「唯先輩は憂のことただの妹だっていってたよ」
それを聞いた瞬間、体中がしめつけられるようだった……
もちろん私達は姉妹、だけどそんな風におねえちゃんに言われるのは何故だか辛い。
理由はわからないけど、涙が止まらない。
いや、理由はわかっている。私はおねえちゃんが好きなんだ
なるべく意識しないようにしていたけど、おねえちゃんに感じるこの感情はやはり家族関係以上のものだろう
ただの姉妹宣言、それをされただけなのにこうも辛いのは私がおねえちゃんに期待をしていたからだろうか
考えてみれば当然だ、姉妹愛なんて異常なのだ。
おねえちゃんは昔から中のいい姉妹くらいにしか思っていない。
「こんな時に言うのもあれだけどさ……憂、好きだよ」
「梓ちゃん……でも私……」
「憂、それ以上言わないで。私なら憂にこんな辛い思いをさせたりしないよ」
この苦しさを癒してくれるならこの子猫に甘えてしまうのもいいかもしれない
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そうして私と梓ちゃんの交際は始まった
私たちはけいおん部公認のカップル?らしく先輩たちもやさしく見守ってくれた
おねえちゃんも今まで通りだった
今まで通り
そう。つまり私はおねえちゃんにとって、誰と交際しようが構わない程度の存在だったってことだ
「憂、それおいしい?」
「……」
「憂、ねぇ憂!」
「あ、ご、ごめん梓ちゃん。なんだっけ?」
「……別にいーよ」
「ちょっとぼーっとしちゃって、ね?ごめんね」
「そんなに詰まらなそうだと誘ったこっちが申し訳なくなってくるよ……」
「そ、そんなことないよ!日曜日に梓ちゃんとデートに誘われた時は嬉しかったよ。それで昨日眠れなくてね」
「それならいいけど……」
「憂っていつも上の空だよね」
「………」
「また唯先輩の事考えてたんでしょ?」
「……違うよ」
「違わないよ」
「ごめんね」
「謝らないでよ。それに最初からわかってたし」
「だから私が忘れさせてあげる」
「じゃあ会計すませて私の家行こう?」
「いいけど……んっ」
急に首筋に口付けされて声が漏れてしまう
「ちょ、ちょっと梓ちゃん!こんなとこでやめてよ」
「ほんと憂って反応が可愛いよね。ほら早く帰って続きシよ?」
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「おねえちゃん……」
先に眠ってしまった梓ちゃんを抱くようにベッドに寝ているとまた姉の事を思い出してしまう
梓ちゃんとはデートのつど体を重ねるようになった
確かに梓ちゃんは可愛いし、行為だって夢中になるほどだ
でも残るのは事後の後悔
※
梓「じゃあ、ほんとにいいんですか?」
唯「……うん」
そうとしか言えないよ、そんなの。
梓「あ、ありがとうございます」
お礼なんていらないんだ。
本音をここで出せるなら、やめてほしかった。
唯「……がんばってね」
梓「はい!」
ぼーっとしたまま、帰り道。
昨日は憂がいたけれど、今はいない。
あはは、憂、あずにゃんに告白されちゃうんだって。
唯「憂、かわいいもんね」
帰る足取りはなぜだか重く、憂のことを考えると胸が苦しかった。
この気持ちは、なんでもない。
焦りとかそういうのじゃなくて、ただ憂のことを心配する気持ち。それだけ。
家に帰ると、憂が迎えてくれた。
憂「おかえり」
やっぱり、胸が熱くて苦しくなる。
唯「ただいま」
でもわたしには、あずにゃんを邪魔することなんてできないから、頑張っていつも通りを振舞った。
憂「……じゃ、着替えてきてね」
憂の顔は、なんだか沈んでいた。
唯「……うん」
なんでかな、でも。
わたしには声をかけられない。
階段を登って、部屋の明かりをつけた。
着替えてリビングに降りると、憂はうつむいていた。
憂「あ、ご飯いま盛るからね」
どんなことがあったかなんて、わたしには尋ねられない。
だって、知りたくないから。
聞いてしまったら、聞きたくないことを言われてしまいそうで、怖かった。
憂「……あのね、お姉ちゃん」
でも、憂からわたしに声をかけた。
唯「なあに?」
憂「あ、梓ちゃんがね」
あずにゃん。
その言葉を聞いて心臓が飛び出しそうになるけれど、まだなにも言っていない。落ち着かなきゃ。
唯「うん」
憂「わたしに、大事な話があるんだって」
ひょっとしたら、憂はもうわかってるのかな。
わたしがそのことを知ってることも。……わたしの想いも。
唯「そっか」
憂がわたしに話すのはなんでだろう。
憂「……うん」
憂がわたしに聞いてほしいからでしょ。なにしてるのわたし。
唯「……じゃあ、ご飯にしよ」
聞いてあげなきゃ。
わかってるよ。わかってるけど……
憂「……」
なにしてるんだ。わたし。
憂「お、お姉ちゃん」
唯「ん?」
知らんぷりなんて、たちが悪い。
こんな人間だから、いやになるんだ。
憂「……どう思うかな」
そうだよ、憂は分かってるんだ。あずにゃんに告白されること。
唯「……どうして?」
どうして?
憂「え?」
唯「わたしに聞くの?」
そんなこと言っちゃうの?
憂「……そうだよね」
お願い、そんな顔しないで。
唯「……」
憂「わたしのことだもんね……」
そうだよ、憂が自分のことを言ってくれたんでしょ。
憂「ごめんね、変なこと言って」
なんで?
唯「ううん」
なんで自分の気持ちを言わないの?
……ううん。言うことができなかったんだ。憂と離れるのに怯えて。
わかってるのにね、自分の気持ち。
憂「……」
憂はまたうつむいて、なにもしゃべらない。
ひょっとしたら、今しかないのかもしれない。
わたしのこの気持ち、伝えるには。
唯「……」
でも、口からはなにも出てこないんだ。
臆病者で、卑怯なわたしだから。
憂「……お姉ちゃん、あのね」
憂がまた口を開く。
憂「わたし……」
だめだよ、なにを言おうとしてるの。
憂「お姉ちゃんのこと……」
だめ、だめだよ!憂がそんなこと言ったら……
唯「やめて!」
憂「!」
唯「だめだよ……」
今度は憂の気持ちまで無下にして、わたしはなにがしたいんだろう。せっかく言おうとしてくれたのに。
憂「……あはは、そうだね。なに言ってるんだろ」
唯「……」
憂がたぶんいっぱい勇気を出して言ってくれようとしたのにね。
わたしだって、言いたかったくせに。
憂「じゃあ、部屋戻るね」
自分からは言えないくせに、人が言うのは憚ることができるのかな、わたしは。
勝手すぎて、悲しいよ。
だったら、止めなきゃ。
唯「……」
憂がどっか遠くに行ってしまう気がしたけれど、またなにもしなかった。
もし憂の言葉を聞いていたら、どうなったかな。
やっぱりこんな自分とじゃ憂に失礼だって、断っただろうな。……はは、結局だめだ。
だから結局、全部自分のせい。
「ありがとね、お姉ちゃん」
最後に憂にそう言わせたのも、わたしのせい。
それを気のせいにしたのも、わたしのせいなんだ。
最終更新:2010年09月24日 00:51