店員(いやいやいや、ゴリラはおかしいだろ、ゴリラは)

店員(だってゴリラだぞ……仕方ない、北斗さんの知り合いとは言え、ここはビシッと……)

店員「あ、あの、北斗さん?」

北斗「む?」

店員「ほ、他の方はいいんですけどね……あの、ゴリラみたいな方だけはちょっと……」

北斗「……」

店員「お店を壊されちゃったりでもしたら、万が一と言う事もありますし」

神山「あの、ちょっといいですか?」

店員「は、はい?」

神山「先ほどから聞いていると、あのゴリラがこの楽器店にいるのは好ましくない、と」

店員「え、ええまあ……」

神山「それは偏見という物です。少なくとも、あのゴリラには音楽を理解し愛する……心があります」

店員「心……」

神山「見てて下さい」

ゴリラ「……」スッ

店員「ち、ちょっと。売り物のドラムとスティックを勝手に!」

北斗「いいから、そこで見ていろ」

ゴリラ「……」カッ カッ カッ カッ

ダダダン ダダダン

店員「こ、これは……」

ジャーン ダン ダン ダダダン

店員(す、すごい。ゴリラらしい力強い音楽……それでいてどこか繊細さが溢れるような……)

店員「この安定感はセミプロ……いや、プロでも滅多にいませんよ!」

神山「これが、僕たちのドラマーのゴリラです。これでもまだ、ゴリラはこの店に不要ですか?」

店員「……いえ、僕が間違っていました。こんなに素晴らしい音を聞けるなんて」

神山「店員さん……」

店員「良いものを聞かせてもらえました。ありがとうございます」

北斗「礼ならゴリラに言うがよい」

店員「そうですね。あんなに気持ちいい音を出してもらえて、ドラムだってさぞかしいい気分で……」クルッ

林田「こ、こらゴリ。それはバナナじゃないぞ」

ゴリラ「ンゴ?」シャグ シャグ

前田「昼飯食べてなかったからなあ」

神山「あ、スティックがかじられてる」

店員「……」


店の裏

店員「音楽って難しいなぁ……」

あんたで二人目。


店員「だーかーらー、ゴリラはやっぱりダメですってば!」

北斗「先ほどはあんなに感動していたではないか」

店員「スティック食べられたら感動もなにもありませんよ、全く……」

客「おおい、ちょっとこれを弾いてみたいんだけど」

店員「あ、は~いただいま伺います」

店員「と、とにかく、あのゴリラは店の外に出して下さい! いいですね!」

ゴリラ「……!」ビクッ

ゴリラ「……」スタスタ

神山「あっ、ゴリ」

林田「お、おい待てよゴリ」

子分「ああ、行っちまった」

北斗「まあいい。店の外で待っているだろう」

店員「……」

客「おお~い」

店員「は、は~いただいま!」

店員「……で、こちらのキーボードにはマルチエフェクターが付いていまして」チラッ

神山「このギターカッコいいなあ」

北斗「神山はギター……ストラトか」

神山「まだちょっと迷っているんだけどね」

店員(さっきはちょっと言い過ぎたかなあ……スティックさえかじらなければ、いい人だったかもしれないし)


前田「なあ、このギターの形で何が変わるんだ?」

林田「雰囲気だよ雰囲気。作りは同じなんだからよ」

フレディ「……」

店員(ハァ……どうしよう)

ジャーン

店員(?)

ギュイーン

店員(な、なんだこの力強いギターは)

客「おいキミぃ、エフェクターがなんだって?」

店員「あ、は、はい……」

ジャジャ ギュゥーン

店員(この……まさにロックな……これは、シアハートアタックの……)

店員(ま、まさかさっきの外人さんが?)

