春
梓「聞こえてます」
唯「じゃあすぐ返事してよ」
梓「どうせいつもの下らない話かと思いまして」
唯「ひどいな~。私だって先輩なんだかr」
梓「それで?何の話ですか?」
唯「いや、特に何でもないけど」
梓「じゃあ話しかけないでください」
唯「ごめ~ん」
梓「……澪先輩達はどうしたんですか」
唯「あずにゃん、澪ちゃんが大好きだもんね。早く会いたいよね」
梓「そうですね。早く澪先輩に会って頭をなでなでしてもらいたいです」
唯「そっか。りっちゃんがね、6限目からずっと机に突っ伏して寝ててね。
昨日遅くまで起きてたらしいし、あったかいからねぇ。
それで、澪ちゃんはりっちゃんが起きるまで待ってるから先に行ってて、だって」
梓「……ムギ先輩は?」
唯「あれ?そういえばムギちゃんはどうしたんだろう。いつの間にかいなくなってたけど」
梓「きっとムギ先輩も教室にいるんですよ」
唯「どうして?」
梓「さぁどうしてでしょう」
唯「わからないよ。ま、そのうち来るよね。早くお茶飲みたいなぁ」
梓「練習しましょうよ」
唯「何をするにしてもエネルギー補給は大切だよ。ムギちゃんのお茶然り、憂のご飯然り、あずにゃん分然り」
梓「最後の要りません」
唯「必要だよ」
梓「要りません」
唯「ツれないなぁ」
梓「とりあえずこのポッキーで我慢してください」
唯「うわぁ、ありがとうあずにゃん。一緒に食べよう」
梓「一緒にってどういう意味でですか」
唯「ツれないなぁ」
梓「唯先輩って本当に練習嫌いですね」
唯「私だってちゃんと練習してるよ。毎晩寝る前に」
梓「本当ですか?」
唯「ほんとうだよ!憂に聞いてみればいいよ」
梓「きっと憂はうるさくて眠れない日々が続いてるんだろうなぁ」
唯「そんな遅くまでやってないよ。ていうか信じてくれたんだ。うれしい」
梓「まだ信じてませんよ」
唯「じゃあ今度うちに泊まりに来て一緒に練習しようよ」
梓「なにが『じゃあ』なんですか。お断りします」
唯「そんなぁ」
梓「部活なんですから今練習しなくてどうするんですか」
唯「あずにゃんも家で練習してるの?」
梓「そりゃあ当然してますけど」
唯「そっかあ。上手だもんねあずにゃん」
梓「小さい頃からやってますからね」
唯「親御さんの影響だっけ?」
梓「はい」
唯「いいなぁ、そういうの。私は親の影響を受けて始めたものとかないからねぇ。ごく普通のお父さんとお母さんだよ」
梓「うちの親も普通ですよ」
唯「いやでもうらやましいよ。恵まれてるよあずにゃん」
梓「そうですね。確かに恵まれてます。いつか恩返ししたいですね」
唯「恩返しってどういう?」
梓「それは……いい大学に行って、いい仕事を見つけて、いい人と結婚して、孫の顔を見せてあげることじゃないですか?」
唯「夢がないなぁ、あずにゃんは」
梓「そういう唯先輩はどうなんですか」
唯「私?う~ん、まだ分からないや。今でせいっぱい」
梓「そうですか。じゃあ今は練習あるのみですね」
唯「結局それですか」
夏
唯「あずにゃんや」
梓「何ですか」
唯「合宿楽しみだねぇ」
梓「そうですね。ようやくみっちり練習することができます」
唯「いやそうじゃなくて……まぁいいや」
梓「どうしたんですか」
唯「いやなんでもないよ。ところで中学まではどんな風に夏を過ごしてた?」
梓「あちこちにライブを見に行くことが多かったですね。おかげで夏休み終盤に宿題を片付ける羽目に」
唯「私もゴロゴロしたりプールに行ったり海に行ったりゴロゴロしたりしてたら宿題が」
梓「それは大変でしたね。今年は大丈夫ですか」
唯「みんなと一緒にやるから大丈夫だよ。あずにゃんは?」
梓「憂と一緒にやるから大丈夫です。それと純も」
唯「純ちゃんってお友達?」
梓「唯先輩とも同じ中学のはずですけど」
唯「う~ん、あ、憂の友達にサラサラのロングヘアーの子がいたけどその子かな?」
梓「残念ながら違います」
唯「まぁいいや。あ、あそこでかき氷売ってるよ。一緒に食べよ!」
梓「すみません。今日財布を家に置いて来てしまって」
唯「じゃあおごるよ。何味がいい?」
梓「いえ、悪いですよ。唯先輩だけ食べて来てください」
