翌朝、唯の白い場所

唯(ギー太は私のすぐ横にいた)

唯(いつもだったら、単にラッキーだと思ってた)

唯(一番乗りできるし、タイムの更新だって狙える)

唯(……意味なんかないけど)

唯「ねえギー太。私、みんなの前でりっちゃんに告白されちゃったよ」

唯「どうしてかな? りっちゃんの気を引くようなこと、した覚えないのにね」

唯「大好きなあの子は、のら猫さんみたいに冷たいのにね」

唯「どうしてかな、ギー太?」

唯「……そっか。本人に聞いてみるしかないか」

 キュイッ

唯「じゃ、やろっか。ギー太」

 ジャジャジャジャジャッ



 3年教室

 ガチャッ

唯「おっはよー!」

紬「おはよう唯ちゃん」ツヤツヤ

唯「うわっ、ムギちゃん早い! そしてなんかキレイ!」

和「それが唯、聞いてよ。ムギ、今朝はあの白い場所に行かなかったそうよ」

紬「うふふふ」ツヤツヤ

唯「えっ……それって!」

和「多分、卒業恐怖症が治ったのよ。完治したのかは分からないけど」

唯「でも、そんなこと今までなかったよね。きっと治ったんだ!」ピョン

和「……早とちりかもしれないけど、私もそう思うわ」

和「ムギの口から、治ったと思われる理由を説明してもらえる?」

紬「ええ、ぜひ!」ツヤリン

紬「――とまぁ、つまり律唯でも良かったということね」

唯「治ったのはうれしいけど……そう言われるとなんかなぁ」

紬「うふ。確かに最初は律澪一筋だったけど……自分でも気付かないうちに、律唯のことも好きになってたのかもしれないわ」

紬「昨日の律唯ラッシュでもう完全に満足できたわ……」ツヤツヤ

唯「なんか釈然としないけど……まあいいや。おめでとうムギちゃん」

紬「ありがとう。それじゃ私、ちょっと梓ちゃんたちにも報告してくるわね」

唯「うん、行ってらっしゃい」

 ガチャッ バタン

唯「ムギちゃん、よかったね」

和「他人事じゃないわよ、唯」

唯「え? なんで?」

和「私たち、卒業恐怖症の治し方、ついにわかったのよ?」

唯「~~?」

和「もしかしたら、あてはまるのはムギだけなのかもしれないけど」

和「昨日話した、絶対外せない目標……あれを達成すれば、きっと」

唯「そんなことで、卒業恐怖症が治るのかな」

和「ムギを見てると、そんな気しかしないわ」

唯「あ、そう言われたらそうだね」アハハ

和「さ、とにかく……そうと決まれば、唯。あんたも続くのよ」


和「唯は、好きな女の子に想いを伝える、だったわね?」

唯「うん……」

和「一応確認するけど……唯の好きな人は、律じゃないわよね?」

唯「……」ギュ

和「あら? 違うの?」

唯「う、うん違うよ。私、りっちゃんが好きだよ」オドオド

和「……そうなの? だったら、どうして昨日保留なんてしたの?」

唯「え、えーと、それは。な、何でかな? 気が動転してたのかな?」

和「あの中じゃ、律を除いて唯が一番冷静な顔をしていたと思うけどね」

唯「あうっ。その、みんな見てたから恥ずかしかったし……」

和「じゃあ今日、律が来たらすぐに言いなさい。私もムギも外してあげるから」

唯「え、えと、でもりっちゃん来るかわからないし……」

和「どうして律が来ないなんて考えるの!?」バン!

