月日は流れ受験当日

澪「もういや…」

律「なんであんな大勢の前で歌えるのに受験が無理なんだよ」

澪「お腹痛い…」

紬「大丈夫よ!緊張するのは頑張った証拠だから!」

唯「頑張ろーね!」

試験官「始めてください」

ペラ

よし…頼む頼む…!

唯「……!」

違う問題じゃん…!

意外と設定ハードだね、さわちゃん

でも…頑張らなきゃ!


その後はまさに光陰なんとかの如しって感じだった

みんな合格して涙ながらに抱き合った

そしてまた卒業式がきた

なんでだろう、さすがに二回目ともなると泣かないと思ったのに、ちょっとうるうるきた

りっちゃんはまた涙を堪えているみたいだったけど確かに目がきらきらとしているのが見えた

あっという間、本当に

卒業式後の音楽室は今まで変わらない時が流れていた

あのいつも通りの風景


澪「もう卒業か…」
律「だな…」モグモグ

澪「あっという間だな…」
律「本当本当」モグモグ

澪「楽しかったな…」
律「うん」モグモグ

澪「聞けよ!」バンッ

律「最後のティータイムだぜ?明るくいこう!」

唯「そうだよ澪ちゃん!こんなケーキ二度と食べられないかもしれないよ?」モグモグ

紬「家に来たらもっと食べさせてあげるわよ」

澪「ったく…」

澪(まあでも…こいつらもこんなことしてて実は感じてるんだろうな)

澪(もうこの瞬間には戻ってこれないことを)

唯「ほら、あずにゃんも食べなよ」

梓「はい…」

唯「?」

何か言いたそうな顔してる……ような

梓「ちょ、ちょっとすいません!私トイレに…」

タッタッタ

律「梓のやつ…」

紬「これが最後だって思っちゃうと辛いわよね」

澪「でも…梓みたいな後輩ができて良かったよな!」

唯「本当だよ…」

バタン

唯「あずにゃんおかえ……ってさわちゃんか」

さわ子「"か"ってなによ!」

さわ子「まあいいわ。なんか真鍋さんが写真撮ってあげるから講堂に来てだって」

律「写真か…」

写真…?

