唯「ねえ、澪ちゃん」

澪「何?」

唯「海だね」

澪「海だな」

唯「広いね」

澪「広いな」

唯「静かだね」

澪「本当にな」

唯「いい天気だね」

澪「暖かいな」

唯「綺麗だね」

澪「透き通ってるな」

唯「海ってさ」

澪「うん」

唯「しょっぱいし、お魚もワカメもタコもカニもおいしい」

澪「食べ物ばっかりだな」

唯「たくさん泳いで遊べるし、いろんなものが見られるし」

澪「生命の起源でもあるな」

唯「海っていいね」

澪「そうだな」


澪「……」

唯「澪ちゃん。歌詞考えないの?よく海の歌ってあるじゃん」

澪「やめておくよ。今考えても、きっと素敵なものにならないだろうし」

唯「それもそうだね」

澪「それに、今難しいことを考えたら寝てしまいそうだから…」

唯「あ、わかる。あれってなんでなんだろうね?」

唯「……」

澪「あっ、魚がはねた」

唯「えっ、どこ?」

澪「ほら…あっち。あ、またはねた!」

唯「見えないよ…」

澪「たぶんあの辺にたくさんいると思うんだけど…見てくる?」

唯「ううん、やめとく。だって、帰って来れなかったらやだもん」

澪「魚がはねるなんて、珍しくもないし、それがいいと思うよ」

唯「そういえばさ、澪ちゃん」

澪「どうした、唯?」

唯「澪ちゃんは怖くなかったの?魚」

澪「ああ…怖かったよ。海の広さ…深さかな?含めて、不気味で、不安で仕方なかった」

唯「だよね」

澪「でも、今はそんなに怖くないかな。私たちが何かされたわけじゃないし、それに」

唯「それに?」

澪「怖いと思うようなことがあっても、その頃には、きっとそう思わなくなってるよ」

唯「ねえ、澪ちゃん」

澪「何?」

唯「海だね」

澪「海だな」

唯「広いね」

澪「周りに何も見えないくらいにな」

唯「静かだね」

澪「船の音でも聞こえたらいいのにな」

唯「いい天気だね」

澪「天気が続いたおかげで体が冷えにくいな」

唯「綺麗だね」

澪「それでも底が見えないよ」

唯「海ってさ」

澪「うん」

唯「喉が渇いても水を飲めないし、道具がないから、お魚もワカメもタコもカニも食べられない」

澪「たくさんいるのにな」

唯「いつも泳いで遊んでたのに。可愛い生き物も全然いない」

澪「命が生まれる場所のはずなのにな」

唯「海ってひどいね」

澪「そうだな」

唯「二人でずっと見てる海。同じ窓から見てる海」


澪「うん」

唯「見飽きちゃったね」

澪「変わらないからな。仕方ないよ」

唯「大きな船だったのにね」

澪「本当に、何があるかわからないな」

唯「腕がつりそう」

澪「私も」

唯「……」

澪「……」

唯「何日目だっけ」

澪「知らない」

唯「あとどれぐらい、このよくわからない窓に掴まってたらいいんだろ」

澪「さあな」

唯「りっちゃんとムギちゃん、何してるのかな」

澪「何か出来る状態なのかな」

唯「私たち、帰れるのかな」

澪「きっと大丈夫だよ」

唯「……」

澪「……」

唯「疲れた」

澪「……」

唯「もうやだ」

澪「…そっか」

唯「……」

澪「そうだ、唯」

唯「なあに?澪ちゃん」

澪「気分転換に空を見上げてみないか?」

唯「それはもうやったよ」

澪「じゃなくてさ、海に潜って、窓を通して見上げるの」

澪「きっと違うと思うんだ」

澪「同じ窓から見上げた空、でもさ」

唯「澪ちゃん」

澪「…ごめん」

唯「でも、それも楽しそうだね」

澪「そうだろ?」

唯「だけど、ちゃんと出来るかなあ。緊張しちゃうよ」

澪「じゃあ、二人で一緒に潜ってみよう。せーの、で手を離して」

唯「えへへ、ありがとう澪ちゃん」

澪「いいよ。私も実はちょっと不安だったんだ」

唯「澪ちゃんも私と一緒!」

澪「ふふ、一緒だ」

唯「行くよ、澪ちゃん」

澪「いいよ、唯」



唯澪「せーのっ」



END



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最終更新:2010年10月06日 03:46