数分前───────

澪「…………」

りっちゃん「くぅ………くぅ…」

澪「律……」

ジョニー「そんな物欲しそうに見つめてどうしたんですかい?」

澪「見張りご苦労。志願兵の君達には本当に感謝している」

ビシッと敬礼をしてくる澪に思わずジョニーにも返す。

ジョニー「いえいえ。ここに配属してくれたのは澪さんって聞きましたが……」

澪「呼び捨てで構わないよ。私の方が年下じゃないか」

ジョニー「へい。かたっくるしいのは苦手なんで助かります」

澪「あはは。そうだよ。律を連れてきてくれたって聞いてもし酷いことされてたらどうしようって思っててさ……けどそんなことなくて。あなたなら信用出来ると思って」

ジョニー「へぇ……二人はどう言ったご関係で?」

澪「幼馴染みだよ。ずっと、ずっと一緒だった」

ジョニー「そりゃなんとも」

澪「律は昔から正義感溢れるやつだったからな。こうなることはわかってたんだ。それでも……」

ジョニー「……殺すんですかい?」

澪「……仲間にならないな、そうすることも……」

さっきと同じ顔なのに、全然別人に映る。

SONG兵「澪様、あの方がお呼びです」

澪「今行くよ。じゃあジョニーさん、律のことよろしく頼みます」

ジョニー「はいよ」

澪「ああそうだ。これ、良かったら」

そう言って下剤を渡す澪。

澪「ここは少し寒いですからお腹、冷やさない様にしてください」ニコッ

ジョニー「こりゃどうも」


立ち去る澪の後ろ姿を見ながら思う。

こんな世の中間違っていると

─────────


───研究所内部 独房───

りっちゃん「澪……」

ジョニー「今思えばあのアマ盛りやがってぇぇぇ」

ジョニー「(言葉とは裏腹に助け出してくれって言ってるようなもんだろ。)」

ジョニー「いいから早く何処へなりと行けよ」

りっちゃん「ありがとう……ジョニー!!! 私あんたのこと忘れない」

ジョニー「もう二度と出会うことはないだろうが達者でな、えーと律だっけか」

りっちゃん「うんっ!! ほんとにありがとっ!」タッタッタ……

ジョニー「装備取り忘れんなよ~? 」

ジョニー「はあ……全く世話焼きも大概にしとかないとな。だが……」

間違ったことはしてないよな……。

ジョニー「ぐっ……キタキタキタァッ!」グルギュウウウ




りっちゃん「ありがとう……。」

何回言っても言い切れない。

何気なく立っている一人の兵にも、家族があり思いがあり、産まれてきたこれまでがある。
その事を律は改めて認識させられた。

その想いを抱き、メタルギア破壊へ再び走り出す─────



数時間前

───無人島 上空───

「……」

「時間だ」

「タイムリミットは?」

「明確には言われてないが明日の明朝までだろうな。」

「了解した」

「ステルス機なんてどっからかっぱらって来たんだか。ママに感謝しねぇとな」

「ああ」

白い外装に包まれた男がハッチを開くボタンを押す。

「パラシュート自体は目視されないとバレないだろうが……あんたの熱源で怪しまれる可能性がある、気を付けてくれ」

「この辺りにはオオワシと言う猛禽類が生息していた筈だ。体を縮めれば大きさも同じ程度だろう」

「そうか。情報じゃ他の勢力も上陸してるって話だ。協力するか否かはあんたに任せるが出来るだけ協力してやった方がいい。障害は少ない方がいいからな」

「ああ」

二歩、三歩と外が剥き出しになっているハッチへ向かう。

白い外装の男は一度だけ振り向くと、

「ローズを頼む」

そうとだけ言い夜の帳(とばり)に身を投げた。

「GoodLuck、雷電」

誰もいない機内で男はそう呟いた。

夜が迸る(ほとばし)。凄いスピードで降りて行くのにまるでそれを感じさせない。周りの景色のせいで自分が落ちているのではなく体が浮いていると錯覚しそうになる。

雷電は膝を手で抱えて体を丸めると弾丸の様な速度で地上に向かう。
通常のスカイダイビングなら12500フィートからダイビングした場合、約3000フィート辺りで開傘が安全と言えるダイビングだろう。
だが雷電は10000フィートから降り、残り1500フィートと言うところでも開傘をする様子はない。

そしてついに1000フィートを割り込む。

※1フィートで30.48cm

それと同時にパラシュートを展開、どう考えても間に合うタイミングではなかったが、

ググッと雷電の体が開いたパラシュートの空気抵抗により浮き上がる。地面までの距離はもう数十m、そのまま減速しながら森に入る前にパラシュートを切り離す。
黒のパラシュートは夜に紛れてどこかへと吹き飛ぶ。雷電は半ば投げ出された様な勢いで地面へと向かって行く、
普通の人間なら骨折ではすまないだろう勢い。

