神山「突然ですけど僕、手品ができるんですよ」
前田「本当に唐突だな……」
北斗「ふむ、練習も飽きた。娯楽代わりに見せてもらおうか」
前田「いや、全く楽器弾いてないけどな……」
神山「では、誰かこのカーテンの中に入って下さい。僕が消してご覧になりましょう」
全員「……」
神山「誰かいませんか?」
林田「はい、はい! 俺が入るぜ」
神山「では林田君、どうぞ」
スッ。
神山「では、今からこの中にいる林田君が瞬間移動をします……はいっ!」バッ
子分「あ、ほ、本当に消えている!」
北斗「むう、やるな神山」
子分「き、消えた林田は一体どうなったんだ?」
神山「ご安心を。ちゃんと後ろにあるロッカーから……」
部長「……懐かしいな」
副部長「はい。以前このマジックで部長が消えてしまいましたからね。まあ、そう何度も人が消えるなんて……」
ガチャリ。
神山「……」
部長「消えてる……」
神山「あれ~、おかしいな~?」
北斗「おい神山よ、どうなっているのだ」
神山「いやあ、本当はこのロッカーから林田君かゴリラが出てくるはずなんですけど……」
前田「林田かゴリラってのもおかしいだろ……」
ゴリラ「ンゴ」
副部長「今回はゴリラもここにいる……」
部長「……もしや林田も、俺と同じようにマワシの国に行ったのか」
北斗「マワシの国、だと……」
部長「ああ、詳しくは説明しないが、とにかくこことは違った世界だった……」
神山「……」
神山「さ、他にマジックに協力してくれる方はいませんか?」
北斗「おい、林田はいいのか!」
神山「彼ならきっと大丈夫。すぐに戻ってきますよ」
前田「消した本人がそう言えるのも、すごい話だな……」
『あ……今日は私が一番のりぃ!』
……。
林田「む……ここはどこだ?」
ガタガタ
林田「目の前が真っ暗だ」
『……ま、動いた?』
林田「……そうか、神山のマジックに付き合ったからか。」
林田「ロッカーの中か……神山め、狭い場所に移してくれたな。くっ……」
ガタン ガタン
『っ! ……な、なんかガタガタ言ってるよお!』
『だ、だれか中にいるの……?』
林田「くそ……このっ! 開けっ!」
バァン!
林田「ふ~、やっと出てこれた……おい、神山よ。今度はちゃんと段取りを……ん」
林田「お前は……も、もしかしてゆ……!」
唯『き、きゃああああ!』ダダダダッ
林田「ま、待てっておい!」
林田「……行っちまった」
林田「今のは……そう、紛れもなく唯ちゃんだった」
林田「それにこの部室、ここは……あの高校なのか?」
林田「待てよ、落ち着け。以前もマンホールに落ちて別の世界に行った事はあったが……今回はまた話が違う」
林田「俺は神山のマジックで、いつの間にか目の前が真っ暗になって」
林田「気が付いたらこの……けいおん部のロッカーの中にいた。そして唯ちゃんと思える人物に……むう」
バタバタ バタバタ
林田「はっ……まずい、誰か来る!」
律「モヒカン~?」
唯「ほ、本当にいたんだよ! こう……ロッカーから、バァ~ンって!」
律「おいおぃ、夢でも見たんじゃないの~?」
唯「りっちゃんだって見ればわかるよ!」
律「はいはい。まあ、暇だから別にいいんだけどなぁ~」
唯「……あ、開けるよ」
律「はいよ」ガチャリ
唯「は、早いよりっちゃん! 中にいるって……あ、あれ?」
ガラーン
律「全く~。何がモヒカンだよ~、ちょっとワクワクしちったじゃないか~」
唯「た、確かにいたんだよぉ~……」
唯「そ、そうだ! ロッカーだよ、ロッカーに隠れてるんだよ」
律「……ここにか?」
唯「そこから出てきたんだもん! 本当だもん!」
律「ほいよっ」ガチャリ
律「き、きゃあああ……」
唯「りっちゃん!」
ガラーン
律「へへっ、なんてな~。誰もいないっての」
唯「に、逃げちゃったのかな~……」
律「ハァ、これで安心したか、唯」
唯「……うん。少し、ありがとうねりっちゃん!」
律「おう、リーダーにドンと任せとけって」
唯「えへへ~」
……。
『多分、林田君は……』
林田「ん、この声は……神山か!?」
ガチャリ
北斗「む、おお、林田!」
