雷電「来ないのならこっちから行くぞ」
痺れを切らした雷電が前進してくる。
梓「来ますっ! 唯先輩は援護を! ニンジャさんは私と一緒に!」
ニンジャ「……」
唯「了解だよあずにゃん!」
唯は地面を蹴りふわっと後ろに飛ぶ、と、それを追い抜くように二人が駆け抜けて行く。
梓「はっ!」
手投げナイフを二丁素早く投げ飛ばす。それを雷電はこともなげに刀で弾く。
梓「……フフ」ニヤリ
雷電「……」
不適に笑う梓に疑問を抱きながらもタイミングよく斬りかかって来たニンジャのマチェットを受け止める。
ギィッン
ニンジャ「っ…」
雷電「遅い」
それを弾き返すと同時に蹴りを入れる、ニンジャはそれをかろうじて防御するも鑪(たたら)を踏みながら後退を強いられた。
雷電「傷ついた手を庇うような戦い方ではな」
ニンジャ「……庇っているのは傷なんかじゃない」
瞳が見えないフェイスマスク越しからでも雷電を睨んでいるとわかる。ニンジャは左手に巻かれたハンカチを大事そうに胸にやる。
ふぅ……すぅっ
梓「今ですっ」
シュイッ
シュイッ
梓からまた放たれた二本のナイフ。
雷電「(さっきの速度から見ても今から防御を取って十分間に合う…)」
グサッ…
雷電「ぐぅ…なに?」
雷電が防御体勢に入る前に肩に刺さり込むナイフ
梓「油断しましたね…。降参してください。次は急所を狙います」
冷ややかにそう告げると両手に三本づつナイフを持ちいつでも投げられる体勢を見せる。
雷電「……なるほど、呼吸法か」
呼吸法、一般的にはマラソンで肺活量を高める為に息の吸い方、吐き方などを調節する、出産の際のラマーズ法など様々なところで使われている。
人間は息を吸うときより吐く時の方が動きが機敏になる。
肺に空気が入り膨らむことにより血管が圧迫され血液の巡りが吐いてる時よりもほんの少しだけ悪くなるからだ。
これを訓練し、利用することで『一つの物事を行う時に一番最適な呼吸法』を見つけ出し、その物事を行う速度は常人よりも優れる……と言ったことも可能ではあるのだ。
梓の場合それが『ナイフを投げる』時なのだろう。
雷電「さっきのはわざと見せておいて呼吸法で速度を早めたナイフを投げた時に対応を遅れさせる為か」
梓「ご名答です。ちなみに速度はさっきのよりもっともっとあがります。あの人曰く私はあなたの言うデッドセルと同じぐらいの身体能力らしいですからね。貴方のような一般兵が敵うわけないです」
フフンッと得意気に鼻を鳴らす梓。
梓も唯も今はもう昔の二人ではない。歌を取り戻す為に半ば操られた形となっていたが強くなったのだ。
そしてそれはもう力と言う概念だけの強さではない。
前を見据える、自分から行動出来る強さに変わっていた。
彼女のおかげでそれを見つけられたのだ
雷電「策は悪くない…。ただ一度見せてしまったのが悪かったな」
酷く残念そうに言う雷電。
雷電「それに一撃で急所に投げれば終わっていた」
梓「私達は殺す為に強くなったわけじゃないです! 音楽を取り戻す為に…またあの頃に戻りたいからっ! 強くなったんです!」
雷電「目的を達成する為には人を殺さなければならない時もある。戦場で他人を生かすと言うことは自分が殺される可能性が上がると云うことだ。」
梓「それでもです。音楽は人を傷つけたりしません! 私達もそうでありたいから!」
雷電「だからわざわざ外装の強化シェルのついたところを狙ったわけか」
雷電「音楽は人を傷つけたりしないか…矛盾しているな。…お前達と今の音楽は同じだ。悪いことなどしていない、だが今はそれが世界にとっては悪となっている」
梓「SONGBOBMのことですか…!」
雷電「…歌や音楽は人を癒す。だがそれをSONGBOBMが爆弾に変える。世界はその爆弾を排除することを諦め、本当は素晴らしいものである歌や音楽を捨てた。だがそれを取り戻そうとするお前達。音楽を捨てた世界を傷つけても……どうだ? 矛盾していないか?」
梓「……それは」
ニンジャ「惑わされないで。本当の根源はSONGBOBMなんて馬鹿げたものを作り出した奴よ。あなた達はただ戻ろうとしているだけ、世界の流れに囚われてはいけない」
梓「世界の流れ…?」
雷電「……」
ニンジャ「そうよ。世界の答えが全ての答えではないわ。だからあなた達と同じように音楽を取り戻す為に活動している人達は何千万といる。あなた達のやり方は少し違っていたけれど、気持ちは同じな筈よ」
梓「気持ちは同じ…。そうですよね…!」
ニンジャ「雷電、あなたもそんな世界の答えに操られているんじゃないのかしら?」
雷電「っ!?」
ニンジャ「自分の答えを決めるのは世界ではない。自分の答えを世界に委ねて従うか、抗うか……それはどちらが正しいかは誰にもわからない、決めれはしないっ!」
ニンジャが腰の横にマチェットを構えながら雷電に突進する。
雷電「……っ」
この手の突進は弾くにしても両手が添えられている為余程強く弾かない限りコースは変わらない。
しかし防御が疎かと云う面もあるのでニンジャは正に雷電と刺し違える気で来ているのだ。
それでも雷電は落ち着いていた。歴戦を潜り抜けて来た彼にはその対処の仕方が何パターンも用意されているだろう。
雷電「……」
マチェットの柄を握る手を一瞥。
雷電「はあっ!」
右下段から思い切り刀で斬り上げる。
ガッと鈍い音がした後、マチェットが宙に舞った。
ニンジャ「なっ…」
雷電「左手を前にしたのが悪かったな」
雷電は握力の弱った左手を前にしてるのを見て右下段からの斬り上げを選択。
強い衝撃を与えることによって左手の指の部分からマチェットが抜ける、その勢いは後ろに添えられてる右手だけでは受け止められずマチェットは結果宙に舞ったのだ。
雷電「俺は躊躇わない」
お前が言う自分の答えに俺も従おう。
俺はただ俺達を脅かすものを斬る…!
