客「このシールド下さい」

店員「あ、はい。ニ千円です……ありがとうございました~」

店員「ふぅ……」

メカ沢(ドラム)『……』

客「あ、すいません。このドラムなんですけど、値段が貼ってなくて……」

店員「あ、すいません。それ展示してるだけなんですよ~」

客「あ、そうなんですか、分かりました」

メカ沢(ドラム)『……』

店員「そろそろ閉店かなあ……」

店員「今日も一日、お疲れ様、と」

ガラガラ

店員「……って、違う!」

メカ沢(ドラム)『……』

店員「もう、なんでずっとここにいるの! ねえ、君歩いてたよね、お店入る時!」

メカ沢(ドラム)『……』

店員「あれからずっと喋らないし、でも北斗さんの連絡先も知らないし……ハァ」

店員「まあ、必要なら取りに来るよね?」

ウィィーン

店員「あ、すいません、今日はもう閉店で……」

ゴリラ「……」

店員「あ、あなたは……あの時の?」

ゴリラ「……」コクッ

店員「あっ、ドラムの方に向かって……」

ゴリラ「……」

店員「む、迎えに来たんですね。よかったあ」

ゴリラ「……」フル フル

店員「えっ、何か運ぶための台車ですか?」

ゴリラ「……」コクッ

店員「ま、待ってて下さい。店の裏から持ってきますんで……」タタタッ

店員「よかったあ、このままずっと置いておくわけにもいかないし……あのゴリラ、いいとこあるんだな」ガラガラ

店員「……やっぱりスティック食べなければいい人なんだな、うん」

店員「スティックの弁償も考えていたけど……もういいや、へへっ」ガラガラ


店員「お待たせしました! こちら台車になりま……」

メカ沢(ボロボロ)『……』

店員「……」


店の裏

店員「あいつ何しにここまで来たんだよ……」

そして誰もいなかった。




次の日

神山「あのおすいません。ここにメカ沢君はいるでしょうか」

店員「あ、クロマティ高校の……」

林田「ん、神山。あれじゃないか?」

メカ沢(ボロボロ)『……』

神山「これはひどい。あちこちにかじられた痕があるよ」

店員「い、いやあ。お宅のゴリラがね……昨日どうやら噛んじゃったみたいでして」

林田「ああ、またゴリラか」

神山「ま、何にしても……こうしてまた会えて嬉しいよメカ沢君」

ドラム『』

店員「あ、あの。それは普通のドラムなんですけど……」

林田「ははっ、神山。間違えるなんてらしくないぞ。な、メカ沢も笑ってやれよ」

トランペット『』

店員「いや、それも違いますし……ていうか、形も全然……」

神山「林田君、ふざけてないで。早くメカ沢君を連れて帰ろうよ」

ドラム『』

店員「だから、違うって言ってるでしょうが! ワザとやってるんですか!」

客「すいません~、レジお願いします」

店員「……とにかく、台車がありますから、早く連れて帰って下さいね」

神山「はい」


……

店員「ありがとうございました~」

店員「フゥ……さて、あのドラムが無くなって空いたスペースは、と」

メカ沢(ギター)「……」

店員「……」


店の裏

店員「ギターって何だよ……」

一体何があった。




北斗「……で、結局この新型ドラムを持ってきたわけか」

神山「はい」

子分「いや、普通に犯罪だろ……」

林田「こ、このトランペット音が出ねえんだけど……」

前田「林田は放っておくとして、メカ沢は結局どうするんだよ」

神山「彼なら大丈夫でしょう。楽器としてたくましく強く生きていけるはずです」

前田「お前ってたまにひどいよな……」

北斗「しかし、これで大体楽器の担当も決まってきたな」

マスクド「……どういう振り分けなんだ」

北斗「うむ。まず俺がボーカル兼キーボードだ」

マスクド「……まあ、まずは聞こう。他は?」

北斗「以上だ」

マスクド「は?」

北斗「俺の担当はもう決まっている。あとはお前たちが好きにやればいい」

マスクド「……そいつは賛成できねえな。なあ北斗よ、そもそもバンドをやるからにはよ……皆を引っ張るリーダーがいるんじゃないのか?」

