

澪「みんなで唯かわいい、唯かわいいって言うのが日課みたいになってて……」

唯「あう……」モジモジ

澪「こんなにいるんだから、唯を力で押さえこめて、レイプするぐらい簡単だったと思う。だけど、それをやりたいなんて思わなかった」

澪「……私、唯の笑ってる顔がいちばん好きなんだ。だから、唯の笑顔を守りたい」

澪「だから無理矢理にはできなかったんだ。……と、私は解釈してる」

律「なあ唯。唯が一番好きな憂ちゃんの表情って、どんなんだ?」

唯「……っ」

紬「きかせてちょうだいよ、唯ちゃん」ニコ

唯「……がおだよ……」プルプル

澪「うん?」

唯「笑顔だよぉ……笑って、おねえちゃんって呼んでくれるういが、大好きだよ……」プルプル

律「……そうだろ」フッ

唯「でも、うい……前みたいに、わらってくんなくなっちゃった……ひっく」

唯「わたしが……壊しちゃったからぁ……」

梓「唯先輩……大丈夫ですよ」ナデ

唯「あずにゃん……」

唯「わたじ……ういに、ういに……許してもらえるの、かな……?」ポロポロ

律「唯がちゃんと憂ちゃんのことを大事にしたら、またかわいく笑ってくれるぞ?」

澪「憂ちゃんも、唯のこと大好きなんだからさ。そういう感情ではないにしろ、必ず元に戻れるよ」

紬「私たちが、二人の仲直りに協力するわ」

唯「……みんなぁ、私、ごめんね……」グスッ

梓「謝るのなら……」

憂「まず私に、じゃない? お姉ちゃん」

唯「……憂!?」ビクッ

梓(あれ、なんですか……このラスボス登場のBGM)

律(ラヴォスの呼び声がするんですけどー)

