トゥルルトゥルル…

「……あたしだよんっ!」

「……もっと真面目に出来ないのかしらあなたは……」

「ごめんごめん~、でも堅っ苦しいのは私には似合わないかな~なんて……」

「……まあいいわ。確かにリラックスは大切ね。筋肉の緊張をほぐしてミッションに有効な……」

「ちょっと前まで音楽教師とは思えないセリフだな~」

「今は一応FOXDIEDの局長だからね……そしてあなたは……」

「その隊員……か。あれから数年足らずでまさかこんなことになるなんて思っても見なかったよ」

「でも止められるのはあなただけよ、りっちゃん」

律「わかってる……わかってるよ、さわちゃん」

律「ふー……」

酸素マスクを取り外す。地毛の茶色がかった髪が海風に靡く。
海中でお世話になったスニーキングスーツも脱ぎ捨て、中から緑色の迷彩服が露になる。華奢な律の体にはとても似つかわしくない。

バックパックから迷彩柄のカチューシャを装着する。

律「こちら律、テロリストが占拠している無人島に潜入した。指示を宜しく」

────METAL GEAR RITU
WORLD OF SONG───



さわ子『案外あっさりと潜入出来たのは意外だったわね…。』

律『衛星カメラで東側だけ警備が手薄だったから何かの罠かと思ったけど……見たところ人がいる気配はないな』

さわ子『ではミッション内容の確認をします。』

律『行く前に何回もやったじゃ~んパスパ~ス』

さわ子『いいから聞きなさい!!』

律『はい……』

さわ子『あなたの一番の目標はテロリストの兵器とされる新型METAL GEARの破壊、そして首謀者……』

律『秋山澪の抹殺……か』

さわ子『このミッションに望んだ時点で迷いは吹っ切れていると私達は判断しているわ。テロリスト側の言っている「世界中の核ミサイル、そのコードを意のままに操れる」と言う脅しで世界政府は恐慌状態、この島に武力介入どころかヘリ一つ飛ばせない状況の中頼れるのはあなただけなの、りっちゃん』

律『わかってるよ……もう……決めたから』

さわ子『ええ、そう言ってくれると思ってたわ。じゃあ具体的な説明に入りましょうか』

律『……うん』

さわ子『その無人島は直径15kmほどしかない小さな無人島よ。まあ隠れるには絶好の場所ね。テロリストがいる建物はそこから西に5kmにある即席で建てられたラボね。小さな島だし建物はそこしかないから迷わないと思うわ。衛星から見た感じ結構大きな建物だからそこからでも見えるかもしれないわ』

律『ここからは……木が邪魔で見えないなー』

さわ子『そう、まあそのまま直進すれば見えて来る筈よ。』

律『了解』

さわ子『じゃあ次は装備の確認ね。武器は基本現地調達、これは自分の武器が相手に渡らないようにするためと潜入の痕跡を残さない為よ。わかって頂戴ね』

律『FOXHOUNDの習わしかと思ってたらちゃんと意味あったんだ!』

さわ子『勿論それもあるわ。このFOXDIEDは伝説の組織FOXHOUNDを真似て創ったものですもの。あなたが取得しているCQC、Close Quarters Combatもあの伝説の傭兵が使用していたと言う理由で採用してるのよ!』

律『ミーハーだなさわちゃん……』

さわ子『う、うるさいわね!けどCQCは近接格闘においては最強とも呼ばれる体術よ。きっと役に立つと思うわ。』

律『へいへい……』

律『まあMk.22、双眼鏡、無人島のマップ、ドラムスティックがあれば大丈夫っ』

さわ子『またドラムスティックなんてかさばる物持って来て……』

律『ちっちっちっ、意外と役に立つんだよこれが。まあ見てなって』

さわ子『もう持って来てしまったものは仕方ないわ。上手く活用して頂戴。じゃあそろそろ通信切るわね。何か聞きたいことがあったりしたらCALLして。周波数は143.85よ』

律『いよっ、さわこ!で覚えるね!』

さわ子『好きにしなさい……』

さわ子『ああそうそう。あなたのナビゲーター兼メディカルチェック担当を紹介しておくわ。いいわよ、話して』

『お久しぶりです、律さん』

律『その声は……憂ちゃん?!なんでFD(FOXDIED)に?』

憂『律さんがその……澪さんと対峙するって聞いて……私も正しいことをしたいって思ったんです。確かに澪さん達の気持ちもわかるけど……けどそれは悲しみしか産まないから……』

