唯の部屋
梓「わっ、まだ唯先輩がいる……」
憂「卒業恐怖症のお姉ちゃんだよ」
梓「というと、目が覚めないっていう……?」
憂「……」コクリ
梓「えっと、たしかあの話だと、唯先輩って私のこと」
憂「わかってるならすぐ行動! ハイッ!」ドン
梓「わ、わわわ!」ギシッ
憂「ごゆっくり!」ビュン
スチャバタン
梓「ごゆっくり……ったって」
唯「……」スースー
梓「……」ゴクッ
唯「……」スースー
梓(ち、近い……)
梓「いやいや……」
梓「そんな、眠ってる唯先輩に対して、そんな……」
唯「……」フゥ
梓「っ」ゾクン
梓「……いや別に、やましいことをするわけでは……」
唯「……?」グッ
チュ
梓「……!?」
唯「……んー」チュパチュパ
梓(な、なにこれっ!? どうなってるのっ!?)
梓(ねっ、寝てるんじゃ……本能で動いてるとかってわけ!?)
唯「はふ」グイッ
梓「にゃーっ!」グググ
唯「……」ムチュー
梓「うっ、むううう……」
梓(ま、まるで純の最初のお話のような……っく!)グググッ
唯「んふー?」ペロペロ
梓(力が……やたら強い……!)
梓(私の力が入らないんじゃないから! 決してそんなんじゃないから!)
梓「あ……ふ……」クタッ
唯「ん♪」ピチャピチャ
梓(く、くちのなかをなめては……)
唯「はむ、はふ」カポカポ
梓「は、あ……」ゾクゾクンッ
梓(お、おやめになってぇ……)
廊下
『ピチャピチャ……』
憂(なんで梓ちゃんのこと好きなお姉ちゃんはみんなキス魔なんだろう)ハァハァ
憂(純ちゃんは梓ちゃんをペロペロしたいのかな?)
憂(でもそれだったら、素直に純ちゃんと梓ちゃんがペロペロしあうお話を書きそうなもんだけど)
憂(単純に考えて……いいかげん素直になったら? みたいなことかなぁ)
『ゆいせんぱぁい……』
憂(……でも、そうだとしても回りくどい……どうにもそういう意図を持って書かれていたようには……)
憂(……もし。もし、純ちゃんがこうなることを予期していたら?)
『だいすきれふぅ』
憂(物語の中のお姉ちゃんたちが出てくることを、その上で私たちのとる行動を、完全に予想していたら?)
憂「いや、ありえないよね。純ちゃんだもん」ハン
夜、憂の部屋
コンコン
憂「なに、お姉ちゃん?」
ガチャ
唯「へへー、一緒に寝よう、憂」ヒョコ
憂「お姉ちゃん、今日もエッチなことするの……」クルッ
唯「へ? 今日も……えっち?」パチクリ
憂「る、るの……わーる」
唯「なーんだ、今日もエッチなルノワールか!」ホッ
憂「そうそう、ルノワールの裸婦画」
唯「ごまかしきれるとは思ってないよねー、憂?」バタン
憂「まっさかー」ニッコリ
――――
唯「そっかぁ……ことだまの唯ちゃんと」
憂「うん……」
唯「……」
憂「……お姉ちゃん?」
唯「その……なんで?」
憂「……あのお姉ちゃんは、物語の中の憂ちゃんとのことで、トラウマがあるみたいだったから」
憂「私が代わりに、解消してあげようと思った」
唯「……」
憂「っていうのは、建前。嘘ではないんだけどね」
憂「……本当は、お姉ちゃんの姿をした人とエッチがしたかっただけ」
憂「はは……最低だよ、私。あのお姉ちゃんは私のこと本当に好きなのに、私はその気持ちを利用したんだ」
唯「ねえ、憂」ギシッ
憂「……ん」ビク
唯「自分がなに言ってるか、わかってるの?」
憂「ごめんなさい……」シュン
唯「……わかってないんだね」
憂「そんな……許されることじゃないってのはわかってるけど、でも!」
唯「わかってないよ、憂はぜんぜん分かってない」ハァ
憂「お、お姉ちゃん? なんか、近いよ」ドキドキ
唯「憂……私、くやしい」
憂「……?」
唯「……くやしいよ」
憂「お姉ちゃん……わかんないよ」
唯「……」スッ
唯「私、憂のお姉ちゃんなんだよね……?」
憂「えっ……?」
唯「私だけが、憂のお姉ちゃんだよね……?」
憂(そんなこと、言われても)
憂「……」オドオド
憂(他のお姉ちゃんたちを、無碍にするわけには)
唯「……そっか」
憂「で、でも。お姉ちゃんが一番のお姉ちゃんだからね?」
唯「……」ナデナデ
憂「お姉ちゃん……」
唯「憂、聞いて」
憂「……うん」
唯「お姉ちゃんね、憂のこと好き」
憂「……えへへ」カリカリ
唯「男の子が女の子を好きになるみたいに、好き」
憂「っ……」
唯「……お姉ちゃんを見て、憂」
憂「……」フルフル
憂「……できない」
憂「……みんなお姉ちゃんだから。……裏切れない」
唯「……一緒に過ごしたのは、1日だけだよ?」
憂「それでも、できない……」
憂「お姉ちゃんの姿かたちをしてるってだけで……お姉ちゃんに似てるってだけで、愛おしいの」
憂「だからっ……」
唯「……ごめん、お姉ちゃんひどいこと言ったね」ナデナデ
憂「……答えられないよ……」グス
