桜ヶ丘高校

律「さ、今日も練習始めようか!」

梓「あ、あんな事があったのにですか?」

澪「て言うか、普通学校だって早退くらいにはなるだろ……」

律「気にしない、気にしない! にしても……あの人もロッカー部の人かな?」

紬「そうかもしれないわね。今までと同じ学生服を着ていたし……」

さわちゃん「へえ、そんな事があったんだ。にわかには信じられないけど……」


唯「そもそも、どうしてロッカーから色んな人が出てくるんだろうねえ?」

梓「このロッカーに、何か秘密があるんですかね?」

ガラリ。

神山「それには僕がお答えしましょう」

全員『!』

さわちゃん「き、君は確か……今朝警察に連れていかれた……」

神山「神山です。けいおん部のみなさん、初めまして」

全員「……」

神山「ん、どうしましたか?」

律「いや、なんか」

澪「礼儀正しいなあ、と」

神山「初対面なんですから、当然です。挨拶をしなければ話すきっかけも生まれませんからね」

唯(……朝はすごいきっかけだったけどなあ)

さわちゃん「そ、それで。どうして君が学校のな、なかに……?」ブルブル

律「さわちゃん、震えすぎ」

唯「……マジックだったんだ~」

梓「なるほど、それなら納得ですね」

澪「いや、それだけで納得するのもどうかと思う……」

紬「あ、あの。そのマジック見せてもらえませんか!」

唯「……え?」

律「いいねえ~、面白そうじゃん!」

澪「お、おい律」

神山「僕は構いませんよ。その方が勉強した甲斐もあったというものですから」

律「いやった~♪」

さわちゃん「……でも、いきなり人が消えるマジックは怖いわねえ」

神山「あ、でしたら、まずは他の物から試しましょう」

唯「物から?」

神山「そこで髪を垂らしているあなた」

律「……」

唯「りっちゃん、髪止めないと私そっくり!」

律「どこかに落としちまってさ……それで、髪がどうしたんだよ!」

神山「まま、落ち着いて下さい。いいですか、この箱の中をご覧下さい」

紬「なにも、なにも入っていないわよ!」わくわく

梓「ムギ先輩、はしゃぎすぎです」

神山「はい、ここに布を被せて……ハイッ」

パッ。

唯「こ、これは!」

神山「はい、出てきました」

律「……これは確かに私のカチューシャだけどさあ」

カチューシャ(ボロボロ)

律「何で、あちこちに噛んだ痕があるんだよ!」

神山「……あ、すいません。ゴリラが噛んだのを忘れていました」

紬「ふふっ、お茶目なゴリラさんなのね」

律「……いや、でも、さすがにこれはさぁ」ボロボロ

唯「ねえねえ、新しい物は出せないの?」

神山「やってみましょう。では、そのカチューシャを箱の中に」

澪「物々交換みたいなものなのかな?」

さわちゃん「ち、ちょっと興奮するわね」

神山「では、いきます。ワン、ツー、スリー」

パッ

律「お……おお?」

神山「ふふっ、どうですか?」

さわちゃん「す、すごい! 確かに、これはりっちゃんのカチューシャとは違う!」

澪「……でも、何これ?」

律「なんか、頭の部分にアンテナが生えてるような」

神山「……え?」

神山「……あ」

神山(これは、高橋先輩の……『アレ』じゃないか)


梓「これ、本当にカチューシャなんですか?」

神山「……とりあえず、頭に付ける物ではあります」

律「なんだその曖昧なの~」


その頃。

林田「なあ最近よ、高橋先輩のヤツ変わったと思わねえか?」

子分「ああ、何て言うか……頭からオーラが出てるよな」

高橋「……」ボロボロ

林田「俺たちも早くあんな貫禄出せるようになりてえよな!」

メカ沢「ああ、全くだぜ」

前田「……」


ベンチ

前田「ゴリラ噛んでたじゃん……」

高橋先輩の出番は、ここだけ。




律「ん~……とりあえず、装着!」スチャッ

澪「おおっ、行った」

唯「ど、どう?」

律「……あ、なんだろう、これ。ちょっとつけ心地いいかもしれない」

梓「本当ですか~?」

紬「ふふっ、りっちゃん可愛い~」

律「えへへ~、似合う似合う☆」

神山「……ま、いいか」

神山「と、言うのが僕のマジックになります」

澪「いや、小さく、まいいかって……」

神山「さ、他には何かありませんか!」

澪(うわあ、一番まともだと思っていたのに……)

