憂「ねぇ、梓ちゃんはお姉ちゃんにチョコレートあげないの?」
梓「今あげるって話してたじゃん」
憂「それは軽音部の皆さんへのチョコレートでしょ? そうじゃなくて、お姉ちゃん個人へはあげないの?」
梓「え、なんで?」
憂「だって、梓ちゃんお姉ちゃんのこと好きでしょ?」
梓「好きだけど、わざわざ……」
憂「そっかぁ。梓ちゃんはあげないんだ~。だったら私はとっておきの作っちゃおうかなぁ。お姉ちゃん、振り向かせなきゃだし」
梓「振り向かせ……え?」
憂「お姉ちゃん、なかなか振り向いてくれないんだよ。姉妹じゃなくて、恋人みたいなのがいいのになぁ」
梓「す、好きって。そ、そういう意味の好きなの!?」
憂「そうだよ。梓ちゃんもお姉ちゃんとキスしたりしたいでしょ?」
梓「キ、キスなんて……したくないもん!」
Chocolate days
こんにちは、平沢憂です。
今日はバレンタインデーの3日前です。
去年、軽音部の先輩たちにチョコレートを渡せなかった梓ちゃんは、今年こそチョコレートを渡す決心をしたみたいです。
梓「ぜっっったい!唯先輩たちには言っちゃダメだよ!」
憂「う、うん」
梓「純も!」
純「わかってるよ。だけど……結構いろんな人にバレちゃったみたい」
梓ちゃんが大きい声で話すから、私たちはクラスの注目の的です。
クラスメイト「梓ちゃん、かわいい~」
梓「はっ……し、しまった~!!」
梓ちゃんは反応が面白いので、ついからかいたくなっちゃいます。
お姉ちゃんや軽音部の皆さんの気持ち、ちょっと分かるかも。
ちょっといじわるしちゃおうかな。
憂「ねぇ、梓ちゃんはお姉ちゃんにチョコレートあげないの?」
梓「いまあげるって話してたじゃん」
憂「それは軽音部の皆さんへのチョコレートでしょ? そうじゃなくて、お姉ちゃん個人へはあげないの?」
梓「え、なんで?」
憂「だって、梓ちゃんお姉ちゃんのこと好きでしょ?」
梓「好きだけど、わざわざ……」
憂「そっかぁ。梓ちゃんはあげないんだ~。だったら私はとっておきの作っちゃおうかなぁ。お姉ちゃん、振り向かせなきゃだし」
梓「振り向かせ……え?」
なんだか楽しくなってきました。
梓ちゃんって分かりやすい。
憂「お姉ちゃん、なかなか振り向いてくれないんだよ。姉妹じゃなくて、恋人みたいなのがいいのになぁ」
梓「す、好きって。そ、そういう意味の好きなの!?」
憂「そうだよ。梓ちゃんもお姉ちゃんとキスしたりしたいでしょ?」
梓「キ、キスなんて……したくないもん!」
耳まで真っ赤にして反論する梓ちゃん。
梓ちゃんは考えてることがすぐ顔に出ます。お姉ちゃんみたいで可愛い。
お姉ちゃんと梓ちゃんが付き合っちゃえばいいのにな。
【2/13 10:10 平沢憂】
こんにちは、平沢憂です。
今日はバレンタインデーの前日です。
お姉ちゃんたちは第1志望の大学入試の日。
明日のチョコレートを作るために買い物に来ました。
お姉ちゃんの為に、美味しいチョコレートいっぱい作らなきゃ。
いっぱい作るんだったらチョコケーキがいいかなぁ。
でもお姉ちゃん生チョコ好きだし。両方作っちゃおうか。
あ、純ちゃんと梓ちゃんだ。
梓「あ、憂」
純「なんだ、憂もバレンタインの買い物?」
憂「うん」
小麦粉2袋に、チョコレートたくさん。
お姉ちゃんは甘いもの大好きだから、作り過ぎて困ることはあんまりないんです。
憂「まずはお姉ちゃんの分からかな」
純「え、これで1人分?」
憂「梓ちゃんは何作るの?」
梓「チョコケーキのはずなんだけど……」
梓ちゃんの買い物カゴの中には、小麦粉と黒砂糖にチ、チモルチョコ……
純はお菓子作り苦手って感じだけど、梓ちゃんも初めてなのかな。
大丈夫かなぁ。
憂「一緒に作らない?」
純「よろしくお願いします!」
梓「さっきまでの強気はどこに……?」
梓ちゃんがおいしくないチョコケーキを作って、お姉ちゃんに嫌われちゃったら大変です。
二人にはらぶらぶになってもらわないと!
