─────────

唯「あはは~やられちゃった」

「大丈夫ですか唯先輩っ」

唯「へーきだよぉあずにゃん。なんか変なニンジャのコスプレした人に弦切られちゃっただけだよ。せっかくこないだあずにゃんに張り替えてもらったのにぃ」ブーブー

「まだ余りありますから、こっちに来てください」

唯「はぁーい」

澪「変な……ニンジャか」

紬「りっちゃん……」

梓「次は私が行きましょうか? さすがにこれ以上は計画に支障が出ると思うんです。だから説得なんてやめてさっさと殺しちゃいましょうよ」

紬「あずさちゃん何を……!」

澪「……」

梓「じゃあ……行ってきますね」トコトコ……

紬「待って!!! 最後に私にチャンスをちょうだい……」

梓「ですって、澪先輩どうしますか?」

澪「……むぎ、律をこっちに引き込めるのか?」

紬「ええ……ちょっと粗っぽいやり方になるけど……」

澪「わかった……。むぎに任せるよ。律は私達に必要だからな……出来れば引き入れたい」

紬「任せて、澪ちゃん」

紬「斎藤」

シュタッ

斎藤「ここに」

紬「りっちゃんを眠らせてここまで連れてきて。くれぐれも傷つけないように」

斎藤「……はっ」

紬「もし殺したりしたら……斎藤、その時はあなたも一緒に死んでもらうわよ」ギロ

斎藤「心得ております」

─────────

斎藤「お嬢様はああ言われたが……。この先のことを考えれば殺しておいた方が上策。邪魔立てするのはもうFOXDIEDの娘だけなのだから……」

斎藤の手にあるのはモシン・ナガンM1891、そして……PSG-1……。

斎藤「捕縛が無理なら……殺す。」

モシン・ナガンは麻酔弾の大きさ故に速度、音、共にPSG-1に遥かに劣ることを斎藤はすでに認識している。
紬の執事になる前はCIA、グリーンベレーにも所属していた強者でもあった。

斎藤「FOXDIEDの田井中律……噂通りか確かめさせてもらおう」


─────────

りっちゃん「あれで行くか……ちょうどさっき仕入れたし」

律はバックパックからあるものを取り出し

りっちゃん「せいっ」

中空に向かって投げた。

それは静かな爆発音を醸しながらもわもわと何かを吐き出して行く──────。

斎藤「スモークグレネードか……! ここでアンブッシュしていると確信しているな」

りっちゃん「煙がある内に!!」

橋の滑走する律。
律のブーツが木のつり橋を踏みしめる度にきぃ……と嫌な音がする。


斎藤「考えたものだな……だが」

斎藤は頭にかけていたものを下げる

斎藤「暗視ゴーグル越しなら……」

斎藤のモシン・ナガンのスコープが律の姿を映し出す。

りっちゃん「そろそろかな? よっと」

またバックパックから何かを抜き出すと放り投げる。

パァンッと言う乾いた音に鼓膜をツン裂く震動。
そして、眩しい閃光────

斎藤「しまっ……」

暗視ゴーグルが一気に白く染まり上がる。

あまりに強い光の刺激故に斎藤も思わず目が眩む。

斎藤「ちぃっ」

バァンッ

さっき居た場所から予測して憶測で発射。

チュィンッ

りっちゃん「っと……闇雲に撃って来たか。武器はモシン・ナガンか……殺す気はないのか。撃って来た方角からして……」


向こう山の遠い遠い場所に見晴らしのいい丘がある。

りっちゃん「あそこかっ! あ~でも届く武器ないや。森の中に隠れてやり過ごすのが先決か」

考えながらも脚を止めずに走破してゆく。
後100mもないだろうか。

斎藤「くっ…」

ようやく目に光が戻った時には既に律が橋を抜けようと言うところだった。

斎藤「(リロードしてたら間に合わんッ!)」

斎藤はもう1つの拳銃、PSG-1を手に取り、

バァァッン─────

チッ

りっちゃん「~ッ……」

律の頬が微かに裂け、内から血が滲み出る。

りっちゃん「実弾に切り替えてきた……こんな器用な真似してくるやつなんていたっけ……」

りっちゃん「(リロードに数秒……オートマチック式なら森に入るに撃たれる……)」

咄嗟の判断で律は、

りっちゃん「あらよっと」

橋を飛び越えた。

下は川、川までの高さはビル四回建てにもなるだろうか。
幾ら撃たれる可能性がある、と言えどこちらも自殺と変わらない。

斎藤「消えた……? どこだ……」

PSG-1のスコープで見据えるも見当たらない。

斎藤「まさか飛び降りたか……? しかし水位もなくあの高さから落ちれば……」

斎藤「死んだか……田井中律」

斎藤「お嬢様にはどう説明するか……、いや、まだ死んだとは決まっていない。愚体を晒すのはお嬢様の名誉にも関わるが素直に事の内容を話すとしよう……」

2丁の狙撃銃を背中に抱え高台を降りて行く。

斎藤「所詮つい最近まで女子高生だったと言うわけか。政府が唯一送り込んで来た人材だからもうちょっとは出来ると思ったが……核を撃たれない唯一の人材だった、ってだけか……。」