ザザァッ

が、雷電は何事もなかったかのように四つん這いになりながら地面へと着地してみせた。

雷電「……」

ピリリッピリリッ

『上手く着地出来たようだな。短高度用のパラシュートなんざ担いで行くから死なないか心配したぞ』

雷電『さすがの強度だ。あの勢いで落下して開いても糸が切れなかった。切り離してしまったが回収して部屋に飾りたいぐらいだ』

『はは。あんたもジョークを言うんだな。さっきも言ったがそこには他にも複数の勢力がいるって話だ。同じメタルギア破壊を目標としてるなら協力すればやりやすくなるだろう』

雷電『必要ならそうしよう』

『やれやれ……』

『他の奴らの目的が何にしろそいつが完成してしまえばこの世界はまた冷戦時代に突入だ……それだけは止めてくれ』

雷電『了解した』

『じゃあ俺はこれで行くぜ。目視されるわけにはいかないからメタルギアを何とかするまで回収は出来ない。そのつもりでいてくれ』

雷電『ああ』

ピピュン

雷電「……」

夜風に晒されながら空を仰ぐ雷電。

雷電「記憶があろうとなかろうと俺は結局ここ(戦場)にしか居場所がないんだな…。あんたもそうなのか…スネーク……」



───無人島 研究所内部 ───

りっちゃん「迷った……」

思えば研究所内部の見取図なのは入手してなく、あてもなく隠れながらウロウロしている。

りっちゃん「さわちゃんに連絡しようにもここいらはジャミングが強くて繋がらないし……」

しかしのんびり迷っている場合ではないことを思い出す。
曲がり角いくつか曲がると人の気配を察知し、壁際から覗く。

りっちゃん「(迷った時は聞きましょうってな)」

無防備に背中を見せたまま何やらしている兵に物音立てずに忍び寄る。

Mkをすっ、と抜くとその兵の背中に銃身をわざと付け、

りっちゃん「動くな」

と、女の子にしては低い声で威圧する。

りっちゃん「(決まった……)」

内心そんなことを思っていた刹那、

「っふん……」

兵がいきなり振り向きMkを握りしめ銃身を明後日の方向へ向ける。

りっちゃん「なっ」

更にその兵は離すまいとしている律のMkを捻る様にして締め上げる。
律の右腕が左に捻られ離さなければ折れる、と云うところまで締め上げられたところで律もようやく反撃に移る。

近くの壁を1.2と勢いよく蹴り側転。
律の締め上げられた腕を元に戻す様に一回転し、戻ると同時に降りながら兵の肩目掛けて踵を降り下ろす。

「いい動きだ」ボソッ

りっちゃん「!?」

それを読んでいたかのように兵は内側に入り込み、律の腕を持ったまま背中に抱えるような格好になった。

そのまま勢いよく律の腕を引きながら、左足に重心を乗せ、肩を丸めながら投げ飛ばす。

りっちゃん「(これって)」

そう、日本の格闘技。
柔道の技、

一 本 背 負 い だ

そのまま成す術なく背中から地面に叩きつけられた律は「げほっ、げほっ」と蒸せながら仰向けに倒れこんだ。

「動きは悪くない。だが背中に銃身をつけるのは頂けないな。銃身の大きさで大体の種類はわかるからな」

いつの間にか律から奪ったMkを律に向けながら言い放つ。

「壁を蹴って抜けるのは派手だが実用性はない。実戦とVRを勘違いしないことだ」

りっちゃん「ぐっ……」

まさかここの兵にこれ程の強者がいるとは思っていなかった。いや、律自体慢心していたのだ。
ここに来てまともにやり合い、ねじ伏せられた相手はいなかった。
そこに「一般兵などに遅れを取ることはない」とタカをくくっていたのだ。
無意識化に


「さて……ここを案内してもら……ん? お前は……」

律「えっ……あんたは……」


─────────

───無人島 研究所 地下───

紬「……何もおっしゃらないんですね」

「何がですかな?」

紬「……貴方が何を考えてるのかは知りません。でも私の大切な友達達に何かあれば……」

「わかっておりますよ。あなたとあなたのお父様には大量の援助を頂きました。それを仇で返す程我々も白状者じゃありませんよ」フフ

紬「……(汚い大人)」

「メタルギアの方はどうですかな?」

紬「95%は完成済みです。ただ残りの5%は部品が足りないと技術部から申し出がありましたので取り寄せないと……」

「ふむ、例の装置の設置は済んでるのですかな?」

紬「ええ。あなたのご注文通りに」

「なるほどなるほど。わかりました。」

ニヤニヤとふやけた顔を見せる男に紬が言葉を投げかけた。

紬「あなたの本当の目的は何なの?」

「勿論世界に音楽を取り戻すことですよ」

紬「……本当かしら」

「本当ですよ。我々も音楽を愛しているのですよ、本当に……ね」クックック

紬「……」

ただ怪しげな表情を浮かべる男を信じるしかない自分に嫌気を感じながらも最終調整を続ける。どの道このメタルギアが音楽を取り戻すキーになるのは間違いないのだ。
利害など知ったことじゃない。

