林田「合宿に行きたい」
神山「え?」
林田「いや、部活には夏の強化合宿が付き物だと思ってな。けいおん部で何か合宿ができればいいな、と」
北斗「ふうむ……確かに」
前田「でもよ、そのためにはちゃんと計画を立てないと意義のある合宿にはならねえんじゃねえか?」
神山「それならみんなで考えればいいじゃないか。僕たちは青春クロマティーなんだから」
ゴリラ「ンゴ」
フレディ「……」
北斗「よし、では今日の放課後は合宿について話し合う事にしよう」
神山「えー、では何か意見のある人」
子分「やっぱりけいおんみたく、別荘を借りて練習したいと思うんだけどよ」
前田「別荘か……」
林田「待て待て。とりあえず山に行くか海に行くかを決めようぜ?」
子分「いや、なんで山か海なんだよ」
林田「夏の合宿やキャンプと言えばどっちかだろ。まあ、今行き先が決まれば随分場所を絞れると思うんだがな」
北斗「うむ。俺たちには別荘を提供してくれる金持ちのお嬢様などいないからな」
神山「……」
神山「あの、金持ちで思い出したんですけど」
北斗「む?」
神山「確か北斗君の家ってお金持ちだった気がするんだけれども」
林田「……そういや、何度か北斗の家には行ったが結構豪華だったな。執事までいたし」
神山「それくらいの家なら、別荘の一つや二つは持っているんじゃないかい?」
北斗「確かに、俺は貴様らの家庭よりは数倍、いや数十倍の資産があるだろう」
北斗「もちろん別荘もいくつか持ってはいるが……音楽の練習には使えない」
林田「ん? どうしてだよ」
北斗「周りに他の別荘が密集しているのだ。この時期なら、避暑地にある別荘は大体埋まる」
北斗「いくら開放的とは言え、日中の騒音は許してくれまい」
林田「そんなに人がいるのかよ?」
北斗「まあ、音楽をやる別荘で無いと言うのは確かだな」
神山「……」
神山「あの、ちょっといいですか?」
北斗「む?」
神山「確かに音楽も大事ですけど、僕たちは何のために合宿に行くんでしょうか」
前田「いや、だから楽器の練習のためだろ」
神山「いえ、僕はここにいるみんな……青春クロマティーで同じ時間を過ごす事に価値があると思うんです」
林田「……」
神山「楽器が使えない? それでも、音楽について友と語る事はできます。むしろ練習なんて、放課後いつでも学校でできるじゃないですか」
北斗「……」
神山「大事なのは、やはりみんなで思い出を残せる事にあると思うんですが」
北斗「……ちょっと待っていろ」ピッ
北斗『あ、うむ。北斗だが……あの別荘を……うむ』
ピッ
神山「北斗君?」
北斗「……合宿の場所が決まった。俺の別荘を使ってくれて構わない」
林田「お前……」
北斗「うむ。思い出を残せれば……確かに、楽器だけにこだわるのは良くないかもしれんな」
前田「……」
北斗「けいおん、で音楽をやっているシーンが少ないのは、こういう意味も込めての事かもしれんな」
林田「へへっ、お前らがいればいいってか。ちょっと恥ずかしいセリフだけど……それが青春クロマティーだもんな」
北斗「そういう事だ。では、合宿の日には遅刻するな……以上で今日は解散だ!」
全員「おおー!」
ベンチ
前田「こだわらないでどうすんだよ……」
旅行って計画立ててる時が一番楽しいよね。
バス停
北斗「よし、ここからは歩きだ」
林田「ふう、楽器を背負いながら移動するのは辛いな」
神山「一応けいおん部だからね。とりあえずは持っていないと」
子分「でも森林に囲まれているから空気は最高だぜ!」
ゴリラ「ンゴ! ンゴ」
神山「ははっ、ゴリラも合宿だからはしゃいでるんだな」ポンッ
フレディ「……」
北斗「別荘までは、ここから20分も歩けば着くはずだ」
前田「……なあ、別荘までの道のりは?」
北斗「ん。ここを真っ直ぐいけばいいだけだが?」
前田「そう、か」
ザッ ザッ
前田(いつぞやの時は森で迷子になって遭難した事もあったが……)
前田(さすがに一本道ならいくら俺たちでも迷う事はないだろう)