斎藤「しかしお嬢様のご友学の皆……昔お嬢様に聞いた話と随分違っていたな……。やはりあの男が関係あるのか……いや、自分には関係ないな。お嬢様の為だけに居ればいい……」


─────────



────無人島 つり橋────

りっちゃん「そろそろ行ったかな~手ぇ吊ってきた~」

落ちたと思われた律だったが現存している。
橋の下の部分に上手く掴まっている。

エルード───

橋や外面が露出している道などで使えるスニーキングミッション時に用要られる技法。

りっちゃん「VRじゃ散々やったけど実戦じゃこれが初めてだから緊張した~。成功して良かった良かった!」

アハハハと気楽に笑いながら念のためエルードしたまま橋を渡る。

りっちゃん「最初からこうしとけば良かったかな」

普通のつり橋では斎藤が律を見失うことはなかっただろう。
ただこのつり橋は普通よりしっかりしていて道端も広い、故にぶら下がった
橋の横の面積>律の身長
となり反対側から見た斎藤には律が映らなかったのだ。
身長が小さいのが幸いし(ry


りっちゃん「よっとぅ」

振り子の勢いを利用して逆逆上がりのようにクルッと回り足の裏が空を向いた時に手を離し、その勢いを利用してそのまま着地。
エルードの基本の上がり方だが一般人は見ているだけでヒヤヒヤするであろう。

ピリリッピリリッ

りっちゃん「ん~? 憂ちゃんからか」

ピィリンッ

憂『律お姉ちゃん大丈夫!?』

りっちゃん『えっ!? ああ~大丈夫大丈夫! 律お姉ちゃんは元気だよんっ!』

憂『ほっぺた……怪我してます。早く治療しないと痕が残っちゃう!』

りっちゃん『いーよいーよこれぐらい。かすり傷だから』

憂『律お姉ちゃんは可愛いんだからちゃんとそういうケアはしないと! いくら全世界を賭けたミッションでも……女の子だから』

りっちゃん『……、わかったよ。憂ちゃんには敵わないなぁ』

憂『うんっ。じゃあバックパックの医療用持ち物の消毒液で消毒した後ガーゼとテープを出して下さい』

りっちゃん『ガーゼ? カットパンなら一応持って来てるけど』

憂『カットパンは確かに消毒と防菌をいっぺんに出来て便利だけど逆に治りが遅くなるって云う特徴もあるんですよ。それにそうすると瘡蓋も出来ちゃう。ガーゼで菌をシャットアウトして後は自然回復ってやり方が最近の医学何です。これだと傷跡も残りません』

りっちゃん『ほへ~』

りっちゃん『早速やってみるよ!』

憂『他にも何かあったら言ってね律お姉ちゃん』

りっちゃん『あいよっ』

ピピュン

りっちゃん「いい妹を持ったもんだ……」シンミリ

手早く消毒し、ガーゼとテープで傷口を塞ぐ

りっちゃん「さて……さっきのお返しと行きますか」ニヤリ

──────────


───無人島 渓谷付近───

斎藤「重いな……やはり2丁は欲張り過ぎたか」

ラボまではまだ少しある。

斎藤「この間にお嬢様への言い訳を考えとかないとな……。」

ヒュゥゥゥゥー……

斎藤「風か……」

「…………」スッ

斎藤「……」 「動くな」

斎藤「!?」

「思ったより遅かったな。あんただろ? さっきの狙撃手」

斎藤「……何故ここを通るとわかった?」

狙撃銃を地面に下ろし、そして静かに両手を上げる斎藤。

「簡単だよ。銃弾の向きからどこから撃って来たかはわかってたからね~……。あの後撃って来なくなったことを考えてもあんたは私が死んだと思ったんだろ? ならラボへ向かう道を遠回りするわけもない……。」

「あの高台からラボへ向かうならこの一番開けた山道を使う……そう踏んだんだよ」

斎藤「ほぅ……」

「銃声は二種類したから2丁持って来てるのは明白。そうでなくても狙撃手はオートマチックじゃないものを使う場合もしも外した時、リロードの時間を削ぐ為にもう一丁を即座に担いで撃つ……」

