居間

唯「夢だったのかなぁ……」モグモグ

憂(それ以前に今お姉ちゃんの前には夢のような光景が広がってると思うんだけど)

唯「ういー、今って2009年の春なんだよね?」

憂「うん、そうだけど……」

唯「……でも、私もう学校を卒業したような気でいるんだ」

憂(どう説明したらいいのかなー)

梓「どうでもいいじゃないですか、そんなことは」モグモグ

憂「私はどうでもよくないよ? なんで普通に居座ってるの?」

梓「いや、昨日ちょっと盛りあがっちゃって」

唯「だよねー。どうでもいいよね、あずにゃん」

憂「……ん、あれ?」

唯「オムレツおいしー」パクパク

唯「すごい怖い夢みてたんだよー」

唯「へえ、どんな?」

唯「はぁ……」

唯「図書館閉館日かー」グデー

憂(ことだま、GP、唯さん、お姉ちゃん、ニート……)

憂(あれっ?)

憂「ふたなりのお姉ちゃんは……?」

唯「ああっ、そういえば帰って来てない!」

憂「……ま、まさか……」

 ピピピッ ピッ

憂(律さん、律さん!?)

 プルルルルッ プルルルルッ

 プチ

憂「律さん!」

律『あー、おはよう憂ちゃん……どした?』

憂「どした、じゃないですよ! お姉ちゃんお持ち帰りしないでください!」

律『はあっ? ちょっと待ってくれよ……』

律『いくら私でも会ったその日にお泊りとかしねーっつーの。……あ、いや、したけど……それに、私はもう身の振り方を決めたんだっ』

律『私はあの子には優しくしてやれない。それ以上に大事なものがあるんだ』

憂「そんな……」

律『悪いな……私はやっぱ、今まで過ごしてきた……これからも過ごしていくこの現実を大事にしたいんだ』

律『あのお話、読んだよ。唯がどれだけ私のこと好きかって、よく伝わった。……けど、それはやっぱり物語に過ぎないんだ』


律『……で、唯はそっちに帰ってないのか?』

憂「そうなんです。朝になってから気付いて……」

律『……あのな』

憂「何かご存じなんですか?」

律『唯がたくさん出てきて大変なのはわかってる。冷酷な私が言えるようなことじゃないかもしれない』

律『……けど、帰って来てないのに朝まで気付かないってのは、ちょっとひどいんじゃないのか?』

律『私のことを好きな唯だけじゃない。そこにいる唯全員に対して、ひどい扱いだと思うぞ』

憂「あ……」

律『それが言いたかっただけだ……唯の行方、出来る限り私の方でも探してみる』

律『部活が終わった後、「行かなきゃならないとこがある」って言ってた。知ってることはそれだけだよ……』プツッ

 ツー ツー ツー

憂「あ……ああ……」カタカタ

梓「あれ? どうしたの、憂」

憂「わ、わたし……お姉ちゃんにひどいことしちゃった……」ガバッ

憂「どうしよおおぉ!」グリグリ

梓「ちょっ、落ち着いて……落ち着けっ!」ブォン

憂「きゃんっ」ドタン

梓「唯先輩にひどいことしたって、どういうこと?」

憂「そ、それが……お姉ちゃんが一人、昨日から帰ってないの……それなのに私、気付いてなくて!」

梓「えぇっ!? そ、そんなの!」

憂「どうしよう、梓ちゃん!」

梓「どうしようもこうしようも、とにかく探しに行かないと!」

憂「わかった……純ちゃんにも協力してもらおう!」

 ピピピッ ピッ

 ピリリリリッ

憂「わあっ!? ……じゅ、純ちゃんからだ」

梓「向こうからかかって来た……?」

憂「……」ピッ

純『ずいぶんと気付くのが遅かったね、憂』

憂「……純ちゃん?」

純『イエス、純です。おはよう憂、梓』

憂「……なんで梓ちゃんがいることを?」

純『教えてあげてもいいけどなー。携帯でするにはちょっと長すぎる話だからなー』

憂「……わかった。それじゃあ、今から純ちゃんの家に行く」

純『あ、それなら増えた唯先輩たちも連れて来て。今、失踪した唯先輩も私のところにいるし』

憂「……うん。全員連れて、すぐ行くよ」

純『待ってるよー』

 プツッ

憂「……」ツーツーツー

憂(……どういうこと? 純ちゃんは一体……)

