ピィーン
ピィーーン
澪「やっぱりちょっと季節外れだったんじゃないか?」
紬「そうかも……」
唯「いいじゃん!海はいつ来ても楽しいよー」
律「唯の奴、もう水着着てらぁ」
梓「風邪ひかないでくださいよ…」
律「ムギ、本当に大丈夫なの?こんなの借りちゃって」
紬「気にしないで!どうせ誰も使わないんだから」
澪「私乗るのも見るのも初めてだよ」
唯「ねえねえ!早く乗ろうよ!」
受験も無事に終えた私達は、卒業前の思い出作りというめいもくで
ムギちゃんの海辺の別荘に遊びに行きました。
何度かみんなで海に行ったことはあるけど、今回はいつもとはちょっと違います。
まずは、今日は合宿じゃなくて旅行が目的、ということです。
だからどんなに遊んでも澪ちゃんにもあずにゃんにも怒られません。
そしてもう1つ、ムギちゃんがはりきりすぎちゃった、ということです。
あ、アホウドリが鳴いてる……。
律「知ってるか?アホウドリって日本じゃ冬の海でしか見れないんだぞ」
紬「知らなかった」
澪「あほうの律はアホウドリに詳しいんだな」
律「何おぅ!?」
梓「今ってもう春じゃないんですか?」
唯「まだ冬だよ。ほら、こんなに寒いんだよぉ」
澪「だから何故お前は水着になる」
梓「わぁっやっぱり近くで見ると大きいですね」
澪「潜水艦持ってる家なんてムギのとこくらいだよなぁ」
紬「『艦』なんてもんじゃないわよ。潜水艇って感じかな?」
唯「どっちでもいいよぉ。ねえ乗ろう乗ろう!」
執事「皆様、お気を付けてご乗艇ください」
唯「わっ艦長さん!?」
執事「いえいえ、『艦』という程ではございませんが」
律「ははは!ムギとおんなじこと言ってる」
紬「ごめんなさいね、付き合わせちゃって」
執事「お気になさることありません」
執事「お嬢様はお友達とめいっぱい楽しむことだけをお考えくださればよいのです」
紬「うん。ありがとう」
唯「このボタンなんだろ?」
ポチッ
澪「おい、勝手にいじるなよ!」
ピィーン
ピィーーン
梓「わっ!」
律「なんだなんだ?」
唯「ごごごごごめんなさい!」
紬「何これ、ソナー?」
執事「はい。と言っても音が鳴るだけですよ」
執事「あくまで雰囲気を楽しんでいただければと…」
唯「びっくりしたぁ」
そんなこんなで、潜水艦…じゃなくて、せんすいていでの海の旅が始まりました。
景色がガラリと変わりました。
さっきまでこの丸い窓から見えてたのは海面とソラとアホウドリだったのに…
いつの間にか暗い海。
そして今までみたこともない魚がいっぱい。
律「みおみお!アレ、なんかグロテスクな生物がいるぞ!」
澪「うわっ見せるなよぉ」
律「期待通りの反応♪」
梓「奇麗なものもいっぱいありますよ」
梓「ほら、あの珊瑚」
紬「素敵ねえ」
唯「すごい!サンゴの迷宮だぁ!」
唯「この海はずーっと昔からこの状態なのかな?」
律「人が手を加えたりしないだろうからな」
唯「あのサンゴ達は遠い昔から今まで…誰も知らないこの海底をずっと見てるんだよね」
唯「なんか不思議な気分になるよ」
梓「いつになくそんな抒情的なこと言う唯先輩も不思議ですよ」
紬「唯ちゃんの言うこと、なんとなく分かるよ」
澪「さっきまでいた地上とここが、同じ世界だっていうのが嘘みたい」
唯「うんうん!」
梓「どこかの町、どこかの道路に車が走ってて…人が歩いてて……」
律「そういうのが全部、今の私達となーんにも関係の無い出来事に感ぜられるよな」
ピィーン
ピィーーン
多分澪ちゃんもりっちゃんもムギちゃんもあずにゃんも
私と同じこと考えてたんだと思います。
海の中にいると、海の底を見下ろしてると、何かが分かるような気がしてきます。
だから魚も陸に上がらないのかな。
みんな陸じゃなくて、海に住むことが正しいのかな。
律「それは違うぞ」
唯「りっちゃん!?」
律「いくら海が奇麗で神秘的でも、人間は魚にはなれないよ」
唯「だ、だよね。当たり前だよね」
紬「やっぱり陽の光に当たらないと!」
梓「学校へ行って、友達と話して、部活をしなきゃ退屈しちゃいますよ」
唯「うん!みんなの言うとおりだよ」
澪「ところで今何時なんだろ」
梓「時間が全然分からないですね」
執事「そろそろ浮上いたしましょうか」
紬「ええ、お願い」
唯「太陽が恋しくなっちゃった」
数時間程度潜ってただけなのに、海面に上がるととっても懐かしい感じがしました。
潮の匂い、砂浜の感触、アホウドリの鳴き声、全部海の中からじゃ分からないんだね。
雲1つ無い冬の空は寒いけどとてもあったかいです。
その日はご飯を食べて、お風呂に入って、みんなで寝ました。
朝日が昇るまで……
ピィーン
ピィーーン
私がふざけてボタンを押したら鳴っちゃったソナー音。
明日になっても頭から離れませんでした。
色とりどりのサンゴを見たとき、色々と変なことを考えちゃいました。
きっと、海の中の全部が私の頭に反響してたのかな。
以上です。
…というわけでもありませんが、ピンク・フロイドの『エコーズ』を意識して書いてみました。
お目汚し失礼いたしました。
最終更新:2010年10月06日 20:41