お昼休み
純「ねえ、唯先輩のどこがいいの?」
憂「え? どこって……全部、かな」
純「具体的には?」
憂「まずあの天使みたいな顔だよね。幻想的で、思い出すたび胸がほわゎぁってなるの」
憂「あの肉つきのいい体! 将来絶対良いお母さんになれるし」
憂「ひたむきで、前向きで、明るくて、何より綺麗で」
憂「――私の憧れなんだよ」
純「……ふーん」
憂「あれ? どうしたの? 純ちゃん」
純「あ、いや、何でも」
純(憧れ、かぁ……)
純(私も憂に、そう思われたいな……)
梓「何の話してるの?」
純「あ、梓。購買で何買って来たの?」
梓「チョコロールパンと、イチゴジャムパン」
純「チョコの方、一口分けてー」
梓「えぇー、やだよー」
純「ぶーぶー、けちー」
梓「はいはい、一口だけね……。それで、何の話してたの?」
憂「純ちゃんが、お姉ちゃんのどこがいいかって聞いてきたんだよ」
梓「憂は何て答えたの?」
憂「全部」
梓「憂らしいわ……」
憂「純ちゃんったら、変な質問してくるからびっくりしたよー」
純「い、いいでしょ、別に」
梓「あれ? もしかして、唯先輩に嫉妬してるの?」
純「え?」
梓「憂に慕われてる唯先輩が、うらやましいなーって、思ってるんじゃないの?」
純「ま、まさか!」
純「そんなわけないじゃん!」
梓「だよねー」
憂「……なんか、遠まわしに嫌味を言われた気がするよ」
梓「気のせい、気のせい」
梓「そういえばさ、唯先輩以外に好きになった人っているの?」
憂「私? 私は……うーん、お姉ちゃんしかいないなぁ」
梓「もう、ぞっこんなんだねー」
憂「えへへ」
純「でもさ、何でそんなに唯先輩が好きなの?」
憂「うーんと、やっぱ、生まれてから今の今までずーっと一緒だったからかな」
純「ずっと、一緒かぁ」
純(いいなぁ。憂と一緒にいられるなんて)
純(憂のお姉ちゃんに産まれたかったなぁ)
純(もしかしたら……)
純(……私も憂と、一緒にいたら、憂は振り向いてくれるかな)
純(……実践してみよう)
放課後!
純「憂ー、一緒に帰ろー」
憂「うん、いいよ。でも部活は?」
純「たまにはサボってもいいかなーって」
憂「えー、出た方がいいんじゃない?」
純「でもなー、たまには息抜きみたいな日も欲しいわけですよ、私は」
憂「ふぅん。まあいいや。一緒に帰るよ」
純「ありがと、憂」
街中!
純「あー、やっと学校終わったー」
憂「うん。疲れたね」
純「まぁ、テストはこの前終わったばっかだから、多少は楽なんだろうけど」
憂「あ、テストといえばさ、化学Ⅱ何点だった?」
純「化学Ⅱ? 50点そこら」
憂「え? 平均点以下じゃない?」
純「私の答案用紙は大体が平均以下だよ。憂は何点?」
憂「うーん、83点」
純「へぇ! すごいじゃん!」
憂「えへへ」
純「憂って理系の大学を志望してたっけ?」
憂「私? 私はN女だよー。お姉ちゃんが理系学科いくから、理系になろうとしてるんだ」
純「へぇー。お姉ちゃんラブなんだね」
憂「うん。お姉ちゃんのためなら、命を落としても惜しくないんだ」
純「それは、ちょっとどうかと思うけど……」
純(でも、いいな……)
純(憂にこんなに思われて、唯先輩が羨ましい)
純(憂とは中学のころから一緒だったのに……)
純(私のことなんか、一度も見てくれない……)
純(憂らしいって言えば、それまでなんだけどね)
憂「? 純ちゃん、どうしたの? だまりこくっちゃって」
純「うぅん! なんでもない。あ――そうだ、何か食べてかない?」
憂「え? 寄り道?」
純「うん。あ、あそこの喫茶店なんかどうかな」
憂「『ラ・クールパレット』……変わった店名」
純「ま、店名は置いといてさ、何か食べようよ。いや、軽くお茶するくらいでいいしさ」
憂「うん。たまにはいいかも」
純「よし、じゃあ決まりだね。行こう!」
ラ・クールパレット店内
純「あの窓側の席に座らない?」
憂「うん。そうしよっか」
二人は席に向かう。窓からは街路樹をはじめ、バス停やコンビ二やビルが見えた。
店員「ご注文はお決まりでしょうか」
純「何にするー?」
憂「うーんと、私はレモンティーで」
純「じゃ、私もそれで」
店員「かしこまりました」
純「ねえ、憂」
憂「んー?」
純「唯先輩と私、どっちが好き?」
憂「もちろん、お姉ちゃんだよ!」
純「………………」
純「ま、そうだよね」
憂「あ、純ちゃんも好きだよ。でもね、お姉ちゃんは特別って言うか……」
