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 夏休みを前にした、ある休日のことだった。

 私は憂と共にガレージの片づけをしていた。

 元はと言えば、リビングで使う大きなすだれを探しに来たのだけれど、

 これがなかなか見つからずに、捜索ついでに少し片づけをすることになったのだ。

唯「ういー、見つかったー?」

憂「だめ、全然見つからないよ。どこにしまっちゃったかなぁ」

 そんなこんなでかれこれ1時間が経つが、

 片づけの進行具合はもちろんのこと、肝心のすだれもまだ見つからない。

 そろそろ休憩を入れたいなぁ、と憂の背中を見ながら考えていると、

憂「あっ!」

 憂がなにか見つけたらしく、がさごそと荷物の下からそいつを引っ張り出してきた。

唯「なぁに、どうしたの憂?」

 私はそばに寄って、それが何なのか確認し、ごくりと唾をのんだ。

 私たちが子供のころ使っていたビニールプールが、くたくたになって横たわっていた。

 ん? 唾をのんだ? なぜ?

 私は自分の反射的な行動に不可解さを感じつつ、ビニールプールを拾い上げる。

唯「こりゃまた懐かしいね」

憂「ほ、ほんとだね。すごい昔のやつだよ……」

 答えた憂の声には、どことなく元気がなかった。

 憂もきっと片づけで疲れているんだろう。

唯「……そうだ!」

 私ははたと思いつくと、ビニールプールを持って庭に出た。

唯「うい、プールで休憩しよ!」

憂「ええっ!?」

 驚いて憂が手を開く。

 無理もなかろう、私たちは今や高校生。

 そして本来ビニールプールなんてものは、年齢が一桁でなければ入ってはいけないものである。

憂「で、でも……そんな」

 憂は耳まで赤くして、後ずさりをする。

 気持ちは分からなくもないけれど、そこまで恥ずかしがることだろうか。

唯「あー、ダメだね憂は。童心を忘れちゃいけないよ」

 私はちっちっと指を振る。

憂「童心……」

唯「そう、童心だよ」

 憂が唾といっしょに、なにか心を飲みこんだ。

憂「そうだね、今日は暑いし、汗かいちゃったしね。ここ埃っぽいから汚れちゃったし」

憂「プールとか遠くてなかなか行けないし海なんてもってのほかで、だから童心にかえってビニールプールもいいよね」

唯「うん、いいよいいよ」

 私はずらずらと理由を並べあげた憂に笑いかけると、水道にホースを繋いでまずはプールを洗い始めた。


――――

唯「よし!」

 私は額に水をかけて汗を流し、かぶりを振って水を飛ばした。

 思い出の中に封印されていたビニールプールが私の足元によみがえっている。

 憂と二人で冷たい水を掛け合って遊んだ夏の日。あのころに比べると、ずいぶん身体も大きくなった。

 私は感慨を覚えつつ、いそいそと家に上がって、合宿のときに持っていった水着に着替えた。

唯「ういー? ヘーイういー! 準備できたよー!」

 わざわざ自分の部屋まで着替えに上がってしまった憂を呼び、私は外に飛び出そうとした。

 その時、ふと私は立ち止まった。目の端に写った光景に、奇妙な既視感がある。

唯「……?」 

 窓の向こうに、揺れる水面を光らすビニールプール。

唯「……あぅっ」

 見つめていると、突然体の中から甘美な感覚が漏れ出た。

 私はぶるぶる首を振り、その感覚をはじき飛ばす。

憂「……お姉ちゃん?」

 背後から憂の声がした。

 私は正気に戻って振り返る。

唯「おぉ」

 なんというなやましバディだろうか。

 しかもそれを惜しげもなく披露するような面積の小さい水着。

 妹のくせに、姉に恥をかかせようというわけである。

唯「大した度胸じゃん」

憂「そ……そうかもね」

 憂はまた顔を赤くして、鼻を掻いた。

唯「……?? まぁ、うん……」

 どうにもさっきから、憂の反応がおかしい気がする。

 ただの気のせいだろうか。

 いや、おかしいと言うなら私の方こそ。

唯「……っん」

 外に置いてあるビニールプールを見て、私はまた酔いしれた。

 この感覚は、一体何なのだろう。

 知っているような気がするのに思い出せない。

唯「行こっか」

 私は視線を窓から外すと、憂の手を取った。

 素足をぺたぺた鳴らして外に出ると、庭を歩いてプールの水に足を突っ込む。

唯「~~っ」

 まだ夏の最盛は来ておらず、気温もそれほど高くない。

 水の冷たさに、私はぶるりと震えた。

憂「ど、どうお姉ちゃん?」

 憂の声がかかる。

 ええい、ここまできて引き下がれるか。

 私はゆっくりと足を曲げ、プールの水に浸かった。

 入ってしまえばどうというほどでもない。たかが半身、体が冷えてしまうわけでもなかった。

唯「良い感じだね。憂もおいでよ!」

 ばしゃばしゃ水を叩いて、私は憂を呼ぶ。

 憂は少しためらった後、そろそろと足をプールに入れていく。

憂「つ、つめたくない?」

