「澪ちゃんほど片思いの似合う女子、他にいないね!」
唯がそんなことを言い出したのは、皆に新しく出来た歌詞を見せた時だった。

「ど、どういう意味だ!」
ムギがクスクスと笑う。
「だってさ~澪ちゃん、美人だし人気者なのに、
 あなたが好き!…でも言えない、言わない。
 みたいな乙女の心を、わたしは感じるのだよ~。」
「ああ、何かわかりますね。それ。」
「でしょ~?さすがあずにゃん。」
「澪ちゃんが書く片思いの歌詞、ステキよ~。
 思いを胸にとどめる、乙女の歌詞。」

梓に、ムギまで。
片思いが似合うって…ちょっと失礼じゃないか?
まあわたしの恋は、きっと叶わない、伝えてはいけないものだからな…。

片思いの澪か。
唯がそんなことを言うもんだから、ちょっと考えてしまった。
いつも澪は、誰より先にわたしに歌詞を見せてくれる。
その歌詞はメルヘンちっくでいて、乙女。
見てるこっちが痒くなるような…そんな詞だ。

でも、澪は嘘がつけない。昔から。
本当に好きな人が居なきゃ、こんな歌詞は書けないと思うんだ。
誰を思って書いてるんだろう。
ああ…演奏中にこんなこと考えてると、力んで余計走ってしまう。
リズムキープ、リズムキープ。

「初めて合わせた割に、いい感じにやれたな!」
「律のドラムは、いつも以上に走ってたけどな。」
「わりーわりー。でも後半は持ち直しただろ~?」
「ドラムが走ると、ベースも釣られるんだ。
 明日はもっと確認しもってやらなきゃな。」
「明日…唯と追試なんだよな~。助けてみおしゃん。」
「またわたしに頼るのか…」
「お二人さん、運命共同体ってやつですな!
 ついでにわたしも助けてくだせ~...」
「唯先輩、それだと意味が重すぎますよ。
 ていうか二人はまた追試ですか…。」
「ふふふ。わたし幼なじみって居ないから、うらやましいわ~。」


「じゃあまた明日な~!」
「ばいば~い!」
「唯もちゃんと勉強すんだぞ!」
「じゃあね♪」
「失礼します。」

みんなと別れ、律と二人の帰り道。
5人で居ると楽しい。でも、律と二人っきりの時間が一番落ち着ける。
この瞬間が大好きだった。オレンジ色の空、夕日に照らされる律。
他愛もない話をして、また明日。

「なあ澪。」
「ん?」
「いい曲になったな。」
「ああ、ムギが作る曲は本当にいい。」
「澪の歌詞も、よく合ってる。」
「あ、ありがと。律に誉められるなんて、何か照れるな。」

今のわたし、顔赤いだろうな。
律を思って書いてる、なんて…言えない。




二人きりになれる帰り道。
それとなく、聞いてみようと思った。
でも…ただ歌詞について誉めることしか出来なかった。

わたしたちは、小さい頃からずっと一緒だった。
ずっと側で、澪を見てきた。近すぎるくらいだ。
だからこそ、照れ臭くて「恋」の話なんてしたことなかった。

「ねえ、澪ちゃんって彼氏とか居ないのかな~?」
追試を受ける前、唯がわたしに聞いてきた。

「さ~、聞いたことないな。」
「中学の時も?」
「わたしの知る限りでは居ないと思う。まあ、モテてはいたけどな。」
「ほほ~、罪な女ってやつだね!」
「すごかったんだぞ~澪。こっちは名前すら知らない相手とかな。
 …でもほとんど断ってた。」
「ほほう!じゃあほとんどの残りは?」
「澪が途中で逃げたり、呼び出しに怖がって行かなかったり。
 それも含めたら、全部だな。」

澪はいつだって、断っていた。
逃げ出した時も、呼び出しに応じない時も、誰も澪を責めない。
話したことない奴もいるから、相手は玉砕覚悟ってことだ。
強いて言うなら、責めるのはわたしだった。


~~~~

律「澪さ、相手は相当勇気いったと思うぞ?
  断るにせよ、ちゃんと聞いてやれよ。」
澪「だって、ほとんど知らない相手だぞ?怖いよ…。」
律「はいはい、モテる奴も辛いな。」
澪「やめてくれ…。」


~~~~

唯「じゃあ次は澪ちゃんに聞いてみよう!」
律「わたしのことをか!?」
唯「?違うよ~、澪ちゃんのことを。
  りっちゃんのこと聞いてどうするのさ~。」
律「お前今、結構失礼なこと言ってるぞ?」
唯「へへ~。じゃありっちゃんはどうなんだい。好きな人、居るのかい?」
律「いや~...」
唯「ほら~、りっちゃんに恋する乙女は似合わんよ!」
律「くそー!…そういう唯はどうなんだ?」
唯「恋人が居ます!」

律「ええええぇぇえ?」
唯「ギー太だよ。ふふふ~。」
律「…追試頑張ろうな。」

好きな人か。 わたしにもちゃんと居るぞ。
唯も、よく知ってる人だ



梓「先輩たち、まだですかね。」
紬「結構時間経ってるね。先にお茶しとこう?」
澪「…そうだな。」
梓「ですね。」

律と唯、ちゃんと追試頑張れたかな。
二人とも、頑張れば出来るのに。何でやらないんだろう?
まあ、中学の頃から律がよく泣きついてきて、慣れてるけどな。
中学の頃…律って今と変わらず、明るくて気さくで、人気者だったよな。
友チョコとか、結構貰ってたし。
でも…律は友チョコすら、誰にもあげてなかった。料理好きなのに。
聞いたことないけど、好きな人とか居ないのかな…?