客「ああ、ありがとう。また後で見に来るよ」

店員「あ、はい」

店員(い、一体誰が!)クルッ

林田「うおー、お前ギターまで弾けるのかよ」

子分「曲名とか全然わかんねえけどスゲーな」

ゴリラ「……」ギュ ギュ ジュィーヤ

店員「……」


店の裏

店員「どこ行ってたんだよ……」

トイレだってさ。





デストラーデ工業

山口(チッ、最近は猫も杓子もけいおん、けいおん……)

石川「でよ~、あずにゃんがよ~、こう……」

山口「……」

山口(なあにがあずにゃん、だ。お前高校にもなって何をニャンニャン言ってやがる)

石川「なあ、山口。お前もけいおん知ってるだろ!」

山口「……知らねえ、アバヨ」

ガラガラッ

生徒「山口って硬派だよなあ」

生徒「けいおんなんて全然興味ねえんだろうな」

山口「……」

山口(石川よお、同じ年下なら……やっぱり憂ちゃんだろうよ)

山口(いや、そんな事をあいつに語っても仕方ねえか。けいおんは派閥争いが只でさえ激しいんだ)

山口(そこで誰がいい、こいつの魅力はこうだ、なんて言っても火に油……)

山口(大体、憂ちゃんがいなきゃあ主人公の唯は何もできねえ……いや、現実的に考えてできるんだろうけどよお)

山口(あえて、姉には何もさせない事で憂ちゃんのしっかり具合が目立つ……古典的だが、俺はそうしっかり見せるキャラに弱い)

山口(泣かせるじゃねえか……U&I、なんてよ)

山口(でよ……恥ずかしい話、俺はけいおんに影響されて楽器を買ってしまった)

山口(ギター……レスポールだ。コツコツ練習してそこそこ弾けるようにはなっている)

山口(だが、最近一人で弾いていても、どこか虚しい。石川も何か影響で楽器を始めたりしてないだろうか?)

山口(きっかけはちょっと恥ずかしいかもしれねえが、話してみる価値はある……)



次の日

山口「なあ、石川よ。その……ちょっと、けいおんについて聞きたいんだけどよ」

石川「え? ど、どうしたんだよ山口……」

山口「……」

石川「え、えっとだな。けいおんって言うのは女子高に通うメンバーが音楽を通して……」

山口(違う、そんな事を聞きたいんじゃねえ)

山口「なんでも、楽器を使うらしいじゃねえか?」

石川「あ、ああ。メンバーが使っているのと同じ楽器が飛ぶように売れたって話だ」

山口「ほう……当然、お前も買ったんだろうな?」

石川「あ、ああ。でもよ……けいおんがきっかけで楽器を買ったなんて恥ずかしくてよ……」

山口「……いいんじゃねえか、別によ」

生徒「お、おいあの山口が……」

山口「いいじゃねえか。きっかけはけいおんです、好きなら堂々としていろや」

石川「や、山口……」

山口「……なあ、石川よ。その気持ちはちょっと俺にもわかるぜ。その、胸が燃えるような衝動って言うかな」

石川「わ、わかってくれるのか?」

山口「おうよ、好きならそれでいいじゃねえか。実は俺も……ちょっと買っちまったもんがあってな」

石川「や、山口もか!」

山口「ああ、俺のこの……」スッ

山口(石川を誘って正解だったな。あいつの反応……本物だ)

