新歓ライブ前日
律「なんだよ話って」
唯「今から言うことに驚かないでね」
梓「唯先輩がそんな顔するなんて久しぶりに見ましたよ」
唯「実はね、私…」
澪「……ゴクリ」
唯「…未来からきたの」
律「………」
澪「………」
紬「………」
梓「………っぷ」
「あははははは!」
律「さーっ、練習すっぞー!」
唯「うー!りっちゃーん!」
梓「エイプリルフールはとっくに終わってますよ!」
紬「でもタイムスリップなんて憧れるわ~」
そりゃあ私だって信じたくないけど
「聞いてあげたら?」
唯「…え?」
さわ子「話だけでも」
律「いつの間に…」
さわ子「いいじゃない、夢があって…それに」
さわ子「唯ちゃん……真剣な顔してるから」
唯「うぅ…さわちゃん」
澪「じゃー聞いてやるから、終わったら練習な!」
さわ子「……」
唯「実は―――」
とりあえず私は今までの経緯を話した
もちろん真剣な顔で
そのぶん最後の方にはみんなわたしの話に聞き入ってくれていた
唯「…とまぁこんな感じ……かな」
梓「脅し……ですか?」
唯「でも大丈夫だよ!まだ今は4月だし!」
律「まあ梓待て、あくまでこれは唯の"夢"だ」
澪「そう。だから例え今年誰も入らなかったとしても、来年にはきっと誰か入ってくれるさ」
唯「夢じゃないってばー!」
だってそうだよ…あんなリアルな夢あるわけがないよ
夢なのはむしろこっちの世界だよ
紬「わたし…頑張る!」
梓「……?」
紬「わたし今年中に部員入ってくれるように頑張る!」
唯「むぎちゃん……」
紬「みんなも頑張ってくれるよね?」
律「いや…別に唯にこんな話されなくても初めからやる気はあったんだが…」
澪「あ……なあ唯?」
唯「ん?」
澪「お前らは別に勧誘に手を抜いた訳じゃないんだよな?」
唯「むしろ上手くいったほうだったよ」
唯「だけど……ほら、やっぱり私たちって"5人で1つ"みたいな感じがあるから入りにくいんじゃないかなあって」
澪「どんな勧誘の仕方だったんだ?」
唯「えーっと確か…」
あれあれ…?
思い出すと私たちどうしてあんなことやってたんだろう
着ぐるみ着たり、騙したり
唯「2年生の時と同じ感じかな」
澪「2年生……って着ぐるみ着てやったのか?」
唯「う…うん」
律「いや別に関係無いだろ」
紬「私もそこは問題無いと思うわ。2年生の時は梓ちゃんが入ってくれたから、まあ成功ってことにはなったけど……」
紬「よくよく考えてみれば梓ちゃんは元からギターに興味があったりして、勧誘は関係無かった気がするわ」
律「…ってことは私たちの勧誘って"失敗"だったってことなのか?」
澪「考えてみたらそうかもな」
律「じゃあどうしたらいいんだ?軽音部である限り誰も入ってくれないってことじゃないか!」
―――まさにその通りだった。
新歓ライブでの演奏自体はまた上手くいった
……けど問題はその後
やっぱり軽音部には誰も来てくれなかった
あれからというもの打開策は見つからず、私は夜寝るたびにあずにゃんが部室で一人しくしくと泣いているのを想像してしまいなかなか眠れなかった
キーンコーンカーンコーン
唯「くー……zzz」
和「唯、授業終わったわよ?」
唯「あっ……またわたし……」
和「最近ずっとそんなだけど、どうかしたの?」
唯「いや…部活がちょっとね…」
和「大変そうね…なんか私にできることあったら言ってね?」
唯「じゃあ一ついい?」
和「え…いいわよ?」
唯「もし大好きな人が将来不幸になるってわかってて、それでその人を不幸にしないように未来を変える役目が自分にあるとして……」
和「ちょ、ちょっと待って。それなに?映画?夢?ふざけた質問なら聞かないわよ?」
唯「真面目だよ」
和「………」
和「で?」
唯「で、役目を果たそうとしてもなかなか上手くいかないんだよ。で、困ってるわけ」
和「へぇ…でもどうして将来その人が不幸になるってわかるの?」
唯「その自分は未来からやって来たんだ」
和「ふーん…すごい人なのね」
唯「……うん」
和「上手くいかないなら、上手くいくようにするしかないじゃない」
唯「そうなんだけどさ…チャンスは一回だけなんだよ!」
和「でも未来を変えられるチャンスが一回でもあるならそれは幸運よ?」
和「誰もが過去に戻りたいって思っても戻れるわけじゃないんだから」
唯「だからその一回を確実に正確に成功させなきゃ――――」
和「それにあんた、勘違いしてるわよ?」
唯「…え?」
和「それがその人の"運命"だったのよ」
唯「そんな…そんなわけない!」
和「だいたい不幸じゃなくしてどうするの?その人はその後も一生不幸になることなく暮らしていけるの?」
唯「あーもう!うるさいうるさい!」
ガタッ
和「ちょ、唯!?」
唯「帰る」
律「ちょ…なんかヤバくね…?」
澪「確かに…」
和「そうやってまた逃げるのね」
和「そのお話の人も、あんたみたいだから何も変えられないんじゃないの?」
唯「……」
タッタッタ
紬「唯ちゃん最近おかしいね」
律「3年になってからずっと何か抱えてるみたいなんだよな…」
澪「まさか本当に未来からやって来たんじゃ…」
律「まさか…」
澪「だ、だよなー……あはは」
……
ああ、何やってんだろ私
一人でがむしゃらになって
みんなに迷惑かけて
そして新入部員は集められない
あげく友達まで傷つけて
今はまた現実から目を反らしてる
タッタッタ
なんのために私はこっちに来たの?