今日は第一志望!の大学の入試の日でした。
国語と英語の試験が終わって、これで全部の試験はおわり!
やっと、入試の地獄から解放されるのです。
ギー太が弾きたいよー。
もう弾けなかったりして。
ごめんねギー太。また練習するからね。
唯「ふにゃ~」
澪「唯、いつまで腑抜けてる気だ」
唯「だってぇ」
澪「勉強がんばってる真剣な表情の唯はかっこいいって梓が言ってたのに。また呆れられるぞ」
唯「そうなの!? あずにゃ~ん……あずにゃん分が足りないよぉ」
肝心の試験はというと……よくわかりません。
みんなで同じ大学に行けたらいいなぁ。
紬「澪ちゃん、仕方ないわよ。ずーっと頑張ってきたんだもの」
律「そうだぞ澪。唯はムギや澪と違って優等生じゃないんだから」
唯「ひどいー。りっちゃんには言われたくないー!」
律「唯、1学期の中間試験で15点を取ったことを忘れたのかぁ?」
唯「あー!それは言わないって約束したじゃん!りっちゃんのばかー!」
世界史で15点を取ったのをバラされました。
二人だけの秘密って言ったのに~。りっちゃんめ。
でも、真面目に勉強した2学期からは、赤点なんか取ってないんですよ。
えっへん。
紬「そういえば、明日はバレンタインデーね」
バレンタイン!
唯「そっかぁ。すっかり忘れてたよ~。ムギちゃん、今年もチョコレート持ってきてくれるの?」
紬「私が持ってこなくても……。うふふ。なんでもないわ、楽しみにしていてね」
唯「ちょっこれ~ぇと~」
澪「バレンタイン……」
バレンタイン。すっかり忘れてた。
12月くらいまでは、試験勉強しながらもチョコレートのことを考えてたのに。
今年こそは律にチョコレートを渡して。
こ、こく……告白を、しようと思ってたのに!
律「で、ムギがさぁ。って聞いてるか澪?」
ずーっと抱えてた想いを伝えようとした高校1年のバレンタイン。
今まで手作りチョコなんて渡したことがなかったのに、初めて挑戦したんだっけ。
黒くて不味そうな塊が出来上がった。
結局渡せなかったんだよな。
市販品を買って、いつも通りのバレンタインを過ごした。
塊は自分で食べた。
胃が爆発した。
そのまま5日間、ご飯を食べることが出来なくて、みんなに心配されたっけ。
律「澪?」
高2のバレンタインは、練習を重ねた手作りチョコを作って渡した。
律みたいに料理得意じゃないし、ましてお菓子作りなんて初めてみたいなものだったから、全然綺麗にできなかった。
でも深夜まですっごい時間かけて作ったんだ。
それで、とうとう告白したんだよな、好きだって。
『そうか。私も好きだぞ』の一言で流されてしまった。
超絶鈍感カチューシャな律にはもっと分かりやすーーーーく伝えないとだめだ。
律「澪、聞いてるのかー?」
分かりやすく。
愛してる、とかじゃまたスルーされる気がする。
あんな恥ずかしい思いはもうイヤだ。
うわぁああああ、思い出しただけで頭がフットーしそうだ。
ずっと一緒にいたい……だめだ。
二人で オシドリさんみたいになろうよ……微妙。かわいくない。
律とキスしたい……キ、キス……は、恥ずかしいっ><
律「み~おちゅぁ~ん?」
澪「うわぁああ。なんだよ律、そんなに顔近づけなくても聞こえるって」
律「聞こえてなかっただろ。どうしたんだよ、澪も唯みたいに腑抜けちまったのかぁ?」
澪「そんなんじゃないよ。ただ……」
律「ただ?」
澪「……」
律「どうした。なんかおかしいぞ、澪」
澪「なんでもない!! もう……バカ律!カチューシャ!おかしくねーし!!」
また素直になれなかった。
もっと甘えたいのに、なんでこうなっちゃうんだろ。
『なんでもない!! もう……バカ律!カチューシャ!おかしくねーし!!』
だって。
カチューシャって悪口なのか?