前田(とりあえず、着いたらゆっくりしてえ……どうせこいつらは練習する気なんか無いだろうからな)
……。
20分後。
林田「なあ、なんか道がデコボコで進みづらいぞ。木だって多くてよく前が見えねえし」
北斗「……ここは一体どこだ」
前田(……)
前田(普通に迷っている……)
神山「この辺りに別荘があるのかい?」
北斗「……いや、こんな場所は知らん」
林田「ああ? また俺たち遭難したのかよ!」
北斗「ええい、騒ぐな。所詮は別荘地周辺の森だ。来た道を戻ればそれらしい家や道が見えてくるはずだ!」
前田(……)
更に20分後。
北斗「……迷った」
林田「やっぱりかよ! 畜生、また俺たち遭難しちまったじゃねえか!」
神山「林田君、落ち着いて」ポンッ
林田「神山……」
神山「確かに僕たちは一度遭難している。だけど言い返せば経験がある……」
林田「……そうだな、確かに。俺たちのサバイバルテクがあれば、今だって大丈夫なはずだよな」
前田(いや、遭難の経験値なんて欲しくねえだろ……)
北斗「うむ、みんなで協力すればこんな森など怖くあるまい」
ゴリラ「ンゴ」
フレディ「……」
子分「でも北斗さん。もう大分森は暗くなってきてますけど……」
北斗「むう、こう足場が悪くては歩き回っても危険か。よし、今日はここで野宿だ」
林田「まあ、野宿でも、一晩くらいなら余裕だよな」
北斗「うむ。では完全に暗くなる前に火をおこす準備と寝床の確保、そして最後に持ち物の確認だ」
全員「おー!」
……。
北斗「さて、火はおこした。寝床も作った。最後に全員の持ち物を確認していく」
林田「まあ、サバイバルでは常識だよな」
北斗「うむ、ではまず前田からだ」
前田「お、俺? 俺はこのリュックに……チョコとビスケットだけだ。正直、荷物はほとんどねえよ」
北斗「うむ。食料があるのはありがたい。では次に神山だ」
神山「僕は、このギターとアンプです」ドンッ
北斗「……で?」
神山「以上です」
北斗「他の荷物はどうした?」
神山「僕はけいおん部です。これがあれば他には何もいりません」
北斗「言ってる事は立派だが……まあいい、次は林田だ」
林田「俺はこのアンプだ」ドンッ
北斗「……」
北斗「他は?」
林田「これだけだ」
北斗「なっ、貴様……!」
林田「俺も神山と同じ考えだ。この楽器がありゃあ、俺は他に何もいらねえ……これは音楽の合宿なんだからよ」
子分「だから、アンプは楽器じゃねえって言ってんだろ!」
北斗「そういう貴様はけいおんのブルーレイディスクしか持ってきていないではないか……」
林田「肝心の北斗はどうなんだよ?」
北斗「俺の荷物は宅急便で別荘に送ってあるので、何も無い」
神山「残るはフレディとゴリラか……」
フレディ「……」スッ
神山「ん、これは……タクアンかい?」
フレディ「……」コクッ
北斗「よし、これで食料が増えたな」
前田「いや、タクアンのみってのもおかしいだろ……」
北斗「では最後にゴリラだ。貴様は何か食料を……」
ゴリラ「……」ドッチャリ
林田「リュック一杯のバナナと……おい、缶詰めやお菓子もあるぜ」
ゴリラ「ンゴ」
前田「これだけあれば三日は何とかなりそうだぜ」
フレディ「……」コクッ
北斗「でかしたぞゴリ。この件が落ち着いたら貴様は我が青春クロマティーの副部長にしてやろう」
ゴリラ「ンゴ」
神山「おめでとうゴリ」パチパチ
林田「おめでとう」パチパチ
前田「もう、ツッコム気も起きん……」
北斗「よし! ではこの食料を大事に……」
ゴリラ「……」ツン ツン
神山「えっ、まだ荷物があるのかい?」
ゴリラ「……」コクッ
北斗「さすがは副部長になっただけの男だ。そこまで準備がいいとは……やるな」
ゴリラ「……」ガサゴソ
ゴリラ「ンゴ」スイッ
唯『唯のギターだよっ♪』
北斗 神山 林田「……」
森の外れ
北斗「等身大ポップはいらねえだろ……」
林田「どうやって持ってきたんだアレ……」
唯(等身大ポップ)樹海デビュー!