憂「みなさん。せっかく来てくれたのに悪いんですけど、出て行ってくれませんか」

紬「え……」

憂「お姉ちゃんと二人きりで話がしたいんです。大丈夫ですよ、乱暴な真似はしません」

唯「……みんな、いいかな。憂もこう言ってるし」

澪「家の前で待ってる。それで構わないか、憂ちゃん」

憂「ええ。ありがとうございます」

律「じゃ、おいとまするわ……」

梓「唯先輩、頑張ってください」

唯「……うん」

紬「憂ちゃん、お姉ちゃんを許してあげてね」

憂「それは、お姉ちゃん次第です」

紬「……そうね。それじゃ」

 バタン

唯「うい、気分は……?」

憂「良くないよ。いま、元の私になってるから」

憂「ポットの中身、捨てとくね」スタスタ

 ガチャ バタン

憂『うっ……』

 ジャー……

唯「……」

憂「すごくくさいね。飲めたもんじゃないよ、あんなの」ガチャ

憂「気持ち悪い」バタン

唯「……憂、あのね。お話あるから、座ってくれないかな」

憂「うん。……なあに、お姉ちゃん?」

唯「私、もう憂に無理矢理させないから」

憂「……なにそれ? 急にどうしたの、お姉ちゃん」

唯「憂にひどいことしてるって、気付いたから」

憂「屋上にいたんだよね、お姉ちゃん」

唯「うん。……憂とあずにゃんの話、全部聞いてた」

憂「それで帰ってきたとき、お姉ちゃん変だったんだ」

 唯『ご飯!』ビシッ

唯「……うん。憂の顔見てたら、どうしてか憂とエッチするって言えなくて」

唯「でも、憂が決心してくれてたから……むりやり自分を納得させて、憂に飛びついた」

 唯『……などと言うと思ったかオケツ丸出し星人めー!』ガバッ

憂「……どうして、止まったの?」

唯「憂の背中を見てたら、屋上から出て行くときの憂の背中とだぶっちゃってさ」

唯「あれだけ憂の辛さを見せられたら……無理だった」

憂「いままで散々、無理矢理してきたのに?」

唯「ごめんなさい!」

憂「泣き叫んでもやめてくれなかったのに?」

唯「ごめんなさい! 本当にひどいことをして……」グスグス

憂「けいおん部のみんなに言われたら、すぐやめちゃうんだ?」

唯「ごめん……なさ……うい……」

憂「お姉ちゃん、私のこと嫌いだよね?」

唯「そんなこと、ない……絶対ない!」

憂「……じゃあ、どうしてあんなことしたの?」

憂「……確かに、最初は私が誘ったみたいなものだけど……あれ以降だよ」

憂「私が嫌だって言ってるのに、言霊をつかって無理矢理させたよね?」

唯「……」グスッ

憂「……あそこまでだったら、間違いで済んだよ」

憂「でも、お姉ちゃんは私を道具にしすぎた。……そこからは、もう許せない」

唯「ごめんなさい……ごめんなさい! うい、嫌いにならないで……」

憂「あはは……ごめん、いくらお姉ちゃんでもその頼みは聞けないよ」

唯「う……う」ガタガタ

憂「お姉ちゃん、私ね……好きな人がふたりいたんだ」

憂「お姉ちゃんの言う『好きな人』と、私の意味での『好きな人』が一人ずつ」

唯「う、い……?」

憂「お姉ちゃんは後者だった。すごく大好きな人だったんだよ」

憂「なのに、どうしてこうなっちゃったのかな」フゥ

唯「……私の、せいだよ」

憂「うん。……でもさ、私も弱かったんだよ」

唯「憂……?」

憂「一回さ、お姉ちゃんをはたいてやるくらい、したらよかったんだ」

憂「お姉ちゃんが私のこと嫌いになるくらい、はたいてはたいて。気が遠くなるまで叩いてさ」

憂「そしたら私は私を守れたんだよ」

唯「違う、ういはひとつも悪くないよ……私が、ぜんぶいけないんだから」

憂「あんな状況でも……私まだ、お姉ちゃんに嫌われたくないって思ってたんだ」

唯「憂!」バッ

憂「やだ、近づかないでよお姉ちゃん」サッ

唯「……ごめん」ショボン

憂「私、お姉ちゃんのこと嫌いだけど……お姉ちゃんに嫌われたくはない」

唯「……?」

憂「お姉ちゃん……もう、私としないんだよね?」

唯「う、うん! もちろんだよ!」

憂「その言葉が本当なら……私の言うとおりにして?」

唯「……え」

憂「いい、お姉ちゃん。私が、『私はお姉ちゃんが好き』って言ったら」

憂「お姉ちゃんは『憂は私が好き』って言って」

唯「憂、それは……できないよ」

憂「でも私、こうでもしなきゃお姉ちゃんのこと好きになれないよ?」

唯「……」

憂「それにね、お姉ちゃんがもう私としないって決めたなら……お姉ちゃんの『好き』は、家族としての『好き』になるはずだよ」

憂「それとも、さっきの言葉は嘘だった?」

唯「違うよ! 違うけど……言霊は、時間が経つと効果がなくなっちゃうし……」

憂「それなら、毎日言霊の力を使えばいいよ」

憂「エッチなことは大嫌いだけど……お姉ちゃんのことは、ただ嫌いなだけだから。1日1回やれば大丈夫かなって思う」

憂「それで……そのうちにお姉ちゃんのこと、本当に好きになり直したいから」

唯「……うい」

唯「……」グス

唯(私……だめだ……)

憂「それじゃあ、始めていい? お姉ちゃん」

唯(憂に嫌われることも、覚悟しなきゃいけなかったのに……)

唯(もうことだまさんの力に頼っちゃいけないのに……)

唯「……」コクン

唯(やっぱり、ういのことが好きだよ……ういに好きになってほしいよ……)

唯「……」ポタッ

唯「……」ポタタッ

憂「私はお姉ちゃんが好き」

唯「……ういは……わたしが、好きっ」ゴシゴシ

唯(……泣かないっ)

憂「私はお姉ちゃんが好き」

唯「憂は、私が……好き」フゥ

唯(こんなの、嬉しくないから……)

憂「私はお姉ちゃんが好き」

唯「憂は私が好きっ!」フルフル

唯(泣いたらだめだよ、私!)

憂「私はお姉ちゃんが好き」ナデ

唯「憂はわた……しが……」

唯「すき……」

唯(嬉しくなっちゃ、だめだよ)

憂「私は……お姉ちゃんが好き」ギュ

唯「うい……」

 ギュ

唯「ういは私が好き」

憂「……ねえ、お姉ちゃん」

唯「……なに、憂?」

憂「……大好き♪」



――――

 数日後 夜、律の部屋

律「……みおー」

澪「なんだ、律」

律「唯のかわいさが全力を出してくれないー」

澪「……うん。憂ちゃんとは仲良さそうにしてるんだけどな」

律「自分のやったこと、後悔してるのかな……」

律「でも、唯にはやっぱ笑顔が似合うんだって」

澪「……律もな」

律「んあ?」

澪「いや……唯が笑ってくれないと、やっぱりみんな笑顔が足りないよ」

律「澪ー……はぐらかすなよー!」ガバッ

澪「ちょっ、いきなり抱きつくな!」

律「なあなあ、私ってやっぱ笑顔の似合う美少女なワケ?」

澪「な、なんだよ……律、そういうこと言うタイプだったか?」

律「バリバリ言うだろーが! なんだぁ、唯の見すぎじゃないのか?」

澪「……逆だよ」ボソ

律「ん?」

澪「律の見すぎなんだよ……なんか、最近」

律「……」

澪「……」

律「……どわぁっ! すっげえ恥ずかしい台詞出た!」

澪「う……」

律「……澪?」

澪「律は、唯が好きなんだよな……?」

律「え? うん、まあ……そう思ってたんだけど」

澪「けど?」

律「……好きっていう話になると、こう……」

律「それこそ、梓の言うような、付き合いたいっていう願望みたいな『好き』とか」

律「私たちが唯に対して持ってる、便宜的な、やや秘密の暗号的な……ヤりたいって意味じゃないほうの『好き』ってなると」

律「私は、なんか……」

 ブー ブー

澪「おい……電話だぞ」

律「……ああ」ピッ



――――

 同時刻、唯の部屋

唯「りっちゃん、起きてた?」

律『ああ、まあ……どうした、唯?』

唯「相談があるんだけど……今からりっちゃんち、行ってもいい?」

律『おお、大丈夫だぜ。ちょうど澪も泊りに来てるんだ』

唯「ありがと……じゃ、今から行くね」

律『待ってるぞー』

 ピッ

唯「……」ソー

唯(書き置きしておいて、と)

唯「いってきまーす」コソッ


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最終更新:2010年09月12日 22:43