藤本宅

藤本「ふぅ……もう闇魔王の城も一人で大丈夫なくらい強くなったな。ここまで長かったぜ……」

藤本「この空間をソロで生き残る事が出来るのは、世界に五人といまい。それくらいの難関エリアなんだからな」

付き人「……」

プルルルル プルルルル

藤本「ん、こんな時に電話か……もしもし?」

アイツ「お、おう藤本か。今から他校の番長をシメに行くんだがよ……俺たち、何人で行った方がいいかな?」

藤本「あ? どういう意味だよ」

アイツ「いや、その番長がメチャクチャ強くてよ……タイマンだと藤本以外だと勝てる奴がいねえんだよ!」

藤本「……俺は今日は行けないと言っていたはずだが」

アイツ「そ、それはわかってるさ。でもよ、タイマンで負けるくらいならいっそ……卑怯でもいいから多人数でボコしちまってもいいかなって思って……」
藤本「それを俺に相談しているわけか」

アイツ「あ、ああ……ちょっと悩んじまってよ」

藤本「……」

藤本「あのなあ、喧嘩にルールなんてねえんだよ……卑怯? 最高の褒め言葉じゃねえか」

アイツ「ふ、藤本……」

藤本「マニエル高校の意地をみせてやれや」

アイツ「わ、わかったぜ! ありがとよ、藤本!」

ガチャッ

プー プー

藤本「……さて、と。続けて城に潜るか」




会議室

ユリー『ここが魔王の城か』

タミー『なんか不気味な雰囲気だぜ……』

トミー『ん、ま、待て。既に先客がいるみたいだぞ』

イガちゃん『む、あれは……』

イレブンPM『とう! やあ!』

イガちゃん『イレブン野郎!』

能智『ひ、ひいっ!』

タミー『ま、また斬られちまうよ!』

トミー『待て。俺たちは全員レベルMAXだ。昔とは違う……』

イガちゃん『うむ。この体力とメンバーならそう簡単には死ぬまい……』

イガちゃん『……む』

全員『ん……』

イガちゃん『よし、お前らリーダー命令だ』



藤本宅

藤本「よし、そろそろ魔力も無くなるし帰るか」

ゾロゾロ

藤本「む……なんだこの集団は」

イガちゃん『……』

藤本「待てよ、こいつは……もしかして一ヶ月前につい殺してしまった態度の悪かった奴か?」

イガちゃん『ここで会ったが百年目だ』

藤本「レベルMAXか……昔の奴とは違うみてえだな」

イレブンPM『何かご用ですか?』

イガちゃん『……』

ザシュ

藤本「うお! いきなり攻撃してきやがったな。全体魔法で反撃だ!」

能智『……』

藤本「チッ、僧侶のバリアか。これじゃあ魔法はあまり効かないぞ……」

藤本「……っていうか、いくら俺でもレベルMAXが五人相手で勝てるわけがねえだろ!」

イレブンPM『ぎゃああああ』

イガちゃん『見たか、これが俺たち四天王の絆の力だ』

藤本「何が絆だ……ただのタコ殴りじゃねえか……」

藤本「しかも四天王なのに五人いるし……」