律『憂ちゃん……』

憂『それにお姉ちゃんも……ううん、何でもないです。微力ながらですが力になります!体調のことや対処法、治療の方法、後はその島の特徴なんかも少しだけなら答えられます。聞きたいことがあったら311.15にCALLしてください』

律『う~む……ういいい子と覚えようか!』

憂『3が……うですか?』

律『携帯なんかで1を3回打つと「う」になるから……だめ?』

憂『ふふ、律さんらしいです』

律『そうなった時に困るから先に言っとくけどさ……。』

律『多分……唯もいるよ、ここに。それでも憂ちゃんは私達につくの?』

憂『……律さんも澪さんと敵対してまでそこにいるんですよね…。しかも私なんかと違って実際に赴いて……しかも抹消なんて……』

律『憂ちゃん……』

憂『大丈夫です…。もう弱い自分は捨てました。お姉ちゃんが間違ったことをしてるなら妹として……私は止めないと、叱らないと駄目だと思ったんです。だからここにいます。それじゃ…いけませんか?』

律『(叱る…か、そんな生温い状況じゃないのは憂ちゃんもわかってる筈……もしかしたら最愛の姉を私が死ぬことになるかもしれない……それを覚悟してるのか……)』

律『(いや……わかってないとしてもきっとこの子はジッとして居られなかったんだ。自分の知らない間に全て終わってしまう前に……。こうして唯と対峙することがどれだけ苦しかったことだろう……。澪、唯……お前達はそんな者達を捨ててまで……愛したと言うんだな、音楽を)』

律『ううん、十分だよ、憂ちゃん。一緒にあのバカ達を叱りに行こうぜ!』

憂『はい!』

律『(必ず取り返してみせる……この子の為にも)』

さわ子『さて、そろそろ作戦開始時刻よ。健闘を祈るわ』

律『了解っ』

さわ子『ここから先はコードネームで呼びます。いいわね?』

律『コードネームって言ってもあんま変わらないじゃ……』

さわ子『気持ちの問題よ気持ちの。じゃあ頑張ってね、りっちゃん』

りっちゃん『コードネームがりっちゃんって……』

ピピュン……

りっちゃん「さ~てと、行くか」

中腰になりながら辺りを警戒し森の中へと入って行くりっちゃん。
この先に待ち構えてるであろう旧友達、国を捨て友を捨てたった一つ得た音楽と言う名の柵(しがらみ)。
彼女らは全てを捨てた、そう……音楽の為に。

事は2年前の事件に遡る──────


2年前に起きた全世界規模で起きたテロ、後にWORLD OF SONGと呼ばれる事件。
爆弾が何かに反応して全世界ほぼ一斉に爆発したと言う恐ろしい事件だった。
その何か、が問題視された。最初は複数の組織による同時多発テロかと見られていたが声明は出ず、世界は恐怖に見まわれた。
それからも何度か同時に近い爆発が起こり、メディアは踏まずに爆発する地雷などと煽りたてた。
しかし1つの爆弾が爆発するまでに見つかり、事件は見方を変えた。
アメリカの研究所に持ち込まれた爆弾を解析した結果、その爆弾は音に反応して爆発すると言うことがわかった。
ただ普通の音ではない、それは音楽、……に乗った歌によって爆発する爆弾。
SONG BOMB……と恐れられた。

人々はあり得ないと非難した。歌によって爆発する爆弾など聞いたことがない、と。
しかし爆発は主に音楽のステージ近くや歌と音楽が流れる大型テレビ近くなどで起こっていることがわかり、人々はこれを認めざるを得なかった。
目的は何か、またいつ爆発するかわからず犯人の特定も困難と化していた。
爆発を仕掛けて何時間、いや、何日経ったかわからない為に絞り込みが出来ない。
リモコン操作などなら爆発の数時間前にその辺りを通った者に限定されるがSONG BOMBはそう言った概念がなかった。
一人なのか多数なのか団体なのかもわからないまま……人々は恐怖し、次第に歌うのをやめていった……。

歌わなければ、奏でなければ爆発しない。
簡単な話だった……音楽を、歌を愛さないものには。
それから歌や音楽が廃へ、楽器等で奏でる行為は法律で禁止されるまでになった。
これが犯人の描いた未来なのだろうか、だとしたら余りにも上手くいった結末だろう。
しかし、禁止されても音楽を愛し、奏で続ける者達はいた。
だが無情にも爆弾はそれに反応し、また歌わぬ者も巻き込み、歌う者は悪と言うレッテルが貼られ……世界から一つの文化が消滅した。