北斗「リーダーだと? それはもちろんこの俺こそがリーダーに」

マスクド「音楽の知識も無いのに、リーダーシップなんてはれるのかよ?」

北斗「無論だ。俺は帝王学を学んでいるからな、この程度のリーダーなど……」

マスクド「なあ、お前はよ。リーダーなんて簡単だと思ってやしないか?」

北斗「何だと?」

マスクド「確かに、けいおんを見てりゃあリーダーなんて名前ばかり……りっちゃんもそんなにリーダーらしい働きはしてないように見えるかもしれねえ」

マスクド「でもよ、実際は練習の描写が省かれているだけであって……相当な練習をしないとあんな演奏はできないぜ」

北斗「む」

マスクド「もちろんアニメだからって部分はある。だがな……楽器をやるからには、練習しないと上手くはならない」

マスクド「その練習を効率よく運ぶ事、それがお前に出来るのか?」

北斗「うぬぬ、言わせておけば……」

神山「……あの。ちょっといいでしょうか」

マスクド「神山か」

神山「実は、僕もずっと疑問に感じていた事があるんですけど、いい機会なのでぶちまけたいと思います」

北斗「この際だ、何でもこい」

神山「ではですね……このグループの名前はどうするんですか?」

マスクド「なるほど、名前か」

神山「放課後ティータイム、のような気のきいた名前があればやる気も変わると思うんですけど」

北斗「ううむ、その辺りも話さねばならないな。よし、今日はこのまま会議だ」

マスクド「俺たちの将来のためだ。トコトン話し合おうぜ」

神山「では、まずこのグループの名前から。何か意見のある人はいますか?」

前田「なんでお前が仕切ってるんだよ……」

神山「そこ、私語は止めて下さい」

北斗「やはり、俺たちだとアピールできる名前がいいだろうな」

神山「そもそも、グループには色んな名前があります」

神山「ただ単語だけのグループもあれば、例えば名前の頭文字を並べていたりとか……言葉遊びになっているモノとか」

北斗「頭文字か」

神山「僕たちの頭文字は『KKMMMHFG』になりますね」

前田「偏ってるな」

神山「これは却下ですね」

北斗「ではこういうのはどうだ。『北斗と愉快な仲間達』だ」

神山「ええと、他に何か意見がある人はいませんか」

北斗「ぐぬっ、無視とはいい度胸だ」

林田「……なあ、彼女たちはよく放課後にお茶を飲んでたから『放課後ティータイム』なんだろ」

子分「まあ、さわちゃんが勝手に決めた名前だけどな」

北斗「それがどうしたと言うのだ?」

林田「じゃあよ、俺たちのよくやっている行動を名前にすれば分かりやすいんじゃないか?」

マスクド「なるほど、似た感じにはなるかもしれんがかえって覚えやすいかもしれん」

神山「では、意見をお願いします」

北斗「本家が『放課後』と時を示す言葉なのだから俺たちも当然……」

前田「でも最近は一日こうやって音楽の事を話しているよな」

マスクド「じゃあ……『丸一日音楽タイム』か?」

林田「それはさすがにダサくねえか?」

神山「ううむ、響きも考えるとなると難しいね」

ゴリラ「……」サラサラ

フレディ「……」サラサラ

神山「んっ、二人とも何を書いているんだい?」

ゴリラ・フレディ「……」スッ
神山「これは……バンドの名前? なになに……『青春クロマティー』に『クイーン』?」


マスクド「へえ、二人とも意外とセンスあるじゃねえか。俺の意見より全然マトモだぜ」

前田「どっちか一つか」

北斗「ふむ、他に意見がなければその二つのうちの……どちらかに決定だ」

……。

神山「では多数決をとります」

神山「名前は青春クロマティー、がいい人は挙手をお願いします」

……ススッ。

神山「ん、全員挙手かい?」

林田「ああ、なんかクロマティの汚ならしいイメージを拭ってくれるような……そんな感じがしてな」

北斗「うむ。学生の時は少しくらい恥ずかしいので丁度いい」