梓「ニンジャさんっ!」
シュン! シュン!
キンッ! ガキィッ
梓「なんで…」
梓が投げたナイフを簡単に弾く雷電。速度は先ほどの倍はあっただろう。
雷電「どんだけ早かろうと関係ない。肩から肘の動き、手の位置でどこに投げるかぐらい予測出来る」
雷電「さっきデッドセルと言ったな? 俺はそのデッドセルのメンバー達を殺して今にいる」
梓「そんな…そんなの勝てるわけ…」
呆ける梓を無視し雷電は丸腰のニンジャに刃を向ける
ニンジャ「くっ…」
マチェットを拾う暇さえ与えてくれずひたすら回避行動に専念していたニンジャだが、パターンや反応が遅いところを狙われ徐々に刃が体を蝕む。
そして、それは訪れる。
ガッ
ニンジャ「しまっ…」
木の根に足を取られたニンジャ
雷電「終わりだ」
迷いなく袈裟斬り───
「させないよっ」
ガキッ、ギィンッ
雷電「!!」
雷電の降り下ろしていた刀が外へ弾かれる。まるで速球を打った金属バットのような鈍い痺れが手に広がる。
「更にギー太! サブウェポンモード!」クルクルッ
「あずにゃん目ぇつぶっててね!」
梓「?」
シュン……パンッ!!!!
雷電「くっ」
雷電の近くで弾けた弾は炸裂し、光を撒き散らした。
雷電「閃光弾か」
咄嗟に腕で目を覆った雷電だが僅かに遅く光が目に入った。
雷電「(一番脅威にならないと思ってたが……まさか刀を弾くとはな)」
そう。唯は銃弾で雷電の刀を狙い撃ち、弾いたのだ。
雷電「(先にやるならあいつからか……)」
雷電が急に走り出した。目は見えていない、ただ気配に任せて唯の元に向かう。
梓「っ!? まさか唯先輩を!!!! させませんっ! むったん!」
むすたんぐ「ガアッ!」
どこからか現れたライオンのむすたんぐが雷電に飛びかかる。
雷電「邪魔だ」
ガスゥゥゥッ
むすたんぐ「ガウゥ……ゥ」
見えていないはずのむすたんぐを雷電は蹴り飛ばす。
梓「むったん!! このっ」
梓も追いながらナイフで追撃。
しかし雷電は上手く木を縫いながら唯のところへ行く為ナイフは木に刺さったりなどで当たらない。
唯「わわっ。こ、こないで!」
バンッバンッ!
