38. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 08:45:26.65 ID:XFhJlLVV0
気付いてますよ。

リスみたいにちまちまポテチをかじるこの人はいつものこの人ではない。

いつもはもっと意地きたな……がつがつ……いや、元気よく食べるのに。

そういうずる賢さはどこで覚えたんですか。

そんなに勉強は嫌ですか。

はぁ。しょうがないなぁ。

このドラマが終わるまで待ってあげよう。
39. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 08:50:16.55 ID:XFhJlLVV0
チラ見されてる。

きっと私の悪巧みにこの子は気付いているんだろうなぁ。

でもドラマを最後まで見たいからきっと早く食べろって言えないんだろうなぁ。

可愛い。

でもちょっと罪悪感。今日何度目かな?

ドラマが終わるまであと10分か。がんばってかき込もう。

私にできることは食べることだけ!なんだか情けない。
40. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 08:55:16.14 ID:XFhJlLVV0
このままこの人にお菓子を押しつけるのは意地悪かな?

でもたまには意地悪してもいいよね。自業自得だもん。

いつものお返し。

……やっぱりダメ。

この人一人に何かを任せることほど危なっかしいことはない。

いやただお菓子を食べるだけなのに何の危険があるのって話だけど。

協力してあげますよ。太っちゃうかもだけど。
41. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:00:16.80 ID:XFhJlLVV0
ふぃ〜。おっともう6時だ。

何だかんだでちゃんと勉強できたよ。この子のおかげだね。

この子の宿題も片付いたみたいでよかった。

う〜、確かに私が邪魔しなければもっと早く終わったよね。ごめん。

おや憂からメールだ。う〜ん名残惜しいけどもう帰る時間だね。

あの子は私の顔をじっと見ている。

帰るって言ったら引き留めてくれるかな?
43. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:05:16.41 ID:XFhJlLVV0
お疲れ様でした。

今ちょうど雨止んでますし帰るなら今ですよ。

あれ。なに不満そうな顔してるんだろうこの人は。

わかってるけどね。

でも憂が心配してるでしょう。早く帰ってください。私も買い物に行きますから。

あれ。意外と簡単に折れたな。泊って行く!って言いだすのかと思ってたのに。

その時は……いや、早く帰ってください。
45. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:10:16.33 ID:XFhJlLVV0
そうだよね。ごめんね。

今日は私迷惑かけてばかりでこの子の貴重な休日邪魔しちゃった。

考えてみれば今日だけじゃなくていつもこの子には迷惑を……。

練習よりお茶を優先して。ギターは教えてもらったところをすぐ忘れて。

嫌がってるのに無理やり抱きついて。

あれ。いつの間に私外に出たんだろう。

あの子にさよなら言ってないや。
46. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:15:16.83 ID:XFhJlLVV0
どうしたんだろう。あんな暗い顔して。黙って出て行って。

らしくない。……私の態度もきつかったかな。

いや、これでいいんだ。あの人にはたまにお灸をすえてあげなきゃ。

これはあの人のためなんだから。

そもそもなんであの人に対して私はあんなに甘かったんだろう。

駄目な部分ばかり目につくあの人に対して。自分でもよくわからない。

あ、雨。どしゃ降り……。
47. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:20:19.90 ID:XFhJlLVV0
ひどいね。

罰当たっちゃったね、私。

こんなに濡れてちゃお店に入って雨宿りというわけにもいかない。全速力で走ろう。

傘持ってくればよかったなぁ。早起きなんかしなければよかったなぁ。

もうちょっとあの子の家にいればなぁ……うわっ。

痛い。膝すりむいちゃった。

痛い。
48. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:25:17.21 ID:XFhJlLVV0
ひどいね。

ひどい雨。足がふやけて気持ち悪い。ひどい風。もう傘差してる意味ないね。

そしてあの人は輪をかけてひどい。転んでは起きて、また転んで。

今に至ってはまるで赤ちゃんがはいはいしてるみたい。

服はびしょ濡れで、泥だらけで、ところどころ破けて。

幸いここは人通りが少ない。この場にいるのはあの人とその10メートル後ろの私だけだ。

私だけなんだ。
50. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:30:25.87 ID:XFhJlLVV0
はぁ。はぁ。

もうこのままここで寝ちゃってもいいかな。

え?ダメなの?いいじゃ〜ん。相変わらず厳しいねぇ。

……どうして来たの。びしょ濡れだよ。

うわっ。引っ張らないでよ。もう疲れちゃったんだから。

ごめんなさい。文句を言える立場じゃありませんよね。

こうして私は我が家から遠ざかっていくのでした。
51. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:35:21.17 ID:XFhJlLVV0
弱り切っているのは雨のせいだけじゃなさそう。

くしゃくしゃの顔は雨のせいだけじゃなさそう。

ほら早くお風呂入ってください。

……嫌です。一人で入ってください。私は着替えを用意しますから。

こんな時でもあの人はあの人か。呆れるべきか喜ぶべきか。

このスウェットでいいかな。ちょっと大きめを買ったのに結局着る機会がなかったやつ。

……下着どうしよう。
52. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:40:20.89 ID:XFhJlLVV0
雨に濡れた後のお風呂って気持ちいいね。

あったかさが体中に染み込んでいくよぉ。

ん?何?下着?

