――――
澪「唯が来るのか?」
律「うん。相談があるってさ」
澪「最近元気なかったからな。私たちでなんとかしてあげよう」
律「あぁ……えと、それで……さっきの話なんだけどさ」
澪「あ……う……」カアァ
律「……唯はそりゃ、世界一かわいいんだけど」
律「つ、付き合うんだったらさ。私は……澪がいい。妥協とかじゃないんだ」
律「唯と澪でも……私はよく考えて、澪を選ぶと思う」
澪「律……いいの?」
律「……」ニコッ
澪「……ふふ」
律「なあ、あんなことがあったから先に聞いておきたいんだけど……」
律「その……こういうのは、あり?」クイクイ
澪「ちょっ、女の子がそういう手つきをするんじゃない!」ゴンッ
律「いたっ! ……ごーめーんー。で、どうなの?」
澪「そんなの……律なら良いに決まってるだろ」カアァ
律「みおー!」ガバッ
澪「や、こらっ! 唯が来るんだろ!」
ゴツン!
唯「もう着いちゃった……」
唯「りっちゃん澪ちゃん……私のこと許してくれるかなあ」
ピンポーン
ドタドタ ガチャ
律「いらっしゃい唯! さあさあお上がんなさいって!」ニッコニッコ
唯(すごい上機嫌……)
唯「あ、うん。おじゃましまーす」
律の部屋
律「それで、相談事があるんだよな?」
唯「うん。……憂との関係のことで」
澪「憂ちゃん? 仲直りしたんじゃなかったのか?」
唯「……表面上は、って感じかな」
律「なっ……そうだったのか!?」
唯「あの日……憂が提案してきたんだ。ことだまさんの力を借りて、仲直りしようって」
律「言霊で仲直り……ってことは、今日までみんなの前で仲よくしてたのって」
唯「うん、ことだまさんのおかげ……」グスッ
唯「ごめんね? あんなことがあったのに、またことだまさん使っちゃって」
澪「いや……唯はかわいいし、提案したのは憂ちゃんだしな」
律「それに、悪いのは言霊を使うことじゃないだろ。使い方に問題がなきゃ、一向に構わないと思うけどなー」
唯「……ありがとう」ホッ
律澪(やっぱり格がちげえ)ズキュウウウン
唯「憂がね、ゆっくりずつ私を許して、好きになっていってくれるんだって」
唯「その間、ことだまさんの力で本心を隠してくれてるんだ。私が憂を嫌いにならないようにって」
澪「へぇ……良い子じゃないか」
唯「けどね、朝になるとことだまさんの力って効果がなくなるみたいなんだ」
律「……ってことは、あの時みたいに憂ちゃんがラスボスのBGMを担いでやってくるわけか」
唯「それはよくわかんないけど……毎朝、憂の目を見るのが怖くって」
唯「鷹みたいな目をしてるんだ。毎朝会うのが辛くって……逃げようかなって考えたり……」
澪「……でも、ことだまさんの力を借りることには同意してるんだろう?」
律(あっ、ついに澪までさん付けしやがった)
唯「うん。憂と一緒に、ことだまさんの儀式をやるんだ」
澪「よし、話は大体わかった」スック
唯「それで私、どうしたらいいのかな、澪ちゃん」
澪「そうだな。ちょっと歯をくいしばろうか」
唯「ほえ? こう?」ギュッ
澪「OK。それじゃ律、お前の専売特許だが……いったん唯に貸すぞ」
律「お? カチューシャか? いいけど……」
澪「カチューシャじゃない」
唯(私はいつまでこうしてればいいんでしょーかー)
澪「これだっ!!」
ブンッ
ゴスン
唯「……脳が痛い」ピクピク
澪「うずくまる唯もかわいいな」
律「おい、澪! お前なにしてくれてんだよ!」
澪「ちょっと静かにしててくれ、律」
律「む……澪が言うなら、わかった」
唯「あのー……澪ちゃん、なんで……」
澪「唯……もう一回考えてみてくれよ。憂ちゃんの提案の内容をさ」
唯「えっと……ことだまさんの力を借りて仲直りするんだよ」
澪「そんな表面だけじゃなくて、もっとしっかり考えるんだ!」
唯「うーん……」
唯(憂は私のことが嫌いだけど、私に嫌われたくないって言って)
唯(それで憂は、ことだまさんを使った仲直り作戦を提案したんだったよね)
唯(……あれ? 何か前提からおかしいよ?)
唯(なんで嫌いなのに、仲直りしてくれるのかな?)