憂「恋人になって欲しいなって思える人なの」
純「そっか」
純(…………どうやったら)
純(どうやったら、憂は私のことを見てくれるかな)
憂「ねぇ、純ちゃんは好きな人いるの?」
純「え? 私は――いるよ」
憂「へぇ? どんな人?」
憂のその問いに、若干戸惑った。
純(憂だよ)
純(とは言えないなぁ)
純「とーっても優しくてね。綺麗で、ぎゅーって抱きしめたくなるの」
憂「ふぅん」
純「結構昔から、知り合いなんだけどね」
憂「ずっと、気づいてもらえないんだ?」
純「うん」
純「鈍感なんだよね」
憂が大変だね、と言うと同時。
店員「お待たせしました」
二人の前に、レモンティーが置かれた。
純「久々に紅茶なんて飲むなぁ」
憂「家とかであまり飲まないの?」
純「うん。私はコーラとかの方が好きだし」
憂「え? じゃあコーラ頼めばよかったんじゃ?」
純「やだよー。憂が紅茶なのに、私がコーラって、なんか子供っぽさがにじみでるじゃん」
憂「そうかな?」
純「そうだよ」
憂は紅茶を飲む。
憂「美味しい。私、レモンティーが一番好きなんだ」
純「どして?」
憂「甘酸っぱさっていうの? それが体に染み渡るんだよね」
純「ふーん」
純は試しに飲んでみる。
すこし熱い。
純「うーん、よくわからないや」
憂「残念。でも、何回か飲んでるとわかるようになるよ」
純「じゃあ、今度から積極的に飲んでみよっと」
憂「なんか、他人と好きなものを共有できるってうれしいな」
純「え? そう?」
憂「うん」
純「そういうものかぁ」
純はふと、窓から外を眺める。12月の街の景色はどこかあわただしく見える。
純「もう、冬だね」
憂「うん。早いよね、来年は三年生だよ」
純「また、一緒のクラスになれるかな?」
憂「うん。きっと」
純「梓とも、一緒になりたいなー。同じ班で、修学旅行行くの」
憂「いいね! それ」
純「でしょ。あ、でもなー、受験生になっちゃうのか」
憂「……それに、お姉ちゃんも大学行っちゃうしなぁ」
純「唯先輩って、大学行ったら一人暮らしするの?」
憂「うん。本人はそう言ってるよ」
純「寂しい?」
憂「……すこし」
純「じゃあさ、唯先輩がいない間、私が憂の家に泊まりこんであげようか?」
憂「え、いいの?」
純「いいよ。憂のためだもの」
憂「ありがとう、うれしいよ」
純「それに、私もね」
憂「え、何?」
純「私も、憂のためなら命を投げ出したってかまわないんだ」
憂「――へ?」
純「なんでもない。忘れて」
憂「う、うん」
純「そろそろ、出よっか」
憂「え、うん。そうしよう」
純は領収書を手に取る。
純「じゃ、私がおごるよ」
憂「え? いいの?」
純「いいって。気にしないで」
それに、と純は続ける。
純「私が誘ったんだし」
憂「……ありがと、純ちゃん」
純はレモンティーを飲み干した。
甘酸っぱさを感じた。
街中!
憂「今何時?」
純「うーんと、5時かな」
憂「あ、お姉ちゃんのご飯作らないと」
純「そっかー、じゃあ、明日また学校でー」
憂「うん。ばいばい」
純「ばいばいー」
やがて憂の後姿が、群衆にまぎれて見えなくなる。
純(私も帰ろうかな)
純(あーあ、もう少し遊びたかったな)
純(…………いいなぁ、唯先輩。憂にあんなに、惚れられて)
純(私もいつか、あんなふうに……)
純の頬を撫でる木枯らしは、いやに冷たかった。
翌日、朝
学校
純「お早う、梓」
梓「お早うー純」
純「憂は?」
梓「まだ来てないみたい」
純「そっか」
梓「昨日憂と一緒に帰ったんだって?」
純「うん。憂から聞いたの?」
梓「そう。夜、憂からメール来たんだ」
梓「楽しかったって書いてたよ」
純「そっか」
純の顔が綻ぶ。
梓「ラブラブですなぁ」
冷やかすように、梓が茶々を入れる。
純「ま、まだそんなんじゃないし!」
梓「まだってことは、いつかは付き合いたいって思ってるのね」
純「うぐ」
梓「図星か」
純「ま、まぁね。憂とは中学校のころから一緒だったんだし」
純「……仲良くなって、それ以上の感情を抱くのも、当然だと思うけど」
梓「ふーん」
純「それに、あんな可愛い子に恋しないほうがおかしいわ」
梓「じゃあ、私はかなり異端ね」
純「え? 好きじゃないの?」
梓「もちろん。友達としか感じられないし」
純(私も、憂からは友達としか感じられてないんだろうな……)
純(…………はぁ)
最終更新:2010年09月24日 22:35