弾いた─────

ぐったり律に凭れ(もた)かかるように眠る梓。
それを律は抱き抱える様に受け止めている。

りっちゃん「なんで……」

梓は自ら撃たれるつもりだった。麻酔弾だからじゃない、きっと実弾を使用してもそうしただろう。

梓【躊躇わないでください】

その言葉が何よりの証拠だった。

りっちゃん「あずさ……」

梓をゆっくり地面に寝かすと背中に掛けているPSG-1をリロードする。

ガチャリ、と無機質な金属音がし、これが今から友達の命を奪うのかと思うと身体が震える。

りっちゃん「…………」

梓【律先輩! 真面目に練習してください!】

梓【律先輩ってもっといい加減かと思ってました】

梓【律先輩のドラム、私は好きですよ】

梓【先輩っ】

りっちゃん「……うぅ」

気付けば涙が溢れていた。
私にはあまりなつかなかった後輩。
軽音部で初めて出来た可愛い、可愛い、後輩。
いつも練習に真面目で、でも唯にケーキを口まで運ばれるとついつい食べてしまったり……。

りっちゃん「殺せないよぉッ……! いやだよぉ……」


「殺す必要などない」

りっちゃん「えっ……」

「殺したくないものを無理に殺す意味なんてないだろう?」

りっちゃん「あんたは……?」

「ん? ああ~……、ただの写真家だ」

りっちゃん「こんなところで!?」

「ここには綺麗な鳥がいっぱいいるからな。たまに来るんだ」

りっちゃん「(怪しい……)」

「俺には君とその子がどういった関係かはわからない。だがこんな可愛い女の子達が殺し合うのは見たくないもんだな」

りっちゃん「……あんたにはわからないさ。写真家なんてしてるあんたには」

「そうでもないぞ? 写真家は色々なものを見るからな。戦争や民族間の争い……いろんなものを見てきた」

りっちゃん「……」

不思議だった。誰かを思い出しているような、そんな目をしていた。

「俺はもう行くが……え~……」

りっちゃん「……りっちゃんだ」

「りっちゃん? 自分にちゃんづけとは恐れいったな!」

りっちゃん「ぐっ……だから嫌なんだよこのコードネーム……」

「まあなんだ、りっちゃん。戦場に感情を流されるな。後で後悔しない道を選べ。それが例え国の忠義の為だとしても……だ」

りっちゃん「えっ……」

振り返った時には男はもう既に歩き出していた。
言えることは言った、そんな背中だった。

りっちゃん「……なんかすっかり削がれちゃったな」

誰だったんだろ、あの人。写真家って言ってたけど……。

りっちゃん「澪の仲間って感じもしなかったしなぁ……」

梓「ん……ムニャ……」

りっちゃん「梓……」

寝ている梓に寄り添う。すやすやと寝息をたて眠っている梓。

りっちゃん「そうだよな……殺したくないのに殺す必要なんてないよな」

あのおっさんの言う通りだ。

りっちゃん「自分の信じた道を来てたつもりなのにいつの間にか曲げて、自分の気持ちなんてこれっぽっちも確認してなかった」

梓と対峙してようやくその事にわからされたなんてな……ほんとに良くできた後輩だよ。

むすたんぐ「グルゥ…」

黙って見ていたむすたんぐが寄ってくる。さっきのライオンの群れの中でも一番歳老いた感じがあり歩く姿ももう百獣の王をイメージさせない。

りっちゃん「大丈夫、お前のご主人を殺したりしないよ」

そう言いながら優しく撫でると嬉しそうに目を細めるむすたんぐ。
梓の隣に身を下ろすとまるで護るように梓を包んだ。

りっちゃん「決めた」

今、この瞬間決めたんだ、私は

りっちゃん「他の道を……澪達と一緒に探す!!!」

嘘偽りない気持ち。その為には全員わからせる必要があるな、とゆっくりその意思を噛み締めるように立ち上がる。

りっちゃん「むすたんぐ、ちょっと間梓のことよろしく頼んだぞ」ニコ

むすたんぐ「グルゥ」


トゥルルトゥルルッ

ピリィン

りっちゃん『さわちゃん、聞いてた?』

さわ子『ええ』

りっちゃん『そういうことだから。私は私がしたいようにする。澪達も助けてこの騒動も止める』

さわ子『……駄目よ』

りっちゃん『なんでッ!?』