それがちょうど今から一年前の話である。

音楽、歌がが禁止されてから数ヶ月して……

音楽を、歌うことをやめた世界を……彼女達は憎んだ────

1ヶ月前、無人島から世界に贈られたメッセージは、歌ない世の中に対する宣戦布告だった。

あの時の澪の顔を……私は今でも覚えている。

彼女らは旧型と化していたメタルギアを改造し、世界に散らばる核、そのコードを掌握したと発表。
試しに、と、ロシアの核実験に使用されている核のロックを発射シークエンスギリギリまで外してみせたらしい。
どの様な手を使って行なったかは不明だがこれで世界はこの無人島に迂闊に干渉することが出来なくなったのだ。
彼女らはあの歌がなくなった日にちなんでか、自分達をWORLD OF SONGと名乗り、世界に歌、音楽を取り戻せと通告。
政府はSONG BOMBと核に板挟みにされた状態になる事となった……。


それを受けて発足されたのがFOXDIED。FOXHOUND後釜、いや、亡霊と言った方がいいだろう。
そんな組織に、私は入った。

入った理由は色々ある。
1つは家族の保身の為。自らの身を潔白する為だ。
同じ軽音楽部として過ごしていた仲間が今や世界を揺るがすテロリストなのだ。放課後ティータイムというバンドまで組んでいた元メンバーの私が分子として疑われないわけがなかった。
自ら対立する組織に入ることで身の潔白を証明出来た。
ただ政府はそれだけじゃ飽きたらず、一番身近に居た私にテロリストを討て、と命令してきたのだ。


断れば世界に敵対する反乱分子と決めつけられ……家族共々始末されるだろうことは容易に想像が出来た。
でもそんなこと言われる前から私は自分でみんなを止める、そう覚悟していた。
FOXDIED結成より数ヶ月前に

澪に、誘われてたんだよね。

「一緒に取り返さないか?」って

あの恥ずかしがり屋で怖がりで……そんな澪が全部投げ売ってまで取り返したかったモノ……それが音楽や歌だった。

迷った、迷った、凄く、凄く、死にたい程迷った。

けど

断った。

「私にはそこまでする理由がわからない」って

実際にわからなかったんだから仕方ない!
世界を敵に回してまで奏でる意味が、歌う意味があるのだろうか?
あるわけがない。他に楽しいことはいくらだってある筈だ。ならそれをすればいい、わざわざ茨の道を行く必要なんて……。
そう思ってたのは私だけだったみたいだ。他のみんなはその日を境に、連絡がつかなくなった。

