就寝

……。

ガサガサ……ワオーン!

北斗「む、今の遠吠えは……まさか野犬か?」

子分「け、結構近くから聞こえましたよ!」

林田「こういう時のために、さっきまでのたき火の火種は残してあるぜ」

北斗「よし、小さな枝と風で火を大きくしろ。野犬が近付けないようにするんだ」

林田「……あれ? おかしいな、あまり火が大きくならないぞ」

神山「少し枝が湿っているみたいだね。もう少し燃えやすい物から、くべてみてくれないかい?」

林田「わ、わかった。この辺の葉っぱならどうだ!」

ワオーン!

北斗「おい、さっきより声が近いぞ! 早く火を強くしろ!」

林田「んな事言ってもよ……なかなか明るくならねえから作業もしづらくて……」

ガサガサ ガサガサ

子分「な、なんか動いてるぜ!」

神山「林田君!」

林田「くっ……よし、これならどうだっ!」カサッ シュッ

ボウッ!

北斗「おおっ、一気に炎が広がったぞ」

前田「真っ昼間みてえに明るくなったな」

メラメラ


シーン。

子分「物音もしなくなったし、これで一安心だな!」

メラメラ

神山「ふぅ、それにしてもよく燃えてるね。何を入れたんだい?」

林田「夢中で手を伸ばしてよ、適当にその辺の物を入れたんだが……いやあ、よく燃えてくれてるな」

神山「そうなんだ」

北斗「しかし、よくやったな、林田よ」

林田「へへっ、照れるぜ」

メラメラ メラメラ

前田「……しかし、この燃え方は異常じゃねえか? なんか火柱が人の身長くらいあるし」

子分「ははっ、怖い事言うなよ。人間が燃えてるわけじゃあるまいしよ」

ゴリラ「……」

子分「……あれ、そう言えばここにあった唯ちゃんのポップは?」

メラメラ メラメラ

ゴリラ「……」

神山「どうしたんだいゴリ。さっきからそんなに炎ばっかり見つめて……あっ」

林田「ん。どうしたか、かみや……あっ」

唯『……の……ギ……よ♪』メラメラ メラメラ

全員「……」


森の外れ

林田「すまん、ゴリ……」

ゴリラ「……」

唯ちゃん(等身大ポップ)夏のおもいで!



翌朝

唯『』

神山「これは、完全にもうゴミ……いや、灰だね」

林田「うう、すまんゴリ……」

ゴリラ「……」サッ サッ

北斗「灰など集めてどうする気だ、ゴリラよ」

ゴリラ「……」ザック ザック

神山「そうか、ここにちゃんと埋葬してあげるんだね」

ゴリラ「……」コクッ

北斗「……終わったら、出発だ。今日こそ人のいる所に出るぞ」



別荘

北斗「……というわけで、なんとかたどり着けたな」

神山「いやあ、険しい道のりだったね」

ゴリラ「……」

前田「まだ落ち込んでんのか?」

林田「くっ……すまん、俺のせいで……」

ゴリラ「……」ポン ポン

林田「ゴリ?」

神山「もう、ゴリラは君の事を許しているみたいだよ。気にするな、って」

ゴリラ「……」コクッ

林田「……ありがとう、ゴリ」

ゴリラ「ンゴ」

北斗「よし、一休みしたら早速練習だ。荷物を置いて全員居間に集合だからな」

全員「おおー!」

ゴリラ「……」


一時間後。

林田「いやーこのお茶はうめえな」

北斗「まずはお茶会をせねばこの部活は始まるまいな」

前田(結局、練習なんかしやしねえ……)