唯「何味がいい?」
梓「いりませn」
唯「何味がいい?」
梓「……いちごミルクで」
唯「おいしいね」
梓「はい」
唯「う、頭がキーンと!」
梓「子供ですか」
唯「これでも高校二年生です!」
梓「来年は受験生ですね」
唯「そっか。こうしてのんびり夏を過ごせるのも今年までなんだね」
梓「唯先輩は来年も遊び呆けてそうですけどね」
唯「ちゃんと勉強します。あずにゃんには寂しい思いさせるかもしれないけどね」
梓「なりませんよ、寂しくなんか。必死こいて勉強してる唯先輩をしり目に遊び通してやります」
唯「またまた~。あずにゃんは寂しさのあまり白昼夢とか見てそうだよ~」
梓「ありえませんよ、絶対」
唯「何はともあれ、今年はいっぱい遊んで思い出作らなきゃね」
梓「遊ぶのもいいですけど練習もですよ」
唯「相変わらず練習魔だねぇあずにゃんは。そんなにカリカリしてたら禿げちゃうよ」
梓「ありえないです」
唯「あずにゃん、髪切ったら?」
梓「ショ、ショートヘアの方が唯先輩の好み?」
唯「いやむさ苦しくないのかなって。ていうか何そのノリ?」
梓「言ってみただけです」
秋
唯「あずにゃんや」
梓「はい」
唯「最近元気ないよね」
梓「そんなことないです」
唯「そう?」
梓「ただ学園祭が終わってからだらけっぱなしの唯先輩にはイライラしてますね」
唯「耳が痛い」
梓「読書の秋と言いますし本でも読んでみたらどうですか。貸しますよ」
唯「漫画?」
梓「小説です」
唯「じゃあダメだ」
梓「あきらめたらそこで試合終了ですよ」
唯「むぅ~ん。どんな小説なの?」
梓「コテコテの恋愛小説です」
唯「あずにゃんも恋愛に憧れてたりするの?」
梓「そりゃあ、まあ」
唯「じゃあどうして女子高に来たの?」
梓「女子高だからって恋愛できないわけじゃないでしょ」
唯「あー……うん。そういう人もいるよね」
梓「……何か勘違いしてませんか」
唯「さあ」
梓「そういう唯先輩はどうなんですか」
唯「私?私は普通に男の人を……」
梓「そっちじゃなくて。恋愛したいとは思わないんですか」
唯「あー、うん。そういうの考えたことないや。今も十分楽しいし」
梓「ちゃんと考えなきゃダメですよ。高校出たらあっという間に大人になっちゃうんですから」
唯「そして彼氏もできず結婚もできないままアラフォーへ。さわちゃんみたいにはなりたくないね」
梓「さわ子先生もそこまで歳行ってません。生き後れなのは事実ですけど」
唯「まぁ焦ることはないよあずにゃん。私達の周りはみんな恋とは無縁だからね」
梓「ほんとどうしてなんでしょうか。ムギ先輩とか彼氏いてもよさそうなんですけどね」
唯「なんでだろうね」
梓「でも確かに色恋にかまけてやるべきことをやらないのはいけないですね。だから明日からはちゃんと練習してください」
唯「またそれだよ。あずにゃんも懲りないねぇ」
梓「懲りてないのは唯先輩の方ですよ」
唯「そうだね。あと一年だもん。がんばらなきゃね」
梓「わかってくれましたか」
唯「あずにゃんがもう少し素直に抱きつかれてくれればもっと練習するよ」
梓「やれやれです」
唯「あれ?もう帰っちゃうの?」
梓「はい。3人がお休みじゃ練習しようがないでしょう。それに用事もありますし」
唯「彼氏?」
梓「違います」
唯「よかった」
梓「何がです」
唯「はい、これ」
梓「何ですか、これ」
唯「誕生日、おめでとう」
冬
唯「あずにゃんや」
梓「ふぁい」
唯「アイス取って来てくれない?」
梓「自分で行ってください」
唯「コタツから出たくないよぉ」
梓「こんな寒い中買い物に行ってる憂の身にもなってください」
唯「あれ?憂いつの間に出掛けたの?」
梓「唯先輩がよだれ垂らしてる間です」
唯「それは酷なことをした……。りっちゃん達ももう帰っちゃったの?」
梓「ええ」
唯「あずにゃんはどうしてまだいるの?」
梓「憂のためですよ。泥棒に入られたらたまったもんじゃないですからね」
唯「ありがとね」
梓「憂のためです」
唯「あずにゃん、眠そうだね。ちょっと休んだら?」
梓「いえ、もう遅いし帰ります。今日は楽しかったです」
唯「泊まっていきなよ」
梓「いえ、いいです」
