憂「どうしたの……?」
※
唯「卒業アルバムの写真のために前髪を切ろうとしたんだ」
憂「うん」
唯「そしたらくしゃみのやつにジャマされてね」
憂「う、うん」
唯「くしゃみして、うっかり前髪を切ってしまたのさ……マンガだろ?」
憂「お、お姉ちゃん……」
唯「前髪が半分になった私はモブにもおとる。だからもう主役をすることもできないし、憂のお姉ちゃんをやることもできない」
憂「そ、そんな……」
唯「ははは、おかしな話だよ。憂は髪型が変わっても私のコピーにしかならないのに」
唯「りっちゃんは前髪下ろしたらイケメンになるのに」
唯「あずにゃんも髪ストレートにしたらよりペロペロしたくなるのに」
唯「私は前髪をなくしたら魅力半減ってどういうこと?」
憂「そ、それは……」
唯「おそらく一ヶ月は、もとには戻らない。はは」
憂「お、お姉ちゃん……」
唯「私、密かに澪ちゃんの髪に懸念を抱いてたんだ」
憂「たしかに澪さんの髪は最近になって薄くなってるね」
唯「しかし結果はどうだよ」
憂「そ、それは」
唯「人の髪の毛心配してたらこれだよ。笑えるよね」
憂「あ、あははは」
唯「笑うな」
憂「あ、はは」
唯「笑うな」
憂「ごめんなさい」
憂「で、でも前髪がなくなったからって関係ないよ。お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ!」
唯「だから今の私はモブ以下なんだよ」
憂「それがなにか関係あるの?」
唯「妹をもてるのは主役だけなんだよ」
憂「そうなの?」
唯「うん」
憂「で、でもたかが一ヶ月ならいいんじゃない?」
唯「バカヤロー!」
憂「あぐうっ!」
唯「夏休みの一ヶ月間が受験生には勝負なんだよ」
憂「うん」
唯「さらに一ヶ月はアニメに換算すれば四話、韓国ドラマに言ってしまえば八話にもおよぶ」
憂「知らなかった」
唯「私も韓国ドラマについては澪ちゃんから聞いただけなんだけどね」
唯「それに私にこの前髪がなかったら……ああ」
憂「ま、まだなにかあるの?」
唯「私に前髪がなかったらエンディングの私(Lost.Ver)にもなれないし」
憂「ああ、あの色っぽいお姉ちゃんかあ。ところでLostって、なにをLostしてるの?」
唯「処女」
憂「処女?」
唯「あの顔はやっぱり大人の女の顔でしょ。いやあ、私もなんだかんだ言いつつ大人になるんだよね」
憂「待ってお姉ちゃん。お姉ちゃんは私と一緒に一生バージンロードを歩まなきゃダメだよ」
唯「なんで?」
憂「ファンが悲しむでしょ!」
唯「ふふん~♪」
憂「なんで耳栓するの?」
唯「これから豚がたくさん鳴くんでしょ?だからうるさくないようにと思って」
憂「ファンを豚言うな」
唯「だいたいバージンクイーンだって実際にはバージン守ってなかったんだからさ」
唯「私だっていつまでも守れるとは思えないよ」
憂「そんなことないよ。お姉ちゃんのバージンは私が守るよ」
唯「憂はむしろ私の貞操を危機に追い込むでしょ?」
憂「たしかに誰かに散らされるくらいなら……」
唯「まあそんな気にしないでよ」
唯「どうせ私が処女をなくしたころにはファンも私たちの記憶をなくしてるからさ」
憂「真理だね」
憂「でもお姉ちゃん、前髪ないとマヌケだね」
唯「うん。そう思うとりっちゃんは前髪あげてるのに素晴らしくカワイイと思うよ」
憂「お姉ちゃんも髪あげれば?」
唯「やめてくだせー(棒読み)」
憂「どうして?髪あげるのやなの?」
唯「おでこだけは勘弁してくだせー」
憂「ねえ、お姉ちゃん」
唯「なんだい、過去になりつつ妹よ」
憂「お姉ちゃん正直なところ前髪あげるのそんなにいやじゃないでしょ?」
唯「わかんないや。でも言われてみると……」
憂「だって考えてもみて。お姉ちゃん、幼稚園時代から髪あげてたよ」
唯「本当だね」
憂「それに高一のときの文化祭で焼きそば作ってるとき、おでこ全開だったよね?」
唯「……自分がよくわからないや」
憂「一貫性がないね」
唯「人間だもの」
憂「そうだね、人間だから好みも変わるよね」
唯「まあ監督がきちんと私を把握してなかっただけかも」
憂「文句言ってくる」
唯「ふ……干されるからやめとけ」
唯「ていうかなんで私、自分で前髪切ろうとしたんだろ?」
憂「梓ちゃんから聞いた話によると、美容院に行くと前髪を切られすぎるから、とのこと」
唯「憂……」
憂「なにお姉ちゃん」
唯「私って馬鹿なのかな」
憂「なにが?」
唯「そんなの少し切ってと言えばすむ話だよね」
憂「そうだね」
唯「そもそも美容院さんは素人が髪切っていじるの嫌うしね」
