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唯「ねぇ、運転手さん」
トラ「なんだい?」
唯「このトラックは、どこまでいくの?」
トラ「今は教えられないな」
唯「ふーん」
トラ「でも、悪いところじゃないよ」
唯「楽しい場所だったら嬉しいなぁ」
トラ「僕の好きな場所でもあるから、気に入ってくれると嬉しいよ」
ぶろろん
唯「どうして私はこのトラックに乗ってるんだっけ」
トラ「そのうちわかるよ、本当は君みたいな子、乗せたくなかったんだけどね」
唯「あ、なんかごめんなさい・・・、でも」
トラ「ん?」
唯「降ろしてしまえばいいじゃないですか、見ず知らずの女の子ですよ?」
トラ「僕もそう思うんだけどね。でも、見ず知らずって訳じゃないんだ」
ぶろろん
唯「このトラックは、どんな荷物を運んでいるの?」
トラ「んーっと、とっても素敵なものだよ、みんなから愛されてる人気者だよ」
唯「そうなんだぁ・・・いい仕事してますね」
トラ「ありがとう。僕もこの仕事が生きがいさ」
ぶろろん
唯「ずいぶんと遠くまで来たね」
トラ「遠距離を走るのが僕の仕事だからね」
唯「かっこいいね」
トラ「そうかな?」
ぶろろろん
トラ「もうすぐつくよ」
唯「楽しみだなー」
トラ「ほら、このトンネルを抜けたら、すぐ」
ぶろろろろ
くおぉぉーん
唯「トンネルの中って、少し怖いね」
トラ「そうかな?」
唯「トンネルの中に時々歩いてる人とかいるじゃないですか、幽霊かな、とか一瞬考えちゃって」
トラ「人なんていないよ」
トラ「さぁ、もうすぐ出口だ、窓の外、左手を見て」
ぶろろろろ
唯「わぁ───、」
トラ「綺麗な海だろう?」
唯「ほんとうに、きれいだねー」
ぶろろろ・・・・ききっ
がちゃ
唯「あれ?ここで降りるの?」
トラ「うん、この海にお届けものさ」
唯「そうなんだ・・・」
トラ「ちょっと荷物降ろすの手伝ってくれないかい?結構重くてね」
唯「あ、もしかして手伝わせるために私をのせてたのかな?」
トラ「違うよ違うよ、君もここに用事があるんだ。ないかもしれないけれどね」
トラ「そら、これ、受け取って」
唯「・・・・それ、かんおけ?」
トラ「そうだよ、棺おけ、人の死体が入ってる」
唯「運転手さん、悪い人?」
トラ「違うよ、確かに人から見たら気持ちのいい仕事ではないかもしれないけれどね」
唯「うん、怖いよ」
トラ「この棺おけをこの海に還すのが僕の仕事なんだ」
唯「殺人事件の証拠隠滅、とか?」
トラ「そんなのじゃない、この世界では殺人事件なんて起こらない」
唯「・・・・?どういうこと?」
トラ「気づかなかったかい?通行人が一人もいなかったことに、僕ら以外の車が走っていなかったことに」
唯「え、あ、そういえばそうかも」
トラ「ここはね、唯ちゃん──」
唯「・・・どうして私の名前を・・・、あれ?なにか思い出しそう・・・」
トラ「───死後の世界なんだよ」
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ききー、どーん
ぴーぽーぴーぽー
ゆい!ゆい!
おねえちゃん!!おねえちゃあん!!!
