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冬休みも終わり、いよいよ私達三年生は卒業を控えていた。

この時期になると、周囲の雰囲気も受験を意識したものになり、それは私達けいおん部も例外ではなかった。

律「ムギー、ここの問題なんだけどさぁ・・・」

紬「えっと、これは・・・」

りっちゃんや唯ちゃんは最近、休み時間も問題と格闘する毎日だ。

というのも、二人には行きたい大学があるのだ。

澪ちゃんの推薦入学が決まっている大学だ。

私も二人の勉強をサポートしている為、最近は部室にあまり行けてない。

梓ちゃんにはきっと寂しい思いをさせてしまってるだろう。


律「しっかし、驚いたよなー。澪があんな有名大学から推薦もらうなんて」

紬「澪ちゃんは成績も良いし、けいおん部の活動も評価されたみたいね」

律「チクショー!部長はあたしなのにー!絶対受かって見返してやるー!」

澪ちゃんの推薦入学の話を聞いたりっちゃんは、澪ちゃんを見返すためにと猛勉強を始めた。

すると唯ちゃんも、それなら私も一緒の大学がいいと言い出し、りっちゃんと同じ大学を目指し始めた。


律「まぁ、いくら勉強しても、さすがにムギの大学には、行けないよなぁ・・・」

実は私自身もとある有名女子大から推薦入学の話が来ていた。


紬「卒業しちゃうと私はみんなとお別れね・・・・・・寂しいわ・・・」

律「ま、お別れっつっても学校が別々になるだけで会えないわけじゃないけどな」

紬「・・・」

私はみんなに一つ嘘をついていた。

推薦入学の話が来ていたのは本当だ。

でも、実は私はそれを辞退していた。



私は、海外留学することが決まっていたのだ。


家の方針で、私は高校卒業後、イギリスに帝王学を学びに行くことになった。

もちろん、初めは反対した。

でも、私は琴吹グループ社長の一人娘。

我が儘なんて言ったら、どれだけの人に迷惑がかかるかも知っていた。

そのことを考えたら、私に反対する余地は、もう無かった。

紬「・・・・・・本当に、お別れなのかしら・・・」

律「え?何か言った?」

紬「・・・ううん、何でもないわ」

唯「りっちゃんりっちゃん、さっきの問題分かったよー」

先生に質問をしに職員室に行っていた唯ちゃんが帰ってきた。

唯ちゃんは勉強をすればとても出来るタイプだ。

最近の唯ちゃんの成績の向上には誰もが驚いている。

律「おー、こっちもムギに聞いたらわかったぜー」

りっちゃんだって確実に成績は伸びてきている。

きっとこの二人なら、合格できるだろうな。

律「はー、先が見えない戦いは辛いなー」

唯「うぅ~、部室でお菓子食べたいよ~」

紬「今日はダメよ。ちゃんと分かったところを復習しなきゃ」

私だって部室でみんなとお茶したいけど、二人のためだから仕方ない。

以前は部室で勉強していた時期もあったけど、イマイチ集中できないので今は教室を利用している。

でも、最近は本当にみんな一緒に顔をあわす機会がないな・・・。

律「しっかし、最近ホントにみんなと一緒に顔あわせてないよなー」

わっ、りっちゃんに心を読まれちゃった。

なんとなくだけど、嬉しかった。

律「梓ともあんまり会ってないし、明日あたりみんなで部室行くかぁ」

唯「さんせ~!ここんとこ勉強ばっかりで退屈だもんね!」

紬「・・・そうね、たまには息抜きしたほうがいいわね」

ガチャ

ちょうど澪ちゃんも教室に帰ってきた。

律「お、澪ちょうどよかった。明日だけどさぁ・・・」


私に残された時間は、少ない。


いつまでも隠し通せることではないのは分かっている。

でも、臆病な私には、みんなに打ち明ける勇気は、まだ無かった。


コンコン

家に帰り、一人部屋で考え事をしていると、ノック音が聞こえた。

父「紬・・・少しいいか?」

紬「はい、どうぞ、お父様」

父が扉を開け、部屋に入ってきた。

父「プライベートだから、普通の口調で構わんよ」

紬「・・・うん・・・わかったわ」