北斗「……まあ、とにかく。これでやる事は終わったわけだ」
林田「状況は最悪だがよ、こうして火を囲みながらの野宿もなんだか……ちょっといいかもな」
神山「そうだね。なんだか青春って感じがするよね」
子分「へへっ、少し恥ずかしいけどな」
フレディ「……」コクッ
ゴリラ「ンゴ」
唯『唯のギターだよっ♪』
北斗「……ではついでた。今夜はここでミーティング、けいおん談義といかないか」
子分「さんせい~! じゃあテーマは唯の可愛さについて話しましょうよ!」
北斗「いや、記念すべき第一回目のテーマには紬こそが相応しいだろう」
前田「いや、やっぱりリーダーの律がだな……」
神山「もっと広いテーマで話すのがいいんじゃないですか?」
北斗「む、どういう事だ神山」
神山「例えばそう、憂ちゃんがあんなに姉を甘やかしている理由とかを議論するのはどうでしょう」
林田「議論っつてもよ。そんな事話してなんか意味あるのかよ?」
子分「それによ、そういう情報は本編で小出しに語られるからいいんだろ!」
神山「……与えられた情報だけで満足なんですか?」
子分「うっ……」
神山「なにも僕は、そこまで本格的に討論をするつもりはありません」
神山「ただ、あんな事があったからかな、とか……唯と憂の生い立ちをちょっと想像して話に華を咲かせたいだけです」
全員「……」
林田「……確かに、そういうのも面白いのかもしれねえな」
子分「まあ、語るだけならタダだしな」
北斗「うむ、では今夜のテーマは主に、唯と憂の性格について話し合いをしよう」
子分「はいはい! 唯ちゃんと憂ちゃんはもう昔からずっと仲が良くて、そのまま現在に至ってると思うんだ!」
神山「昔から?」
子分「だってよ、あんなに仲がいいんだ。ありゃあ筋金入りだろ」
神山「つまり、君は彼女たちは一切喧嘩もせず、ここまで育ったと言いたいのかい?」
子分「いや、そこまでは言わないけどよ……でもあれだけ仲が良いんだ。よほど順風満帆な姉妹関係を……」
林田「ふっ、人間ってのはそんなに甘いもんじゃねえ。幼い頃に紆余曲折したからこそ、今の彼女たちがあるんだと思うぜ?」
北斗「俺もそう思う」
子分「紆余曲折?」
林田「例えば、唯が憂ちゃんのオヤツを横取りしたり、お姉ちゃん風を吹かせてオカズをたくさんもらったり……機会はいくらでもあったはずだ」
神山「小さい頃は、やはり姉としての力が強いんだろうね」
林田「そう、最初は憂ちゃんは姉のワガママにそうとう腹をたてたはずだ。しかし、唯だって年齢的にはそう変わらない、いきなり出来たお姉ちゃんにはなれやしない」
北斗「うむ。いまだになれてはいないしな」
林田「ある日、憂ちゃんは気付くんだ。私がしっかりしないとダメなんだ……ってな」
前田「……」
林田「つまり、姉は結果的に生きる上での厳しさを教えてくれた、ってわけよ」
神山「なるほど、いつまでも甘えてばかりはいられない、と感じたんだろうね」
子分「でもよ~、だったら性格があまり変わっていないであろう、唯ちゃんの方はどうなんだよ」
林田「少なくとも、高校生の間はあのままだろうな。受験で少しは変わるかもしれないが……まだ妹に頼る部分も大きいはずだ」
前田「……まあ、キャラの過去なんてどうでもいいよな。所詮漫画なんだしよ」
神山「前田君、それは違うと思うよ。いくらほのぼの漫画だからって、キャラがいる以上は多少の設定……もとい歴史は必要だと思うんだ」
神山「例えば。君はりっちゃんがカチューシャをしたキッカケを知ってるかい」
前田「……澪が笑顔になってくれたから……ハッ」
神山「そういう事だよ。それによって律と澪の絆が時間の流れとアイテムを使う事によって表現されている」
前田「そうか……確かに、キャラである以上いらない設定なんていうのは無いのかもしれねえな」
前田「そうだな、昔色々あって今そこにいる。その昔を全部知りたいのは、確かにファンの心理かもしれねえ」
前田「たとえそれが漫画であっても……いや、漫画だからこそ、そういう情報は大事なんだろうな。改めてそれがわかった気がするよ」
神山「前田君……」
北斗「うむ。それがわかっただけでも今夜の収穫だ。これで青春クロマティーの絆はまた深まったわけだ」
前田「ああ、そんな気がするよ」
子分「昔に何があっても、今が可愛けりゃそれでいいんだ!」
林田「おうよ、そこにいる理由や生い立ちなんて関係ねえ!」
北斗「本日の議論の結果は『そこにいる理由など関係ない』だや」
林田「へへっ、まとまったな」
子分「唯ちゃんもちょっと笑顔になっている気がするぜ」
唯『唯のギターだよっ♪』
北斗「よし、では本日は就寝だ!」
全員「おおー!」
フレディ「……」
ゴリラ「……」
森の外れ
フレディ「……」
ゴリラ「……」
過去は関係無いってさ!
最終更新:2010年09月17日 22:14