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私はどうしたかったんだろう。全てを捨ててまで掴み取ろうとした音楽は……手からすり抜けてしまった。
音楽を取り戻せばまたあの日々(世界)が戻ってくると信じていた。
私はただ戻りたかった。

あの頃に───

毎日が幸せに溢れていて

みんなで笑いあえて

明るい眩しい世界に


なのに……どうしてこんなことになったんだろう。
仲間もいなくなり、見渡せば自分一人しかいない。
真っ暗な夜原を一人でさ迷い続けてる。
振り向けば来た道は崩れてて、もう前に行くしかない。

絶望しか待っていない未来に……


私が取り戻したかったのはなんだったのだろう?

音楽だったのかな?

仲間、友達だったのかな…?

いや、違う。

音楽、友達、……それは私達のカケラ。

だから一つでも欠けたら駄目なんだ。

だから……

だから………

だから…………

でも、

『一緒に取り返さないか?』


『私にはそこまでする理由がわからない』

一番最初に一番大切なものが既に欠けていたんだ。

ふふ…、なら上手く行くわけないよな。

だって私が一番取り戻したかったのは──────


澪「ん……」

覚醒していく。体にかかる重さがコートのせいだと気づくまでに頭が働くようにはなっていた。

澪「ここは……そうか。あの人に殴られて…」

油断していたとは言えこのコートの上から気絶させる程の当て身とは、只者じゃないとは薄々思っていたけど。

「……ッ!! ……ッ!!

声がする。ムギの声。良かった、起きられたんだ。

体の調子を確認しながらゆっくり立ち上がると向こう側の橋脚にいるムギが目に入る。

リキッド「目障りだ!!! 消え失せろ!!!」

澪「!!?」

ガトリング砲がムギに向く。
助けなきゃ……助けなきゃ……。

澪「うぅ……」

体が動かない…。克服したつもりなのにこんなところで怖がりが出るなんて…。
変わったんじゃないのか秋山澪!!!
誓っただろう! あの頃に戻るために強くなるって!

澪「動いてよ…」ガクガク

それでも体は動かない。

怖いっ……怖いっ……怖いっ……!

りっちゃん「えっ…、おい……! やめろっ!!! ムギには関係ないだろっ!!!」

律が泣きそうな顔をしている…。
なんで……?
誰が泣かせたんだ……?

リキッド「」

澪「お前か…!」

───────


白煙が晴れて行く……。
そこに現れたのは真っ黒なコートに身を包んだ澪だった。

澪「もうこれ以上何も失わせたりしない…」

黒灰の瞳が激情に燃える。

りっちゃん「澪……!」

紬「澪ちゃんっ!」

スネーク「……」

リキッド「ちっ、まさかこいつのガトリングさえ止めるとはな。ソリダスのを改造しただけはある」

スネーク「(ソリダスだと…?)」

澪「重火器に対しては無敵だと言ったのはあなただろう! リキッド・オセロット……! 今一度問う! あなたにとって音楽とはなんだ! 返答次第では……討つ!」

リキッド「俺にとって音楽とは戦争、争いだ! 歌は叫びや歓喜の声!!! これが人間の正しい姿なのだ!!!」

澪「……ならもうあなたに従う意味もないな。メタルギアは音楽を取り戻す為に必要だ。返してもらう……!」

リキッド「返せだと? こざかしいッ! 小娘が調子に乗るなよ!!!」

澪「ムギ、下がってろ」

紬「澪ちゃん、りっちゃんが……」

澪「……律は関係ない。これは私達の問題だから。それに律は…敵だ」

紬「……自分に素直になってね……澪ちゃん」

澪「……」

携えた鞘から刀を抜き、迷いを振り払うように二、三回左右に切り払った後、切っ先を向けて言い放つ。

澪「…行くぞ」

メタルギアのガトリングガンが火を吹く。
一発一発が当たれば死に貶められる一撃。
しかし澪はそれを事も無げにコートの裾翻し銃弾纏うように弾く。

リキッド「ちぃっ!」

澪「はあぁっ!」

橋脚を飛び出してガトリング砲に一閃────

澪の刀はガトリング砲をまるでバターの様にスライスして見せた。更に高さ数十mといった所から飛び降りたと言うのに軽く受け身を取りながらあっさり着地した。
まるで羽根でも生えてるかの如くな着地。