父「・・・まだお友達には言ってないのか」

紬「うん・・・」

父「そうか・・・」

少しの沈黙の後、父が再び口を開いた。

父「紬・・・どうしても、日本に残りたいか・・・?」

紬「・・・」

父「お前は、琴吹グループの一員である前に、私の大切な一人娘だ」

父「琴吹家の者は代々留学して実践を積むことになってるが・・・」

父「それでお前が不幸になるなら、私はそれを望まない」

紬「お父様・・・」


それは甘い誘い。

だって、私が日本に残りたいって言えば、私の望みは全て叶う。

これからも大切な仲間と一緒に過ごす事が出来る。

でも、ここで頷いてしまえば、きっとお父様に迷惑がかかる。

ううん、お父様だけじゃない。いろんな人に迷惑がかかってしまう。

紬「・・・・・・お父様」

紬「もう少し・・・もう少しだけ、考えさせてください・・・」

父「・・・紬・・・・・・すまない」

父は私に頭を下げた。

紬「お父様、やめて」

実の親に頭を下げられて気分が良いはずがない。

紬「悪いのは私。ごめんなさい。でも、もう少しだけ・・・時間がほしいの」

父「わかった・・・それじゃ」

父は私に目礼をし、部屋を出た。


一人になり、ベッドに横になると、いろいろな想いが頭の中をぐるぐるとかけ回った。

幼い頃に両親と遊んだ日々、お嬢様学校でのこと、そして三年間の高校生活―――

どれも大切な思い出だ。

でも、今の私は二兎を追うことは出来ない。

私はどうすればいいのだろう。

先ほどの父の誘いもあって、私の心は余計に渦巻いてしまっていた。

紬「みんな・・・・・・・・・」

考え事をしていたら、なんだか眠くなってきた。

もう、いいや。明日になったら・・・考えよう・・・。

・・・考えるのをやめたら、ほんの少しだけ、心が、楽になった、気がした。

こうして・・・・・・私はまた・・・・・・・・・嫌なこと・・・・・から・・・逃げ・・・て・・・・・・・・・


・・・・・・
・・・・
・・

「・・・ん・・・・・・」

目を覚ますと、見慣れた天井が目に入った。

まだ意識ははっきりしないが、外は微かに明るくなっていた。

時計を見ると午前7時前。

そっか、あのまま眠っちゃったんだ・・・。

昨日のことを思い出しつつ、私はふらふらとバスルームへ向かった。

紬「・・・今日は・・・みんなに言えるかしら・・・・・・」

独り言をつぶやくと同時に、その程度の心構えでは到底言えるわけないことも、分かっていた。




律「ムギ、おーっす!」

澪「あ、おはようムギ」

紬「おはよう、二人とも」

教室に入るとりっちゃんと澪ちゃんの二人がお喋りをしていた。

唯ちゃんはまだ来ていない。寝坊してなければいいけど。

そんなことを考えつつも、私は早く放課後が来ないかそわそわしていた。

久しぶりに部室でみんなとお茶が出来る。

それだけで、私は救われるのだ。



放課後


けいおん部のメンバーが久々に部室に集まった。

紬「はい。皆さんお茶が入ったわ。ケーキもあるわよ♪」

梓「なんか久しぶりですね。ムギ先輩の入れたお茶を飲むの」

澪「ん、このケーキ美味いな」

律「いや~落ち着くねぇ~。ここんとこ勉強漬けだったからなぁ」

唯「ホントホント!きっとあのまま勉強してたら腐って納豆になっちゃうとこだったよ」

澪「勉強しても腐らないし納豆にもならんだろ・・・」

梓「やっぱりみんな忙しいんですね」

澪「さすがにこの時期はな。もっと部室にも顔を出したいんだが、二人の勉強も見ないといけないし」

律「澪とムギの力無しに、あたしに合格は不可能である!」

唯「ごめんね~あずにゃん。でも私たちは頑張ると決めたのです!」フンス

梓「心配ありません。今の時期を利用して、来年の新歓活動について色々練っているところですから」

律「お、やるねぇ~。さすが次期部長」

梓「わ、私が部長・・・・・・・・・ドキドキ」

来年は梓ちゃんが部長か。新入生が集まるといいな。

・・・梓ちゃんの部長姿を、私が見ることはないだろうけど。