梓「憂、純はなんだって……?」

憂(いや、今はそんなことより)

憂「……純ちゃんは、家に来てほしいって言ってる」

憂「行ってみよう、梓ちゃん。きっと大事な話があるんだと思う」

梓「……」コクッ

――――

憂(思えばそもそもの始まりは純ちゃんだった)

憂(純ちゃんがどっさりと物語を持ってきて、私たちに半強制的に読ませた)

憂(何のために? そりゃあ書いたお話を読んでもらって、感想が欲しいというのは当然だけど)

憂(……でも、私たちが作品の感想を語り合っている時)

 『なに真面目に語らっちゃってんの?』

憂(純ちゃんはそんな投げ文をよこした)

憂(照れたのかもしれないけど……純ちゃんの目的はそこにはなかったのかもしれない)

憂(だとしたら、一体なんの目的であの作品を書き、私たちに読ませて)

憂(……お姉ちゃんたちを創ったんだろう)

唯唯唯唯「用意、整いました!」ビッ

唯「……行こうか。純のところ」

憂「……はい。出発しましょう」


憂「私は、さ」

憂「もしかしたら、純ちゃんの物語に引っ張られているのかもしれない」

梓「え……?」

憂「……状況は変だよ。でも今までの私だったら、こんな風に真剣に考えなかったかもしれない」

憂「もう、純ちゃんたら、なんて言って、おちゃらけながら家を訪ねていくんだと思う」

憂「……最初のお話で純ちゃんが書いたとおり、私には危機管理能力がないんだ」

梓「えっと……?」

憂「私はただ、かっこつけてるだけかもしれない。ってこと」

憂「昨日の梓ちゃんみたく、ね」

梓「……だけじゃないよ。かっこつけてるだけじゃない」

梓「憂は、ちゃんと動いてるんだから」

憂「……」


梓「私は、態度だけかっこつけてもあそこまでギターを上手く弾けないけど」

梓「憂は唯先輩のために、本当に自分を投げだせるから」

憂「……そう、なのかな」

憂「でも私、たくさんのお姉ちゃん相手に頑張ってる自分がちょっと好きだったよ」

憂「……それでそんなこと言って、お姉ちゃんがいないことにも気付けなかった」

梓「……いいじゃん。完璧な人なんていないよ」

梓「あの完璧に見える唯先輩だって……似たようなものだった」

憂「……」

梓「取り戻せばいいんだよ。唯先輩は、そんな一回の失敗くらいで憂を嫌いになるの?」

梓「憂はそんなに唯先輩に嫌われてる?」

憂「そんなこと……」

梓「だったら、かっこつけでもいいじゃん」

憂「……梓ちゃん、ありがとね」



 純の家、玄関先

唯「ねぇ、でもなんで私たちが純ちゃんの家に?」

憂「わかんない……けど、純ちゃんがお姉ちゃんたちに用があるのは間違いないよ」

 ピンポーン

純「ガチャ」

梓「おはよう、純」

唯唯唯唯「おはよー」

純「おお、勢ぞろいだ。さ、上がってください」

唯唯唯「おじゃましまーす」ゾロゾロ

純「憂と梓も上がって」

憂「おじゃまします……」

 バタン

純「さてと、まあまずは見てもらった方が早いかな」ググ

純「ついてきて……っと!」ギィ……ガタン

唯「わっ! 階段が出てきた……」

梓「地下室……?」

唯「冷たい風が吹いてきてるね……」

純「ちょっと寒いから、気をつけてね」スタスタ

憂「行っちゃった……」

唯「憂、ついてってみよう」

憂「う、うん」

 ゾロゾロ……

純「あ、梓そこ閉めて」

梓「よいしょ……」グッ

純「手挟まないようにね」

梓「うん……」 

 ギィ ドスン

純「暗いので、ゆっくりついて来て下さい」

唯「はわわ……まっくらだよ」

憂「お姉ちゃん、私が先行こうか?」

唯「……ううん、がんばる!」

 トン トン……

純「……ここです。開けますよ」ギィッ

 コオオオォ……

唯「まぶしっ……あ。なにこれ……?」

唯「……え」

唯「わぁー……」

唯「……なんなの、これは」ギリッ

憂「どうしたの、お姉ちゃんたち……っ!」