りっちゃん「強化金属を意図も簡単に…」

スネーク「あの刀……ただの日本刀じゃないようだな。それにしてもあの運動能力……ナノマシン操作か…」

りっちゃん「あれが本当に澪かよ……」

強くなったんだな……澪は。
でも……他の道は選べなかったのかよ……澪。

リキッド「振動斬か…」

澪「目に見えない程のごく僅かな振動をさせることでその切れ味は何倍にもなる…」

リキッド「なるほど、琴吹製品(メタルギア)には琴吹製品と言うわけか」

澪「元々これはムギが暴走やあなたみたいな人に渡った時に対処するために作られたもの。音震刀の威力……その身で味わえ!!!」

音震刀は光の輝きを浴びながら微かに震えている。

リキッド「琴吹の娘め味な真似を……! 」

リキッドは近づかせない為に距離を取りつつ澪にガトリングガンを撃ち込み動きを止める、澪は近づこうとするが多彩な重火器類の前に防ぐのがやっとと言ったところだ。

この硬直した流れを断ち切る為にリキッドはレールガンを選択。

リキッド「電撃までは防げまい!!! 喰らええええ!!!」

澪「くっ……」

スネーク「今だりっちゃん!」

りっちゃん「澪! 伏せろ!」

澪「!!」

両脚に狙いを定めていた二人が同時に発射する。
屈んだ澪の頭上をスティンガーミサイルが通過し、メタルギアの脚の関節部分に見事ヒットした。
爆炎を撒き散らすと同時にメタルギアが大きく傾いて行く。

