九月

放課後!

梓「ほえ?」

唯「あずにゃん、ツインテよりもそっちのほうが似合うよ」

梓「髪、下ろしたほうがいいってことですか?」

唯「うん」

梓「じゃ、じゃあ、ちょっとだけ下ろしてみよーかなー、なんて」

しゅるり、と髪を下ろす。

梓「ど、どうですか……?」

唯「うわー! 可愛いよ! やっぱあずにゃんは、そっちのが似合うよ!」

梓「あ、ありがとうございます」

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律「澪って、ツインテールにしないのか?」

澪「へ?」

律「私、澪がツインテールになってるとこ、みてみたいな」

澪「いや、まあ……いいけど」

律「じゃあ、やってみてよ!」

澪は髪を二つくくる。

澪「ど、どうだ…?」

澪(似合うって言ってくれるかな……)

律「おおー、そっちのほうがかなり可愛いな」

澪「そ、そうか。ありがと///」

律「なんか見違えたなー」

澪「それ以上言わないでくれ……恥ずかしい」

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翌日!

梓「あれ、澪先輩髪型変えたんですか?」

澪「あ、ああ。ちょっとな」

梓「とっても似合ってますよ!」

澪「あ、ありがと。……梓も、似合ってるし、可愛いぞ」

梓「あ、やっぱ、そうですか?」

澪「ああ」

梓「うれしいなー。認めてもらえて」

澪「私も、律に綺麗だって言われたときは、かなりうれしかったな」

梓「あ、私は唯先輩に言われました」

紬(似合ってるな、二人とも……)

紬(……私も髪型、変えてみようかな)



琴吹家!

紬「インパクトある髪型にしたほうがいいわよね」

紬「けいおん部のみんなとかぶらない髪型にしなきゃね」

紬「ツインテやカチューシャなんてもってのほか!」

紬「唯一の髪型にしたいなぁ」

紬「私らしさを生かした髪型にしよう」

紬「私らしさを生かした髪型にしよう」

紬「ポニーテール……ありきたりすぎて駄目ね。じゃあ、なにが……」

紬「ボブカットは……なんか似合わないだろうし」

紬「いっそサイドテールに……いや、誰かがサイドテールだった気がするわ」

紬「何の髪型に……」

紬「そうだ、三つ編みにしましょう!」



翌日!

紬「わ、私も髪形変えてみたんだけど、どうかしら?」

一同「…………」

紬「え? 似合わない?」

唯「金髪に三つ編みは、ちょっと……」

紬「そ、そんな!」ガーン

律「紬はもとの髪型が一番だと思うぞー」

澪「うん。あの髪型がベストだろうな」

梓「ですね」

唯「もとのやつに戻しなよ!」

紬(やっぱり私には、胸しかないの?)

紬(……はぁ)

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帰り道!

紬(唯ちゃんと梓ちゃんは名百合だし)

紬(律ちゃんと澪ちゃんは仲が良いし)

紬(私だけ、仲間はずれ……)

紬(なんか、おやつを持ってくる便利な人、としか思われてないような気がする)

紬(……はあ)

紬(いやになっちゃうな)

紬(どっかの同人誌では、黒人に犯されちゃうし)

紬(あるスレではビッチ呼ばわり……)

紬(私、人気ないのかな……)

紬(もう……)

?「あれ、琴吹さん……」

紬「え?」

?「ああ! やっぱり琴吹さんだ!」

紬「エリちゃん!」

エリ「どうしたの? なんだか元気ないね」

紬「ちょっとね」

エリ「あれ、琴吹さん、三つ編みなんだ!」

紬「え、ええ」

エリ「可愛い! とても似合ってるよ!」

紬「――へ」

エリ「可愛いというより綺麗かな、うん。とても、綺麗」

紬「本、当?」

エリ「嘘なんか言ってどうすんのさー」

紬「だ、だ」

エリ「え?」

紬「抱きしめてもよかですか!?」

エリ「口調が変わった!?」

紬「ほ、ほんとに、似合ってるのよね?」

エリ「うん。とても」

紬「……」ウル

エリ「え! 何で泣くの?」

紬「ああ、ごめんなさい」

エリ「大丈夫? はい、ティッシュ」

紬「あ、ありがとう」

エリは紬に一枚ティッシュを手渡す。

何となく、紬の頭を撫でたくなって。

エリはそっと、紬の頭を撫でた。

紬「……え?」

エリ「あ、ごめん! 撫でたくなった! 無意識のうちに手が出てた!」

紬「ううん。いいのよ……それより、もうすこし、撫でてていいわよ」

エリ「……え?」

紬「撫でたいんでしょ?」

エリ「う、うん」

エリは再び、紬を撫でた。

何故か、紬の頬が緩んだ。

エリの手のひらの温かさを、感じていた。

紬「エリちゃん、撫でるのうまいわね」

エリ「ほめ言葉?」

紬「ええ!」

エリ「えへへ、ありがと」

エリは微笑んだ。


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以来、紬とエリの仲は、良くなっていった。

エリ「琴吹さんって、下の名前はムギっていうの?」

紬「ううん。あれはあだ名。本名は紬、よ」

エリ「つむぎ、かぁ。何か幻想的な名前」

紬「えへ、そんなことないわ」

エリ「ううん。だって、私なんてエリだよ。何にも特徴がない」

紬「苗字がかっこいいじゃない」

エリ「え、そ、そう?」

紬「ええ」

エリ「そんなこと言われたの初めてだなー」

紬「あ、そうそう。電話番号教えてよ、携帯の」

エリ「あ、うん。いいよ」

エリ「ついでに、メルアドも。はい、これ」

紬「ありがと、エリちゃん」

紬の純度100%の笑顔に、エリは一瞬目を奪われた。

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休日!

prrrr prrrr

エリ「紬ちゃん、ショッピングに行こうよ!」

紬『ショッピング?』

エリ「うん、とても楽しいよ!」

紬『……行く』



街中!