澪「じゃ、お茶も済んだし、久々にみんなで演奏しないか?」

梓「そうですね。私も久々に皆さんと演奏したいです」

唯「えー!今はお茶の後の休憩タイムだよー」

律「そうだそうだー!」

澪「お茶の後に休憩取ってたら永遠に演奏しないだろっ!」

卒業したら、もうみんなと演奏も出来なくなる。

みんなと何か出来るのは、今だけ・・・。


紬「唯ちゃん、りっちゃん。私・・・みんなと演奏したいわ」


唯「あわわ、ムギちゃんまで」

律「ムギまでそう言うなら、仕方ない、やるかぁ」

まんざらでもない表情を浮かべながら、二人はセッティングに取り掛かった。

二人も本当は演奏したかったんだろうな。

・・・きっと、みんなとの演奏も、残りは数えるほど。

卒業したら、みんなと離れ離れ。

しかも私は、大切な友達に嘘をついてしまっている。


いろいろな雑念が頭に残ったまま、演奏が始まった。



・・・・・・
・・・・
・・


紬「あっ、ごめんなさい」

律「気にすんな。じゃ、今のとこもう一回な」

今日は、私のミスが多い。

やっぱり楽器は気持ちが出ちゃうな。

私が沈んでいるから、ミスも多くなるのは当然。

こんなんじゃみんなに迷惑かけちゃう。

そう思う一方で、ミスばっかりの演奏を、楽しんでしまっている私もいた・・・。

ジャガジャーン

律「あー疲れたー!」

澪「ふぅ・・・今日はこんなもんかな」

梓「そうですね」

冬は一日が短い。

外もすっかり暮れてしまった。

唯「お腹も空いたしか~えろっ」

澪「もう外も真っ暗だしそうするか」

紬「じゃあ私はここで」

唯「またね~ムギちゃ~ん♪」

梓「ムギ先輩、さようなら」

けいおん部では私だけ電車通学なので、ここでお別れ。

今日も、本当のことは言えなかった。

胸の痛みを残して、今日も私は家路を急いだ。


・・・・・・
・・・・
・・

律「・・・・・・・・・ムギ、行ったか?」

唯「・・・もう大丈夫だよ。りっちゃん、澪ちゃん」

澪「・・・あぁ、ありがとう、唯」

梓「・・・確かに皆さんの言うとおり、ちょっとおかしかったですね」

律「ここんとこ目に見えて落ち込んでるよなぁ」

澪「・・・きっと、自分だけ別の大学に進学することを気にしてるんだと思う」

唯「元気付けてあげたいね」

澪「そこで、ちょっと相談があるんだ。実は・・・・・・」



律「・・・・・・・・・おっ、いいねぇそれ」

梓「私も賛成です」

唯「うんうん、いい記念になるよ」

澪「そうと決まれば、さっそく明日の放課後、私が下見に・・・・・・・・・」



翌日


今日も澪ちゃんと一緒に二人に勉強を教える。

教え方は澪ちゃんのほうが上手なので、私はあくまでサポートだ。

でも、今日は澪ちゃんは放課後予定があるらしく、私一人で二人の勉強を見ることになった。

澪「ムギ、すまんな。あとは任せるよ」

紬「いいえ。こうしてみんなで勉強するのも楽しいわ」

律「べ、勉強が楽しいとおっしゃいましたよこのお方!」

唯「信じられませんねぇ!りっちゃん隊員!」

紬「唯ちゃん、今日もケーキ持ってきたわよ♪」

唯「りっちゃん隊員!今すぐ勉強しよう!」

律「くっ、買収するとは卑怯なっ」

なんだかんだで二人とも、勉強しだすと真面目に机に向かうので、私の出番はあまりない。

二人が問題を解く様子を眺めるだけ。

それでも飽きることはない。大切な友達との時間だから。

唯「・・・うーん、ムギちゃん、ここなんだけど・・・」

紬「どれどれ・・・?えっと、これはね・・・」

そういえば澪ちゃんの用事ってなんだったのかな。

残された時間で、澪ちゃんとも、どのくらい話せるだろう。

唯「・・・?ムギちゃん?」

紬「あっ・・・ごめんね、この問題はまず・・・」

勉強も一段落ついたので、休憩を取ることにした。


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最終更新:2010年09月24日 23:15