熱くなって出過ぎた紬の腕を即座に取り、関節を決めつつ袖に隠していたナイフを宛がう。
リキッド「動くなよ? 動けばお嬢様の頸動脈が噴水を造ることになる」
スネーク「リキッドッ!」
りっちゃん「お前……!」
リキッド「これが強さだ? 笑わせるな。一人人質に取られたら身動きも出来なくなり全滅する……それが強さだと!!?」
紬「……こんなことでみんなを失いたくない。殺すなら殺しなさい。けどあなたの負けは変わらないわ」
りっちゃん「ムギッ!? なにをっ!?」
紬「りっちゃん。私にはメタルギアVOICEを作った責任があるの。元々生きてちゃいけなかったの…」
りっちゃん「今更…今更そんなこと言うなよムギッ! みんなでやり直すんだろ!!? 待ってろ! 今助けてやるから!」
リキッド「おおっと動くなよ? 出来れば殺したくはない」
りっちゃん「くっ……」
スネーク「それでビッグボスを越えたとはよく言えたものだな!!!」
リキッド「スネーク! 貴様との因縁はまだまだ続くようだな! やはりこの世界の明日を作るのは俺達だと言うことだ!!!」
スネーク「まだそんなことを!!」
雷電「周りは海だ。逃げられると思わないことだ」
リキッド「ラァイデン! 基地の中にはごまんとジェット機やらヘリやらがあるんだぞ?」
雷電「ちっ」
紬を抱えたまま徐々に後ずさるリキッド。
それを見ていることしか出来ない一同。
紬「みんな何してるの!! 私ごとこの人を殺して!!! でないとこの先またどんなことが起こるか……」
りっちゃん「それでも…出来ないっ」
唯「ムギちゃんを撃つなんて…」
梓「みんなでここから出ようって約束したのに…!」
スネーク「……俺が代わりに人質になる! その子を離してやれ!」
りっちゃん「スネーク……」
リキッド「ふんっ、近寄って得意のCQCでもお見舞いするつもりか? 残念だったなスネーク。その手には乗らない」
チッチッチ、と人差し指を振りながら微笑するリキッド。
スネーク「……(何か引っ掛かるな)」
りっちゃん「なら私がっ!」
リキッド「しつこいぞ!!! ただ貴様達はそこに立っていればいい。なぁに心配するな。ちゃんとお嬢様は解放する」
りっちゃん「そんな保証がっ」
紬「いいの、りっちゃん…。」
りっちゃん「良くない…良くないよ!」
唯「りっちゃん…」
梓「(今なら…っ)」
パシュンッ───
梓「くっ…」
懐から出したナイフが跳ね上がる。
リキッド「妙な真似をするなと言っただろう。そんなに琴吹お嬢様の命がいらないのか?」
スネーク「ガンナイフか…!」
一様にただ動けないまま後退るリキッドと紬を見ているしかなかった。
りっちゃん「(下手に動けばムギが危ない…。でも…命の保証があるわけでもない…! ならッ!)」
後ろ手でバックパックを漁ってみる。
りっちゃん「(よし…まだある。後はこれを如何に早く爆発させるか…。普通にやったんじゃラグがありすぎる)」
りっちゃん「(スネーク…とは距離が遠いし、目線はリキッドの方へ行ってる…アイコンタクトも取れないか)」
唯「〔りっちゃん、何ごそごそしてるの?〕」
唯が気になってか小声で話しかけてきた。
りっちゃん「(唯か…一つのことに関しては天才的なのは知ってる。けど他人が投げた物を撃つなんてプロだって7割当たれば上出来だ。それがこの土壇場で……)」
唯「??」
りっちゃん「(いや、唯なら絶対やってくれる。いつもそうだったじゃないか)〔唯、今から話すことを良く聞いてくれ〕」
唯「!!」
リキッドは研究所の入口付近にまで迫っていた。
動くな、と言われた面々はどうすることも出来ず研究所から十数m離れた場所で立ち尽くしていた。