あの反応はきっと明日のバレンタインのことを考えていたんだろうな。
バレンタインか。
今までは市販品だったのに、去年のは……手作り、だよな。
なんかいびつな形してたし。
よく言えば俵型。
悪く言えば、うんk……汚いことを考えるのは止めておこう。
『わ、私。律のこと、す、すす、好きなんだ!』
『そうかー、私も好きだぞー』
照れてる澪は可愛かったなぁ。
びっくりして、私も好きだぞーとか適当な感じで言っちゃったけど。
あの時の言葉は……
そんなわけないか。
そういえばずっと、バレンタインに澪から貰って、ホワイトデーに私が返すって感じだったな。
バレンタインに私から手作りチョコなんか渡しちゃったら、澪はどんな顔するだろ。
なんてな。唯あたりに言ったら爆笑されそうだ。
『えー、りっちゃんが手作りチョコ?そんなのりっちゃんじゃないよー!』とかな。
……なんだか、想像したらムカついてきた。
私がバレンタインに手作りチョコか。
おかしーし。
『梓ちゃんもお姉ちゃんとキスしたりしたいでしょ?』
あれは梓をからかう憂の冗談だったんだろうか。
でもかなり目が本気だった。
それに憂の異常なお姉ちゃん好き。ありえない話じゃない気もする。
梓が騒いだせいで、なんか曖昧なまま話流れちゃったし。
『とっておきの作っちゃおうかなぁ』
姉妹でキス。
アリか。いや無いだろ。
そもそも女の子同士って。
振り向いてもらう為に、特別なチョコレートを作る。
好きな人……か。
純「私も、私にもできるかな」
チーン!
あ、ケーキ焼けた。
【2/13 17:45 平沢憂】
チョコケーキの飾り付けに使う粉砂糖がなかったので、梓ちゃんとお買い物に来ました。
純ちゃんは家でお留守番です。
梓「ねぇ、憂。今朝言ってたのってさ」
憂「今朝?」
梓「その、唯先輩に、唯先輩と……き、キスしたいって」
憂「ホントだよ。お姉ちゃん、か~わいいんだもんっ!」
もう。梓ちゃんってば可愛いなぁ。
もっと正直になればいいのに。
梓「恋人になりたいってことはさ。憂はその、唯先輩に、こ、告白、したりするの?」
憂「梓ちゃんが告白しないっていうなら、私がしちゃおっかなぁ。お姉ちゃん大学行っちゃったら、あんまり会えなくなるかもだし」
なんてね。
梓「あんまり会えなく……そっか」
憂「どうしたの?」
梓「ううん。なんでもない」
バレンタインにチョコレートなんて、ちょっと私らしくないわね。
真面目な生徒会長はバレンタインごときで浮つかない、ってみんな思ってるんでしょうね。
まさかダメで元々の国立大学の推薦入試に受かるとは思わなかったし。
ちょっとくらい自分へのご褒美があってもいいわよね。
高校最後のバレンタイン。
最後にちょっと甘い思い出を残しておくのも悪くない、かな。
大通り沿いにあるスーパーは、バレンタインフェアーで賑わっていた。
カカオのいい香り。
みんな甘いものが好きなのね。
和「クーベルチュール……ヴァローナチョコレートか。ちょっとビターなチョコの方が口に合うかしら」
ちょっとほろ苦いチョコがあの人のイメージに合う。
