プルルルルルル


澪「はい、もしもし…」

澪「ムギ…!?…久しぶりだな!10年前のさわ子先生の葬式以来か…」

澪「うん、うん…」

澪「…!」

澪「そうか…唯が…」

澪「…仕方ないよ…私達ももう歳なんだから…」

澪「…うん…」

澪「…もちろん行くよ」

澪「うん…律には私が連絡する」

澪「うん…じゃあね」

ガチャ

澪「……」

澪「…唯、死んじゃったのか…」

プルルルルルル

ガチャ

律「はい、田井中です」

律「…澪か、どうした?」

律「…!…そうか、唯…」

律「…ハハ、次は私の番かな?」

律「…冗談だって」

律「うん…」

律「…葬儀はいつなんだ?」

律「…わかった、必ず行くよ」

律「うん…じゃ、また」


ガチャ

紬「あ、澪ちゃん!」

澪「ムギ!…ていうか「ちゃん」てのやめてくれよ…もう70のお婆さんなんだからさ」

紬「ふふ…澪ちゃんは歳をとっても綺麗ね」

澪「やめてくれって。ムギは昔からおっとりだからな、あまり変わらないな」

紬「まあ…誉めてるの?それ」

澪「ん…一応な」

紬「ふふふ…」

律「二人とも、久しぶり!」

紬「あ、りっちゃん!」

律「ムギー!久しぶり!」

紬「りっちゃん、元気そうね」

律「アハハ、伊達に孫と毎日遊んでるわけじゃないさ」

澪「ほんと、お前は一番最後に逝くんだろうな!」

律「そーゆー澪も、今や玉の輿だもんな!全く、庶民は私だけかい」

澪「まあ、色々大変だよ、政治家の妻ってのも」

律「あれ、梓は?」

澪「ああ、今海外にいるから、来れないってさ。残念そうだったよ」

律「ったく、間の悪いやつだなー」


憂「あ、みなさん!今日はわざわざありがとうございます」

律「憂ちゃん!…この度は心よりお悔やみ申し上げます…」

憂「そんな畏まらなくていいですよ。お姉ちゃんも幸せそうな最期でしたし…」

澪「…そんなに悪かったのか?唯…」

憂「ええ…ここ数ヶ月は調子悪そうでしたけど…「憂が病院にフルーツ持ってきてくれるからこれはこれでいいかも」って笑ってましたよ」

律「唯らしいなー」

紬「今日は唯ちゃんのためにお菓子をいっぱい持ってきたわ。柩に入りきらないかも…」

憂「あはは、ありがとうございます。お姉ちゃんも喜びます」

憂「あ、そうそう、みなさんにお見せしたいものがあるんです」

澪「え?」

憂「ちょっとお姉ちゃんの部屋まで来ていただけますか?」



唯の部屋

律「久しぶりだな、ここ」

澪「ここで試験勉強したんだよなー」

紬「あの時はりっちゃんがふざけまくって大変だったのよ?」

律「そうだっけ?よく覚えてるな…」

紬「…覚えてるわ…あの日々の事は全部。私の人生で一番輝いていた時期だもの…」

澪「そんな事言ったら、旦那さんが悲しむぞ?」

紬「うふふ…内緒にしておいてね」

憂「あっ、ありました!これです!」

澪「ん?これは…日記帳?」

紬「唯ちゃんの?」

憂「ええ…お姉ちゃんはずっとみなさんにだけは見せたかったらしいんですけど…中々切り出せなかったって言ってました」

澪「ははは、どんな恐ろしい事が書いてるんだ?」

律「…」

憂「律さん?」

律「ごめん…私、実はこれ、高校の時に読んじゃったんだ」

澪「おい、律…?」

律「ほら、追試の勉強の時、暇で仕方なくてさ…つい…ね」

憂「お姉ちゃんは言ってました。この日記を読んでも、それでも私と一緒にいてくれるりっちゃんは本当にいい子だって…」

律「唯…はは…当たり前じゃないか…バカだな……」

澪「な、何が書いてあるんだよ…」

憂「みなさんにもお見せします。はい、どうぞ」

紬「…めくるわよ?」

ペラッ


4がつ 25にち

きょう にっき つけはじめる
せんせい いってた
にっき が あたまに いいって
ほんとうかな

きょう のどかちゃん と がっこうから かえったました
あたま いい に なたら のどかちゃん も おれい してあげなきゃです
ちゅうがっこう は なんだか たのしいに なりそうだよ


5がつ 16 にち

きょうも にっき かいた
うい に ほめてもらた
うい ありがとう
6がつはしゅずつ
あたま いい なって ういと おべんきょ したい


5がつ 21にち
ちゅうがっこうで のどかちゃん と けんか なった

のどかちゃん が ないた
わたし と いるの やなのかな
のどかちゃん ごめんなさい


6がつ 4にち

あした しゅずつ
こわい とても
でも あたま いいに なるしゅずつ だから がんばりたいます
あたまいくなって のどかちゃん ありがとう て いってあげる
のどかちゃん よろこぶと うれしいです


6がつ 6にち

きのうしゅずつ した
あたまいい なれるですか

わからない
うい ないた
おねいちゃん げんきで よかった って うい ないた
げんきだから なくのは ばか だって わたしがおこった
うい わらった
わからないです
あたまいい なると わかるのかな


7がつ 5にち
きょうから あたまいいなる れんしゅう はじめました
びょういんのせんせい がほめてくれた
うれしいです
おばあちゃんが
ゆいはひとつおぼえると ほかのこと は ぜんぶ わすれる ってほめてくれた