憂「本当にね。お姉ちゃん実は美容院じゃなくて床屋で髪切ってる?」
唯「はは、知ってる憂?床屋だと鼻毛まで切ってくれるんだよ。顔も剃ってくれるし」
唯「美容院だと、ストパーとかかてもらったりして4、5時間平気でかかるから床屋みたいにさらっと終わってくれたほうが気楽だよ」
憂「でもお姉ちゃん、美容院も行くでしょ?なんでわざわざ面倒な美容院に行くの?」
唯「お菓子とコーヒーが目当てで、ついね」
憂「お姉ちゃん。お菓子くらい買ってあげるよ?」
唯「はあ……あの頃はよかった」
唯「前髪があった頃は髪型決めるのが楽しくてしかたがなかったよ」
憂「鏡の前でなんかしてたね」
唯「あはーん、うふーんってね。ワックスもつけずによくもまああんなに髪型が変わったもんだよ」
憂「天パーだからかな」
唯「かなあ?まあなんでもいいけどね。はあ~」
憂「まあ今日は寝なよ」
唯「うん、そうする」
唯「次の日の朝。私はもしかしたら髪がもう伸びているのではという期待を抱いて目を覚ました」
唯「もちろんそんなことはなかった。憂鬱だ。メランコリ・オブ・
平沢唯」
憂「朝から独り言多いね」
唯「ライフラインがなくなったからね。今の私はなにを喋ってもいいんだよ」
憂「とりあえずご飯食べようね」
唯「はあ。髪のびないかな?」
憂「エッチな人は髪のびやすいんだって」
唯「処女捧げてくる」
憂「その前髪で誰が釣れるの?」
唯「…………ご飯、食べようか、憂」
憂「そうだね」
唯「学校行きたくないよ」
憂「卒業アルバムどうするの?」
唯「写りたくない」
憂「あとから公開するから学校行ったほうがいいって」
唯「今後悔するのとあとで後悔するのとなら、私はあとで後悔するのを選ぶよ」
憂「夏休みの宿題じゃないんだから引き伸ばさなくてもいいよ」
憂「ほら、朝ごはん早く食べちゃって」
唯「憂、私はとんでもないことに気づいたよ」
憂「早く食べて」
唯「ぱくっ、もぐもぐ……あのね、私はとんでもないことに気づいたんだけどさ」
憂「早く食べ終わって」
唯「もぐもぐ、もぐもぐ……でね、憂。これがかなり重要なんだけど」
憂「早くごちそうさまして」
唯「ごちそうさま」
憂「おそまつさまでした」
唯「でね、憂」
憂「学校行く準備して」
唯「ふっ……前髪がなくなったら心なしか妹が厳しいぜ」
唯「私と憂は今現在登校中である」
唯「朝から妙に冷たい妹に話しかけるべきかどうか迷っている最中だ」
唯「私は恐る恐る妹に話しかけた」
唯「ねえ、憂」
憂「普通に話しかけてほしいんだけど」
唯「私はね、とんどもなく重要なことに気づいたのだよ」
憂「なにに気づいたの?」
唯「聞きたい聞きたい?」
憂「早く言って」
唯「はい」
唯「憂は文化祭で私が木の役をしてたのは知ってるよね」
憂「あの意味のない役だよね」
唯「いったいあれはなんなんだろうねとは私も前から思ってたけど、意味がないとか言わないで」
憂「それで?」
唯「私があの木(Gの役)やってるとき、くしゃみしそうになったのは覚えてる?」
憂「すごくいい顔してたね」
唯「あとでさわちゃんに映像見せてもらったら死にたくなったよ」
憂「私も写メしたけど見る」
唯「やめろ」
憂「で、それがどうしたの?」
唯「おそらくあれは伏線だったんだよ」
憂「伏線?」
唯「そう。私がくしゃみをして前髪をバッサリやっちゃうっていうね」
憂「くだらないと思うけど、言われてみるとお姉ちゃんってやたらくしゃみしてるよね」
唯「やたら鼻水たらすしね」
憂「私が風邪を引いても鼻水垂らさなかったもんね」
唯「私なんか毎回誰かにティッシュでふー、してもってるよ」
憂「で、結局伏線ってそれだけ?」
唯「それだけ」
憂「さ、早く学校行くよ」
唯「そうだね」
唯「こちら平沢。現在三年二組に潜伏している。時刻は、一一三七」
唯「一応タオルで身を隠しているもののいつまで持ちこたえられるかわからない」
唯「……おい、聞いているのか」
唯「どうした衛生兵!?おい!」
唯「くっ……ここまでか」
律「お、唯なにしてんの?ていうかタオル外せよ」
唯「あう~」
律「もしかしてまだ前髪を気にしてんのか?」
唯「ええ、そのとおりでございます」
紬「そんなに気にしなくても大丈夫よ。唯ちゃんカワイイから」
唯「そ、そうかな?」
澪「私が言うのもなんだけどきっと大丈夫だよ」
唯「だよねー?」
律「うんうん、問題ない」
和「なんの話してるの?」
唯「あ、和ちゃん」
唯「実は昨日うっかり前髪を切り落としてね……ご覧のとおりです」
和「…………」
最終更新:2010年09月23日 21:58