紬「(私はただあの頃を取り戻したいだけ……何としても!)」


─────────

───無人島 研究所 中央作戦室───


ガタッ

澪「唯、行くのか?」

相棒のギー太を手に携え作戦室の出口に向かう唯を見て澪が視線も向けずに呟いた。

唯「あずにゃんも帰ってこないし……むぎちゃんはあの兵器にかかりっきりだしさ」

澪「そうか」

唯「……澪ちゃん」

澪「何だ?」

唯「迷わないでね。あずにゃんはりっちゃんに殺されたんだから」

澪「っ……」

静かに苦虫を噛み潰す表情を見せる澪。そんな澪の反応に満足したのか唯はゆっくりと部屋を後にした。

唯「殺さないと……殺さないと……敵だから……あいつは敵だから……殺さないと……」ブツブツ


─────────

───無人島 研究所 地下 ロフトエレベーター前───

りっちゃん「何が写真家だよ! よく考えたらこんなテロリストが占拠してる無人島に写真撮りに来る写真家がいるわけないだろっ!」

「信じる信じないは君の勝手だが…」

りっちゃん「あんな身のこなしの写真家いーまーせーんーだっ!」

「やれやれ……」

りっちゃん「で? あんたの目的はさっき言ってたメタルギアの証拠写真を撮ること、だよな?」

「ああ」

りっちゃん「しかしまた何でこんなとこに一人で来て写真なんか……」

「あー……それはだな」

りっちゃん「しかも敵の兵に扮して……ねぇ?」

「色々と事情があってだな」

りっちゃん「まあいいや。私は政府直属の対テロリスト特別部隊、通称FOXDIEDの隊員の田井中律。コードネームはりっちゃん。ここにはメタルギア破壊の任を受けている」

「……こんな女の子まで戦場に出ることになるとはな。皮肉なもんだ……」

りっちゃん「まあそれに関してはこっちも色々あるんだよ。そう言えばあんた名前は?」

「しゃべり方がころころ変わる奴だな。まあいい。俺はスネ(ry」

りっちゃん「スネ?」
ジョン「いや、ジョン、ジョン・ドゥだ」

りっちゃん「ジョンか、いい名前」

ジョン「そうか? ありふれたどこにでもある名前だろう?」

りっちゃん「社交事例だよ」ニヘヘ

ジョン「……」

りっちゃん「あ、怒った?」

ジョン「いや、自分達が作って来た道が正しいと思っていた。いたが……そうじゃなかったと。お前さんを見て思ったよ」

りっちゃん「ジョンだけが悪いわけじゃないよ。人がいっぱい生きてるんだからさ。その中でそれぞれ考えることも優先順位も違う。その摩擦をどう埋めてくか……それは一人一人が認識しなきゃならないんだ」

ジョン「顔の割に哲学的なことを言うな」

りっちゃん「顔の割にってなんだよぅ!」

ジョン「悪い意味で言ってるんじゃないぞ? 良い意味でだ」

りっちゃん「良い意味ってつけたら言い訳じゃないぞっ!」

ジョン「駄目か」

りっちゃん「駄目だ!」

律は不思議に思っていた。何でだろうか。さっきあったばかりなのにこうも打ち解けられるなんて。
自分は人懐こいところはあるもののこんな戦場までそれを持ち込んだつもりはない。
現にむぎの執事には容赦なく麻酔弾を撃ち込んでいるではないか。
何だろうこの感じ……凄く懐かしい。

ジョン「さて、お互い自己紹介も済んだんだ。そろそろお互いの仕事に戻るとしようじゃないか」

りっちゃん「あれ? このままメタルギアの格納庫へ行くんじゃないの?」

ジョン「その前にいくつかやっとくことがあってな」

りっちゃん「そっか……」

ジョン「なぁに残念がることはない。お前さんが破壊する前には駆けつけるさ。……じゃあな」

りっちゃん「ジョン!」

ジョン「なんだー?」

呼び止められても立ち止まらず背中越しのまま答える。

りっちゃん「さっきは本当にありがとう」

ジョン「……ああ」

手を振る律に軽く手を上げ答えながら曲がり角へ消えていく。

りっちゃん「さて……行こうか」

メタルギアはこの下の格納庫、とうとう目先まで迫っていた。


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最終更新:2010年10月09日 21:46