8がつ 19にち

なつやすみ だけど びょういん ずっとびょういん

あたまいい れんしゅうはたいへん
みんなは れんしゅうするのかな
れんしゅうしないでのどかちゃん とあそびたいです


9がつ 3か

あたまいいになってきてるらしいです
せんせいはよろこんでました
ういもよかったっていいました
みんなよろこぶとわたしもしあわせです
れんしゅうはたいへんだけどがんばります

ゆい


10月10日

きょうからかんたんなかんじのべんきょうをはじめました
日きのだいめいにもかんじをつかいました
ういはおねえちゃんすごいってよろこんでます
ありがとう うい
おねえちゃんもっとがんばるからね

ゆい


10月21日

今日は雨がふりました。
のどかちゃんと二人でかさをさしてかえりました
のどかちゃんが、うい、がんばってねと、いってくれるので、わたしはがんばります。
ところで、雨っていうかん字はむずかしいですね

ゆい


1月2日

あけましておめでとうございます。
お母さんとお父さんから、お年玉をもらいました。
ういと二人でおかいものに行きました。
先生は、手じゅつのけいかがりょうこうだと言ってまいした。
もっともっとあたまよくなるらしいです。
でものどかちゃんにも、手じゅつのことはひみつなのです。



2月16日

今日は、和ちゃんとお弁当をたべました。
クラスのみんなは、あんまり私が好きじゃないみたいだけど、和ちゃんはやさしくしてくれます。私は和ちゃんが大好きです。
もっとあたま良くなったら、いっしゅに宿だいやろうね、和ちゃん。

平沢唯


4月17日

今日、授業中に、私が漢字を書いたら、みんなびっくりしました。手術のことはヒミツなので言えませんが、和ちゃんは「唯、すごいね。」ってとてもよろこんでくれました。和ちゃんのほうがもっとすごいのに。でも、ありがとう。
和ちゃんと同じ高校に行くには、もっともっと勉強しなきゃいけないらしいので、頑張ります。

平沢唯


6月19日

最近、毎日雨が降ってます。梅雨らしいです。
洗濯物が乾かないって、憂が言ってます。
憂、いつもごくろう様。お姉ちゃん、賢くなって頑張るよ。
和ちゃんがクラスの人とケンカしてました。
和ちゃんも先生に怒られたけど、私をかばってケンカしてくれたので、私はうれしくて泣きそうになりました。

手術の後、憂が泣いてたのはこういう事だったんだね。ありがとう、憂。

平沢唯


12月24日

Merry Christmas!
和ちゃんに、サンタさんはいないって言われました。
嘘だと思ってお父さんに聞いてみたら、「唯も大人になったな」だって。
あーあ、なんかがっかり。
でも今までお父さんがこっそりプレゼント用意してくれてたんだから、感謝しないと。
お父さんとお母さんは今日もラブラブでした!

Yui Hirasawa


5月15日

今日、和ちゃんが泣いた。
好きな男の子にフラれたんだって。
私は和ちゃんを抱きしめて、頭をなでた。
今まで私が和ちゃんに頭をなでてもらうことはあっても、私が和ちゃんをなでる事はなかったので何だか不思議でした。
ちょっとクセになりそう。なんちゃって。
和ちゃんは泣きながら、「唯、ありがとう」って言ってくれた。
私まで泣いちゃった。
こんなにかわいい和ちゃんをフるなんて、見る目ないなあ。

平沢唯


6月1日

今日は久々に病院に行った。
もう普通の15歳と同じくらいの知能はあるらしい。
良かったー!これなら勉強すれば、和ちゃんと一緒の高校に行ける!
和ちゃんも憂も勉強を教えてくれるから、頑張るよ私!

…と言っても、油断すると知能は低くなるらしいから、トレーニングは続けるんだって。
うーん、面倒臭いな。

平沢唯


10月11日

もうみんなはすっかり受験モードです。
ちょっと私はおいてけぼり食らってます…。
ちゃんと勉強してみて、初めて和ちゃんのすごさがわかりました。
二次方程式?証明?三角比?なんのこっちゃ。
でも和ちゃんと一緒に桜高に入りたいし、頑張る!

さて、台所でアイス食べなきゃ。

平沢唯


11月14日

お腹いたーーい!!!
頭いたーーい!!
生理痛です。
勘弁していただきたいです。
学校は休んだ。
ほんと無理無理!
憂が看病してくれた。いつもいつもありがとう。素晴らしい妹だよ本当に!

平沢唯


3月24日

ついに合格発表!
わたくし、平沢唯は、見事桜高に合格いたしました!
和ちゃんももちろん合格だったけど、自分の合格より私の合格を喜んでくれた。

うーん…でも結局私、あんまり勉強しなかったんだよね。
試験前も、ゴロゴロしてるだけだったし…。まあラッキーだったって事で。

そういえば最近トレーニングさぼりがちだなー。頭悪くなっちゃうのかな?

平沢唯


4月25日

軽音部ってところに入部してみました。
何やるんだろう?やっぱり軽い感じの音楽だよねー。
カスタネット得意だし、私にぴったりの部活かも。

「部活」…
いい響きだ!!

あと病院の先生にこっぴどく怒られました。
トレーニングさぼってるのがバレた…。


平沢唯




澪「なんだこれ…」

紬「唯ちゃん…手術って…」

律「…」

憂「お姉ちゃんは…生まれつき脳に障害を持ってました…」

憂「でも、中学生の時に、実験的に手術をしたんです。知能を高める手術を」

澪「そうだったのか…」

紬「…でも何で唯ちゃんはこれを私達に見せたいと思っていたの?」

憂「それはこの先に書いてあります…」

律「…」

律「ちょっとこのへんで一息入れようぜ?」


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最終更新:2010年07月03日 05:09