心外です。
ただ“なかよし”なだけです。
いつから?――生まれた日から。
運命だからです。私がお姉ちゃんの妹になることは。
物心付いた時にはお姉ちゃんのことばかり見てた気がします。
だってあんなにも優しく、暖かい笑顔を振りまいてくれるから。
だから、私もお返しをしないと――そう思ってきました。
昔は両親がよく家に居てくれました。
お父さんが仕事でもお母さんは家で家事をしていました。
いつの頃か、お母さんもお父さんと一緒に出かけることが多くなり
私はお姉ちゃんと二人っきりになることが多くなりました。
お夕飯は、作り置きを温めて食べる日々でした。
お姉ちゃんは「美味しいね」と言いますが
やはり出来立ての方が美味しいに決まっています。
お姉ちゃんに美味しい出来立てのご飯を食べさせてあげたい
そう思った日から私は料理の勉強を始めていました。
お姉ちゃんに内緒で、お母さんからお料理のやり方を教わりました。
お母さんはそろそろお姉ちゃんに教えようと思っていたみたいですが
私が無理を言って教えてもらうことになりました。
お姉ちゃんに内緒にしていたのは――びっくりさせようとしていたからかな。
ちょっとしたサプライズのつもりです。
あの目をくりくりさせて驚く顔は、かわいくて仕方ないですから。
その後の満面の笑みを想像して私は頑張っていました。
当時の私はそれが動力源でした……これは今もですね。
初めは失敗ばかりでした。
指を切ったり、火傷をしたり、散々でした。
でも、お姉ちゃんのために頑張らないと
そう思って意気込む日々です。
お母さんが居ない日は
お隣のお婆ちゃんに味見をしてもらいました。
何度目かの失敗の後
「美味しいよ、頑張ったね」と頭を撫でてもらいました。
ああ、これでお姉ちゃんに出来立ての
美味しいご飯を食べさせてあげられる
そう思うと胸の鼓動が高鳴るばかりです……。
ありがとうお母さん、ありがとうお婆ちゃん。
それから数日後
お父さんは出張、お母さんはそれの付き添いへ
そして家にはお姉ちゃんと私だけです。
念願の二人っきりです。
その日もいつもと同じようにお姉ちゃんと一緒に学校へ行き
授業を受け、放課後は一緒に帰りました。
家ではお姉ちゃんがいつものようにゴロゴロしています。
さあここから私の出番です。
お姉ちゃんがお部屋に居る間にお夕飯を作っちゃわないとね。
絶対失敗しない――そう心に誓って調理を開始します。
作るものはハンバーグです。
お姉ちゃんがとっても好きなんです。だから私も好きです。
まず玉ねぎみじん切りにして、適当に色つくまで炒めます。
お次はボウルにあら挽き肉に塩、コショウを入れ、コネコネと混ぜます。
そこへ牛乳で浸したパン粉を加えてまた混ぜます。
最後に卵と先ほどの玉ねぎを入れてさらに混ぜます。
よく混ぜれたら形を整えます。
私の手はお母さんより小さいので、小さいハンバーグになってしまいます。
お姉ちゃんはよく食べるので、二つ作ることにしました。
ぺたぺたと形を整えて完成です。上手く出来たかな?
焼く前にソースを作りましょう。デミグラスソースです。
教わったとおりにソースを仕上げていきます。
じっくりことこと煮込みます。
その間にポテトサラダを作ります。
忙しいです。お母さんは偉大ですね。
これから私が作ることになるので弱音を吐くわけにはいきません。
――お姉ちゃんのために
憂『よし……出来たぁ』
テーブルの上には出来立てのハンバーグにお味噌汁
ポテトサラダにお漬物、そしてほかほかご飯。
後は、麦茶を置いてお姉ちゃんを呼びにいくだけです。
味見もばっちりなはずです。
これで喜んでくれるかな。
美味しいと言ってくれるかな。
期待に胸を膨らませお姉ちゃんを呼びにいきました。
憂『お姉ちゃん、ご飯だよ!』
唯『ほんとー?お腹ぺこぺこだよ~』
憂『うん、いっぱい食べてね!』
唯『わーーーい』
お姉ちゃんは笑みを浮かべ駆け足でリビングへ行きます。
私もその後を同じように笑みを浮かべてついて行きます。
唯『あ、今日はハンバーグだ!』
憂『うん、お姉ちゃんの好きなハンバーグだよ』
唯『やったーーーって、いつもと匂いが少し違う』
唯『あ、これって出来立て?!』
憂『う、うん、そうだよ』
唯『お母さん帰ってきてたの?お母さんが作った時の匂いする』
憂『ううん、私が作ったんだぁ』
唯『え、憂が?ほんとに!?』
憂『うん、どうかな……?』
唯『す、凄いよういーー』
憂『きゃっ』
お姉ちゃんが勢いよく抱きついてきました。
これだけで分かります。すっごく喜んでます。
私もお返しにお姉ちゃんの腰に手を回し軽く抱きつきました。
唯『憂、いつの間にお料理が出来るように??』
憂『つい最近だよ。お母さんと、隣のお婆ちゃんに色々見てもらったんだぁ』
唯『凄い!憂天才!!』
この日はお姉ちゃんがいっぱいいっぱい褒めてくれました。
私は胸の奥が暖かくなる――そんな気持ちでいっぱいになりました。
食卓ではいつも以上に会話が弾み、お姉ちゃんから笑顔が崩れませんでした。
――やった……!やったよ私!!お姉ちゃんが喜んでくれた!!!