私は…
私はどうして
「どうしてこんなことをしているんだろう…」
唯「!?」
さわ子「でしょ?」
唯「……」
タタッ
さわ子「待ちなさい」
唯「う……」ピト
さわ子「もう…本当にしょうがないわね」
さわ子「ちょっとこっち来なさい」
唯「……」
進路指導室
さわ子「部員獲得は難しいでしょ?」
唯「……はい」
さわ子「だいたい軽音部なんてそんなものなのよ」
唯「……」
さわ子「『どうして』、『なんのために』って思ってるんでしょ?」
さわ子「過去に来た理由」
唯「……え?」
さわ子「そうよ、私があなたを過去に戻らせたのよ」
唯「あれさわちゃんだったんだ…!」
唯「でも…どうして?どうして私は過去に…」
さわ子「ごめんなさい」
さわ子「正確に言うと、"私であって私じゃない"のよ」
唯「?」
さわ子「要するに今の私と未来の私は同じ人でも
リンクはしていないのよ」
唯「……りんく?」
さわ子「そうリンク。つまり私は過去の人間だから、未来の私の考えてることなんてわからないのよ」
唯「そう…なんだ」
さわ子(あれ、私のことについてつっこまないのかしら…)
唯「……」
さわ子「でも私がそんなことをするなんてきっと重大なことだったのよ」
唯「廃部とか?」
さわ子「いや…もしかしたら廃部は関係無いのかもしれないわ」
唯「え…じゃあ」
さわ子「そう…他にあるのかもしれないわ。だって廃部なんて過去に戻ったところで止めようもないし、むしろ唯ちゃんにそんな難しいことはさせないと思うの」
唯「じゃあ…じゃあ私はなんで」
さわ子「ヒントはあるはずよ」
唯「ヒント…?」
さわ子「そう。未来の私だって唯ちゃんでもできることをさせようとしたはずよ?」
唯「そんな…でもチャンスは一回って」
さわ子「そうよ、一回きり。だってそうでしょう?過去に戻るなんて大罪よ、神様からしたら」
さわ子「あ…そうだ……はぁ」
唯「どうしたの?」
さわ子「今から言うことをしっかり受け止めてちょうだいね、いい?」
唯「う…うん」
さわ子「この力はね、使った人にリスクを与えてしまうの」
唯「りすく…って?」
さわ子「ちょっと待って、あなた大学受験したんじゃないの?」
唯「したけど…いやー難しくてね…だから勘で!」
さわ子「やっぱりね」ガクッ
さわ子「まあいいわ、リスクってのは代償のこと」
唯「…ふーん。それでその代償っていうのはなんなの?」
さわ子「……」
さわ子「記憶の削除」
唯「……はい?」
さわ子「とは言ってもあなたのじゃないわ。あなたと関わった人間のほう」
唯「ちょ、ちょっと待ってよ!それはいくらなんでも」
さわ子「だから言ったでしょ、これは大罪だって。神に叛いているのよ、あなた」
唯「じゃあ過去に戻ってやり直しても、意味が無いじゃん!」
さわ子「それほど意味があるのよ、このタイムスリップには」
さわ子「例えばもしかしたらあなたは将来の日本を救う救世主かもしれないし、はたまた廃部が原因で自殺なんてしてしまったのかもしれない」
さわ子「記憶を消す、なんて言っても心配しないで。"高校での話"だから」
唯「なんか頭が混乱してきた」
さわ子「落ち着いて」
さわ子「つまりあなたは、この高校に入学しないで別の高校で過ごした…っていうことになるのよ」
さわ子「だから要するに、憂ちゃんやあなたの両親はあなたのこと忘れたりしないわ。まあ私もだけど」
唯「記憶はいつ消えちゃうの?」
さわ子「あなたがタイムスリップさせられた日よ」
唯「そんな…」
さわ子「最後のチャンス、有意義に使いなさいね」
唯「………」
唯「いきなりすぎて何がなんだか…」
あー、ダメだ。やっぱり一回家に帰ろう
唯「じゃあ、さようなら」
さわ子「はい、さようなら…ってまだ三時間目なんだけど!」
さわ子「でもいいわ…大目に見てあげるわよ」
唯「ありがとうございます」
ガチャ
さわ子(そりゃあショック受けるわよね…今まで共に過ごした仲間達がある日突然自分を忘れてしまうんだから)
さわ子(名前も………思い出も)
最終更新:2010年09月12日 23:53