律「すまん!遅くなった!かたじけない!」
唯「ムギちゃ~んケーキちょうだい...」
梓「あ、お疲れさまです。」
紬「二人ともどうだった?」
唯「じゃーん!無事1発合格でありんす!」
律「やりゃ出来るんだよ、わたしたち~!」
澪「2発合格だろ。わかってるなら初めから勉強しろ!」
律「へいへ~い冷たいなあ澪は。」
唯「頑張ったんだからちょっとくらい誉めてくれたっていいのに~。」
紬「ふふふ、お疲れさま。今お茶入れるわね!」
唯「ムギちゃん、天使とはあなたのことか~...」
律「女神だ!澪と違ってムギは女神!うん!」
澪「…バカ律。」

今日の練習は、わたしが律を振り返りながら行なった。
目が合う度に、律は笑う。
そうすると唯の声で、わたしの書いた詞が耳に入ってきて…。
思わず律から目を反らす。それの繰り返しだった。



梓「今日の演奏、ばっちりでしたね!」
梓が興奮した様子で言う。

澪「そうだな、本番でやれる時が楽しみだ!」

何だよ澪の奴。こっち見ては目反らして。
まだ根に持ってんのか?そりゃ、勉強教えてくれたのにあの態度はないか…。
二人きりになる時、ちゃんと謝るか…。

みんなと別れ、澪と二人きり。
謝らなきゃ、その事で頭がいっぱいだった。

澪「…りつ?どした?」
律「や、別に…」
澪「そうか…」
なかなか言い出せない。会話も思い付かなかった。

あ、そうだ。今日…
律「唯が澪のこと、興味津々に聞いてきたぞ。」
澪「え?わたしのことか?」
律「うん、澪ちゃんは彼氏いるのかな~?なんてさ。」
澪「何で律に?」
律「澪に聞いたら恥ずかしがるからだろ?」
澪「ああ…」
律「ちなみに知らないって言っておいた。」
澪「そ、そうか…」

律「あ、でも唯には居るらしいぞ、彼氏。」
澪「マジか!?」
律「その相手がな…なんと…!」
澪「…!」
律「ギー太らしい。」
澪「だろうな。」

律「で…さ。」
澪「なに?」
律「その…澪にも居るのか?彼氏。」
澪「ベースはベースだ。」
律「ちげーよ、ちゃんと付き合ってる人…居るの?」
澪「…居ないよ。」

正直、心の中でガッツポーズした。
付き合ってる人は、居ない。
今はまだ、澪を独り占めしてて…いいよな?



澪「…律はどうなんだよ。その…好きな人とか、居るのか?」

彼氏、なんて聞けなかった。
もし「居る」なんて聞いたら、泣いちゃいそうだ。

律「あ~...居るよ。」

律は照れたように、目を反らした。
そうか…律には好きな人が、居る。
誰だろう、わたしの知ってる奴か?
何にせよ…もう律を独り占めは出来ないんだな…。

澪「って何でこんな会話してんだ?唯もわたしたちも。」
律「さーなー?思春期ってやつじゃねー?
  青春だよなー!」

律はそこから、異様に元気になった。
そんなにわたしに言いたかったのか?…幼なじみだもんな。
もし…付き合いだしたら、わたしに会わせたりするのかな?やだよ…。



家に帰っても、澪のことで頭がいっぱいだった。
そりゃあ…いつかは覚悟しなきゃいけないけどさ。
でも今は、いっぱい思い出作るぞ。
次の日曜、誘ってみよう。
最近は部活のみんなと一緒だったし、久々に二人きりで。

何処がいいかな~?と、雑誌のページをめくる。
ここもいい、なんて折り目を付けていくと、雑誌はとても膨らんだ。
今日はなかなか寝れないや。



家に帰っても、律のことで頭がいっぱいだった。
律には好きな人が居る。あんな風に照れた律、初めて見た。
その人には、そんな顔してるのかな。
もう…律を独り占め出来ないんだ。
何で今まで気付かなかったんだろう?こんなに一緒に居たのに。

今までを振り返る。
楽しかった記憶がよみがえる度、涙が浮かんだ。
思い出なんて、いらないよ。



律「おはよー!」
澪「おはよ…元気だな。」
律「いつものことだ!」
澪「そうだな~...」

今日の澪、元気ないな。
でも、今日はいっぱい計画練ってきたんだ。

律「今度の日曜、暇か?」
澪「え…何で?」
律「行きたいところがあるんだ!
  あ、でも澪が他に行きたい場所あればそこでもいいぞ!」
澪「ん~...二人で?」
律「そう!久しぶりだろ~?」
澪「でも…ごめん、日曜は先約があるんだ。」



今日の律はいつにも増して元気だ。
そんな顔しないでくれ…なんて思った。
すると律は、次の日曜遊びに行こうと言い出す。何で?
先約なんてない。でも好きな人の話…とか?聞きたくない。

律「そっか~。じゃあ仕方ない。」
澪「悪いな、また誘ってくれ。みんなで行こう。」



みんなで?急に二人きりで誘うと、やっぱ変か?
律「何だよ、わたしと二人じゃ不満か?」
澪「や、そうじゃないけど…。」
律「ふ~ん…。」
澪「ごめんな。でも、楽しみにしてるからまた誘ってくれ。」
律「おう。澪も行きたいとこ考えとけよ!」

失敗に終わった。先約あるなら仕方ないよな。
次もあるし。でも・・・何でみんなと?
そこばっかり引っかかった。

その日、澪はあまりわたしとは話そうとしなかった。
いや、その日から…澪はわたしを避け始めた。


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最終更新:2010年09月29日 01:03