唯「あう……」

和「嘘は積み木よ、唯。重ねるほど崩れやすくて、片付けも面倒だわ。……唯は、嘘つくのやめたほうがいいと思うけど」

唯「うそ、じゃ……」

和「ううん、嘘。唯のごまかしは下手すぎるのよ」

和「ケーキのイチゴもゆずれないくせに、こういうことは弱気なのね」

唯「だって、私が断ったらりっちゃんは……」

和「……唯はきちんと自分の気持ちを確認したんだし」

和「その上で律と付き合うっていうなら、かまわないわ」

和「唯は律を救おうとした。……カッコいいとは思うわね」

和「……でも、唯がやろうとしてできることは、律を救おうとすることだけよ」

和「本当に律を救うことはできないわ」

唯「……」

和「……律って、あれでけっこう中身は女の子だからね」

和「単に唯と付き合えればそれでいいなんて思ってないはずよ」

和「律は、唯の気持ちを手に入れたかったんだから」

唯「……私、素直になったらいいのかな?」

和「さあ? 素直になりなさいって命令することはできるけど」

唯「……ううん、いいや。自分で決める」

和「そう」



 11時間後

紬「りっちゃん、結局来なかったわね」

唯「りっちゃんが夜までかかるなんて珍しいね……」

和「そうね……いつも1番か2番だったわね」

和「心配になってきたわ。私、律の家に行ってみる」

唯「私も行くよ!」

和「唯は駄目よ。白い場所で眠くなったらどうするの? 帰って早く寝なさい」

唯「ぶー」

和「ぶーぶー言っても駄目」

唯「ぶーぶー、ぶーぶぶー、ぶーぶぶーぶーぶー」

和「何だっけ、それ」

唯「岬のトランペット吹き」

和「ああ……」

紬「じゃあ、私は一緒に行っていいかしら?」

和「いいえ。ムギも大事をとって寝てちょうだい。まだ完治したとは限らないわ」

紬「……そうね、分かったわ」

唯「和ちゃん。無理しないでね」

和「ええ。それじゃここで」

唯「また明日!」

 たったったっ

和「……さて、律の家に行こうかしら」


 20時、律の部屋

和「律、起きてる?」キョロキョロ

律「……んにゃむ」

和「私の見てきた限りでは、白い場所にいる人間は寝言を言わないはずなんだけど」

律「へっ、そうか。知らなかったぜ」パチ

和「……律、どうして学校に来なかったの?」

律「ついさっき起きたんだよ。もう7時だったから行かなかった」

和「でも律、今日はご両親いるじゃない」

律「それがどうかしたか?」

和「律の家、両親は共働きだけど、夕食は母親が作ってくれるはずよね」

和「律のお母さんの手料理って、カップヌードルなのかしら?」

和「1時間足らずでこんなにスープが冷え切ってるし。水で戻したのかしら?」

律「はいはい、嘘ついてごめんなさい。サーセン」

和「……私たちの話、聞いてたの?」

律「ああ。告白した翌日だしな……つい、聞き耳立てちまった」

律「嘘だってのは分かってたけどさ。唯が私のこと好きって言ってくれて、嬉しかったよ」

和「……それなら、私のしたことはとんだお節介だったのかしら?」

律「いや、和の言うとおり、私は唯と付き合って、想い合いたかったんだ」

律「唯を私の卒業恐怖症の巻き添えにしないでくれて、ありがとう」

律「唯には唯の好きな奴がいるんだろ? 唯は私なんかより、そいつにきっちり想いを伝えてくれないと」

和「そう。なら安心したわ。……律が唯を好きになった理由、なんか分かるわ」

律「何でだよ。和、ノーマルじゃないのか?」

和「まあ、たしかにそう思わせるような言い方をしたけど……」

和「でも間違わないで。私も律と同じよ。私の場合、好きな人は初恋からずっと変わってないけどね」

律「……!?」ガバッ

律「和、おまえ……!?」

和「でも、もう諦めたわ。私は、唯の力にさえなれれば、それでいい」

和「だから打算があって、あんなふうに唯を説得したんじゃないわ」

律「い、いや……疑ったんじゃない。ただ、驚いただけだ」

和「それに、私も唯と付き合い長いから」

和「私や律を見る目が、恋してる相手に向けてる目かどうかなんて、簡単に分かるわよ」

律「なるほどな。道理で唯の嘘を一発で見抜けたわけだ」

和「そういうことね。それで律、どうするの?」

律「何が」

和「これからよ。唯を振り向かせるために切歯扼腕するわけ?」

律「せい……? それは知らないけど、唯のことは……諦めるさ」

和「高校生活に悔いを残すことになるわね」

律「そうなるな。ま、しょうがないっしょ」ケラケラ

律「んじゃ、私もう寝るからさ。また明日、学校でな」

和「ええ、それじゃあね」

 バタン

律「……でも、もう私はまともな顔して唯に会えないよな」ドサッ

律(……唯のおっぱい、揉み倒しちまったもんな)クスッ

律(そりゃ、選ばれるわけないって)

律「……ぐぅ」

――――

 数分前、平沢家

憂「というわけで、昨日あまったカレーを作りなおして甘口にしてみました!」

憂「どう、お姉ちゃん?」

唯「ちょっとピリッとするけど、アクセントがあっておいしいよ」

憂「そっか、ちょっと味残っちゃったか……でも、おいしいならいいかな」

唯「うんうん。ほら、憂も一緒に食べよ」

憂「うん。それじゃ失礼して……いただきまーす!」

唯「そっちどう、憂? 憂もそろそろクラス替えだけど」

憂「あっ、そうなんだよお姉ちゃん! 今日、不思議なことがあってね」

唯「ほうほう、不思議とな……?」

憂「うん。あのね、純ちゃんがもうすぐクラス替えだねって言って……」


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最終更新:2010年09月15日 23:34