唯「ふわっふわった~いむ♪」
ジャーン♪
紬「ふう……」
梓「今の良かったですね!」
唯「みんなピッタリ合ってたよ~♪」
澪「よし、今日はこのくらいにしておくか」
律「ふい~、つっかれたあ……」
梓「久しぶりにいっぱい練習できましたね」
紬「それじゃあ後片付けして帰りましょうか」
唯「ねえねえ、アイス食べに行かない?」
律「唯はまたアイスか。本当に好きだなあ」
唯「えへへ……」
澪「ん……でも天気悪いぞ?」
梓「あ、雨ひどいですね。練習に夢中で気付きませんでした」
紬「夜からもっとひどくなるらしいから、今日は早く帰ったほうがいいかも……」
律「だってさ。今日はやめとけ」
唯「え~?」ブー
梓「ほら、早く行きましょうよ」
唯「しょうがないなあ……じゃああずにゃん分を補給するだけでいいやっ」ギュウッ
梓「にゃっ!?は、離れて下さい!」ジタジタ
澪「はは、何やってんだ」
紬「唯ちゃんと梓ちゃんはいつも仲良しね~♪」
唯「えへへ~、ぎゅ~♪」
梓「にゃあ……」
……
唯「ほわっ!?」
梓「唯先輩、どうかしたんですか?」
唯「校門のとこ!ほら、見て!」
澪「うわ、何かでっかい車が止まってるな」
律「おおおっ、何かすげえな」
斉藤「お嬢様、お待ちしておりました」
紬「斉藤?どうしてここに……」
唯「えっ、もしかしてムギちゃんの家の執事さん!?」
斉藤「左様でございます。さあお嬢様、どうぞ」
紬「……私、迎えなんて頼んでないわよ?」
斉藤「しかし、この雨ですので……」
紬「結構よ、みんなと一緒に帰るから必要ないわ。校門の前にいても邪魔だし、早く戻ってちょうだい」
斉藤「し、しかし……」
律「む、ムギ?」ビクビク
紬「あら、何?りっちゃん」ニコッ
梓(な、何だかムギ先輩が怖い……)
律「わざわざ迎えに来てくれたんだし、車で帰ったらどうだ?この雨だと絶対濡れるし……」
唯「うんうん!ムギちゃんのふわふわの髪を濡らすのはよくないよ~」
紬「でも……」
澪「私たちも出来ればムギと一緒に帰りたいけどさ……」
梓「このまま帰らせちゃうと執事さんに申し訳ないです」
斉藤「……」
紬「……そうね、分かったわ」
斉藤「お嬢様……!」
紬「それじゃあみんな、今日はここで」
唯「ムギちゃんばいば~い♪」
律「明日は寄り道しような!」
澪「また明日な、ムギ」
梓「お疲れ様でした」
紬「うふふ……また明日ね♪」
斉藤「それでは失礼いたします」ペコッ
ブロロロ…
唯「ほえ~……」
澪「……」
律「……」
梓「……」
唯「凄かったね~」
澪「私、執事さんなんて初めて見たよ」
律「車もえらい高そうだったよな」
梓「ムギ先輩っていったい……」
ザー…
唯「わわっ、また雨が強くなってきた」
澪「私たちも早く帰ろう!」
律「よっし、走るぞ~!」
梓「傘あるんですから走らなくとも……」
唯「ギー太は守り抜いてみせる!」フンス!
澪「部室に置いておけばいいものを……」
梓「私もむったんは守ってみせます!」
唯「お~、あずにゃんやる気だね~♪」
澪(……あれ、もしかして部室に置いて来たの私だけ?)