やっぱり前と未来が変わってる

前はそんなことしなかった


さわ子「……」



講堂

澪「なんだ真っ暗じゃないか」

律「和来てないのか?」

唯「……?」

どうなって…

その時講堂の灯りが一斉についた

唯「…!」

梓「待ってましたよ、先輩」

唯「あずにゃん…それに憂…純ちゃんまで!?」

そこには楽器を構えたあずにゃん達がいた

憂「お姉ちゃーん!」

そうか…

だから憂もあんな出かけて…それでみんなで練習してたのか…

梓「私にできるのはこれくらいです」

澪「いつの間に…」

律「ったく…」

紬「梓ちゃん…」

梓「……ってちょっとかっこよすぎですかね」

唯「そんなことない……スゴく嬉しいよ、あずにゃん」

梓「今でも思い出します。最初の新歓ライブの輝かしい皆さんの演奏」

梓「不安だらけの入部に」

梓「合宿や文化祭…色んなことをしてきましたよね」

梓「たけど、今思い出すのはそんな大きな思い出よりもむしろ毎日毎日皆さんとお茶したあの平凡な日常なんです」

梓「あの何気ない毎日が私にとって宝物だったんです」

梓「でも…なんででしょう…」

梓「楽しかった…はずなのに」

梓「考えると……涙が止まらないんです」

梓「でも…今やっとわかったんです」

「後ろばかり振り返ってもしょうがない。前に進まなきゃいけないんだ」

梓「……って」

唯「………!」

そっか…そういうことだったんだね

私が戻ってきた理由

ここにいる理由

軽音部に入った理由は

この一言を聞くためだったんだね

梓「だから…これは私のけじめの曲です……!」

澪「梓のやつ…」

紬「……グスン」

律「かっこよすぎんだよ……ばか」

唯「あずにゃん!」

梓「唯先輩。あなたに会えて良かったです。それに皆さんとも」


こらえろ…私

笑顔で見送るんだ!
あの時みたいに私……泣いたりしな…

唯「…!」ポロポロ

うそ…

なんでよ……止まってよ…

梓「私、今ならはっきり言えます!」

梓「軽音部に入って」

梓「皆さんと共に過ごせて」

梓「本当に…」

梓「本当に幸せだったって…!」

梓「唯先輩!澪先輩!律先輩!むぎ先輩!」

梓「今まで、ありがとうございました!」

梓「わたし、頑張りますからー!」

梓「……よし」

純「良かったね。ちゃんと言えて」

梓「うん!」

梓「じゃあいくよ?」

憂「うん!」

純「いつでも!」




あずにゃんも前に進もうとしている

あの日、私があずにゃんを疑ってしまった日、軽音部が廃部したのを知った日、私はそこで"終わり"だと思ってしまった

でもそれは違ったんだね

もしかしたらあの後軽音部は復活していたかもしれないし、あずにゃんも踏ん切りがついていたのかもしれない

むしろ高校時代に別れを告げられないでいたのは私の方だったんだ

「あの時こうすれば今は変わったんじゃないか」

どうにもならないのに過去ばっかり振り替えって暗い未来ばかり見つめてた

そんな私にさわちゃんは「今を生きること」を教えてくれたんだ

後ろを振り返らないで前に進むこと

きっとその先には光があるからと



そして私は気がついた

未来はこんなにも輝いていたことに

もしかしてさわちゃんは初めから知ってたのかな

私が戻ってきた理由を

ジャーン♪

梓「……はぁ」

パチ……パチパチ

タッタッタ

唯「あずにゃーーんっ!」

梓「はい!」

澪「あずさー!」

律「このー!泣かせやがってー!」

紬「もー!ずるいよー!」

唯「あずにゃーん」ナデナデ

梓「生意気な後輩ですみません…えへへ」

憂「大成功だね!」
純「うん!」

唯「よし!」

唯「……スーッ」

唯「絶対行こー!武道館!」

壇上には私達七人

観客のいない講堂で私は叫ぶ

私達はずっとずーっと一緒だよって

そしたら聞こえたんだ

誰もいないはずの客席から沸き上がる歓声と拍手が


そして一人が立ち上がってこちらに叫ぶんだ

「アンコール!アンコール!」って

それにつられてみんなも一斉に言い出した

目を閉じれば確かに見えた

広い武道館に満員の観客

そしてみんなが笑顔で私を見ている

今と変わらないその笑顔で

そして私はそれに答えるように叫ぶんだ

その輝く未来に向かって

唯「もう一曲いくよーーっ!」

「おー!」


さて…これから私はどうしよう

この長い長い旅路をどうやって進もうか

そうだなあ

うーん

でも、焦る必要はないんだ

ゆっくり、ゆっくり歩けばいい

そしていつかこのレールがみんなのレールと交わるその時まで待つことにしよう

そしていつかまたみんなに会えたら


そのときは、また


また一緒に





そしてとうとう"あの日"がきた


私が過去に戻った日

さわ子「未来は変えられた?」


唯「…うん!」

確かに未来は変わった

それが間違いでも正解でもどっちでもいい

またここから進めばいいんだから

さわ子(私の判断は間違ってなかったわね)

唯「あ、先生?」

さわ子「なに?」

唯「先生って本当は何者なの?」

さわ子「いまさらー?」ガクッ

さわ子「…だから私はあなたの担任よ?」

唯「えー?」

さわ子「そうね…あなたの顧問でもあるわね」

唯「最後の最後にそれー?」

さわ子「うるさいわね!しょうがないじゃない約束なんだから」

さわ子(本当この子じゃなかったら私の立場も危うかったわね)

唯「じゃあさ…」

さわ子「?」

唯「最後に一つだけお願いしてもいい?」

さわ子「いいわよ、一つくらい」

ヒソヒソ

唯「……だめ?」

さわ子「…あなたらしいわね」

さわ子「確か…前もそれやった子いたわね…」

唯「前……って、もしかしてあの物置片付けてた時のあれ?」

さわ子「もう何年も前よ」

唯「でもあんなことして良かったの?」
さわ子「いいの。だってあれはもう約束が果たされていたから」

唯「で、お願いできるの?」

さわ子「もちろんよ!」

唯「あ、待って、もう一個いい?」

さわ子「えー?」

唯「お願い」

さわ子「上目遣いなんてどこで覚えたのかしら?」

さわ子「まあいいわよ」

ギュッ

さわ子「ちょっ…」

唯「……グスン」

さわ子「あなた本当は…」

唯「ううん…泣いてない」

唯「最後くらい、泣かないよ!」ニコッ

さわ子「そう…」ナデナデ

唯「よし!」

さわ子「そろそろね」

唯「まさか…『実は嘘でした!ウフフ』なんてことは…」

さわ子「ないわよ」

唯「うう…」

さわ子「でもね、大丈夫。きっとまた会えるから」

唯「本当?」

さわ子「本当」

さわ子「目を閉じて」

唯「…うん」

さわ子「私がはいって言ったら目を開きなさい。目を開けた瞬間あなたは家の自室にいるわ。もちろん私とあなた以外の高校以降のあなたとの記憶は書き換えさせてもらうわ」

さわ子「…準備はいいわね?」

唯「うん!」

さわ子「……」

さわ子(5…4…3…)

「はい!」


5
最終更新:2010年09月12日 23:57