さわ子『考えてみてりっちゃん。どの道政府に重罪人として処刑されるわ。そんな道を彼女達に選ばせたいの?』

りっちゃん『……。なんとかする』

さわ子『自惚れないで。あなたはただのFOXDIEDの隊員に過ぎないのよ? 代わりなんていくらでも…』

りっちゃん『なら出せばいいだろ! 私はやめない。決めたから、もう』

さわ子『子供ね。自分の思ってることが全て正しいなんて考えるのは』

りっちゃん『あ~あ~子供で結構!』

りっちゃん『ここでみんなを殺して国に忠義を果たすより…みんなと全部取り戻す道を進んだ方が100倍気持ちいいっ! これは私の物語だから……!』

さわ子『……好きにしなさい。どうせこっちは他の兵は出せないわ。恐らくあなただから許されたのだろうからね。他の兵が入り込んだ瞬間核を撃ち込むなんてことしかねないわ今の彼女達なら』

りっちゃん『止めるよ、ちゃんと』

さわ子『ミッション内容に変更はないわ。頑張りなさい、りっちゃん』

りっちゃん『ありがと、さわちゃん』

ピピュン

トゥルルトゥルルッ

りっちゃん『憂ちゃんも聞いてた?』

憂『はい……』

りっちゃん『憂ちゃん? もしかして泣いてるの?』

憂『うッ……わたし……嬉しくて……』

りっちゃん『憂ちゃん……』

憂『律お姉ちゃんが梓ちゃんを殺しちゃったら……私、きっと心じゃ憎んでました。だから……嬉しくて……どうにもならないって……思ってたのに……よかったぁッ……』

りっちゃん『うん……。唯も、むぎも、澪も……きっとわかってくれるよ。梓みたいに』

憂『はいッ……!』

りっちゃん『じゃあ、行ってくるね』

憂『行ってらっしゃい、律お姉ちゃんっ』

ピピュン

りっちゃん「さて、行こう」

さっきのおっさんのおかげだな、ほんと。
次会うことがあったらお礼しとかないと。

ラボの入り口に立つ。

りっちゃん「いよいよか……この中にむぎや唯、そして澪も……」

りっちゃん「よしっ、いざっ!」

プップー

りっちゃん「えっ…」

りっちゃん「……、いざっ!」

プップー

りっちゃん「……開かないよぉぉぉぉ」

─────────

─────────

トゥルルトゥルル

『なんだ?』

『余計な接触は避けてくれよ? こっちも一応隠密行動なんだからな』

『すまない。だが昔の俺を見てるようでな。口を出さずにはいられなかった』

『ボス、あんたはほんと人が良すぎるんじゃないか?』

『そうかもしれないな』

『しかしFOXDIEDの隊員がまさか女の子だとはな。びっくりしたよ。後寝ている女の子も可愛かったな! そこじゃなければフルトン回収をお願いしているところだ!』

『カズ……』

『わかってるわかってる。冗談だよボス。じゃあ引き続きメタルギアの探索を頼むよ』

『ああ。どうやらこの無人島には俺達の他にも何人か潜り込んでるみたいだ。急がないとな』

『了解』

『しかしあの迷彩色(めいさいしょく)のカチューシャ……いいセンスだ』

─────────

「コフー……やはり目標対象と接触し続けることで自我が優先されるか……コフー……」

「コフー……ある程度許しておかなくてはそのもののポテンシャルが発揮されないからな……ヤツは別だが…………コフー……」

「一応伝えておくか……コフー……」

ガガッ

『……ボス、中野梓がやられました……コフー……』

『ほぅ……死んだのか?』

『いえ、眠らされているかと。どうしますか? 殺せと言うなら今すぐにでも……コフー……』

『……いや、生かして置こう。』

『また使えるとは限りませんが……?』

『私は猫が好きなんだ。他意はない』

『……コフー……』

『それに面白い客が何人か入り込んでいる。退屈はしないだろう』

『あの女には言ったんですか……?』

『言う必要はない。所詮奴らなど囮に過ぎない。メタルギア……が完成次第用済みだ』

『さようで……コフー……』

『FOXDIED、FOXHOUND、MSF、フィランソロピー、ペンタゴン、中国……。世界がこの無人島に興味深々というわけだ。面白くなってきたではないか。彼女達には立派に役目を果たしてもらおう。ふはははは』