紬「エリちゃん、どこに行くの?」

エリ「お洋服屋さん」

紬「あ、あの『しまくろ』って店?」

エリ「うん」



しまくろ店内。

紬「エリちゃんエリちゃん! この服素敵!」

エリ「わ、ホントだ。かわいぃー」

紬「買っちゃおうかしら」

エリ「えー、全部見て回ってからにしようよ」

紬「それもそうね」

エリ「じゃあ、私、ジーンズ欲しいんだ。向こうのジーンズ売り場行こうよ!」

紬「ええ」



買い物終了後!

エリ「たくさん買っちゃったね」

紬「ええ。お店の中に何時間もいちゃったしね」

エリ「なんか、お腹すいちゃった。どっかで何か食べてこうよ」

紬「じゃ、じゃあ、あのコロンボって喫茶店で軽食でもとっていかない?」

エリ「いいね。行こう!」


コロンボ店内

エリ「紬ちゃん、何食べるの?」

紬「私はチョコパフェで」

エリ「私はガトーショコラ!」

店員「かしこまりました」



数分後

店員「お待たせいたしました」

という決め科白と共に、ショコラとパフェが運ばれてくる。

紬「わあ、美味しそう! 食べましょ!」

エリ「うん!」

紬は一口ごとに、至福の笑みを浮かべながら、パフェを食べていく。

エリ(美味しそう……)

エリ(食べてみたいな、チョコパフェ)

エリ「ね、パフェ、私にも一口頂戴?」

紬「いいわよ。はい、あーん」

紬はパフェをスプーンですくって、エリの口に近づける。

エリ「え?」

紬「あーんして? 食べさせてあげるから」

エリ「う、うん」

エリ「あーん」

紬「はい、投入~」

エリの口に、パフェを運ぶ。

ムグムグ エリ「すごく、美味しい…」 ムグムグ

紬「でしょ?」

エリ「私も食べさせてあげる! このショコラ!」

紬「本当?」

エリ「うん! だから、あーんして」

紬「うん。はい、あーん」

エリはショコラケーキの一片を、紬の口の中にゆっくりと入れた。

エリ「どう?」

紬「甘くて……とろけそう」

紬は恍惚とした笑みを浮かべた。

エリはつい、ドキッとしてしまった。



食事終了後!

紬「もう4時…、帰る?」

エリ「うん。そうしよっかー」

二人は並んで帰路に着く。

エリ「あ、そうだ!」

紬「ん? なあに?」

エリ「――ねえ、手、繋がない?」

紬「え?」

エリ「駄目?」

懇願するように、紬を見る。

紬「いいわよ。繋ぎましょうか」

エリ「やった!」

エリは紬の手を握る。

エリ「紬ちゃんの手、暖かいね。お母さんみたい」

エリ「やわらかくて、気持ちいい……」

紬「……うれしいわ」

エリ「こうやって、手を繋いでるとさ」

紬「うん」

エリ「カップルに見えるかな?」

紬「そう、見られたい?」

紬は、小悪魔的な笑みを浮かべた。

エリ「……すこし」

その言葉を聴いた紬は、すこし頬を赤くして。

エリの手を、強く握り締めた。

紬「私もすこし、カップルに見られたいかな」

エリ「え?」

紬「ううん。何でもない」



ある日の放課後!

紬「エリちゃん! 一緒に帰りましょう!」

と、紬が唐突に提案してきた。

エリ「え、軽音部は?」

紬「今日は休みなのよ~」

本当は、ある。

だけどそれ以上に、エリと一緒にいたかった。

エリ「ふうん。じゃあ、一緒に帰ろうか」

紬「うん!」

自然と、エリが紬の手をつかんだ。



帰り道!

紬「そう言えば、エリちゃんはどこの大学行くの?」

エリ「私? 早稲田かな。家からも近いし」

紬「へえ。頭いいのね」

エリ「へへ。紬ちゃんは?」

紬「私は――」

N女大、と言おうとした。

しかし、早稲田より偏差値の低いその学校の名を、言うことが出来なかった。言いたくなかった。

紬の小さなプライドが、N女大、と言うことを拒んだ。

紬「――私も、早稲田かな」

嘘をついた。

エリ「本当!? 私と一緒じゃん!」

嘘は、ばれていないようだった。

紬「え、ええ」

エリ「ね、大学でも、仲よくしようね!」

紬「え?」

エリ「だって、同じ大学志望でしょ」

紬「そ、そうね」

エリ「大学でも、それからも――ずっと、友達でいたいな」

紬「……大丈夫よ」

エリ「へ?」

紬「――私たちは、もう立派な『親友』だから」

言うのはすこし、気恥ずかしかった。

すこし暖かい秋の風が、二人の間を吹きぬけていった。

エリ「もしも」

紬「? 何?」

エリ「もしも、私が落ちても……親友かな?」

紬「もちろんよ」

エリ「……ありがと」

紬「ねえ、エリちゃん」

エリ「ん?」

紬「私が、エリちゃんのこと好きだって言ったら、どうする?」

エリ「――へ」

エリは驚いたような声を漏らした。

紬「え、あああ、何でもないわ。忘れて」

紬(心の声が口に出てたああああ!)

エリ「OK、するかな」

紬「――へ」

今度は、紬が驚く番だった。

エリ「私も何でもないよ。忘れて」

紬「え、あ、うん」

エリ「あのさ、そういえば――」

そうして二人は談笑を再会する。

秋晴れの空が、見下ろしていた
                               終わり



最終更新:2010年09月18日 21:03