唯「……こう思っても、いいのかな?」
唯「憂は私のことを、本当は最初から好きなのかな……って」
澪「そういうこと。ほんと、鈍いな唯は。それもまたかわいいんだけど」
唯「で、でも……憂の目はほんとに怖いんだよ。あれが演技だとは思えないな……」
澪「うん……ということは、唯を許したわけじゃないって事だ」
唯「? でも憂はもう……えっと?」
澪「唯だって、好きな相手に怒ることくらいあるだろ?」
唯「あ、そういうことか……好きだけど、あのことはまだ許してくれてないんだ……」
澪「それにしても、憂ちゃんも意外とうまく仕返しするな?」
唯「仕返し?」
澪「ああ。唯、いま毎朝辛いだろ? 憂ちゃんがことだまさんの力から解放されるたびに、怖いだろ?」
唯「う、うん……」
澪「その気持ちこそが、唯が憂ちゃんに受けさせた仕打ちなんだよ」
唯「あっ……」
澪「だからさ、逃げるなんて言うなよ。唯は憂ちゃんに許してもらうために、耐えなきゃいけない」
唯「そっか……それで澪ちゃん怒ったんだ……」
澪「そうだ。全く、憂ちゃんの献身っぷりをちょっとは見習えって」
唯「うぅ……ごめんなさい」
澪「怒ってない怒ってない」ナデナデ
唯「それじゃ私、もう戻るよ」
律「泊ってかないの?」
唯「相談しに来ただけだし……それに、憂に伝えたいことができちゃったよ」
澪「そうか、ならまた明日。笑顔を期待してるぞ」
唯「うん! 憂を信じてて!」
唯「じゃ!」
ガチャ バタン
律澪「いやされるー!」
トットットッ
律澪「足音までもかわいー!!」
律澪「足音だけでも付き合いたいわぁー!」
律澪「ん?」
律「いや、今のはそんなんじゃなくて……」アセアセ
澪「分かってるよ律。焦った顔も可愛いな」
律「みおー!」ダキッ
澪「律……」
律「……なぁ澪。しちゃっていい?」
澪「……やだ」フルフル
律「あ……ごめん。焦りすぎだよな」
澪「違う。……私から誘わせて?」
律「……はは。その一言だけでみなぎっちゃったわ」
澪「ちょ、律……!」
――――
たったっ、たったっ
唯「うい、ごめんね……!」
唯「私は憂にひどい事したんだ……」
唯「それでも憂は私と一緒にいようとしてくれた」
唯「なのに私、逃げようだなんて!」
唯「憂、私ずっと一緒にいるからね……!」
たったっ、たったっ
午前1時 憂の部屋
バンッ!
唯「ういっ!」ハァハァ
憂「……すー、すー」
唯「……寝てる」フー
唯「寝顔かわい……じゃなくて」
唯「うーいー、起きてー」ユサユサ
憂「……おね……いやっ!!」バッ
唯「う、うい……」
憂「嫌、なに……今度は何するの、お姉ちゃん」ガタガタ
唯「ごめん、そうじゃないの憂……離れるから……」
憂「はぁ……あ……」
憂「……お姉ちゃん……どう、したの? もうこんな時間だし……」
唯「憂に言いたいことがあって来たの」
憂「私に? ……ごめん、それなら明日の朝、言霊を使ってからにしよう?」
憂「今はちょっと、お姉ちゃんのこと嫌いになってるから……」
唯「ううん。今じゃなきゃだめ! 憂のほんとの気持ちが分かんないでしょ!」
憂「えっと……?」
憂「……ほんとの気持ちなんて分かってるでしょ、お姉ちゃん?」
唯「違うよ憂。私は憂の気持ちを分かった気になってただけなんだ。言われて鵜呑みにしてただけだった」
唯「……だから私、憂のことが怖かった。憂が私のこと嫌いだと思ってたから」
憂「き、嫌いだよ? 何言ってるのお姉ちゃん」
唯「むー……」
憂「お姉ちゃん……?」
唯「うそつき!」ズビシ
憂「ひゃいっ!?」ビクッ
唯「そしておばか!」
憂「そんな!?」ガーン
唯「自分の気持ちをごまかしたりして! お姉ちゃんのことが許せないんだったら、もっと辛くあたりなさい!」
唯「憂だけが頑張ることなんてないの! お姉ちゃんにももっと辛い思いさせて!」
憂「ご、ごまかしてなんかないよ! 私は本当にお姉ちゃんのことが嫌い!」
唯「うっ……も、もう騙されないもん! お姉ちゃんだって脳みそあるんだから!」
唯「憂がすごく優しい子だって分かってるよ。でも、それにしたって変だもん!」
憂「……う」
唯「嫌いな人のために朝夕ごはんも作って」
唯「朝起こしてあげて、その人のことちゃんと好きになろうとして」
唯「おまけに嫌われたくないから、なんて自分の気持ちを書き換えたりしちゃって」