フレディ「……」ズズッ

子分「……あれ、フレディ。そう言えばゴリラは?」

フレディ「……」フル フル

神山「そう言えば、いつの間にか見ないね」

前田「……あ、玄関のドアがいつの間にか空いてる」

子分「も、もしかしてアイツ、傷心のあまり出ていったのか?」

林田「……楽しんでいる俺たちの姿を見るのが辛かったのかな」

神山「林田君……」

林田「俺、ちょっと探して来るよ」ダダダッ

北斗「……行ったか」

神山「……遅いね、もう一時間だよ」

北斗「まさかまた迷ってるのではないだろうな」

ガチャッ

北斗「む……」

前田「は、林田」

林田「……まだゴリは戻ってないのか」

神山「そうみたいだね」

林田「バス停まで戻って町の辺りを探してみたが……それらしい奴はいなかったぜ」

前田「まあ、いたらいたで騒ぎになってるだろうしな」

子分「と言うことは、やっぱり森に?」

神山「……もしかしたら、唯ちゃんと心中する気なのかもしれないね」

林田「な……!」

神山「だって、合宿にまで彼女を連れて来ていたんだよ。そんな彼女がいなくなって、相当傷付いたに違いないよ」

北斗「彼女と共に、この森で死ぬつもりか……」

林田「くっ……!」

神山「ダメだよ林田君。もう夜になる、また遭難しちゃうよ」

林田「は、離せ! 俺は、ゴリを……ゴリを!」

北斗「ええい、落ち着け林田!」

林田「ぐっ……」

北斗「奴も本当に死ぬつもりなら、迷惑にならないよう何か残していくだろう。だが、何も無いと言う事は、まだ死ぬと決まったわけじゃない」

林田「で、でもよ……」

神山「もしかしたら、一人になりたいだけかもしれないよ。あるいは唯ちゃんのお墓にもう一度行ったとか」

北斗「……何にしろ、もう少し待とう。ゴリラの事だ、森には強いはずだからな」

林田「北斗……わかったよ」

北斗「うむ」

……。

林田「もうすぐ日付が変わる……くっ!」

神山「ダメだってば。森は危険だよ」

林田「は、離せ!」

子分「あっ、ま、待て。窓の外を見ろ」

北斗「……む」

ゴリラ「……」

林田「ゴ、ゴリ。よかった……」

神山「よかったね林田君」

北斗「フッ、ずいぶん堂々とした姿で歩いて来てるものだな」

神山「きっと、彼女にちゃんとお別れが言えたんだよ」

林田「ああ、ああ……」

前田「泣くなよ、ほら、ティッシュ」

林田「すまねえ前田」

ガチャッ

ゴリラ「……」

林田「おかえりゴリ!」

ゴリラ「……」コクッ

北斗「ふふっ、これでめでたしめでたしだな」

子分「じゃあ、深夜はけいおんブルーレイパーティーといこうぜ!」

林田「へ、へへっ、お前もたまにはいい事言うじゃねえか」

神山「彼女もきっとこの森から僕たちを見守ってくれているはずさ」

フレディ「……」コクッ

北斗「よし、では今から帰って来たゴリと、俺たちを助けてくれた唯ために宴会だ!」

全員「おおー!」

林田「さあ、ゴリラもそんなとこ突っ立ってないでこっちに……」

ゴリラ「……」スッ

梓『私とセッションしましょう!』

全員「……」


ソファー

北斗「また等身大ポップか……」

神山「ていうかドコからあんな物を……」

林田「俺の涙は一体……」

ゴリラ、とっかえひっかえ。




帰りのバス

神山「合宿も終わっちゃったね」

林田「遭難なえなけりゃあもっとゆったりとした気分になってたのによ」

北斗「ははっ、それも含めていい思い出になったではないか」

子分「結局、楽器は全く弾きませんけしたけどね」

北斗「まあ、絆が深まったと思えばいいではないか。新しい仲間も増えたしな」

梓『私とセッションしましょう!』

フレディ「……」コクッ

前田(……まったく、元気な奴らだ。ゴリの一件なんてもう忘れてやがる)

ゴリラ「……」

前田(あれ、こいつ。なんで手ぶらなんだ?)

前田「なあ、ゴリラよ、お前荷物は一体どうしたんだ。ギターやらリュックやらよ」

ゴリラ「……」プイッ

前田「……話したくなかったら、深くは聞かねえよ。悪かったな」

ゴリラ「……」

前田(ま、俺にとってはどうでもいい事か)

ゴリラ「……」

バスはどんどん森から離れ、みんなを元いた街まで運んで行く。

その、忘れられたように小さくなった森のある場所に、彼女は眠っている。

同じけいおん部の仲間を助けてくれた、平沢唯

そんな彼女の傍には、大好物なお菓子がたくさん入ったリュック。

さらに『いい笑顔』で写っているゴリラと彼女の写真が一枚。

そして……彼女がずっとギー太と一緒にいられるようにと、アンプに繋がれたままのレスポールが一本。

そのお墓の場所は、写真に写っている二人しか知らない、秘密の場所。

その場所で、今日も彼女はギターを弾きながらお菓子を食べて……ずっと変わらない笑顔で、彼と笑っている。

青春クロマティー、合宿編 完




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最終更新:2010年09月17日 22:16