憂達が高校三年生になって、早数ヶ月――――……

昼休み   教室

憂「梓ちゃんって、今年はライブやるの? 学園祭で」

梓「まさか。軽音部もつぶれたしね」

憂「そっか、そうだよね……」

梓「学園祭まで、あと二週間くらいかな?」

憂「うん」

純「何の話?」

憂「梓ちゃんが、学園祭でライブやるかって話だよ」

純「へ? 梓やるの?」

梓「やらないよ。受験勉強で忙しいしね」

純「なーんだ。やらないのか」

梓「純だって、受験あるんだから。頑張んなさいよ」

純「わかってるけどさー」

梓「わかってるなら、やった方がいいわよ。あとで浪人しても遅いんだし」

純「うーん、それはそうなんだけどさ」

純「文化祭も最後なわけじゃん?」

純「もっとはっちゃけたいって言うか」

憂「私も、かな。思い出くらい作っておきたいし……」

純「あ、そうだ! 私達三人でバンドやらない?」

梓「え?」

純「私はベース、梓はギター、憂は……何やりたい?」

憂「うーん、ギターなら出来るけど……」

梓「ギター二人いてもねぇ」

憂「あ、キーボードなら!」

純「じゃあ、憂はキーボード! 完璧じゃん!」

梓「ま、待ってよ! マジでやる気?」

純「もちろん!」

梓「で、でも勉強が……」

純「ねえ、梓。友達と勉強、どっちが大事?」

梓「……その質問は卑怯だよ」

純「勉強なんて、いつでも出来るでしょ? でも文化祭は今しかないわけで」

梓「まあ、そうだけど」

純「ね? だからやろうよ、バンド! 私たち三人でさ!」

梓「でも、今からじゃ体育館の使用届けとか……」

純「飛び入り参加OKじゃん!」

憂「今からでも学園祭でライブ出来るってこと?」

純「そういうこと!」

梓「でも、練習してないし……」

純「大丈夫! ある程度は指が覚えてるでしょ!」

梓「そ、そうだけど……」

純「けど?」

梓「……わかったわよ! やるわよ! バンド!」

純「始めっからそういえばいいのにー」

梓「で? 何の曲弾くの?」

純「うわぁ、早速やる気」

梓「やるんだったら、早めに取り組んだ方がいいでしょ」

純「まあね」

梓「で。何の曲やるのよ」

純「うーん、あ! 『U&I』は?」

梓「唯先輩が作った?」

純「うん。そう!」

梓「まあ、いいかもね」

純「あれ? 歌詞ある?」

梓「歌詞は……憂、ある?」

憂「うん。お姉ちゃんからもらったんだ、歌詞のコピー」

梓「よかった~」

純「これで、演奏する曲は決まったね」

梓「他に決めることは?」

純(梓、意外とノリノリ?)

憂「あとは……生徒会に参加届け出すくらいかな?」

梓「じゃあ、私が出してくるよ!」

憂「えーと、職員室行ったら参加届けの紙がもらえるから、それにメンバー名とか記入して……」

梓「行ってくる!」

梓は教室から出て行った。


純「お昼休み終わるまでに帰ってくるかなぁ?」

憂「さあ、どうだろ」

純「意外とやる気出てるよね、梓」

憂「ライブ、やりたかったんだね」

純「うん。軽音部もなくなって、暇そうにしてたからね」

憂「今回のライブ成功させてさ、梓ちゃんを喜ばせようよ!」

純「――うん。頑張ろうね」


梓「ただいま~」

純憂「はやっ」

梓「なんかすんなりOKされたよ」

憂「へえー」

梓「三年生は優先的に参加できるみたい」

純「ああー、だからか」

梓「うん。あ、あとバンド名なんだけど。勝手に決めたから」

純「なににしたの?」

梓「昼時ランチタイム」

純憂「………………」

梓「え? なんか変?」

純「いや、変じゃないけど……ナンセンス?」

梓「で、でも、ぴゅあ☆ぴゅあ、とか、ハニースィートティータイム、とかよりは良くない?」

憂「ま、まあ……」

梓「ば、バンド名くらいいいじゃん! 名前なんて飾りで、演奏が大事なんだよ! ね?」

純「まあ、そうだけどね」

梓「でしょ? 演奏頑張ろうよ!」

純「うん、まあ、そうだね! 頑張ろうか!」

憂「だね!」

梓「あれ? 私達どこで練習するの?」

純「音楽室は?」

梓「うーん、あそこは器楽部にのっとられたんだよねー」

純「ジャズ研部室、使う?」

梓「え、いいの?」

純「うん。多分使わせてもらえると思うよ」

梓「今日の放課後から?」

純「うん。あ、でも楽器持ってきてないじゃん」

梓「あー、そうだった。じゃあ、明日からかな。練習」

純「うん。そうしよっか」


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翌日

放課後     ジャズ研部室

純「と、いうわけでここ使わせてもらうぞ」

二年「あ、どうぞ……」

純「あ、気にしないで練習続けてて。ほら、梓、端っこの方使うぞ」

梓「あ、うん」

憂(なんか純ちゃんが格好よくみえるよう!)

