私、
中野梓には友達がいる。
一人は
平沢憂。
運動も勉強も何でもできる。
姉である唯先輩を心から愛している優しい子。
そしてもう一人は
鈴木純。
マイペースなお調子者。
だけど根はとてもいいやつ。
なんだかんだで離れられない仲である。
仲良くなってから少し経ったある日
純「あーずーさー」
梓「どうしたの?」
純「宿題おわんなーい!」
梓「そっか、それは大変だね。」
純「もー!冷たいなー!」
梓「自分の宿題は自分で終わらせないとだめだよ…?」
純「おりこうさんめー…」
純「そうだ、梓ん家行ってもいい?」
梓「手伝ってもらおうってこと…?うちの親は二人とも帰り遅くなるから構わないけど。」
純「ありがとー!憂も誘うか。おーい憂ー」
憂「なに?」
純「梓ん家で一緒に宿題やろ?」
憂「いいよ。お姉ちゃんは軽音部の皆さんと外で夕食を食べてくるみたいだし。」
純「よし、けってーい!」
梓「あがって。」
憂「こんばんは。」
純「おじゃましまーす。」
梓「夕飯はどうするの?」
憂「あるもので私が作るよ。」
梓「いいの?」
憂「大丈夫。私の日課だから。」
夕食
憂「できたよ。」
純「す、すごい…」
梓「家の乏しい食材でこんなものを作り上げるとはっ…」
純「私は憂が欲しい!結婚しよう!」
梓「こら!」
純「冗談冗談。」
梓「まったく…でもほぼ毎日憂の手料理を食べてる唯先輩がうらやましいな…」
憂「そんなことないよ。梓ちゃんのお母さんのご飯もきっと私なんかのよりもおいしいと思うよ?」
憂「それに私だってまだまだだし…一人じゃ何もできないし…」
梓の部屋
純「それじゃあ宿題に取り掛かりますか。」
憂「うん。」
30分後
純「あーだるい。」
梓「早っ!?」
純「だって私って結構飽きっぽいしー」
梓「自分で言うな。」
憂「気分転換に音楽でも聴いてみたら?」
純「それがいい!」
梓「何か聴きたい曲はある?」
純「梓に任せる。」
梓「それじゃあこれ。」
~♪~♪
純「これって一昔前のあのバンドの?」
憂「梓ちゃんのお気に入りなの?」
梓「うん、ちょっとね。」
私、中野梓には友達がいなかった。
小学校時代
もともと人と話すのが苦手だった私はいつも男子によるイジメの標的にされていた。
ちょっと体重が増えただけでデブと呼ばれた。
髪形からはゴキブリというあだ名をつけられた。
この髪形が嫌いになってハサミで切り落とそうとしたこともあったが、お母さんが私を優しく宥めてくれたので、それ以降は文句も言わなかった。
女子は私を庇ってくれるものの、私と本当の友達になろうとする者はいなかった。
そんな私は9歳の頃からギタ―にはまっていった。
中学校
イジメは受ける事は少なくなったが、友達と呼べる友達も少なかった。
一応一緒に高校に合格した子もいたが、繋がりといえば中学が同じだけだった。
そんな私の心を癒してくれたのがお父さんが買ってくれたバンドのCDだった。
つらいことがあった時にはいつも聴いていた。
そしてまた明日も頑張ろうという気持ちになれた。
高校に合格できた私だが、やはり積極的になれない。
この桜が丘高校でも私なんかと友達になろうとする人なんていないだろう。
そう確信していた。
下駄箱で憂に話しかけられるまでは。
それから私は軽音部に入り、個性豊かな先輩たちと出会った。
いつもはあまり練習しないけど、やるときにはやる。
とても尊敬できる先輩たち。
ベースの澪先輩。
部長でドラムの律先輩。
キーボードのムギ先輩。
そして私と同じギターの唯先輩。
唯先輩には「あずにゃん」というあだ名までつけられた。
最初は嫌だったが今では結構気に入っている。
私にとって軽音部、放課後ティータイムはかけがえのない存在となった。
そして純とは憂のつながりで知り合った。
最初は面倒くさい人だと思った。
だが、一緒にいるうちに自然とお互いのことが理解できた。
楽器のこと、バンドのこと、いろんなこと。
憂も交えて会話が弾んだ。
友達とはこういうものだということを強く実感できた。
あの頃の私が今の私を見たらきっと驚くだろう。
だって、今の私には当たり前のように友達がいるのだから。
純「梓?どーしたの?」
梓「あ、ううん。なんでもない。」
憂「早く宿題終わらせちゃお?」
純「あ、ここわかんない。」
憂「そこはこうやって…」
梓「ふふっ。」
私はこのありふれた日常をこれからも大切にしていきたい。
夏合宿が近づいてきたある日
唯「じゃんじゃーん!」
律「唯はほんと天才だよなーギターもあっという間に上達したし。」
澪「軽い音楽と思って入部しに来たのが嘘みたいだな。」
梓「~♪~♪…!!なんでここを間違えるの…!」
律「どうした梓ー。調子悪いのか?」
紬「とりあえずお茶にしましょ?」
梓「私はまだいいです。ここを成功させてからにします。」
律「あらら。」
唯「あずにゃーん、リラックスリラックスー。」ギュッ
梓「わっ、なんですか!?やめてください!」
唯「うわぁ!?」
澪「おい梓…」
梓「だいたい唯先輩は音楽を舐めています!」
梓「最初は自分でも簡単にできるとか思っていたくせに、先輩のくせに私に教えられる立場だったのに、才能で小さい時から努力していた私を追い抜いて…」
唯「あずにゃん怒ってる…」
紬「ちょっと梓ちゃん、そんな言い方はないでしょ?」
梓「才能に満ち溢れた先輩たちがうらやましいですよ!」
パンッ!