リキッド「これより先貴様らの顔を見た瞬間琴吹の命はないと思え。いいな?」
スネーク「リキッドォ…」
リキッド「また会おうスネーク。次はアフリカ辺りか? ハハハ!」
りっちゃん「〔唯、いいか?〕」
唯「〔モードの切り替えもおっけーだよりっちゃん! 私に任せて!〕」
りっちゃん「〔頼りにしてるよ〕」
りっちゃん「〔じゃあ行くぞ…〕」
二人の間に緊張が走る。
りっちゃん「〔3...2....1....ッ!〕」
ぶんっ
律がバックパックから取り出した何かを素早く中空に投げる。
それは弧を描きながらリキッドと紬の元へと向かう。
リキッド「手榴弾かっ!?」
りっちゃん「ムギっ! マンボウの真似!」
紬「えっ??」
唯「パーティーターイム」ニヤッ
シュンッ────
ズォッ───
辺りを眩い光が包んだ。
駆ける───
駆ける、駆ける────
十数mの距離を2秒かからずに走破、一気に二人の傍まで辿り着く。
リキッド「ぐぅ……閃光弾か!!!」
炸裂する光の中から見えたのは、一つの掌底────
リキッド「がッ!」
綺麗に顎を捉える。
リキッド「(スネークか!!!? いや、しかし手のサイズから考えても……だがこの威力はッ!)」
仰け反りそうになる体を堪えて踏ん張る。
リキッド「(ちぃっまだ視力は戻らないか! ここで終わるわけにはいかない!!! 何としてもあの方の為に……!)」
そんなリキッドの思いに反し、懐には自分より遥かに小さな影が迫る。
りっちゃん「はあっ!」
勢いを付けた肘打ちがリキッドの鳩尾を捉える───
リキッド「ごおッ!」
りっちゃん「おりゃっ!」
更にその勢いを利用し、くの字に曲がってがら空きの顎を掌底で突き上げた。
リキッド「がふっ」
りっちゃん「まだまだァッ!」
浮き足立ってる所に足と手を掛けながら連動させる。リキッドはそのままなすべなく背中かから地面に倒れ込んだ。
紬「ん……なに?」
マンボウの真似って言われて咄嗟にやってたらいきなり眩しくなって…。
りっちゃん「無事かムギ!?」
紬「りっちゃん!」
りっちゃん「早く! こっちだ!」
まだ残光がある中、マンボウの真似をしていたおかげで見える視界を頼りに律の後を追う。
紬「(りっちゃん、ありがとう。いっつもいっつも私を、私達を助けてくれるのはあなただったわよね。これからもずっと、その背中を)」
バンッ────
りっちゃん「えっ…」
紬「(追って…)」
リキッド「次はないと言っただろう…」
りっちゃん「ムギイイイイイイイイイイ」
紬「(いたかった……)」
…
スネーク「くっ、何が起こってる!」
和「銃声…?!」
唯「ムギちゃんッ!」
梓「ムギ先輩がどうかしたんですかっ!?」
唯「あいつに撃たれて……」
梓「ッ!? んもー見えやがれですこの目!」
スネーク「まずは奴を取り押さえる!!! 雷電ッ!」
雷電「ああ」
二人は目を閉じたまま走り去る。
唯「私達も行こう、あずにゃん」
梓「唯先輩! あ、ちょ、そんなに強く引っ張ったら転びま……」
…
りっちゃん「ムギィ……」
紬「りっちゃん…ごめんね。私がどんくさいから」
脇腹から流れる血が紬の服を紅く染め上げて行く。律は少しでも楽になるように膝を貸し、同時に気道も確保する。
りっちゃん「そんなことないっ! そんなこと……」
紬「優しいね…りっちゃんは」ニコ…
りっちゃん「ムギ……。大丈夫……すぐに治療してやるからな」
涙を拭いながらサバイバルビュアーに従いながら治療しようとする。
りっちゃん「うっ……ううっ……」
わかっていた。でもわかりたくなかった……!