律「あれあれ~?澪ちゃんのベースは大丈夫かな~?誰かに盗られたり……カビが生えちゃったりしないかなあ~?」
澪「ひいいいっ!?」
……
紬「……」
斉藤「……」
紬「……ねえ、斉藤」
斉藤「はい、何でしょうかお嬢様」
紬「あなた、いつまでこんなことを続けるの?」
斉藤「こんなこと、とは?」
紬「決まっているじゃない。一体いつまで執事の真似事なんてする気なの?」
斉藤「……意味を、理解しかねます。私は琴吹家に忠誠を誓った身。真似事ではございません」
紬「……」
斉藤「……」
紬「とぼける気?」
斉藤「何も申し上げることはございません」
紬「それならはっきり言わせてもらうわ。いつまで野球から逃げるつもりなの?……『斉藤和巳』さん」
斉藤「ッ!」
紬「鷹のエースと呼ばれ、一世を風靡していたあなたが執事とはね……」
斉藤「……」
紬「もう一度言うわ。あなたはいつまで野球から逃げるつもりなの?」
斉藤「わ、私は……」
紬「……」
斉藤「私の肩は、もう」
紬「言い訳はやめなさい!その肩……使い物にならないとは言わせないわよ?」
斉藤「く……」
紬「手術は成功したはず。リハビリをしっかりやれば、あなたがまたマウンドに立てることは分かっているわ」
斉藤「……」
紬「あなたは逃げているだけ。野球から、チームから、ファンから……何より自分自身から」
斉藤「に、逃げてなど……」
紬「それだけじゃないわ。あなたが野球から離れた決め手……それはホークスから見捨てられたことよね?」
斉藤「なっ!?」
紬「あなたは来季から育成枠に入るかもしれないらしいわね」
斉藤「……」
紬「拘り続けた背番号66は剥奪され、億越えの年棒は50分の1くらいになってしまうのかしら?」
斉藤「……っ!」ギリッ
紬「その屈辱があなたには耐えられなかった。だからあなたは自分のちっぽけなプライドを守るため、野球から背を向けようとしているのよ」
斉藤「だ、黙れ……」
紬「3年間登板なしで5億2000万も貰っていたというのに……本当にあなたは恩知らずのちっぽけな男ね、斉藤」
斉藤「黙れえええええっ!お、お前に俺の何が分かるんや……!俺は、俺はなあっ!」
紬「……」
斉藤「俺だって投げたい気持ちはある!でもなあ、来年もリハビリでシーズンを潰すことはほぼ確定的なんや!その上育成枠にまで落とされるくらいなら、誰にも気づかれないよう消えたほうがっ」
紬「口を慎みなさい、斉藤。あなたは私に……琴吹家に仕えているのだから」
斉藤「くっ……申し訳、ありません」
紬「……」
斉藤「……」
紬「でも、安心したわ」
斉藤「……え?」
紬「あなたに投げたい気持ちがあるということが分かって」
斉藤「……」
紬「斉藤、今日からリハビリを始めなさい。琴吹家が全力でバックアップするわ」
斉藤「えっ!?し、しかし……」
紬「あなたは日本球界に必要な人間よ!いつまでもウジウジしてないで目覚めなさい!男でしょう、あなたは!」
斉藤「……!」
紬「……斉藤。死ぬ気でリハビリをする気はある?」
斉藤「……はいっ!あります!」
紬「ふふ……頑張りましょう!」
斉藤(やってやる……やってやるぞ!」
……
紬「あれからあっという間に一か月……斉藤、調子はどう?」
斉藤「はいっ、ええ感じです!医者からも投球許可が出ました!」
紬「やったわね!」
斉藤「はい……お嬢様を始め、協力してくれた皆さんのおかげです。何とお礼を言ったらいいか」
紬「お礼なんていいわ。さて、今日はここ……桜が丘のグラウンドに来てもらったわけだけど」
斉藤「ええ、呼び出された時はいったい何事かと」
紬「あなたには今日ここで、テストを兼ねて勝負をしてもらうわ」
斉藤「勝負?」
紬「ええ、私が呼んだ人との一打席の勝負。それに勝てば晴れてリハビリ完了よ」
斉藤「なるほど……それで相手は?」
紬「もうすぐ来るはずよ。ここの生徒なんだけど……」
斉藤「えっ?ち、ちょっと待って下さい!」