あー。どうしよう。あ、そうだ。お部屋のクローゼットの奥の方を見てみてー。

いいからいいから。

ふぅ〜。行ったみたいだね。もしもの時のためのお泊まりセット。仕込んでおきました!

……また嫌われちゃったかもね。
53. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:45:16.88 ID:XFhJlLVV0
呆れるしかないね。

いつの間にこんなもの仕込んだんだろう。

あの人がこの家に来た回数なんて数えるほどしかないのに。まったくもう。

浴室からは鼻歌が聞こえる。私の恋はホッチキス。

まったくもう。急に元気になっちゃって。感情の振れ幅大きすぎませんか。

ま、いいけどね。いいのかな?

もうあの人のことで悩むのは疲れちゃった。
54. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:50:17.95 ID:XFhJlLVV0
いいお湯でした。

そういえばこの家のお風呂使うの初めてだなぁ。

入ってる時は意識してなかったけど、今思い出すとちょっと変な気分になるね。

あの子がいつも使うお風呂。

あの子はお風呂上がりの私にジト目を向けて、着替えを手渡してきた。

今はあの子が入浴中。

うん。なんか変な気分。
56. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 09:55:20.22 ID:XFhJlLVV0
あれ?あの人はどこに行ったんだろう。

ん?誰か来てる?

あ、ピザ頼んだってことあの人に伝えるの忘れてた。あの人お金持ってない。

玄関にはオロオロしてるあの人と渋い顔してびしょ濡れのピザ屋さん。

ごめんなさい。色々と。

結局買い物に行けなかったからこれが夕飯だ。

……二人で食べるには量が多すぎたかな?
58. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 10:00:23.73 ID:XFhJlLVV0
今夜は帰れないってことを憂にメールしようかと思ったけど、あの子に止められた。

もう私が連絡しましたから、だって。

憂は私がこの子の家にいることを不思議がってないのかな?

それもうまく言いくるめたって。

至れり尽くせり、ってこういうことかな。

……今日だけで一体いくつこの子に借りができたんだろう。

って何するの?いきなりピザを口に突っ込まないで。
59. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 10:05:20.76 ID:XFhJlLVV0
もううんざりです。

突然テンション下げるのはやめてください。気味悪いです。

今は食事中ですよ。せっかくのピザがまずくなります。

この大雨の中ピザを届けてくれた配達員さんに申し訳ないと思わないんですか。

ほらもっと食べてください。いくら食べても太らないんでしょう。

さあさあ。

あ、水水。
60. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 10:10:20.21 ID:XFhJlLVV0
ごちそうさまでした。うぇっぷ。

おいしかったけど……疲れた。

あの子はソファに身を預けて天井を眺めてる。お疲れですなぁ。

憂はどうしてるかな。

そっか……。今日もお父さんとお母さんいないから憂は一人になっちゃうんだ。

うぅ。ごめんね、憂。私が後先考えて行動しておけば。私が嘘をつかなければ。

どうしたの?あの子がまっすぐ私の顔を見ている。
61. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 10:15:53.98 ID:XFhJlLVV0
この人が何を考えているかはわかる。

今この人の顔はお姉ちゃんの顔。頼りないお姉ちゃんだけどね。

どうやらこの人は憂に嘘をついてここに来たみたい。さっきの電話でわかった。

もちろん私はその事実を伝えはせず、雨に濡れたこの人を私がたまたま拾ったと伝えた。

私が言うことじゃないもんね。

とはいえ憂が寂しがってることに変わりはないか。

ほら、何してるんですか。ダメなお姉ちゃんにもやれることはあるでしょう。
62. 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 2010/09/11(土) 10:20:39.50 ID:XFhJlLVV0
憂には何回もごめんなさいって言った。

傘忘れてごめんなさい。一人にさせちゃってごめんなさい。嘘ついてごめんなさい。

憂は繰り返しうん、うんと言った。

最初は涙声だった憂もしばらくすると赤ちゃんをあやすような優しい声に変わった。

私って赤ちゃん?

憂は最後にありがとうって伝えといて、と言って電話を切った。

通話時間は56分。


最終更新:2010年09月24日 23:49