唯「はい、はい! 私、ゴリラさんのいる世界に行きたい!」

神山「えっ、本気ですか?」

唯「うん、私たちもそのロッカーを使って違う場所に行きたい!」

さわちゃん「だ、大丈夫? 変な場所に飛ばされちゃったりしたら……」

神山「大丈夫です。僕のはマジックに毛が生えた程度の物ですから、危険はありませんよ」

澪(……いや、実際ゴリラが飛んできてるわけで)

唯「じゃあ、やるやる!」

神山「では、ここに入って下さい」

スッ

唯「えへへ~」

神山「……はいっ!」

ファサッ。

全員『あ……』

唯「あ、あれ? 何にも変わってないよ~!」

澪「し、失敗?」

神山「……」

梓「本物の唯先輩ですか?」

唯「うん、なんにも変わらないよ~、あずにゃん」

神山「もしかして、こっちから向こうには行けないのかもしれません」

澪「……ちょっとガッカリ」

律「な~」

さわちゃん「んん~、残念。この布で隠すだけで違う世界に行けるなんて、ちょっと楽しみだったんだけど……」スッ

律「まあまあ、実際は世の中そんなうまくは……」

ファサッ。

……。

律「……さわちゃん?」

澪「さ、さわちゃんが消えた!」

澪「ど、どうするんだよ」

神山「慌てないで下さい。マジックの布ですから……」

唯「そ、そっか。じゃあロッカーからさわちゃんが!」

ガタガタ

梓「あ、久しぶりにロッカーに反応が!」

神山「ほら、所詮はマジックですから。さあ、さわちゃん先生の登場で……」

ガチャッ。

ゴリラ「ンゴ」

全員『……』


ベンチ

律「さわちゃんどこ行ったんだよ……」

神山「以前もこんな事がありました」

澪「やっぱりダメじゃん……」

部長じゃないのに、ね。



神山「では、僕はそろそろ帰る時間ですので、これで」ガチャリ

律「……無責任すぎるだろ」

ゴリラ「ンゴ」

澪「またゴリラか……」

唯「あの時のゴリラさん」

ゴリラ「……」コクッ

唯「よかった、また会えたね!」

梓「で、でも先生は一体どこへ……」

律「まあ、さわちゃんなら大丈夫さ~。別の場所でも元気に先生やってるよ」

澪「職業上は同じだけど、男子高校だからなあ」

紬「先生なら大丈夫よ、ふふっ」

ゴリラ「ンゴ」

律「……なんだかゴリラが嫌に馴染むなあ」



クロマティ高校

神山「ただいま~」ガチャリ

北斗「む、遅かったな、神山よ」

神山「いやあ、ゴリラと入れ違いになったら警察に捕まっちゃって」

林田「……相変わらず無茶をする奴だ」

神山「……ところで、このロッカーから誰か出てこなかったかい?」

子分「いや、今日出てきたのは神山だけだぜ。ゴリラもいきなり消えちまったしよ」

神山「……」

林田「何か、気になる事でもあったのか?」

神山「……」

神山「いえ、特には何も」

林田「そうかあ~」

部長「なあ、神山よ。次は俺をマジックで消してくれないか」

副部長「え、部長も行くんですか!」

部長「ああ、俺もちょっとけいおんにハマって……行きたいと思うんだ、神山よ」

神山「わかりました。じゃあ次は部長に行ってもらいましょうか。ではここに……」スッ

部長「うむ……」

神山「はいっ」ファサッ

副部長「おおっ、消えた」

林田「で、でもよ……以前はゴリラが出てきたけど……今回は」

ガタガタ

ガチャリ

神山「む……」

さわちゃん「もう、一体ここはどこなのよ~、って、あれ?」

全員「……」



その頃部長。

王様「おおっ、マワシの戦士ブチョーよ……再びこの地に現れるとは……」

ブチョー「……」


四角い土俵

実況『おおーっと、現役チャンピオン、ブチョー強い! その姿はまるで何かを求め続ける野獣のようだ!』

ブチョー「どうして俺だけここなんだ!」

ディフェンディングチャンピオン、ブチョー!