藤本「や、やられた、俺の最強キャラが……くっ、卑怯者め!」

イガちゃん『フフッ、悔しいか。画面の向こうで卑怯などと言ってみろ……それは最高の褒め言葉なのだからな』

藤本「……クソがぁああ!」

プルルルル プルルルル

藤本「誰だこんな時に!」


決闘場所

アイツ「あ、見てくれよ藤本! 五対一だけどよ、俺たちの手で番長をぶちのめしたぜ、ヘヘッ!」

アイツ「最初は罪悪感あったが喧嘩だからよ、勝った方が偉いんだよな」

アイツ「番長の野郎、倒れてから卑怯なんて叫んでいたけどよ……全く最高の褒め言葉だぜ!」

藤本「多人数で一人を襲うなんて卑怯なマネすんじゃねえ!」ガスッ

生徒「いや、藤本が言った事だろ……」

生徒「相変わらずぶれるよなあ……」

イレブンPMのレベルが5、下がった。



藤本宅

藤本「……よし、やっとレベルがMAXに戻ったか」

藤本「今日は闇魔王の城にも奴らはいないみたいだし、落ち着いて狩りができるな」

付き人「……」

藤本「……しかし、これだけ城に潜っても未だに巡り会えない最高のレアアイテム」

藤本「一体どんなアイテムなんだろうな……」

プルルルル プルルルル

藤本「……また電話か」

ピッ

アイツ「あ、もしもし。藤本か、ちょっと聞いて欲しい事があるんだがよ」

藤本「やっぱりお前か……で、なんの用だ」

アイツ「いや、今から他校の奴と喧嘩するんだけどよ……でもよ、以前そいつらと戦って俺たち負けてるんだよ」

藤本「……それで?」

アイツ「でよ、戦利品として俺たちの財布やボンタンを全部持っていかれたんだ」

藤本「ああ、そんな事もあったな……」

アイツ「だからよ、今日買ったら俺たちが奴らの持ち物を全部ひっぺがしてやろうと思ってるんだけどよ……藤本、そういうのは嫌いかなと思って……つい相談をよ」

藤本「……」

藤本「いいんじゃねえの。奪っちまえよ」

アイツ「ふ、藤本……」

藤本「喧嘩に負けた相手はは根こそぎ全てを奪われて当然だ。身ぐるみはもちろん、誇りもな……」

アイツ「誇り……」

藤本「ああ、マニエル高の誇りをかけて戦ってこいや」

アイツ「あ、ありがとう藤本! よーし、やる気が出てきたぜ!」

ガチャッ

藤本「……」

藤本「……ん」

イガちゃん『何かアイテムを拾ったぞ』

タミー『なんかキラキラした剣だな』

トミー『リーダー運がいいなあ』

藤本「ん……ま、待てよ! あの剣は……」

イレブンPM『あの、すいません』

イガちゃん『む、イレブン。また貴様か、さてはこの剣を横取りに来たのか』

スワッシュ!

藤本「ま、間違いない……その効果音と画面効果は……」

イレブンPM『……いえ、今日は対戦をしに来たわけではありません。あの、その剣の事なんですが……』

イガちゃん『む、この剣がどうかしたのだ?』

スワッシュ!