梓「……ひっ」

唯「わ……わたしが、いっぱい並んでる……」

唯「私だけじゃない……憂もいる、あずにゃんも……」

唯「澪ちゃん、りっちゃん!」ペシペシ

憂「純ちゃん、なんなのこれ!?」

純「見て分からない?」

純「ゴーレムだよ」

唯「みてみて、憂! このあずにゃん、すごくおっぱい大きいよ!」モミモミ

唯「やめなさいっ」グイッ

唯「あうー」ズルズル

純「……えっと」

憂「ご、ごーれむって……岩とか木で出来てるんじゃないの?」

純「イメージはそういう物だけど、実際にはもっと広い意味らしいよ」

純「人形、と単純にとらえておけばいいと思う」

憂「人形……これが」サワッ

憂「本物みたい……」

純「私も一体目が送られてきた時はびっくりしたなー。死体かと思ったよ」

憂「……」

純「……憂、わかってる?」

憂「……ううん。理解を超えてる」

憂「本物と見違えるくらいの精巧な人形……なんで純ちゃんの家に、こんなにたくさんあるの?」

純「そりゃあ言っちゃだめって言われてるんだ。悪いね」

憂「……そうなんだ。こんなことができる人というと、予想はつくけどね」

純「はは……ま、とにかくさ。ちょっと実際に見てもらおうか」

純「さてと……」サワッ


純「『けいおん!』」

唯「……!」ピクッ

憂「……あ」

唯「あ、おはよう憂ー」ムクッ

憂「えっ。えっと……お、おはよう?」

唯「憂どしたのー? なんかよそよそしい……」ムッ

純「おしまい」ポン

唯「よ……」バタッ

憂「お姉ちゃん!?」

純「……と、いうわけ」

憂「わ、わかんないよ……」

純「うっそだー。分かってるでしょうに」

純「じゃあ、もっと分かりやすいの見せてあげる。こっち来て、憂」スタスタ

憂「……」スタスタ

純「ほら、この唯先輩。見覚えあるんじゃない?」

憂「このTシャツ……ふたなりのお姉ちゃん?」

純「変な呼び名つけたね……そう、失踪してた唯先輩」

純「って、私がここに呼び戻したんだけどね」ニカ

憂「……ま、まさか……」

純「ぜーんぶお人形さんだよ。おととい憂がしちゃった唯先輩も、ね?」

憂「うぐっ……だ、だから何でそれを」

純「簡単なことだよ。人形の耳に盗聴器を仕込んであるだけ」

純「両目はカメラになってて、人形の見たもの聞いたもの、全部こっちに筒抜けなんだ」

純「遠隔操作も可能だから、色んなことさせられるしね」

純「憂のイキ顔、かわいかったよ」

憂「な……や、やめてよ純ちゃん! それ犯罪だからね?」カアッ

純「まぁ、バレた以上はもうできないっしょ。気にしない気にしない!」ポンポン

憂「……はぁ」

唯「へぇー、りっちゃんカチューシャしてないと綺麗だなぁ……」

唯「あずにゃんにカチューシャつけてみました!」

梓「あうう……」

唯「デコツインテールか……ないわね」

憂「そっか、あのお姉ちゃんたち、みんな人形だったんだ」

純「まあ、ゴーレムだね」

憂「こんな回りくどいことして……何が目的だったの?」

純「うーん……ひとくちに言えば、見ててもどかしかったから」

憂「もどかしい……?」

純「そう。唯先輩と梓と、あとついでに、澪先輩も」

憂「お姉ちゃんと梓ちゃんと、澪さん?」

純「中でも特に、梓だよね」

純「自分の気持ちに正直になれない。もしかしたら、気付いてすらいない」

憂「……もしかして、お姉ちゃんへのこと?」

純「あったり。どうにかして梓を素直にしてやりたかったんだよね」

純「1作目で唯先輩と梓をくっつけた後、3作目で引き離した」

純「そして、それぞれの物語の唯先輩の人格を、ゴーレムに記憶させた」

純「卒業恐怖症の唯先輩はちょこっと設定をいじくったけどね。口移し、ドキドキした?」

憂「……」


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最終更新:2010年09月15日 23:59