神山「ええ、では今の状況をまとめてみましょう。まず、マジックでさわちゃんが消え、ここにいます」

北斗「ふむ」

子分「お、ほ、本物だ!」

フレディ「……」コクッ

さわちゃん(この雰囲気、これが本当に高校生なの? なんかおっさんみたいな人もいるし)

神山「そして、今はゴリラと部長が向こうにいっているはずです」

林田「なるほど……交換留学みたいなもんな」

前田「林田、自信満々で言ってるが頭の良い発言ではないぞ」

神山「いえ、もしかしたらその考えは正しいのかもしれませんよ」

さわちゃん「ど、どういう事?」

神山「とりあえず、図で説明しましょう」

さわちゃん←→部長、ゴリラ

林田「なあ、神山よ。俺たちはけっして頭がいいわけじゃない。だから聞くが……これはどういう意味だ?」

神山「……つまり、今彼女がここにいるのは、部長とゴリラが向こうにいるから、となります」

北斗「ふむ、何らかの均衡がとれている状態なのだな」

神山「おそらくは。つまり、ゴリラか部長がこちらに戻ったら、さわちゃんはまた消えてしまうかもしれません」

さわちゃん「ま、また暗い場所に行くの!?」

神山「ご安心を、とりあえずはゴリラも部長も向こうにいるでしょう。心配ならさわちゃんは向こうに帰っても大丈夫だと思いますし」

さわちゃん←→部長、ゴリラ

林田「う~ん……」

神山「林田君、どうかしたかい?」

林田「いやよ、この図……足し算みたいにできねえかなって思ってよ」

前田「足し算?」

林田「ほら、さわちゃんの部分を合計にして、部長とゴリラを数字にしてみれば……」

3=1+2

子分「あ、ああっ、しっくり来るぞ」

神山「林田君にしては冴えてるね」

北斗「うむ、見直したぞ林田」

林田「へへっ、もしかしたら、こっちと向こうはこんな関係なのかもな」

さわちゃん「……」

神山「じゃあ、名前に戻してみよう。何か謎が解けるかもしれないからね」スッ

子分「謎が解けたら、林田のお手柄だな!」

林田「いやあ、照れるぜ」

さわちゃん「……あのさ、そのまま足し算にしたら変な事に……」

さわちゃん=部長+ゴリラ

全員『……』

さわちゃん「……」


ベンチ

さわちゃん「だから、私言ったのに……」

イジメだよ、これ。



次の日

子分「あっ、ゴリラさんおはようございます」

さわちゃん「……」

林田「部長、おはようっす」

さわちゃん「……じゃ、ない」

神山「やあ、ゴリ部長、おはようございます」

さわちゃん「変な名前で呼ぶなー!」

神山「一体、何を怒ってるんですか?」

北斗「まったく、ゴリちゃんはワガママだな」

子分「本当っすよー、わっはっはー」

さわちゃん(な、何よ、この学校……雰囲気も悪いし、バカばかりじゃないの!)

神山「早く、ゴリラと入れ替わってゴリラの世界に帰らないんですか?」

さわちゃん(特にこの神山って子……まるで悪意が無いみたいに人をバカにするから、余計に傷つくは……)

神山「……そうだ、今日は先生に紹介したい子がいるんですよ」

さわちゃん「紹介したい子~?」

ガラガラッ

神山「やあ、伊東君」ポンッ

伊東「あ、か、神山さん、なんか用ですか?」

神山「……いや、理由もなくこの先生を君に紹介したくなってね」

伊東「へえ、び、美人な人じゃないですか」

さわちゃん「ま、美人だなんて……!」

神山「紹介します、こちらゴリラと部長のハーフのさわちゃん先生です」

さわちゃん(誰がハーフよ! て言うか、何か酷くなってる……)

伊東「ゴ、ゴリラ? またゴリラ絡みですか、勘弁してくださいよ」

さわちゃん(しかもまたなんだ……)


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最終更新:2010年09月17日 22:25