答えはわからなかった、どっちが正しくてどっちが悪いのか。
その答えを知るために、いつか来る日の為に訓練し、訓練し、訓練し、訓練した……。

世界を代表して、あのわからず屋達を説得する権利を得る為に。


これが2つ目。

そして最後は……友達だから。大切な、誰にも代えられない、大切な……

律「澪にはずっと私がいるからな……」

いつか言った言葉だ。これを聞いた澪は照れたりふざけてると思って私を殴ったりしたっけ。

違う形かもしれない、澪には嫌われるかもしれない。
それでも、私は私の思う道であの言葉を守るから。

律「待ってろ、澪」


─────────

「誰か来たよ~? りっちゃんかなぁ?」

「律先輩……」

「まさかりっちゃんが敵対するなんて……」

「……」

「仕方ないよぉ、私達はりっちゃんに裏切られたんだよ。悪いのはりっちゃんなんだ。ね、澪ちゃん?」

「……そうだな」

「殺す……んですか?」

「そんなっ!りっちゃんならきっとわかってくれるわ!もう一回話し合うべきよ!」

「お嬢様……言葉を濁すようで悪いのですが田井中律は我々を抹殺する組織、FOXDIEDのメンバーです。迂闊に接触しては……」

「……黙りなさい」

「仰せのままに」

「なら最初は私が行くよ~。りっちゃんとは色々話したいことがあるし。大丈夫、きっとわかってくれるよ」

「……任せた、唯」

唯「じゃあいこっか……ギー太」

ジャラ……

りっちゃん「ようやくお出まし……か」

バックパックから可変式双眼鏡を取り出すと「どれどれ…」何て女風呂を覗くおっさんの様な面ごちで双眼鏡を宛てる。

りっちゃん「他の音楽を取り戻す活動の奴らも合流してんのか……」

りっちゃん「装備はAK-47のⅢ型にマークⅡのパイナップル、後はM84スタングレネードに無線機か……」

りっちゃん「(一兵士にしては装備がしっかりし過ぎてる……むぎの財力か? それに死角を作らない見張りの仕方を見るに……こりゃ島に上陸してるのがバレてるな)」

茂みに伏せながら指を耳の裏に宛てる、CALLの仕草だ。

トゥルルトゥルル……

りっちゃん『さわちゃん、どうやら……』

さわ子『えぇ、こちらの動きは筒抜けのようね』

りっちゃん『いいの~?核発射されたりされない?』

さわ子『今のところ動きはないわ。もっとも東側の警備の薄さを見た時からおかしいとは思ってたけれどね』

りっちゃん『誘ってる……か。で? どうすんの?』

さわ子『確かにあちらは何らかの手段でこちらの動きを把握してるみたいだけど見逃してくれてるなら都合はいいわ。そのまま澪ちゃんのところまで行っちゃいなさい!!!』

りっちゃん『う~んでもこの装備じゃここを突破するのは厳しいかなぁ。Mkで一人眠らしたとしても後の二人が問題だよな~。音で引き付けるとしてもみんな気づいちゃう位置だし』

さわ子『そう言うパターンはVR訓練で何回かやったでしょ? それを思い出してりっちゃん』

りっちゃん『VR訓練……か。そういややったけ。わかった、上手くやってみる!』

プツン...


りっちゃん「やるか……」スチャ

まずは一人に狙いをつける。

ヒュンッ────

SONG兵A「あう……ォ……」

首筋に麻酔針が刺さり一発で昏倒。

SONG兵B「なんだッ!?」

SONG兵C「敵襲!?」

りっちゃん「」ヒュイッ

兵士Aが昏倒し、視線が集まってる内にりっちゃんが素早く残り二人の後ろの方の茂みにドラムスティックを投げ込み陽動をかける。

ガササッ

SONG兵B「そこかッ!」

SONG兵C「」

兵士Cがおもむろに腰の無線機手を伸ばすのが見えた。そこでりっちゃんは目標を兵士Cに定めもう一発首筋に……。

ブゥンンン

りっちゃん「(うわっデッカい虫っ)」

シュンッ────

SONG兵「がっ……くっ、なんだこれはっ! 針……?! 麻酔弾か!!!」

りっちゃん「(あっちゃ~外した)」

首筋を狙ったつもりが肩口に当たり睡眠薬の廻りが首筋より遅れたのだ。

りっちゃん「(こうなったら……)」


《超スーパースローモードで回想してください》

ブアッ

綺麗な側転で一気に茂みから出るりっちゃん

SONG兵C「なんだッ!」

AK-47を構えようとする兵士C────

りっちゃん「(遅いッ)」

水平に構えられたAKを蹴り上げる。銃身は上に向き、、そのまま引き金が弾かれ……

バババババッ

中空に乱射、

りっちゃんは兵士Cの首筋に今度こそ麻酔弾撃ち込む。

SONG兵士C「ガッ……」

昏倒、そして何が起こったのか理解しきれていないSONG兵士BのAKを左手で掴み込む。
ここでようやく覚醒したのか手を振り払って銃身をりっちゃんに向けようと力を込める、が、

ガシッ

ブワッ

SONG兵士B「なッ」

手を離すと同時に右足で兵士Bの足を払う。引っ張ることに力を入れていたため上半身の力は後ろへと流れている、半ば反った形になっていたところに足を払われたのだ。
兵士Cは成すすべなく綱引きで急に手を離された様に倒れ込んだ。

りっちゃん「おやすみ」ニヒッ

シュンッ───

りっちゃん「15点……かな。VR訓練の元にもなってるあの伝説の傭兵なら銃声を鳴らささず、麻酔弾も3発……いや最後の一人はCQCで倒して2発で留めたかな」

りっちゃん「やっぱり実戦と訓練は違うかー。」

茂みに兵士を隠し思案に更けるりっちゃん。

りっちゃん「(誘い出された気がしたけど兵士は迷わず発砲してきた……こんなとこで死ぬ様なら用はないってか。澪達は新型のメタルギア以外戦力になるようなものはない……歩兵としてならそこらの兵士以下だろう。だから……か)」

迷ってるのか……澪。

目視出来るまで近付いたラボを見据える。

りっちゃん「銃声はまずかったな……早く離れないと」

「んふふ、りっちゃん凄いね」

りっちゃん「ッ!?」

りっちゃん「その声は……唯か!? (どこにいる……)」


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最終更新:2010年10月09日 21:36