純「じゃ、はじめよう」

梓「うん」

純「えーと、あ、忘れてた」

梓「何を?」

純「ボーカル」

梓「あ! 誰やるの?」

純「梓やってみる?」

梓「わ、私声には自信がないな」

純「私も。……憂、やってみない?」

憂「え? 私?」

梓「うん、いいね。憂ならきっとうまく歌えるよ」

憂「うーん、じゃあ……やってみようかな」

梓「ありがとう! よし、これでボーカルも決まったし、完璧じゃん?」

純「あとは練習するだけだね」

梓「うん。練習頑張ろう! おー!」

純憂「おー!」

二年一同(うるさいなぁ……)


数時間後

梓「今日はここまでにしようか?」

純「うん。そうだね」

憂「ジャズ研の子達、皆帰っちゃったしね」

純「本当だ。あー、鍵取りに行かないと」

梓「え? 何で?」

純「最後に部室を出た人が鍵を閉めることになってるんだよね、ここ」

梓「ふーん」

純「じゃ、私取りに行ってくるから」

梓「んー」

純はジャズ研部室から出て行った。

梓「いやー、ギター弾くの久々だけど、思いのほかうまく出来たよ」

憂「私のキーボード、どうだった?」

梓「かなりうまいよ。ぶっつけ本番でもいけるんじゃない?」

憂「えへへ」

梓「あーあ、あと一人入ってくれれば、軽音部も廃部にならなくてすんだのにな」

憂「うん……私と純ちゃんが入っても、あと一人足りなかったもんね」

梓「うん。残念だったなぁ」

憂「…………」

梓「ま、でもさ。まだ軽音部があったら、こうやって三人でライブする機会なんてなかったわけだから」

憂「そうだね」

梓「こうやって、高校最後の文化祭で、親友とライブやるってのもいいと思うんだ」

憂「……だね」

純「お待たせ」

梓「あ、早いね」

純「そう? まあいいや。帰ろう」

憂「ちょっと外、暗いね」

梓「あれ? 鍵はどうするの?」

純「刺したままでいいって」

梓「無用心だね」

純「まあまあ」

ガチャリ

純「よし、帰ろっか」


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翌日からも、梓たちの練習は行われた。

そして、土曜日

梓「今日は学校もあいてないし……どこで練習しようか?」

憂「うーん。私もキーボードないしなぁ」

純「梓、家にキーボードあったりしない?」

梓「あるわけないでしょ」

純「だよね……」

憂「じゃあさ、今日は思い切って遊ばない?」

梓「あ、いいね。昨日まで必死に練習してたんだから、今日くらいはいいよね」

純「うん。遊ぼう!」

憂「どこ行こうか?」

梓「あ、この前出来た水族館は?」

純「いいね。そこにしようか」


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水族館

純「こうやって、友達と水族館行くのって初めてだなぁ」

梓「うん。修学旅行とかでしか行かないからね。水族館って」

純「なんか、幻想的な雰囲気だね」

憂「だね」

梓「あ、亀……トンちゃんみたい」

憂「そういえば、トンちゃんってどうしたの?」

梓「紬先輩がひきとってくれてる」

純「あ、私向こうのエイがいるとこ行ってるね」

梓「迷子にならないでね」

純「まさか。子供じゃないんだから」

憂「じゃあ、私は熱帯魚のところ行くね」

梓「うん、いってらー」

憂は熱帯魚のスペースに、純はエイやマンタのスペースに向かった。

梓(一人になっちゃったな)

梓(たまにはいいかもね、一人で水族館歩くの)

水族館の中は薄暗く、水槽から放たれる光だけが眩しかった。

梓(あ、クラゲ……)

藻のように漂うその姿に、梓は眼を奪われた。

梓(……可愛い)

梓(…………よく考えたら、クラゲをこうやって、まじまじ見るの初めてだなあ)

クラゲのいる水槽だけは、闇のように暗かった。

代わりに青白い光輝を、クラゲ自身が発していた。


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最終更新:2011年10月18日 01:57