唯「どんなに優しくたって、そこまでできないよ。だから……憂はうそをついてる」
憂「……お姉ちゃん」
唯「えへへ……憂、私のこと好きなんだよね?」
憂「……う、くっ」
憂「ち、がうもんっ……」ブンブンッ
唯「……ねぇ、うい」ギシッ
憂「やだ、よ……」
唯「私のことが本当にいやだったら、私のことぶってもいいよ。嫌いにならないから……」
憂「……っううう」グッ
憂「お姉ちゃん……だいっきらい……」ググ……
ポスン
唯「……ね?」
憂「ぅ……うううっ!」ギリッ
ポス
唯「憂はそのくらいしか、お姉ちゃんのこと嫌いじゃないんだよ」
憂「はぁ……はぁ……!」
唯「ありがとう、憂」
憂「……なんの、こと?」
唯「ひどいことしたのに、嫌いにならないでくれて、ありがとう」ギュッ
憂「あ……」
唯「ずっと一緒にいるよ。憂のお姉ちゃんとして」
憂「う……」グスッ
憂「おねえ、ちゃ……わたし……」ポロポロ
唯「うん?」
憂「お姉ちゃんのこと大好きなのにぃ……あのこと、ひゅ、ゆるせなくて……」
唯「……うん」
憂「やっぱりこのままじゃ、おねえちゃんにひどいこと言っちゃうと思う……よぉ」
唯「言っていいんだよ、憂。それは憂が背負いこむ荷物じゃないよ」ナデナデ
唯「お姉ちゃんにあずけて。ね?」ニコ
憂「……ありがとう、お姉ちゃん」
唯「どういたしまして」
憂「……大好き」
翌朝
唯「……むあ?」
唯「……ここはどこ?」フラフラ
唯「なんか憂の匂いがしゅる……」
ぽふっ
唯「お?」
憂「……」ジロリ
唯「わざとじゃないからね?」アセッ
憂「……ハァ」
唯(信じてないー!?)
憂「とりあえず、一緒に寝るの禁止ね?」
唯「はい……」
憂「それから一緒のお風呂も禁止。
その他もろもろ大体禁止。ほおずりもダメ!」
唯「ほおずりは……」
憂「だめ!」
唯「はいっ!」
憂「あと……言霊はもうしなくていいんだね?」
唯「うん。そしたらまた憂に重たい荷物を持たせることになるからね」
憂「わかった。それじゃやらないね」
唯「それで……そろそろ正座を解かせてもらっても」
憂「朝ごはんできるまで反省してるんでしょ?」
唯「くううう……」
憂「……えへへ、ウソでした。もう解いていいよ。お姉ちゃんしっかり反省してるもん」
唯「やったー!」ゴロン
憂「じゃ、私ご飯準備するね?」スタスタ
唯「ああ……いきわたるー……」グダー
唯「……それにしても」ボソ
憂「ふんふ~ん♪」トントン
唯「いい妹を持ったのう……」
唯「ありがたやー……」
唯「……そうだ!」ピコン
唯「……ねぇねぇ、ういー!」
憂「うん? なぁに、お姉ちゃん?」
唯「今度の土日、お母さんたち帰ってくるよね?」
憂「うん、そうだよ。けっこう久しぶりだね」
唯「その日さ、家族で旅行いこうよ!」
憂「お姉ちゃん……いいね、それ!」
唯「でしょ? 私ね、憂がそばにいてくれることがすごく嬉しいんだ」
唯「だから、憂を生んでくれたお母さんたちにお礼がしたいよ!」
憂「そっか。そしたら、私は」
憂「お姉ちゃんを生んでくれたお母さんたちに、お礼がしたいよ」
唯「……えへ」
憂「ふふ」
憂「土曜日、楽しみだね?」
唯「ほんとだね。おいしいもの食べたいなぁ」
憂「お姉ちゃん?」
唯「わわ、わかってるよ! 冗談だってば!」
憂「もう……かわいいんだから」プイッ
唯「でへへー……」
憂「よし……朝ごはんできたよ、お姉ちゃん」
唯「おいしそー! ありがと、憂!」
憂「それじゃ私、洗濯……」
唯「憂ちゃん! 一緒に食べませんか!」
憂「……」ポカーン
唯「……ういー、一緒に食べよー?」
憂「うん!」
唯憂「いただきまーす!」
唯「……」モグモグ
唯「あは~ん……オムレツとろとろでおいしい~!」クネクネ
憂「えへへ、嬉しいよお姉ちゃん」
唯「はい憂、あーん」
憂「えっ……」
唯「……あっ、ごめん。あーんも禁止だったっけ……」
憂「うん、そうなんだけど……」
憂(……ええいっ!)パクッ
唯「うい……」
憂「……えへへ。食べれちゃった」
唯「ういー!」ガバッ
憂「ちょ、おねえちゃ……!!」
唯「うーいー! アイラービュー!」
憂「ま、まだ抱きつくのはだめなのー!!」アセアセ
唯「スキンシップだから! スキンシップだから!」スリスリ
憂「ああもうっ! いいかげんにしなさいっ!」パァン
最終更新:2010年09月12日 22:50