心の中で小躍りをして喜びました。
「憂はいいお嫁さんになれるね!」
なんて言ってくれるのでまたまたはしゃぎます。先ほどより一段と激しく。
お嫁さん。
お姉ちゃんのお嫁さんになりたい。
この日から私はお姉ちゃんのお嫁さんとして歩むことしました。
お嫁さんになったからにはご飯もハンバーグだけじゃいけません。
もっともっと勉強して種類を増やし、美味しいものつくれないと……!
それにご飯だけではありません。
掃除、洗濯もあります。
洗濯は洗濯機と言う便利なものがありますが
掃除はそうはいきません。
小さな私にはこの家は広すぎました。
一階から三階までの掃除は身にこたえますね。
何故三階まであるのでしょうかお父さん。
一階は書庫くらいにしか使ってなさそうなのに。
あ、本しかないからそんなにお手入れしなくてもいいかな。
ごめんねお父さん。
そうとなればリビングやお姉ちゃんと私の部屋
お風呂場などを中心に掃除をするばかりです。
初めは辛くても
綺麗になっていく部屋を見ると楽しくなるものです。
特にお姉ちゃんの部屋――当時は私と同じ部屋でしたが
オモチャや本が散乱しており
お菓子の欠片までがいっぱいあります。
憂『も~ダメだよお姉ちゃん。綺麗に片付けないと』
唯『あ、ごめんね憂。お部屋の掃除までさせちゃって』
てへっと申し訳なさそうに笑うお姉ちゃん。
――ううん。大丈夫だよ。お姉ちゃんのためだから。
――だって私はお姉ちゃんの――
ただひたすらに頑張りました。
お姉ちゃんが笑えば私も笑い。
お姉ちゃんが泣けば私も泣く。
そんな日々が続きました。
家ではお姉ちゃんが私を頼ってくれます。
こんなに嬉しいことはありません。
私の生活の中心はお姉ちゃんです。
何をするにしてもお姉ちゃんが一番。
私の一日はお姉ちゃんためにあります。
ほら、今日の一日も――――――
憂「おね~ちゃ~ん、そろそろ起きないと」
唯「ん~」
憂「ほら、私とお弁当一緒に作るって言ったでしょう」
唯「うーん起きるよぉ」
朝6時過ぎ、お姉ちゃんを起こします。
普段はギリギリまで寝かしていますが、今日は違います。
お姉ちゃんと一緒にお弁当を作る約束をしたからです。
昨日のお夕飯時に、お姉ちゃんの方から作りたいと言ってきました。
初めは遠慮しましたが、何故かやる気になっています。
私もお姉ちゃんと一緒に作れるなら
楽しくなりそうなのでお願いしました。
眠たそうにしているお姉ちゃんを連れて洗面所へ。
歯を磨いている間、髪の毛を梳かしてあげます。
顔を洗ったらタオルで顔を拭いてあげます。
そして手を繋いでリビングへ行きました。
まだ髪の毛が跳ねてるけど大丈夫、それもかわいいから。
――後でまた直してあげるね。
憂「じゃあ、朝ご飯と一緒にお弁当作ろうね」
唯「はーい、頑張っちゃうよ~」
お料理開始です。
味見しあったり
玉ねぎが目にしみて涙が出たのを拭いてあげたり。
野菜を切る時に
後ろから手を添えて一緒に切ってあげたりもしました。
新鮮な感じがしていつも以上に楽しい時間でした。
おかずは半分ずつ作りました。
今からお昼が待ち遠しいですね。
唯「できたよ、ういー」
憂「うん!頑張ったね!」
憂「あ、ちょっと時間かかっちゃったかな。急いで朝ご飯食べないと」
唯「おぉ、ホントだ。急げ急げー」
朝食を大急ぎですました後、お姉ちゃんと一緒に登校します。
唯「間に合うかなー」
憂「大丈夫、間に合うよ。急いだら転んじゃうよ」
「はい」と言い、お姉ちゃんに手を差し伸べます。
「うん」と言い、お姉ちゃんが手を強く握ります。
私はそれに返事をする形でさらに強く握りました。
――あたたかい
――それは手が?
いいえ、胸の奥だってあたたかいから。
手を繋ぐだけでお姉ちゃんと一緒になれる
そんな高揚した気分になります。
楽しい時間は早く過ぎるもので、いつの間にか学校です。
そのままお姉ちゃんの教室へ向かいました。
唯「皆、おはよーー」
憂「おはようございます」
律「おーっすって、憂ちゃん?」
紬「おはよう、憂ちゃんはどうしたの?」
憂「お姉ちゃんの髪の毛を直しにきました」
紬「髪の毛?あら、ここ跳ねているわね」
律「ゆいーそれくらい自分でやれよー」
唯「憂がやってくれるって言うもん、憂は髪梳くの上手なんだよぉ」
憂「えへへ、はいお姉ちゃん座って~」
お姉ちゃんに椅子に座ってもらい後ろからブラシをささっと梳きます。
髪の毛にスプレーを数回拭きかけ馴染むようにブラシをかけました
憂「お姉ちゃん気持ちいい?痒いところない?」
唯「平気だよ~」
憂「よかったあ」
そのまま軽くお喋りをしていたらチャイムがなってしまいました。
ああ、自分の教室に急がなきゃ。
律さん達に挨拶をして、お姉ちゃんに「またね」と言い教室を後にします。
自分の教室へ行くとすでに皆そろっていました。
梓ちゃんと純ちゃんに目で「おはよう」と挨拶をして席へつきます。
最終更新:2010年10月08日 23:00