──────────

むぎに殺す様に命じられたのか?


─────そうだ。

りっちゃん「………ッ」

イライラする……、

りっちゃん「こうなるってわかってたんだろ……律ッ!」

自分の決断、
意思、
想い、
大切にしてたモノ、

全部ぐちゃぐちゃになって頭の中で飛び交う。

何で仲間にならなかった?音楽はお前にとってはその程度で他の奴らにはそれ程のモノなんだよ?お前は仲間だと思っていたがそうじゃない、自分は同じ場所に立ってなかっただからこうなった。

りっちゃん「違うッ……」

馬鹿らしい……、そう思ったんだろ?

りっちゃん「思ってないッ……」

たかが音楽が奏でられないってだけで駄々捏ねて、子供みたいなわがままで、行き過ぎた兵器で世界に刃向かって、そんなあいつらを馬鹿らしいって思ってるからこそ今ここにいるんだろ?

りっちゃん「違うッ!!!!!!」

りっちゃん「はあッ……はあッ……はあッ……」

お前にとってはそうでも、

あいつらにとって音楽とはそれほどのものだったんだよ。

りっちゃん「…………知ってるよ、田井中律…。でも私は……りっちゃんだ。田井中律じゃ………ないッ」

りっちゃん「ミッション開始から三時間……急がなきゃ…」

たった5kmが果てしなく遠く感じる────

ラボに近づく度に仲間を撃たないといけないと云う重圧感が体を襲う。

りっちゃん「次……誰が来ようと私は容赦しない」

殺傷力のある武器はPSG-1しかないがスタンドショットも訓練済みだ。
大丈夫、やれる。





ラボの全体がはっきりして来た。
即席で建てた割にはしっかりしていて、大きさもかなりある。

無機質な金属の塊、その入り口の前に

梓「思ったより早かったですね……律先輩」

嘗ての後輩梓、中野梓がいた


りっちゃん「……」

律は周囲を見渡す。他に人はなく梓一人なことを確認すると気軽に話かけ始めた。

りっちゃん「梓みたいに可愛い子を待たすわけにはいかないからさ」

梓「…………」

ふざけて言ったつもりだが確かに梓は可愛い、いや、綺麗だった。見たのは1年ぶりだがあの時より身長も少し伸び、黒いワンピースに赤いミニスカートとと言う大人っぽい格好も似合うぐらいに。
昔は二つに結んでいた髪も今は下ろし、長い黒髪が風にそよいでいる。