唯「遠慮しないで」
梓「遠慮しておきます」
唯「帰っちゃうの?」
梓「はい」
唯「せめて雪が弱くなってからにしたら?」
梓「……もう少し待ちます」
唯「憂、大丈夫かなぁ?傘持っていった?」
梓「多分持っていったと思います。憂なら天気予報をちゃんと確認するはずですから」
唯「あずにゃんは確認してないの?」
梓「しましたけど朝家を出る時はあんなに晴れてたから大丈夫かなぁって」
唯「憂にメールしてみよっと。ムギちゃんも大丈夫かな?電車止まってないかな?」
梓「どうでしょうか。私は澪先輩と律先輩にメールしてみます」
唯「憂は傘は持ってるけど雪がひどいってことでスーパーの近くの喫茶店で雪が止むのを待ってるみたい。
ムギちゃんは家の人に迎えに来てもらったって」
梓「律先輩は澪先輩の家にお邪魔になってるそうです。急に雪が降りだしたからって」
唯「みんな災難だったね~」
梓「大人しくコタツで寝てればよかったものを……」
唯「皮肉ですか」
梓「はい」
唯「とにかく、しばらくはコタツでのんびりしてなよ~。ほら、みかんをどうぞ」
梓「いただきます」
唯「みかんはいいよ。おいしいし、健康にいいし」
梓「私も一年前のこの時期はよく食べてました。受験が近かったですから」
唯「みかんのおかげで晴れて桜高に合格、というわけですな」
梓「唯先輩はよく受かりましたね。憂に代わりに受けてもらったとか?」
唯「私もみかんパワーだよ」
梓「一緒にしないでください」
唯「去年は色々あったねぇ。あずにゃん、去年はどういう年だった?」
梓「去年は……かっこいい先輩と頼れる先輩と優しい先輩に出会えて」
唯「ふむふむ」
梓「しっかりしてる友達と憎めない友達が出来て」
唯「ほうほう」
梓「学園祭ライブも成功させることができたし」
唯「うんうん」
梓「ライブハウスで演奏できたし」
唯「たんたん」
梓「今までにないくらい充実した年でした!」
唯「おう?」
梓「何か?」
唯「いやぁ何でもないよ」
梓「あ、さわ子先生も何だかんだでいい人ですよね。ギターも上手でしたし」
唯「うん」
梓「和先輩にも学園祭の時はお世話になりました」
唯「そうだね」
梓「私、出会いに恵まれてよかったと思ってます。桜高に来てよかったです」
唯「そうだよね」
梓「何よりも」
唯「うん?」
梓「私をこんな素敵な場所に連れ込んでくれた人に感謝してます」
唯「……へぇ」
梓「その人は怠け者で天然で物覚えが悪くて」
唯「うぅ」
梓「嫌がってることも気にせずひっついてきて、強引に手を引っ張って」
唯「はぁ」
梓「たまに見せるマジ顔と演奏で私の心を奪うんです」
唯「……迷惑じゃない?」
梓「大迷惑ですよ。詐欺に遭った気分です」
唯「サギ?」
梓「鳥じゃありませんよ。普段からもっとしっかりしろってことです」
唯「贅沢はよしなさい」
梓「腹立ちました。もう帰りますね」
唯「えぇ~」
梓「雪止みましたから。では失礼します」
唯「うわぁ~ん。帰っちゃうんだぁ。また寝てやる。心配させて帰れなくしてやる」
梓「……おやすみなさい」
唯「うぃ~ん」
梓「……アイスはここに置いておきますね」
春
唯「あずにゃんや」
梓「おはようございます」
唯「おはよう」
梓「早いですね」
唯「目覚まし一時間早くセットしちゃって」
梓「この間もそんなこと言ってましたね」
唯「そういうあずにゃんも早いね」
梓「私も同じです」
唯「そっか」
梓「はい」
唯「部室行く?」
梓「ええ」
唯「今日はりっちゃんと澪ちゃん来るかなぁ」
梓「風邪でしたっけ。唯先輩も気を付けてくださいね」
唯「だぁいじょおぶだよ~」
梓「慣れない早起きして生活リズム狂ってるんじゃないですか」
唯「ちゃんと寝てるから大丈夫だよ」
梓「授業中に、でしょ」
唯「ごめいとう」
梓「澪先輩と律先輩のためにノート取ってあげたりしないんですか。ムギ先輩に任せっきりなんでしょう」
唯「Oh, that’s right...」
梓「今日は唯先輩がやってくださいね。放課後一緒にお見舞いに行きますから」
唯「わかりました」
梓「素直でよろしいです」
最終更新:2010年10月03日 22:03