斎藤「(……見誤ったな、こいつ……)」

「高低さを考えてそう差はついてない、横道からこっちの道に出るまでの時間を考えて……間に合うと思ったんだよ」

斎藤「そこまで予測していたか……田井中律。いや、FOXDIEDのりっちゃん……と言った方がいいかな?」

りっちゃん「……」

りっちゃん「あんた……誰だよ?」

斎藤「……自分は紬お嬢様の執事、斎藤だ」

りっちゃん「……むぎに殺す様に命じられたのか?」

斎藤「…………そうだ」

りっちゃん「ッ……」ギリッ

乱雑にMk22を首筋に突きつける。

りっちゃん「もういいっ……寝てろ……!」

斎藤「殺さないのか?」

りっちゃん「生憎短銃がなくてな! 夢見心地を楽しめよ」

そうして引き金を引こうとした時、

斎藤「何故仲間にならなかった?」

りっちゃん「えっ……」

斎藤「仲間になっていれば結果がどうであれ幸せだったろう? 例えば失敗し、結果死ぬことになったとしても……仲間と一緒なら悔いないだろう? 違うか?」

りっちゃん「…………」

りっちゃん「確かにそうかもしれないな……けど、」

律は斎藤にわからない笑みを作った。

りっちゃん「悪いことをしたら誰かが叱りに来るだろ? それが……私でありたかったのかな……。こうなるって……澪の誘いを断った時から思ってたよ。あの時はそれが正しいことじゃないって私が思ってたから断った。その過去に私は従うよ。そして現在(いま)で変える……自分が叱る。澪達を、部長として」

斎藤「……中野梓には注意しろ。いや、恐らく全員、君の知ってるものとは違うかもしれない……」

りっちゃん「警告ありがとう。じゃあな、おやすみ」

パシュンッ

斎藤「ウッ……」

バタンッ

りっちゃん「変わったのは……多分私も一緒だよ」

斎藤の非殺傷力のモシン・ナガン、殺傷力のあるPSG-1を見つめ……

りっちゃん「……」

PSG-1を担いで先に急いだ──────


───ラボ 内部───

梓「遅いですね、むぎ先輩の従者」

紬「斎藤……」

澪「あれから二時間は経つ。恐らく律に……」

紬「殺されたって云うの!? やめてよ!! みんな変よっ! あんなにみんなのことを思ってて……みんなのこと大好きなりっちゃんが……人を殺すなんて……」

梓「でも唯先輩に向かって撃ってきたって言ってましたよ?」

紬「それは……」

梓「変わったんですよ、律先輩は。そして……私達も変わらなきゃならない。部活ごっこして漫然と律先輩を待ってたりしたら……殺されるのはこっちですっ!」

澪「……」

紬「……」

唯「うふふ……ギィ太ぁ……」

澪「律は……ただ私達より世界を取ったんだ。見えなくて薄暗くて……自分にとって何にもならない存在をっ……!」

紬「……」

澪「でも……律だからそうしたんだとも言える。私達は……あまりにも子供だ。」

梓「……」

澪「でも……子供だからこそがむしゃらに欲しがるんだ……! ただ1つの……私達を繋いでいたものを取り戻す為に!!!!!」

パチ…パチ…パチ…

澪「ッ!?」

「いや~素晴らしい。その純粋なまでに音楽を欲する姿勢に我々も感服して協力させてもらいましたが……」

澪「ご協力には感謝してますよ。あなたがいなかったらこの計画は成り立たなかった」

「いえいえ、私方としても音楽を取り戻したいですから。人類が産み出した世界を繋ぐとも言われる音楽、歌を自ら捨てるなどッ! っと声を荒げてすみません」

澪「……」

「メタルギアの方は既に最終段階にあります。もし要求が受け入れられない場合は……」

澪「わかってる……。」

「わかっておられるなら結構です。では…私はこれで」

トッ…トッ…トッ……

梓「相変わらず何を考えてるかわからない人ですね、あの人」

澪「ああ……」

澪「(律、それがお前の答えなら……)」

澪「作戦を最終段階に移す─────」

紬「!?」

澪「梓!」

梓「はい?」

澪「邪魔者を排除しておいてくれ」

紬「澪ちゃんっ!!!」

澪「むぎ、あの人と一緒に最終段階の移行を手伝ってくれ」

紬「でも……」

澪「これは命令だ」

紬「……はい」

梓「ふぅぅぅぅとうとう来ましたかっ! 私の出番が」

思いっ切り背伸びをして小柄な体を泳がす。
梓「いこっか……みんな」


梓「律先輩……勝負です」ニヤリ


4
最終更新:2010年10月09日 21:39