梓「こんな時まで軽口が言えるなんて律先輩……やっぱり変わってませんね」

りっちゃん「どうかな? 私にはわかんないや。まあそっちは色々と変わったみたいだけどな」


梓「世界を敵に回してるんです、変わりますよ」

りっちゃん「その世界を代表して私が止めに来た。それもわかってるんだよな?」

梓「だからこうして迎え討ちに来たんじゃないですか」

りっちゃん「……本気、なんだな」

梓「勿論ですよ。説得出来るほど簡単な人じゃないってこともわかってます。澪先輩も、唯先輩も、むぎ先輩も、私も……。もう受け入れましたから」

りっちゃん「受け入れた? なにを」

梓「あなたが敵だってことを、ですッ」

りっちゃん「…………」

律は静かに目を瞑る。

りっちゃん「(迷うな……今の立ち位置こそが全てなんだ)」

りっちゃん「梓……私も、容赦しないから」

梓「勝負ですッ! 律先輩ッ!」

りっちゃん「ッ……」

その瞬間律も目を開けMkを凄い速度で引き抜く。

りっちゃん「(接近戦じゃPSG-1は役に立たない……眠らせてから……殺すッ!)」

ツゥンッ────

梓「フフ……」

発弾された麻酔弾を梓はまるで見えてるかの様にかわす。

りっちゃん「(避けたッ!?)」

呆気に取られている律を嬉しそうに見据える梓。

梓「何を驚いてるんですか律先輩? これくらい出来なくて世界と戦えるわけないじゃないですか」

りっちゃん「へぇ~、何をしたのか知らないけど……これならッ!」

狙いを定め連続で引き金を弾く─────

連続で弾き出された麻酔弾をかわし、逆に梓が律に向かって駆け出す。

りっちゃん「(はやッ)」

腰からナイフを抜き出しそのまま斬り上げる。

りっちゃん「~ッ!」

仰け反る様にかわすが刃が僅かに律のつけていたガーゼに掛かりそのまま引き剥がされる。

りっちゃん「っのッ!」

シュンッ

梓「!!!」

崩されながらも右手に握っているMkの引き金を絞る。

さすがに回避しきれない距離から発射された麻酔弾を梓は左腕で受ける。

梓「うっ……」

腕に麻酔の針が刺さり顔をしかめるも素早くそれを抜き去り律を睨む。

りっちゃん「ま~だ治ってないのに」ニヤリ

対する律は頬をなぞり梓に不気味な微笑みを返した。

梓「っう……」くらっ

りっちゃん「……(いくら早く抜いたとはいえ小さい梓の身体ならあの量でも……)」

梓「ふぅぅ……」

自らを奮い立たすように小さく吼える。

梓「血……出ちゃったか……」

ワンピースの袖を上げ傷口をペロりと舐める。
昔見た梓との印象が余りにも違うため律も少しだけ息を呑むが梓の持っているナイフを見て引き戻される。

りっちゃん「(ゴツいサバイバルナイフだな……似合わない)」

梓「やっぱり一人じゃちょっとキツいかな……」

りっちゃん「唯でも呼ぶのか?」

挑発するように言い放つも梓はさして気にせず傷口をペロペロと舐め続けている。
その様子はまるで猫さながらだった。

梓「律先輩……、私、先輩のこと好きでしたよ」

りっちゃん「…………」

梓「練習にはあんまり献身的じゃなかったですけど…いざって時に頼りなるし……みんなのことを一番考えてて……。そんな律先輩がみんな好きで……」

りっちゃん「なんだよ、急に」

梓「軽音部がなくなって一番悲しかったのは律先輩だと思ってました。けど、違ったんですね」

りっちゃん「………」

梓「見損ないましたよ、律先輩。お別れです。さようなら」

りっちゃん「…?」

梓「に゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

鼓膜が破れんばかりの獣声。
それは森の中を駆け抜け、無人島全土に響き渡った。

りっちゃん「なっ、なんだ……!?」

地面が震える

それは段々と近くなり、

森の奥から異出る。

「ガアアア」

「ゴアア」

「グルゥゥゥウウウウ」

梓「よしよし……みんな元気にしてた?」

「グルゥゥ…」

「グゥ……」

それは梓に擦りつくようにじゃれている。

「ペロペロ」

梓「あは、くすぐったいよむすたんぐ」

むすたんぐと呼ばれた・・
それが一番懐いてるのか梓を優しくナメている。

りっちゃん「なんだよ……これ」

何頭いるだろうか

5?10?
いやそれよりいる……

この無人島に似つかわしくない、百獣の王ライオンがそこに群残していた。

梓「驚きました? 律先輩」

りっちゃん「正直驚いてるよ、どんな魔法使ったんだよ梓?」

汗がツゥ─と額から流れるのを見て梓も満足したのか嬉しそうに語る。

梓「この子達はみんなサーカスとか動物園とかで歳を取ったり気性が荒くて処分されかけた子達なんですよ。それを私が一年近く前から引き取ったりしてたんです。ここに来てからは仲間は増えなくなりましたけど……」

りっちゃん「(通りで兵が少ないわけか……)」

梓「人間は勝手なんですよ。いらなくなったら、出来なくなったら簡単になんでも捨ててしまう。それが例え今まで世界を共に刻んで来たものでも……」

りっちゃん「答えになってないッ……! そのライオン達は何故お前にそんなにも懐いてるのかを聞いてるんだよ!!」

梓「フフ……知ってますか? 律先輩、こんな怖そうな身なりをしたライオンも、ネコ科なんですよ?」

りっちゃん「はんっ、自分も猫だから襲われないなんて言うんじゃないだろーな!」

梓「わかってるじゃないですか。その通りですよ。私は猫、あずにゃん。この子達、そして私達の目的の為に死んでもらいますよ!!! 律先輩ッ!」

その瞬間、

「ガアアアアアッ」

「グルゥゥウウウ」

何体かのライオンが律に向かって疾走を開始する。

りっちゃん「うっそだろおッ!」

りっちゃん「ひいいいいいい」

梓のことを一時保留し、全力で逃げることに集中する。

ピリリッピリリッ

りっちゃん「こんな時にCALLとかさわちゃん空気読めよぉぉぉぉ」

ピリィン

りっちゃん『助けてさわちゃぁんっ!!!』

さわ子『落ち着きなさいりっちゃん』

りっちゃん『落ち着けるわけないでしょっ!!!!』

さわ子『VR訓練で野生の動物の対処法もやったはずよ。それにサーカスや動物園に居たライオンなら捕食能力も著しく低いわ。木や障害物を盾にしながら麻酔弾を撃ち込んで』

りっちゃん『VRとリアルじゃ違うよさわちゃんっ!!! 怖いよっ!!!』

さわ子『あなたがやらないとダメなのッ!!!!!』

りっちゃん『っ……さわちゃん?』

さわ子『さっきまた勧告があったの……SONGBOMBを恐れずに音楽を奏で、歌を歌い、取り戻せと。それをニュースで流し中継しない場合次は本当に核兵器を撃つ……って』