石川「じ、実は……ほら、見てくれよ山口。このタクアン!」

石川「不思議だよなあ、けいおん見てから何かタクアンが食べたくて食べたくて……なんでだろうな」

石川「いやあ、けいおんってホントにすげえよな」ポリ ポリ


山口「……」


ベンチ

山口「お前のがすげえよ……」

楽器→タクアン。



……

神山「楽器は買えなかったけど、いい勉強にはなったね」

林田「やっぱり本物は違ったよな」

フレディ「……」

ゴリラ「……」

子分「お前ら、楽器はどうするんだよ」

林田「どうするも何も、ポンと買える値段じゃないからな」

北斗「ううむ。ベースなら二本余っているが……」

前田「そうなのか?」

北斗「うむ、澪と同じではないが……一応ある」

林田「でもよお、ベース二人って多いんじゃねえの?」

神山「そうなのかい、北斗君?」

北斗「う、ううむ……」

ガラッ

マスクド「音楽の事なら……俺に任せな」

神山「え?」

林田「マスクド」

マスクド「さっきから聞いてれば……なんだお前ら。音楽なら一声かけてくれよ」

北斗「貴様は経験者か? 即戦力以外はお断りだ」

マスクド「フッ……」

ギュ ギュ ギュィーン

林田「マ、マイギターだ」

子分「それも、ちゃんとアンプにまで繋いでやがる」

マスクド「……この程度で驚くようじゃあ、レベルが知れるぜ」

北斗「ぐ、ぐぅ……」

林田「結構弾いてる感じだな」

マスクド「ああ、もう二十年間このギターとは一緒さ……」

前田「いや、俺たちまだ高校生なんだが……」

神山「これでギターの心配は無いね」

マスクド「で、さっきベースがどうとか言ってたが……そもそもお前ら、どういう曲がやりたいんだ?」

林田「曲?」

マスクド「ただ楽器弾いておしまい、じゃねえだろ。何か曲をみんなでだな……」

子分「……」

マスクド「おい、まさか何も考えてないんじゃないだろうな」

北斗「やりたい曲なら、ある」

マスクド「ほう……その曲は? やっぱりロックか? 思いきってパンクでも俺はいいぜ」

北斗「……ふわふわ時間、だ」

マスクド「……は?」

北斗「ええい、何度も言わせるな! ふわふわ時間だ!」

マスクド「いや……なんだよそれ」

唯『ああか~みさま、お~ねがい。ふたり~だ~け~の~♪』

マスクド「……」

唯『ふわっふわタ~ァイム♪』

北斗「どうだ、素晴らしい曲だろう」

子分「憧れますよね」

マスクド「……なあ北斗よ、これは何の冗談だ」

北斗「む?」

マスクド「俺は音楽をやるためにここにいる。それなのに、なんだこの腑抜けた曲は」

北斗「貴様、HTTを愚弄するとはいい度胸だな。そういう時は決まっていう台詞がある……『屋上』とな」

マスクド「……」

マスクド「チッ、ギターまで持ってきてバカみたいだったぜ」クルッ

北斗「ま、待て貴様。逃げるのか」

マスクド「馬鹿馬鹿しくてやってられん、じゃあな」

マスクド「お前らも、そんなガキっぽいアニメは卒業するんだな」


その夜

マスクド「チッ、あんなことがあったせいか眠れねえ」

マスクド「……テレビでも見るか」

ピッ

唯『けいおん!』

マスクド「うおっ! ……ちっ、脅かすなよ。ふん、深夜アニメか……まあ、他に見るのも無いしな」

唯『……U&I!』

ワー ワー

マスクド「フン、学園祭でバンドか。アニメにはありがちなパターンだな」

ジャーン ジャーン

マスクド「……最近のアニメは、イヤに楽器の描写にまで拘っているんだな」

唯『キミがいないとなにもできないよ』

唯『キミのご飯が食べたいよ』

マスクド「……」

唯『目を閉じれば、君の笑顔輝いている……』

マスクド「……」



次の日

マスクド「……」

北斗「む? なんだ貴様、まだ俺たちの音楽活動に文句があって……」

マスクド「北斗、俺を殴ってくれ」

北斗「む?」

マスクド「昨日、偶然けいおんを見てな……その、不覚にも感動してしまって……」

マスクド「偏見で変な事ばかりを言ってしまい、すまなかった。俺を殴ってくれ、でないと気が済まん」

北斗「……フン」クルッ

マスクド「な、なぜだ北斗。なぜ殴らない!」

北斗「けいおんを分かり合える者同士で殴って何になる。俺たちは楽器で語ればいい……違うか?」

マスクド「北斗……」

神山「そうだよ、これで僕たちは仲間だ」

マスクド「神山……」

林田「ギター、教えてくれよな」

マスクド「林田、もちろんだとも」

前田「経験者はありがたいな」

子分「全くだぜ」

フレディ「……」コク

ゴリラ「ンゴ」

北斗「よおーし! クロマティ高校新けいおん部……ファイトだ!」

全員「おおー!」

前田「……あれ、メカ沢は?」

神山「……あ、楽器屋に忘れてきちゃったみたい」


メカ沢(ドラム)『……』

店員(……どうすんだコレ)

さすがの店員も困惑気味。


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最終更新:2010年09月17日 22:03