唯「ない」

 じれったくて、私は憂の足を掴んで強く揺さぶった。

憂「きゃっ!」

 バランスを崩した憂が私に倒れこんでくる。

 私はさっと腕を広げて憂の体を受け止める。ばしゃあ、と水が溢れて、私たちは抱き合うような格好になった。

憂「……もうっ」

 憂が抗議の声を上げたが、私の意識は別のことを考えていた。

 違う。こっちじゃない。

 逆だ。

 私は全身に力を入れると、ぐるりと回って憂を下に押し倒した。

 さらにプールの水量が減る。

憂「だだ、だめっ」

 ようやく憂が慌てて私の腕から逃れようとする。

 もう遅い。私は思い出してしまった。

 むかーしむかし、このビニールプールであったことを。

 膝を水に浸しながら抱いた感情を。

唯「憂……」

憂「やめて、おねえちゃぁんっ」

 私は憂の首筋に舌を這わせた。

 憂の口からでる言葉は、やや快感に煽られたふうに揺れる。

憂「だめ、だってば……」

 抵抗の声が小さくなっていく。

 代わりに憂の体が熱くなっていき、私たちの水濡れた体を冷やさないようにしてくれた。

唯「ん、ういっ、うい……」

 私の舌は、憂の体と磁石でくっついているかのように離れず、かつ自在に滑っていく。

 私は水着のふちから舌を差し込み、憂の乳首を舐めようと懸命に動かした。

憂「あっ、いや……んううぅ……」

 けれど、私の舌先に突起の感触は訪れない。

 舌裏に感じる、憂の肌とは違う感触から思うに、ギリギリで届いていないのだろう。

憂「ん、は、くぅ……やめて、そんなの……」

 憂が苦しそうにうめく。

 私だって憂を気持ちよくしてあげたいのに、もう少しで舌が届かない。

唯「……うい」

 私は一旦、水着との隙間から舌を抜くと、憂の名前を呼んだ。

憂「うん……?」

唯「家の中でなら、脱がしていいよね?」


――――

 私はリビングで早速憂を押し倒した。

 初めにキスをして、それから水着を脱がしておっぱいを吸う。股間に舌を這わせる。

 手は使わず、おもに口舌で憂に刺激を与えていく。

 あの日もこんなオーラルセックスだったな、と私は思い出していた。

 憂の視線が窓の外を向く。

 外を気にしているのではなく、ビニールプールを見つめている。

唯「海に行きたい、って憂が言ったんだよね」

 こくりと憂が頷く。

唯「だけど私たちだけじゃ無理だから、ビニールプールを用意して遊んでた」

唯「そしたら……変なはしゃぎ方しちゃったんだよね」

 私もビニールプールを見た。

 そこにあるべき海は、あの日と違い水たまりのような浅さであった。

唯「そうして、いつの間にか家に戻って……海を見ながらエッチしたんだったね」

唯「……忘れてたよ」

 私は息を吐いて、憂の鎖骨にキスをする。

憂「そりゃあ……忘れるようにしてたもん」

憂「覚えていたら、こういうふうになっちゃうから」

 憂は首をもたげて、私の耳をぺろりとなめた。

憂「……姉妹なのに」

唯「そうだね。でも……」

憂「でもじゃないよ」

 私が言いかけた言葉を、憂は厳しい口調で止めた。

憂「……また、忘れなきゃだめ。こんなのいけないから」


唯「ふぅーっ……」

 私は、涙が出そうになるのを懸命にこらえた。

憂「……」

 憂が視線を惑わせた。

 私の体を眺めて、結局はくちびるにキスをする。

憂「ん……」

 切なげな声をあげて唇を離した憂の頭を、だまって撫でてあげた。

 憂は深呼吸をした。

憂「けど、ね……」

唯「うん?」

 重たい口調で、憂は言った。

憂「私は、ちゃんと覚えてるから……」

憂「いつまたこんなことがあっても、びっくりしないように……」

憂「急に昔のあやまちを思い出して、苦しくならないように……」

憂「私がちゃんと覚えておくから、お姉ちゃんは忘れてね」

唯「うい……?」

 それって、と言おうとした私のくちびるを憂が塞ぐ。

憂「ん……お姉ちゃんは何も考えなくていいから」

憂「ことが終わったら、ちゃんと忘れるんだよ」

唯「……」

 私は頷けなかった。

 こんなことを言われてしまって、もはや忘れられる自信はない。

唯「憂……これから嘘をひとつだけ言うから、何も言わずに信じてくれないかな」

憂「……うん、いいよ」

 憂の吐息が熱くなったのがわかった。

唯「今後……こういうことがあっても、ちゃんと忘れるって約束する」

 こくりと憂は頷いた。

憂「約束だね」

唯「それじゃあ……」

 嘘はひとつだけ。

 私は深く息を吸うと、憂の瞳を見つめた。

唯「好きだよ、憂」

憂「……私もだよ、お姉ちゃん」

 私たちは笑い合い、ふと、窓の外を見た。

 ビニールプールに潮が満ちているような気がした。


 おしまい



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最終更新:2010年10月06日 03:32