梓「!?」
澪「いい加減にしろ!唯に謝れ!」
澪「唯だって最初は軽い気持ちだったかもしれない。だけど今はギ―太や音楽を愛する立派なミュージシャンなんだ。」
律「そうだ、私らだってさ、一緒に音楽やって武道館行きたい。なんて軽い気持ちで始めたんだぞ?澪なんか最初は文芸部に入る!なんて言ってここに入るの嫌がっていたんだ。でも今はここにいる。それでいいんじゃないか?」
紬「梓ちゃん…いったんお茶にして落ち着きましょ?」
梓「…いりません。私もう帰りますから!」
唯「あずにゃん…?」
紬「梓ちゃんの分のお菓子は?」
梓「食いしん坊の唯先輩が勝手に食べればいいじゃないですか!」バタン
唯「行っちゃった…」
律「こりゃ落ち着くまで様子見だな。」
澪「いきなり平手打ちなんて私もつい熱くなっちゃったかな…」
紬「梓ちゃん…」
ガチャ
和「ちょっと律!…って何があったの?」
廊下
梓「(先輩たちは何も悪くないのに、自分勝手に嫉妬して八つ当たりなんて…)」
ゴンッ
?「あいたっ!」
梓「ごめんなさい!って純?」
純「どうしたの梓ー?いきなりぶつかってくるなんて。」
梓「これは…その…純はジャズ研、どうしたの?」
純「今日は早めに解散になってさ…なんかあるんなら私が話聞くよ?」
梓「う、うん。」
純「いったん場所変えよっか?」
梓「そうする…」
純「そっか、ケンカしちゃったのか。」
梓「唯先輩はうまく弾けるのに私は何度もミスしちゃって…ギターを始めて一年ちょっとなのに才能で私を追い抜いた唯先輩がうらやましくなって、八つ当たりして…」
純「なるほどね。」
梓「純のベースの腕も才能なの?純は軽い気持ちで音楽始めたの?」
純「才能か…私には縁のない言葉だね。」
梓「えっ?」
純「ジャズ研に厳しい先輩がいるのは知ってるよね?」
梓「うん、よく愚痴ってたね。」
純「私も同じとこばっか間違って、その先輩に何度も何度も怒られたよ。ベースやめようかって思ったこともあったな…自分には才能がないからとか言い訳してさ。」
梓「純がそんな悩みを抱えることもあったのか…意外にも。」
純「どういう意味かなー…でも必死に努力して何とか難しいパートをマスターした。そしたらその先輩がほめてくれて、更にはお昼をおごってくれたんだ。」
梓「結局その先輩は純のこと、可愛がっていたんだね。」
純「その時私は気づいた。重要なのは才能ではなく音楽に対する情熱と上達しようとする努力なんだって。それさえあれば誰でも音楽は楽しめるって。」
梓「…(もしかしたら先輩たちもこういう考えを持ってるのかな…)」
純「梓はちゃんと努力をしていて、音楽に対する情熱も持っている。それは私だけじゃなくて軽音部の先輩たちも知っているんじゃないかな?」
梓「うん…でも私、先輩たちにひどいことを…」
純「明日ちゃんと謝ろ?」
梓「わかった…純、私のために…ほんとにありがと…」グスッ
純「私や憂、それに先輩たちはいつまでも梓の味方だから。もし梓を馬鹿にするやつがいたら私が懲らしめてあげるよ!」
梓「うわぁぁぁ!!」ギュッ
純「よしよし、今は思いっきり泣いていいよ。」
さわ子「ふふっ、青春ね。」
最終更新:2010年09月22日 23:18