『……コフー……』



───無人島 研究所入り口前───

りっちゃん「IDカードとな? う~ん……」

ピピィ

りっちゃん「えっ……あっ! やばっ」

律は何かに気付いたのか急いで茂みの中に隠れた。

ガガー

分厚い扉から人が何人か出て来る。

SONG兵A「見張りのライオンがやられたせいで俺達が見張りとはな」

SONG兵B「ああ。全くやってらんねーよ」

SONG兵C「しかしあの女の子達可愛いよな~。俺ここ入って良かったかも」

SONG兵B「やめとけやめとけ。ありゃどう考えても普通の女じゃないって」

SONG兵A「ライオンと遊んでるぐらいだからな」

SONG兵C「ばっかそこがいいんだろ? 俺もライオンみたいに……」

SONG兵A「病人がいるぞ」

SONG兵A「じゃあ唯は俺の嫁な」

SONG兵C「俺は当然あずにゃんだ!!!」

SONG兵B「むぎゅうに決まってんだろ……」

三人はそんなことをぼやきながら入り口周りを巡回し始めた。

りっちゃん「(あの三人の誰かがIDカードを持ってんのか……?)」

茂みに隠れながらその様子を見ていると

ピリリッピリリッ

りっちゃん「CALL……誰からだこれ?」

登録外からのCALLに眉をひそめる律。

りっちゃん『もしも~し』

『その扉はIDカード、声紋、指紋の三つで開くようになっているわ』

りっちゃん『あの~…どちら様でしょうか?』

『あなたのファン……とでも言っておくわ』

りっちゃん『……(怪しすぎる)』

『メタルギアが最終段階に入ったわ。急ぎなさい……間に合わなくなる前に』

りっちゃん『待って! あなたさっきの忍者の人でしょ?! 』

『……』

りっちゃん『なんで色々教えてくれたりするの……?』

『……私は変わってしまったから。だから私にはもうどうすることも出来ない。彼女達を救えるのはあなただけよ、律』

りっちゃん『えっ』

ピピュン

りっちゃん「まさか……」

思案することはいくつもあるが考えている暇はない。新型メタルギアが完成し、世界が条件を呑まなければ核が発射される。

りっちゃん「(今の澪ならやりかねない、急がないと)」

開ける為には
IDカード
声紋
指紋
がいる。IDカード、指紋は問題はない。
眠らせてしまえば容易に入手出来る。
だが声紋は眠らしてしまえば入手出来なくなる。

りっちゃん「(あそこから出てきた梓なら……いや)」

りっちゃん「あんなグッスリ眠ってるのを邪魔出来ないよな。むすたんぐにも怒られそうだし」ハハッ

後輩にこれ以上頼ってはいられない


りっちゃん「(一人は眠らさずホールドアップさせる……)」

そう決めると観察を開始。

装備はさっき見た兵とほとんど同じ。唯一違うのは接近戦用にスタンロッドがあることだ。

りっちゃん「(厄介だけど……上手く眠らせば……)」

入り口をウロウロするのが一人、ラボから少し離れ、森へ入る手前に二人。

森付近にいる兵はお互いに死角を消し合う様に立っている為一人を眠らしてしまうとすぐに気づかれてしまう。
それに二人を眠らせてしまうとラボを背にしている兵をホールドアップしなければならない。

りっちゃん「(入り口の兵は眠らす……森付近にいる兵の一人をホールドアップ……これで行こう!)」

そう決めると早速Mkを取り出し茂みから入り口の兵を狙う。

りっちゃん「ていっ」

SONG兵C「ふあ~」

りっちゃん「あっ」

SONG兵C「ふぐわっ」

SONG兵C「何か刺さったあああああああ」

りっちゃん「あっちゃぁ~……」

首筋を狙ったつもりが兵の突飛な行動(伸び)のせいで麻酔弾が腕に当たったのだ。

りっちゃん「これはまずい……」

SONG兵C「……」キョロキョロ

SONG兵C「まあいいやー」

りっちゃん「バカで良かったぁッ!」

SONG兵C「なんか……眠たく……」バタッ

りっちゃん「よしっ」


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最終更新:2010年10月09日 21:43