子分「雰囲気も放課後ティータイムに似てますしね」

前田「て言うかクイーンんてよ……」

神山「では、僕たちのグループ名は『青春クロマティー』に決まりました。意見を出してくれたのは……えっと?」

フレディ「……」スッ

神山「では、フレディに拍手をして今日はお開きとしましょう」

パチパチ パチパチ

前田「……」


ベンチ

前田「なんだろうなあ、この気持ち……」

クイーンて書いたのゴリラかよ。




北斗「ふむ、結局あのまま解散という形になってしまったな」

子分「この後どうします?」

北斗「そうだな……楽器屋は前も行ったし、帰るか」

子分「あ、ちょっとベースとか練習したりしないんですか?」

北斗「たわけ。もう部活の時間は終わったんだ、練習の必要などあるまい」

子分(うわあ、出たよこういう性格)

北斗「まあ、何もなければこのまま帰って……」

スッ

佐田「……よう、久しぶりだな」

北斗「な……」

子分「あっ……」

北斗「お、お前は……」

北斗「……すまん、誰だっけ?」

佐田「……おいおい、俺を忘れてるのか?」

北斗「おい子分、お前はこいつを知ってるか」

子分「確か、肉屋の……」

北斗「肉、だと……」

佐田「そして北斗軍団のナンバー2……佐田だ」

子分「て、てめえ。今さら何しに来やがった!」

佐田「なあに、偶然さ。ちょっと挨拶でもと思ってな」

子分「ふざけんな! お前がノコノコと北斗さんの前に出て来られると思ってるのか!」

北斗(……こいつ、もう肉の事は気にしていないようだな)

佐田「おいおい、そんなにいきり立つなよ」

子分「うるせえ! さっさとここから去りやがれ!」

佐田「……ん、お前が背負っているの、もしかしてギターか?」

子分「それがどうしたってんだ!」

佐田「……いや、じつは最近俺も楽器を始めてな。ちょっと気になっただけさ」

北斗「ほう……」

佐田「恥ずかしい話、漫画がきっかけでよ……まあ、身内でちょくちょく練習とかもしてるわけよ」

北斗「佐田よ、それはもしやけいおんという漫画では無いのか?」

佐田「……さすがだな。当たりだ」

北斗「ふっ、当然だ」

北斗(佐田もけいおんに影響されて楽器を始めていたのか……案外、この話題で俺たちの溝は埋まるのかもしれん)

北斗「佐田よ。今時間はあるか? よければそこのファミレスでけいおん談義をだな……」

子分「北斗さん!」

北斗「むっ?」

子分「こんな奴とけいおんを語る事なんてないですよ! 身内で練習してるって言ってもどうせ雑談だけに決まってます!」

佐田「いやあ、今度小さなライブハウスで歌うんだよ、よければ北斗も暇潰しに来てくれよ」

北斗(むう、敵対している俺でさえ誘うか……やはり佐田は大した奴だ)

子分「へっ、死んでもお前とは語り合う口は持たねえからな!」

北斗(それに比べてこいつは……なんと小さい)

北斗(……まあ、肉に釣られる事が無くなっただけマシか)

佐田「あ、そうだ。そのライブでちょっとだけ臨時収入が入るんだ……っても本当に雀の涙程度だけどな」

北斗「ほう、金が取れるなら大したモノじゃないか」

佐田「ま、はっきり言って使い道もねえんだ。どうだい、これから飯でもいかねえか? 勿論俺が奢るぜ」

北斗「佐田……見上げた奴だ」

佐田「ついでに、けいおんや音楽の話でもしながら、よ」

子分「だーかーら! 俺たちは行かねえってんだろうが! 何がけいおんを語ろうだ、ふざけんな!」

佐田「……落ち着けよ。バンドのメンバーがやっている焼肉屋があるんだ。どうだ、そこで話さないか?」

子分「えっ」


焼肉屋

子分「あ、すいません、カルビ五人前追加で」

店員「はっはっはっ、じゃんじゃん食いねえ食いねえ」

北斗「……」


トイレ

北斗「結局肉じゃねえか……」

肉>>>>けいおん


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最終更新:2010年09月17日 22:06