きっと本人は甘いやつがお好みなんだろうけど。
なんてことを考えながら、チョコレートを物色していると、
憂と軽音部の中野梓ちゃんが話しているのを偶然聞いてしまいました。
梓「ねぇ、憂。今朝言ってたのってさ。その、唯先輩に、唯先輩と……き、キスしたいって」
憂「ホントだよ。お姉ちゃん、か~わいいんだもんっ!」
仲がいいのは昔からだけど、ちょっと過剰じゃないかしら。
梓「恋人になりたいってことはさ。憂はその、唯先輩に、こ、告白、したりするの?」
憂「梓ちゃんが告白しないっていうなら、私がしちゃおっかなぁ。お姉ちゃん大学行っちゃったら、あんまり会えなくなるかもだし」
姉の親友として、私は憂にどんな言葉を掛ければいいのでしょうか。
【2/13 18:15 中野梓】
なんだかよく分からなくなっちゃった。
どうしよう。
こんなとき相談できるのって……
試験終わったばっかりなのに、電話したら迷惑かな。
でも明日だし。
ピッ、プルルルルルル――
??『はい、もしもし』
梓「あの、ムギ先輩ですか?ちょっと相談があるんですけど」
梓『それじゃ。こんな時間にすいませんでした』
紬「いいのよ。また明日ね」ピッ
うふふふふふふふふふふふふ。
カンペキ。カンペキよ!
あ、カンペキすぎて鼻血出てきちゃった。
嫌だわ私ったら。輸血、輸血っと。
プスッ
あぁん。血が!血が足りないのぉおおおおお。
あら、鼻血の出過ぎでベッドが血の海だわ。
また斉藤に取り換えてもらわなきゃ。
まぁいいわ。
明日は待ちに待ったXデーだもの。
1年掛けてこの日のために種を蒔いて、水をやってきた甲斐があったわ。
カメラ176台、中継衛星の準備もばっちりだし。
最新鋭の録画設備も整えた。
私って天才かも!
【2/13 18:26 琴吹家執事・斉藤】
今日のお嬢様はいつになく嬉しそうで何よりでございます。
試験が全て終わられたから。
いえ、明日のバレンタインデーのことに心躍らせていらっしゃるのでしょうね。
紬お嬢様の願いとあらば、他人の家に侵入して隠しカメラを設置することも、極秘裏に中継衛星を載せたロケットを発射することも、造作もないことです。
それにしても、バレンタインデー。
実に甘美な響きでございます。
恋人たちのフェスティバル。
婚姻を禁止されていたローマ帝国で、秘密裏に兵士を結婚させていた司祭・聖ヴァレンティヌス。
彼が処刑されたルペルカリア祭の前日。
不思議と胸弾む心持ちになるのは何故でございましょうか。
お嬢様の晴れやかな表情を拝見させて頂いたから。
それとも。
【2/13 18:40 中野梓】
卒業しちゃったら先輩たちと今みたいに会えなくなる。
私は受験生だし、先輩だって授業にバイトに、もしかしたら新しいバンドで活動するかも。
まして、放課後ティータイムがみんな揃う機会なんて。
卒業しちゃったら。
唯先輩とも。
梓「……やってやるです!」
チョコケーキは先輩たちへのプレゼント。
なにか特別な、いいのないかなぁ。
パラパラ
梓「トリュフ……チョコレート?」
最終更新:2010年09月16日 23:18