リキッド「おおおおっ」

スネーク「やったか!?」

リキッド「スネーク!! まだだ! まだ終わってないっ!」

ギシギシと言わせながらも巨体を踏ん張らせる。

リキッド「まさかここまでとはな…。さすがスネークと代用品なだけある」

澪「さっきも言っていたな! 代用品とは一体どう言う意味だ!」

リキッド「そのままの意味だ。俺はこの無人島に過去を連れてきた! 言わば俺達の歴史の縮図!」

りっちゃん「なにを…!」

リキッド「FOXHOUND、メタルギア、スネーク、雷電、ソリダス、シャドーモセス、デッドセル、謎の忍者……核」

リキッド「ここには今まで起こった俺達の歴史が詰まっている。俺がそうなるよう仕向けたのだ!!!」

スネーク「それに何の意味がある!?」

リキッド「踏み越える為さ!!! この今までの過去の縮図を踏み越えることによって俺はようやく未来に進める!!! このメタルギアVOICEと共にな!!!」

澪「っ……!?」

澪「そんなことの為に……そんなことの為に私達を利用したのか!!! お前は!!!!!」

リキッド「お前はいい働きをした。秋山澪、いや……ソリダス・スネーク」

澪「私はそんなやつ知らないっ!!! 勝手にお前の過去に私達を結びつけるな!!!」

感情に任せ斬りかかる。メタルギアは立っているのもやっとだと言うところだ。
これがとどめとなるだろうと言うことは歴然だった。

だが────

リキッド「メタルギアVOICEの真の力はこれからだ!」

スピーカーから音が発射される。

スネーク「まずいっ! 声を出せ!」

りっちゃん「いや……これは。さっきと違う…」

ウイイイイイイイイイ

『メタルギア、第二形態に移行。』

リキッド「スネーク!!! 生き延びろよ!! 次に会う時は戦場だ!!! お前の大好きな冷戦のな!!!」

スネーク「何っ?!」

りっちゃん「そんな…」

澪「メタルギアが……消えていく……」

リキッド「また会おう!!!」

両手で銃をイメージしたような二本指を立て、突き出す。

嘗てのリボルバーオセロットのように。
だが、それに気づくものは誰もいない。

ここには。


少し時間をかけすぎたな。
タイムリミットとは。
まあいい、元々排除は奴等に任せる予定だったしな。

これで過去の清算は終わった。

これから始まる冷戦、その未来にもう賢者達は必要ない。

いや、今は愛国者達か。

解体されたMSFが動いてると情報があったがどうやらカズヒラ・ミラーではない…。
もしや……いや、そんなわけがない。
ビッグボスが生きているなど……。

大丈夫だ、あの人のことを思えるなら俺はまだ……。


りっちゃん「まさか消えるなんて……」

スネーク「焦るな! ステルス迷彩だ。見えないだけで物体をすり抜けられるわけじゃない! まだそこにいるぞ!!!」

りっちゃん「ならスティンガーで!!」

スネーク「無駄だ。ステルス迷彩は熱源も消せる。スティンガーじゃロック出来ん。俺が炙り出してやる!!」

そう言ってRPGを構えたスネーク。先程までメタルギアがいた辺りに狙いをつけ撃ち放つ。

ズオッ

ドオオオオッ

しかし弾は虚しく壁に当たり爆発する。

スネーク「あれだけの質量だ、動いてわからないわけがない……一体どこへ消えた…?」

ズオオオオオオ

りっちゃん「次はなんだ?!」

スネーク「地上への昇降口が開いて行く……奴はあそこから地上に出るつもりだ!」

りっちゃん「ならあのせり上がってる台の上に?」

スネーク「ああ!! 逃がさん!!」

ガチャッ、ズオッ────

ズオオオオオオッ

スネーク「ちぃっ! いないだと!?」

りっちゃん「クソ……ッ! 澪! お前なら何か知ってるだろ!? 教えてくれ! 私達はあれを止めなくちゃいけないんだ!」

澪「……。私にはメタルギアが必要だ……った。ただもういい…」

りっちゃん「澪…?」

澪「メタルギアVOICEの第二形態、それはステルス迷彩なんてただ消えるだけの機能じゃない。その音を聴いたものに認識させない命令を植え付ける凶悪な音を出している」

りっちゃん「音…?」

澪「ああ。人間には聴こえない波長だけどな。あれだけの質量が動き回っても音がしないのは私達が認識してないからだ」

りっちゃん「じゃあ…!」

澪「さっきのもただ上手く避けただけで実際はそこにいるだろう。あくまで予想に過ぎないけどな。なんせ私達には認識出来ないんだから……」

りっちゃん「なんでそんな冷静でいられるんだよ!」

澪「!?」

りっちゃん「あれが世に出回ったら私達の世界は……」

澪「私達の世界……か。そんなものもうないよ」

りっちゃん「澪っ!!!」

澪「さよなら、律、だった人。もう二度と会うこともない」

これでいい。これで。
私はもうこんな世界で生きたくない。
だからメタルギアがどうなろうと知ったことじゃない。
音楽を取り戻そうと奮起したのを利用されて、今の私はただの世界的な犯罪者に過ぎない。
そんな世界で生きていくのは…、あまりにも辛すぎるじゃないか。
なら私は思い出と共にこの場所で死のう。

一人っきりで…


そう言い残しどこかへ行く澪を私は追いかけたかった。
でも、今は…出来ない。私が私で澪を迎えに行く為には…!

りっちゃん「メタルギアを破壊しよう。 スネーク! 手伝ってくれるよな?」

スネーク「元々こっちの仕事だからな。勿論だ。(いい目をしている)」

りっちゃん「ムギッ!!!」

紬「対処法、でしょ?」

りっちゃん「ああ」

紬「メタルギアVOICEは常にあの音波を出していると思うわ。人間には聴きとれない波長だけど聴いた瞬間メタルギアを認識出来ないような命令を出してるの」

りっちゃん「じゃあまた大声を出してる間は…」

紬「あれとは音質が違うの。聴こえる音ならそれで対処も出来るのだけれど聴こえない音になると衝撃音なんかで打ち消したりは出来ないわ」

りっちゃん「ならどうしたらいいんだよ!」

紬「簡単よ。認識しようとするから見えないの。認識しなければいいのよ」ニコッ

橋脚の上からまた微笑みかける紬。

りっちゃん「なぞなぞかよ?」ニコッ

こんな状態でも笑っていられる自分にちょっと驚く。

紬「他のことに意識を向けながら戦えばいいの。ただ生半可な意識の向け方じゃダメよ。見ようと思わないで」

りっちゃん「なるほど、他のことに意識を向けながら…か」

紬「うふふ」

りっちゃん「どうやってもそうさせたいみたいだなお前は。まさかその為にそんな設定にしたんじゃないだろうな?」ニコッ

紬「さあ、どうかしらね」

りっちゃん「私とスネークは上に出てメタルギアを討つ。ムギも後から来てくれ。メタルギアを撃破した後ここを脱出するから、みんなでな」

紬「りっちゃん…」

スネーク「(みんなで…か)」

りっちゃん「行こう。終わらせるんだ…!」


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最終更新:2010年10月09日 22:00