林田「こ、ここは……元の教室か」
神山「ほらね、すぐに戻ってきたでしょう」
子分「一時はどうなるかと思ったけどな」
部長「……マワシの国には行っていないようだな」
林田「……」
林田「みんな、ちょっと聞いてくれないか。本当にあった話だ」
北斗「む……」
林田「……という事があったんだ。信じられないとは思うけどよ……」
全員「……」
神山「林田君。僕は君の話を信じるよ」ポンッ
林田「神山……」
北斗「あながち信じられないが、夢があるいい話ではないか」
部長「俺の実体験の例もある……一概に嘘とは言えないな」
林田「みんな……」
子分「行けるもんなら、俺だって行きたいくらいだぜ」
北斗「きっかけは神山のマジックだったな……よし、神山よ」
神山「はい?」
北斗「もう一度そのマジックをやってみせてくれ。今度は俺が入ってみよう」
桜ヶ丘高校
唯「あ、安心したらお手洗い行きたくなっちゃった! ちょっと行ってくるね」ダダダダッ
律「お~、気をつけてな~」
律「……全く、そんな怪しい人間いるわけないだろ」
律「唯も案外臆病なんだな。私だったらこう……大声あげて変質者なんか撃退……」
ガタガタ
律「ひっ!」
ガタガタ ガタガタ
『む……狭い。ここが例のロッカー』
律「な、な、な、な、なに……」
ガタガタ バタンッ!
『とう!』
律「ひいいっ!」
北斗「む、確かにここはクロマティ高校ではない……む!」
律「い、い……」
北斗「なるほど、話は本当のようだ、おい貴様!」
律「」
北斗「……貴様に用はない。おい、今すぐムギをここに」
律「ひ、ひやぁああああ!」
ダダダダッ
北斗「やれやれ……これだからりっちゃんは」
北斗「……ふむ。ここがけいおん部の部室か。落ち着く」
北斗「しかし、部員が誰もいないのではここにいる意味が無いな」
北斗「……一度戻るか」
クロマティ高校
ガチャッ
北斗「戻ったぞ」
神山「あ、おかえり。どうだった」
北斗「林田の話は本当だ。どうやら神山のマジックとこのロッカーを使えば、桜ヶ丘高校に行けるらしい」
林田「……ん、北斗。お前何持ってるんだ?」
北斗「りっちゃんのカチューシャだ。逃げる時に落としたらしい」
前田「逃げるって……」
神山「いや、彼女たちからしたら僕たちは別世界の人間だからね。驚くのも無理はないよ」
前田「もっと違う事で逃げたと思うんだけどよ、こいつら見た目とか……」
林田「じゃあ、次は誰が行くんだ?」
桜ヶ丘高校
律「ほ、本当だって! 変な白い服着たおっさんがロッカーの中から……」
澪「……」
紬「……」
律「頼む! 一緒に来てくれ、この通りだ!」
澪「そりゃあ部活だから行くけどさ……」
紬「本当にそんな事があったの?」
律「ああ、唯だってモヒカンの男を見ているらしいんだ。あのロッカーには……何かがいる!」
澪「あ、あんまり怖い事言うなよ……」
紬「ちょっとだけ楽しみだわ~」
律「そんな楽しみな事じゃないんだって……もう、あの雰囲気だけで……」
澪「相当怖い体験をしたみたいだな……」
部室前
梓「……あ、みなさん来ましたよ」
唯「あ、お~い」
律「唯! 出たぞ、例の怪しい……モヒカンじゃないけど変な男が!」
唯「えっ!」
澪「まあ、そんなのいるわけないけどな」
律「……それが澪の最期の言葉だった、と」
澪「変な事を言うな!」
紬「調べてみればわかるわよ」
唯「う、うん……じゃあ、行くよ!」
ガチャッ
律「そ~っと、そ~っとだぞ……」
紬「わくわく」
澪「……」
シーン
唯「部室にはいません、りっちゃん隊長!」
律「油断するなよ~、ロッカーだ。ロッカーから来るぞ」
澪「この空きロッカーか?」
唯「そうだよ、中からモヒカンがバァ~ンと」
律「私は白い親父だった」
梓「本当ですかぁ?」
唯「油断しちゃダメだよあずにゃん」
律「そうだぞ~、今は静かでもそのうちガタガタとロッカーを揺らして……」
ガタガタ ガタガタ
澪「ひいっ!」
紬「ほ、本当に揺れてる」わくわく
律「や、やっぱり来たか……」
ガタガタ ガタガタ
澪「ま、まさか本当に……」
ガタン!