スタン弾の弾幕で遠ざけようとするがそれも当たらず、とうとう両者の距離は縮まり、雷電は唯に刀を降り下ろす。
梓「唯先輩危ないっ」
唯「あずにゃん!?」
ザクッ……
梓「あっ……」
雷電「……」
唯を抱くように庇い、代わりに雷電の降り下ろした刃を背中に受ける梓。
背中からおびただしい程の血が吹き出し…唯の顔にも数滴かかる。
唯「あ…あっ……あずにゃん。あずさあああああああああああっ」
雷電「すまないな」
刃を返して縦に握る、切っ先は梓と唯に。
二人を同時に貫くつもりだろう。
雷電「恨むならこんな世界に生まれてきたことを恨むんだな…」
グサッ……
雷電「ぐふっ……」
ニンジャ「これがあなたの求めた答えなの?」
雷電の脇腹から突き出るマチェット。雷電から流れる血は赤ではなく、真っ白だった
雷電「……何がだ?」
ニンジャ「あれを見て……あなたの心は何も思わないの?」
雷電「……」
そう言われ雷電はゆっくりと首を動かし彼女らを見た。
唯「あず……にゃ……」
梓「泣かな…いでく…ださい…ゴホッ…唯先輩。…ちょっと時間はかかりますケド……治りますから……」
唯「でもぉおおおお!」
梓「唯先輩が泣いてると……私も悲しいです。だから…ね?」
唯「う゛ん゛……ズピッ」ニコッ
梓「これであの人を殺したい……なんて思わないでください。私達の敵はそんなものじゃないんですから……」
唯「あずにゃん……」
雷電「……」
ニンジャ「あの子達は世界をても尚自分達を変えない。ただ自分達が幸せだったあの頃に戻りたいから戦っている。あなたはどうなの?」
雷電「俺は……。(ローズ、俺はどうすればいい)」
グォォォォォン
唯「な、なに?」
梓「研究所から…?」
ニンジャ「……! 地下格納庫の昇降口が…!」
ニンジャ「まさかメタルギアが…!」
ズヌゥッ
雷電「うっ…ぐは…ま、待て!」
マチェットを体から引き抜き、雷電の静止も無視して研究所の方へ向う。
ニンジャ「唯、梓のことちゃんと見ててあげるのよ。軽音部の先輩なんだから」
唯「えっ? なんで知って……もしかして…!」
それを言い切る前にニンジャは行ってしまう。
梓「ひぐっ……んっ」
唯「あずにゃん!? 大丈夫…?」
梓「はあ…はあ…」
痛みに耐え、悶える梓を撫でる唯。
唯「もしかして…あのニンジャさんは……和ちゃんなの?」
確証のない疑問をただ浮かべるしかなかった。
雷電「……本当にそれでいいのか…か」
───FOXDIED 作戦会議室───
FOXDIED作業員「非戦闘員、及び民間の支援者は脱出しました!」
さわ子「上出来よ。あなたも行きなさい。私はここを爆破するわ」
FOXDIED作業員「出来ません。その役目は自分が。あなたはあの子達の為に生きてください」
さわ子「あなた…。でも大丈夫よ。死ぬつもりなんてないわ! 死んだらあの子達が音楽を取り戻した後にやるライブの衣装が作れないじゃない!!」
FOXDIED作業員「はは、局長らしいです」
さわ子「というわけだから行きなさい。まだ若いんだからあなたは、もっと他にいい人がいるわ」
FOXDIED作業員「さわ子さん……。必ず、生きて帰って来てください!」ダダッ
さわ子「ええ。必ず…」
さわ子「もうそろそろロックを破ってここに来るわね…。」
ダンッ ダンッ ダンッ
会議室の向こう側には電子ロックされたドアを破る為に火器が降り注がれているだろう音がする。
さわ子「ごめんね、りっちゃん、みんな。頼りない先生で」
さわ子「私がもっとしっかりしていたら…あなた達が争うことなんてなかったのに」
さわ子「ごめんね……」
さわ子「でも、りっちゃんならきっとまたみんなを一つにしてくれるわ。そうしたらまたみんなで協力して……この世界を行きなさい(生きなさい)」
さわ子「あなた達が幸せで暮らせられる日が来ることを……祈ってるわね」
ダアアアッッッン
兵士「見つけたぞ! FOXDIED局長の
山中さわ子だ!」
さわ子「違うわ、私は桜ヶ丘高校の先生で軽音部の顧問! 山中さわ子よ!!!!!」
ピッ──────
その瞬間、さわ子の世界を光が包んだ。
───研究所 地下格納庫───
りっちゃん「こっちはオッケーだよ」
スネーク「こっちもだ。しかしこの装甲……見たことないことが使われているな。」
りっちゃん「なんだろうがこの量のC4で吹っ飛ばないわけないだろ~?」
スネーク「……まあな」
りっちゃん「しっかしこんな量のC4どこに持ち歩いてるの?」
するとスネークは額を親指でトントン、とやった後に
スネーク「無限バンダナだ」
と勝ち誇った顔で言った。
りっちゃん「は? 何言ってんだよ」
スネーク「だ、だから無限バンダナなんだ」
りっちゃん「長さが無限?」
スネーク「違うっ! もういい」
りっちゃん「??」
スネーク「よし、離れろ。爆破するぞ」
二人は後退りながら距離を取る。
スネーク「破片が飛んで来るかもしれん、この段ボールに…」
りっちゃん「えっ? 段ボール?」
スネーク「……冗談だ。この積み荷の後ろに隠れよう」
りっちゃん「はは、笑い取ろうとしてんのか? あんたって案外いい人なんだな」
一瞬誰かとダブって見えた気がしたがそれは気のせいだろう。
スネーク「笑いだと……?。いいか? 段ボールは耐久性が優れており尚且つ柔軟性にも優れていて……」
りっちゃん「ハイハイもうわかったから隠れような~」
スネーク「段ボールの良さに気づかないとはまだまだ新米だな」
そんな捨てセリフを吐いた後スネークも渋々律に続く。
二人は物陰に隠れながら静かにメタルギアを見据える。
りっちゃん「メタルギア……」
スネーク「……」
りっちゃん「なぁ、あんたは何でこんなことしてるんだ?」
スネーク「…それを聞いてどうする」
りっちゃん「参考までにさ。ダメ?」
律がウインクで可愛くお願いする。とスネークはやれやれと言いながらも話始めた。
最終更新:2010年10月09日 21:53