紬「何かしら?」
斉藤「お嬢様の学校……つまりこの桜が丘は女子高なのでしょう?」
紬「ええ、もちろん」
斉藤「ここの生徒ってことは、相手は女?」
紬「そうなるわね」
斉藤「ははっ、冗談は止めてくださいよ。負けるわけがないじゃないですか」
紬「……」
斉藤「まったく、何を言い出すのかと思えば……はははっ」
紬(言葉遣いから気になってたけど、斉藤和巳……すぐ調子に乗るのね)
紬「笑うのは、相手に勝ってからよ。……来たわ」
斉藤「はいはい」
ザッ
憂「えっと、何か用でしょうか?紬さん」
斉藤(おいおい、こんなひ弱そうな子が相手かい)
紬「憂ちゃん、よく来てくれたわ」
憂「いえ、通り道ですし」
紬「わざわざ憂ちゃんに来てもらったのは他でもないわ、この人と勝負をしてほしいの」
斉藤「……」ペコッ
憂「えええっ!?し、勝負って」
紬「安心して、野球での勝負だから」
憂「やきゅう……?」
紬「勝負は一打席。ヒット性の当たりを打ったら憂ちゃんの勝ちよ」
斉藤「前に飛ばせたら……いや、バットに当てれたら勝ちでもええですよ?」
紬「黙りなさい。斉藤、マウンドへ」
斉藤「はい」
憂「え?え?」
紬「憂ちゃん、急にこんなことを頼んじゃってゴメンね?でも、どうしても必要なことなの!協力してもらえないかしら……?」ウルウル
憂「は、はい。よく分かりませんけど、それでお役に立てるのなら……」
紬「ありがとうっ!はいこれ、バットとヘルメット。怪我しないように気をつけてね?」
憂「分かりました!」
斉藤(はは、何だあの構え。あんなんじゃ当たるものも当たらんで?)
斉藤「それじゃあ行きますよー?」
紬「ええ、いいわよ。それと斉藤、最初に言ったけどこれはテストだから……本気でやるのよ」
斉藤「分かってますって」
紬「それじゃあ始め!」
斉藤「……」ジリッ
憂「……」
憂(な、何か怖い……)
斉藤(これは俺の肩のテスト。変化球なんて小細工はせず、直球だけで行く!)
斉藤「ふうっ!」シュッ
ズバーンッ!
憂「ひゃあっ!?」
紬「……ストライク」
憂「は、速い……」ビクビク
斉藤(怖がらせちまったかな?)
憂(あんなの打てないよお……)
紬「憂ちゃん、怖がらないで。コントロールは保証するから」
憂「で、でも……」
紬「大丈夫よ。バッティングセンターにいると思って打ってみて?」
憂「バッティングセンター……」
斉藤「2球目行きますよ!」シュッ
憂「……」
ズバンッ
紬「ストライク、ツー」
斉藤(ふふ、反応もできずか。三球三振だな)
憂「自分の前に壁を作るイメージで……」ブツブツ
斉藤「ふっ!」シュッ
憂「来た球を……打つ!」ブンッ
キインッ
斉藤「なっ!?ボールは!?」バッ
紬「……あそこよ」
…フッ
斉藤「場外……ホームラン……?」
憂「わあっ打てた!打てましたよ、紬さんっ!」ピョンピョン
紬「憂ちゃん凄いわ~♪」ナデナデ
憂「えへへ……」
斉藤「……」ズーン
紬「さて、と。斉藤」
斉藤「お嬢様……」
紬「まだまだ調子に乗るのは早いということが分かった?これからは球威を取り戻すためのメニューを……」
斉藤「お世話に、なりました」
紬「えっ」
斉藤「もう俺にはプロの資格はないです……球団にも改めて伝えときます」
紬「ち、ちょっと」
斉藤「俺の代わり……いや、そんな失礼なことは言えませんね」チラッ
憂「……?」
斉藤「とにかく球団には、松中さんや小久保さんの後釜が見つかったと伝えますんで」
紬「何を言って……!ホークスにはあなたが必要なのよ!?」
斉藤「いえ、よう考えたら先発にはスギやワッチに大隣、ホールトンに真介や山田までおりますし。俺はもう……」
紬(く、まさかここまで弱気になるなんて……!)
斉藤「頑張れよ、未来の三冠王」ポンッ
憂「えっ?えっ?」
斉藤「ほな、また……」ダッ
紬「ああっ!?斉藤ーーーっ!」
最終更新:2010年09月28日 21:53