唯「……な、中にいるのは誰!」
……ガチャッ
全員「ドキドキ……」
スーッ
バンチョーちゃん「……」
全員『か、かわいい……』
クロマティ高校
林田「ああっ、りっちゃんのカチューシャが!」
神山「こら、黄色いけどそれはバナナじゃないよ」
ゴリラ「ンゴ?」シャグ シャグ
前田「結局食ってる……」
バンチョーちゃんならオッケー。
バンチョーちゃん「……」カキ カキ
律「なるほど、手品でねえ……」
澪「そのロッカーがそんなと繋がっているなんて……」
唯「ねえ、バンチョーちゃんの中には誰が入ってるの!」
バンチョーちゃん「……!」ドカッ
梓「あっ、壁に穴が……」
紬「唯ちゃん、そういう事は言っちゃダメよ」
唯「ご、ごめんなさい……」
唯(あ、あれ、なんで怒られるんだろう、私)
バンチョーちゃん「……」スタスタ
澪「もう帰るのか?」
バンチョーちゃん「……」コクッ
紬「他のお友達も連れてくるんですって」
律「そっか~、気をつけてな」
唯(って言うかムギちゃん言葉を理解している……?)
唯「と、とりあえず変な人じゃなかったね」
律「私たちが見た時は変な人だったんだけどな~」
澪「そこまで言われると見てみたい気もするけど……」
梓「あの様子じゃあ、すぐに新しい人が来るんじゃないですか?」
紬「ふふっ、今度はどんな人かしら~」
ガタガタ
律「おっ、噂をすれば」
ガッタン ガッタン
唯「な、なんかずいぶん激しく揺れてるよ~」
澪「体が大きくて詰まってるのかな?」
ガタガタ……
紬「開けてあげましょう。よいしょ」
ガチャリ
フレディ「……」
全員『……』
クロマティ高校
林田「フレディ一人で大丈夫かなあ」
神山「彼は紳士だからね、きっと大丈夫だよ」
前田「……そういう問題かあ」
お茶だけ飲んで帰ってきました。
律「……なあみんな。さっきから変な人間ばかりじゃないか?」
唯「モヒカンに白いのに……あ、着ぐるみの人は可愛かったな~」
梓「唯先輩! 次、着ぐるみなんて言ったら私が怒りますよ!」
唯(……私なんで怒られてるのかなぁ)
澪「それにさっきの外人か……思わず叫びそうになっちゃったよ」
紬「半裸だったしね~」
律「一体なんの集まりなんだ、奴らは……」
澪「確かに、少し気になるな」
紬「次に来た人に、ちゃんとお話を聞いてみるのはどうかしら?」
唯「さんせい、さんせい~」
ガタガタ
梓「あ……」
律「もう、この音にも慣れたな」
澪「あれだけ人が来ればな」
唯「……次も変な人だったらどうしよう~」
紬「大丈夫、私たちも慣れてきているはずよ」
梓「その言い方はちょっとひどいですよ……」
ガタガタ
……ガチャリ
律「よ、いらっしゃい~。けいおん部へようこ……」
ゴリラ「……」
全員『……』
最終更新:2010年09月17日 22:22