りっちゃん『でもそんなことをしたら……』

さわ子『全世界で何人の人が死ぬかわからないわ……。政府の予想じゃSONGBOMBの数はアフリカに仕掛けられた地雷より多い、なんて言われてるほどよ…。今から探して見つけて、それを安全を確保した後爆発処理、そんなことしてる時間はないの。つまり彼女達は音楽の為に死ねって言ってきてるのよりっちゃん』

りっちゃん『……そんな…なんだよ…この世界は』

さわ子『彼女達がどれほど音楽が好きなのかはわかってるつもりよ。けど何もこんなやり方じゃなくても取り戻す方法はあると思うの……』

りっちゃん『……もう遅いよ、さわちゃん。あいつらはもう引き返せないところまで来てる』

さわ子『……』

りっちゃん『音楽なんてモノのために世界を敵に回して……人々を恐怖に陥れて……決して許されることじゃないよ』

さわ子『あなた……変わったわね』

りっちゃん『……そうかもね』

さわ子『FOXDIEDの局長としては嬉しいわ。けどあなた達の軽音部の顧問、山中さわ子としてはちょっと寂しいわね』

りっちゃん『……』

りっちゃん『友達だった私がケリをつける……それがせめてもの手向けだよ』

ピピィン……

梓「ふぅ……はぁッ……」

眠い……瞼が錘のようだ。

梓「でも……寝ちゃったら…私きっと殺されちゃうね」

むすたんぐ「グルゥ…」

へたり込んでる梓を包むように座るむすたんぐ。その様はまるで親子のようだ。

梓「むすたんぐ……ありがとう。暖かい……昔の軽音部みたい」

虚ろな瞳からは昔の記憶が蘇ってるのだろうか。微かに微笑んでいる。

梓「少しくらいなら……眠ってもいいよね。むすたんぐ……」

梓「(どうして……こうなったんだろう……私は……ただ……)」

そのまま深い夢へ堕ちて行った

りっちゃん「(右に二匹左に四匹……)」

集中力が一気に高まっていくのがわかる。
要因は澪達への怒りか?
それとも仲間を助けたいという想いか。

りっちゃん「しっ……」

息を大きく吐き出しながらリロードする。
こうすることで空気を吸った時より胸部の圧迫がなく腕の関節が機能しやすい。

約2秒で全弾リロードし終え振り返る。

「ゴガアアアアッ」

すぐ近くにまで来ていた群れの一匹の額に一発。

ライオンは体が大きいが血流に近い場所に撃ち込めば象でさえ数秒で眠るほどの威力がある。
額に撃ち込まれたライオンは歳だったこともありすぐに昏倒した。

りっちゃん「次ッ!」


───無人島 研究所前───

カツ、カツ、カツ……

むすたんぐ「グルゥゥゥウ……」

梓「ん……」

むすたんぐの唸りにより危険を察知したのか眠たい目を無理矢理起こし覚醒させる。

りっちゃん「よく眠れたか? 梓」

梓「っ……! 他の子は……」

りっちゃん「心配するなよ。殺しちゃいないさ。動物を無意味に殺すなんて度がしがたい真似しないよ」

梓「……」

むすたんぐ「」スゥ

梓が立ちやすいように軽くお尻を持ち上げながらむすたんぐも立ち上がる。

梓「ありがとむすたんぐ」

いとおしそうにむすたんぐを撫でるとキッと律に向き直った。

りっちゃん「(そんな目で見るなよ……)」

まるで自分が平穏を脅かしに来た悪魔みたいに思えるだろう。

サバイバルナイフを抜き出すと重しく口を開く

梓「律先輩、澪先輩より……世界を取るんですね」

りっちゃん「世界の上に私達がいるんだ。その世界を守らなくてどうするんだよ」

梓「詭弁ですね。澪先輩がいない世界でもいいんですね先輩は」

りっちゃん「それは……」

梓「お互いもう昔の立場じゃないのはわかっているつもりです。ならせめて……躊躇わないでくださいッ!」

りっちゃん「梓……」

梓「私は私が信じている道を進んでいるつもりです……だから律先輩も」

りっちゃん「……わかった。ありがとう、梓」

梓「はいっ」ニコ

この時の笑顔だけは、昔みた梓のままだった。

梓「行きます……」

りっちゃん「こいっ……」


梓が先に動く────

律に真っ正面から突進する。

りっちゃん「(さっきみたいに弾を避けるつもりかッ!)」

律もMkで狙いをつける。

梓はそれを見ても真っ正面から突き進んでくる。

りっちゃん「(考えるな……当たる……!)」

梓との距離はもう3mと言うところでようやく律が引き金を……

梓「先輩……生きてください。澪先輩と」

りっちゃん「!!?」


5
最終更新:2010年10月09日 21:41