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唯「あ・・・・あ・・・全部、思い出した・・・・」
トラ「うん、そうだよ。君は死んだのさ」
唯「もしかして、この棺おけに入ってるのは・・・!」
ちらっ
唯『・・・・・・・んぅ・・・・』
唯『・・・・え?』
唯『「あ、あ、あ、あ」』
唯『「 う そ だ 」』
トラ「うそじゃないよ、うそじゃなければなんだっていうんだい」
唯「そうだ、うい。ういが私に変装してるんでしょう」
唯『ううん、私はういじゃないよ、君こそういじゃないの?』
トラ「信じるも信じないも勝手だよ、でも、今ここには魂の唯ちゃんと肉体の唯ちゃんがいる」
トラ「僕の仕事は、肉体の唯ちゃんを海に還して、また新しい命にすること」
トラ「素敵な仕事だろう?」
唯「ま、まって。頭がついていかないよ」
唯『ようするに、この棺おけに入って海に流されれば、うまれかわれるってこと?』
トラ「うん、そうだね」
唯『じゃあ、早く海に流して!』
トラ「いやぁ、そこでお話があるんだよ」
トラ「本当は魂の唯ちゃんも一緒の棺おけに入って運ばれる予定だったんだけどね」
トラ「実は、まだ君たちは助かりそうなんだ」
唯「え?」
トラ「魂だけ、現世につながれた状態。肉体はほとんど死んじゃってるんだけどね」
唯「でも、生き返れるなら!」
トラ「もちろん、生き返りたいならそうしてもいいよ」
トラ「でもね、唯ちゃん。君の肉体はもうほとんど死んじゃってるんだ。トラックにひかれてぐちゃぐちゃで、二度と喋れないだろうし、二度と歩けないだろう」
唯「え・・・・?」
トラ「それどころかきっと、意識も戻らないだろうね、奇跡でも起きない限り、絶望的だ」
唯「そんな・・・」
トラ「それでも君は、生き返りたいかい?よみがえりたいかい?」
トラ「君の存在は、家族や友人にとって、足手まといでしかなくなるよ」
唯「・・・・」
トラ「そんな目でにらまないでくれ、親切で言ってるんだ。君は君の存在自体が、愛する人の足かせになってもいいのかい?」
唯「・・・・少し、考えさせてください」
トラ「日が沈むまでには、決めてくれよ、夜になったら手遅れになるからね」
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ぴーーーーーー
憂「うっ・・・・ぐすっ・・・お姉ちゃん・・・おねえちゃあん・・・」
和「ゆいぃ・・・ひっ・・・・ぐすっ・・・・」
医師「20時32分、ご臨終です」
「はなせぇーっ!!!ゆいぃぃぃー!!!」
「おい!やめろ、病院だぞっ!!」
「落ち着いてりっちゃん!」
「ぐすっ・・・・ひぐっ・・・ゆいせんぱい・・・」
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ざざーん・・・・
ちゃぷちゃぷ
唯「これで・・・・良かったのかな」
唯『・・・・うん、たぶん良かったんだよ』
唯「みんな、泣いてるかな」
唯『きっと悲しんでるだろうね』
ざばばば・・・・
唯「あっ、棺おけに水が入ってきちゃった」
唯『おぼれちゃうっ・・・あれ?』
唯「息、出来るね」
唯『うん、それに結構温かいもんだね』
唯「夕日が差してるからかなぁ」
唯『うん、小窓から、キラキラした海が見えるね』
唯「次はどんな人生が待ってるんだろうね」
唯『もう一度皆と知り合えたら、嬉しいね』
唯「そうだね」
唯『なんだか眠いや』
唯「寝ちゃおうか、沈んでいくのは少し怖いし」
唯『うん、おやすみわたし』
唯「おやすみ」
ぶくぶくぶくぶく・・・・
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「おぎゃあ おぎゃあ」
「おー、よしよし。今から私たちの恩人のおうちにいくから、泣きやんでねー・・・」
ぴんぽーん
がちゃり
「はい、どちらさまですか?」
「はい、そうですが・・・」
「あの時助けていただいたお礼を、と思いまして、伺わせていただいたのですが───」
「あ、そうなんですか。えっと・・・その子は」
「あの・・・お姉さんの名前を頂いて、唯と名づけさせてもらいました」
「うぶっ・・・う・・・うい・・・ういー・・・」
「・・・・おねえちゃん?」
おしまい。
最終更新:2010年10月06日 20:40