イレブンPM『……それこそ幻のレアアイテム。この世界に数本しかない最強の剣ですよ』

ユリー『えっ』

能智『この剣が……』

イガちゃん『これが……俺の探していた最強の剣』

イレブンPM『それを一体どこで?』

タミー『……地面を掘るコマンドをしたら、偶然見つけたんだ』

藤本「埋まっていたのか……チッ、ボスがドロップする物とばかり思ってたぜ」

イガちゃん『……フフッ、これが……』

藤本「こいつを斬ったのがもう数ヶ月前……まさか、先を越されてゲーム最高のレアアイテムを見つけられるとはな」

イレブンPM『……負けましたよ』

イガちゃん『む? どうしたのだイレブンよ、いきなり』

イレブンPM『最初に会った時は、まさか貴方がここまで成長するとは思ってませんでした』

イレブンPM『事実、今の貴方の手の中で、ゲーム内で最高のレアアイテムが輝いている。すごい人だ』



イガちゃん『……』

イガちゃん『違う、俺がすごいのでは無い』

イレブンPM『?』

イガちゃん『ここまで来られたのは、俺を支えてくれた四天王の皆のお陰だ……』

イガちゃん『確かに、俺は最強の剣が欲しかっただけだ。最初は仲間に当たり散らした事もあったさ』

トミー『リーダー……』

イガちゃん『だがな、今は違う。こうして仲間と共にこの世界を歩く事ができる……それだけで俺は満足なんだ』


タミー『リーダー……』

能智『泣かせるじゃねえか……』

イレブンPM『なるほど、貴方がその剣を入手できた理由が何となくわかりましたよ。いや……もしかしたら、剣が貴方を選んだんでしょう』

イガちゃん『イレブンよ……貴様もまた、俺の強敵(とも)だった……』

イレブンPM『……はい!』

イガちゃん『よし、お前も今日から四天王の一人にしてやる。どうだ嬉しいか!』

イレブンPM『それも楽しそうですね! ではよろしくお願いします!』

イガちゃん『うむ……』

トミー『なあリーダー。一回、名乗りを上げてシメにしないか?』

イガちゃん『名乗りだと?』

トミー『ああ、騎士が高らかに剣を振り上げて……って奴さ。まあ、雰囲気だがよ』

イレブンPM『いいですね。僕も協力しますよ!』

イガちゃん『……よし。では俺がずっと欲しかったこの剣を名乗りとしよう』

能智『いいアイデアだな』

イレブンPM『はい! 僭越ながら僕も叫ばせてもらいます!』

イガちゃん『では……行くぞ! 俺はこの剣に誓う!』

イガちゃん『ここにいる四天王で……この世界をより良い世界に導くと!』

イレブンPM『おう!』

イガちゃん『この……レバ剣で!』
イレブンPM『その……聖剣フェニックスで!』

全員『……え?』

イガちゃん『おい貴様。名前を間違えているぞ、これはレバ剣という最強の武器のはずだ?』

イレブンPM『あの……レバ剣てなんですか?』

イガちゃん『む?』

イレブンPM『このゲームで最強のレアアイテムは、聖剣フェニックスという武器になります。七色に輝くその剣が……ほら』

イガちゃん『……おい、レバ剣は一体どこにあるんだ』

イレブンPM『いえ、ですから……このゲームにレバ剣というアイテムは無いんですってば』

イガちゃん『なにぃ?』

イレブンPM『無いんですってば』

全員『……』

藤本「バ、バカだこいつら。感動して名乗りをあげてしまった自分が恥ずかしい……」

イガちゃん『レバ剣以外には興味ない。こんな物はいらん』

スワッシュ!

藤本「ま、まて。そんなに密着して剣を振るな!」

タミー『おおっ、イレブンの体力が点滅している』

トミー『一撃でこんなに減るのか……すごいな』

能智『さすが最強の剣だな』

イガちゃん『こんな物いらん!』

スワッシュ

イレブンPM『ぎゃああああ』

藤本「し、死んじまった! またレベル下がってるじゃねえかチクショウ!」


チャリン

チャリン

チャリン

藤本「……くっ、俺の装備と金が全部ばら蒔かれちまった! まあ、ここは過疎地だ、誰かにアイテムを拾われるなんて事は……」

イガちゃん『む、金だ金だ』

タミー『おっ、この装備……俺のよりつええぜ!』

藤本「バカ野郎! それは買える物の中で一番レアな奴だ。気安く触る……」

トミー『この魔法、レベルMAXだぜ!』

能智『このアクセサリーだって、付加能力がヤバいくらいだぜ!』

藤本「おい! なんで仲間の俺から出た装備をパクってるんだ! おい!」

イガちゃん『……あ、俺たちはそろそろ帰るから。さらばだ、イレブンよ』

……。

藤本「……全員ログアウトしやがった」

藤本「俺があの装備を揃えるのにどれだけ時間をかけたと思ってるんだ……あんな奴らと関わったばかりに……」

藤本「……丸裸だ」

藤本「これからどうするか……もう、俺には何も無い……くそっ!」

プルルルル

藤本「誰だ! こんな時に!」


決闘場所

アイツ「おう、見てくれよ藤本! 財布にボンタンや短ラン……根こそぎ奪ってやったぜ!」

藤本「……!」ブチブチブチッ

アイツ「……あ、そういやこんな剣を持ってる奴がいたんだけどよ」

スワッシュ!

藤本「無闇やたらに所持品を奪うんじゃねえ!」ドガシッ!

生徒「もう、何も信じられねえな……」

生徒「いや、剣て何だよ……」

藤本はこのネトゲを辞めました。


14
最終更新:2010年09月17日 22:20