唯「……しまっていていい。言わないで、心の中にしまっておいていいから」
唯「その気持ちのままで、いてくれればいいから」
憂「お姉ちゃん……私、悪い子だ……」
唯「……」ギュッ
遡り、その日の軽音部
唯「ねぇねぇ、りっちゃん」ポンポン
律「ん?」
クルッ
チュ
律「」ブフッ
澪「おい、律っ!」
紬「今日って日は本当に最高ねえ」ブブピュッ
唯「へへ、ひっかかった」
律「へへ、じゃねーよ!」
律「なんでいきなりチューとかするかねこの子はあああっ!!」グリグリ
唯「あだだだだだ」ビクビク
澪「なあ律、梓の用事ってまだ終わらないのか?」
律「ん? そういえば遅いな……ちょっと様子見に行ってくるわ」
唯「りっちゃん、一緒に行こう?」ダキッ
律「あ、ああ」
澪「だめだ、唯」
唯「なんでですかー」ブーブー
澪「今日の唯は律に抱きついてばっかりでちっとも練習しないからな」
澪「恐怖の10分間トレーニングを課してやる」
唯「ギョエーッ!!」
律「ははっ、唯がんばれ!」ダッ
唯「たぁーすけぇーてぇー」
澪「さあ観念してもらおうか……」
カチッカチッカチッカチッ
唯「……」シャンシャンシャンシャン
カチッカチッカチッカチッ
唯「……きつい」シャンシャンシャンシャン
澪「あと3分だ」
カチッカチッカチッカチッ
唯「……もうだめ、私死ぬ」シャンシャンシャンシャン
澪「終わるまで死ぬな」
カチッカチッカチッカチッ
唯「……」シャンシャン……
澪「おい、まだ残ってるぞ」
カチッカチッカチッカチッ
唯「何が残ってるの?」
澪「トレーニングに決まってるだろ」
唯「違うよね。いやがらせだよね」
カチッカチッカチン
紬「唯ちゃん……?」
唯「わかってるよ。言ってたもんね、澪ちゃんはりっちゃんが好きなんだもんね」
澪「なっ……い、そんなこと言ってないだろ!」カアッ
唯「言ったよ。はっきりとね」
唯「それでも、気持ちをおさえてくれるならいいよ。私だって罪悪感に苦しんでいられた」
唯「でもそうやって嫉妬されたら。いやがらせされたら。引き離されたら。私、澪ちゃんとは友達でいらんないよ」
澪「っ……」
紬「ちょ、ちょっと……」
ガチャ
律「おーっす
澪「そんなこと言ったって、私だって律が好きなんだよ!」
澪「律から聞いた……唯は、お前は! ただの虚構だろ! 人の作ったキャラクターだ!」
澪「私の知らないうちに、虚構の世界で結ばれたから、律はお前のもの……? ふざけるないでくれっ!!」
澪「こんな偽物の唯に、律を取られてたまるか!! 律はお前の記憶に付き合ってやるためにいるんじゃないっ!!」バン!
澪「嫌いになるなら嫌いになれよ!! そんなことなんでもないくらい、私は律のことが大好きなんだよっ!!」
唯「りっちゃん、おかえり!」
澪「えっ」クルッ
紬「まぁまぁまぁまぁまぁまぁ」バシュンッ
律「えーっと……なんだ? とりあえず、今日の部活はここまでーっ!」
梓「はぁ……来て損した。帰ろ」スタスタ
律「あーっと、梓のことは気にするな。帰るぜやろうども!」
唯「ごめんりっちゃん、わたし、いかなきゃならないとこあるから」
律「そっか? じゃあ澪、ムギ、帰ろうぜ?」
紬「あっ……ごめんなさい、私病院に輸血してもらいにいかないと」ブシブシュー
律「そうだな。頸動脈破裂してるもんな……」
律「……えっと。じゃあ澪、帰るぞ!」
澪「……ああ。行こう」
帰り道
澪「……」スタスタ
律「澪、歩くの早いって」ギュ
澪「て、手を握るなよ……」
律「だって澪が行っちゃうんですもん」
澪「……聞いてたんだろ、さっきの」
律「……うん」
澪「だったら、私の手を握ったりするな。私が勘違いしたら困るだろ?」
律「困る? ホワッツ?」ニヤ
澪「……ああーもう、律が私のこと好きかもって思っちゃうだろ! 離せバカ律!」ブンッ
律「うわっとと」
澪「……律、頼む……私本気だから、からかうのだけはやめてくれ」
律「か、からかってなんかない!」
律「澪がそんな勘違いしたって、私は全然困らないぞ! むしろ超ウェルカムだって!」
澪「……り、律?」
律「なんだよ、わかんないのか!?」
澪「い、いや、でも」アワワ
澪「……いいの?」
律「えー。澪ちゅわんは私が唯とくっついてもいいんでぃすかー?」ムスー
澪「ぜったい嫌だ!」
律「じゃあ、手握っていいな?」
澪「……うん」
律「……なあ、澪」
澪「な、なに? 律」
律「……今日、泊ってく?」
――――
翌朝、唯の部屋
憂「はいはい、起きて起きて!」パンパン
憂「お休みでも朝はちゃんと起きないと!」
唯「あうー」
唯「むー」
梓「にゃあー」
唯「あと5分ー」
ドドドド……
憂「……なんか混ざってたような。あれ?」
スッカラカーン
憂「ベッドに誰もいない……?」
憂「……起きた?」
最終更新:2010年09月15日 23:59