ムギはナノマシン投与を全くしていない……だからナノマシンが投与され、回復力、再生力が著しく上がっいる状態での治療方法などなんらあてにならないことぐらい…。
それに圧倒的に血液が足りない…。塞いでも塞いでも血が溢れてくる……。
それでも……
りっちゃん「私が……治してやるからな…! ム゛ギ……」
紬「りっ…ちゃ…」
りっちゃん「ごめん…ごめん…。私が無理に助けようとしなかったらこんなことにならなかったのに…」
紬「…それは違うわ、りっちゃん…。ああしなければもっと多くの被害者が出てた…リキッド・オセロットの手によって…。だからりっちゃんは正しいことをしたのよ…」
りっちゃん「友達を傷つけてまで得る正しさなんてないよぉ…っ!」
紬「りっちゃん…」
りっちゃん「私が全部間違ってたんだ! 何もかも最初から…! みんなが大切なら初めから澪やみんなの仲間になってれば良かったっ!! そしたらムギだってこんなことに…」
パシィン……
りっちゃん「えっ…?」
弱く震えながらも伝わる、強さのある平手打ちだった。
紬「そんなこと…言わせない」
りっちゃん「ム…ギ…?」
紬「ここまで…今まで歩んで来たことが間違いなんて言わせないわ! りっちゃん!」
りっちゃん「ムギ…」
紬「確かに私達は…悪いことをしたわ。けど…それでも欲しかった。あの景色が、今になるように」
りっちゃん「……」
紬「でも…それは最良の方法…みんなの意見じゃなかった。りっちゃんが命を賭けてそれを教えてくれたじゃない」
紬「ううん。きっと間違いなんてないの。人にはそれぞれ色々な答えがあって…でもそれは他の人から見れば不正解かもしれない。だから喧嘩もするし…大きく言えば戦争にもなる」
紬「でも喧嘩をしたら仲直りすればいい、戦争だって和解出来れば終わるもの。そうやって正解はより濃くなって行くんじゃないかしら…」
りっちゃん「みんなが笑えたら…それで幸せだもんな」
紬「うん」
りっちゃん「そうなるといいな…私達も」
紬「なれるわ、きっと。ゴホゴホッ!」
りっちゃん「大丈夫かムギ!?」
紬「なんだか……もぅ……あんまり上手く喋れないけど……」
りっちゃん「もういい喋らなくて!」
紬「みんなを……よろしくね。りっちゃん」ニコ
律の輪郭優しくを撫でた腕は、ゆっくりと地に落ちた。
りっちゃん「ムギ…? 嘘だろ…? なあ…?」
りっちゃん「うああ……ああああああっ」
唯「ムギちゃん…りっちゃん…」
梓「そんな……嘘ですよね? ムギ先輩…?」
りっちゃん「……」
梓「律先輩…! 何とか言ってください!! 」
りっちゃん「ムギを殺したのは私も同然だ…。だから恨んでくれていい…っ」
梓「そんなことを言ってるんじゃないです!! 早く治療を!」
りっちゃん「やったさ! でも…止血パッドでも止血しきれないっ…。ムギはナノマシンを投与してないから再生力もない…。どうしようもないんだよ!」
梓「そんなことないです!!! 何か…何かきっと…」
唯「あずにゃん…もうよそう」
梓「何言ってるんですか唯先輩!? ムギ先輩が死んじゃってもいいんですか!!!」
唯「いいわけない!!!!!!!!」
梓「っ!」
全身の毛が弥立つ程の声に梓は思わずたじろぐ。
そこにはこんな唯を見たことがないと云う驚きも含まれていた。
唯「他でもないりっちゃんが一番ムギちゃんを助けたいと思ってるはずだよ。そのりっちゃんが無理だって言うんだからきっと無理なんだよ…」
りっちゃん「……」
梓「でも…ぉっ! じゃあ諦めろッて言うんです言うんですか!」
唯「りっちゃん。私達は一人じゃないよね?」
りっちゃん「…ああ」
唯「りっちゃんは私達を助ける為にずっと一人で背負い続けてた。だからってこれからも一人で居る必要はないんだよ? 頼ってくれていいんだよ。私達を」
唯「確かに無理かもしれない。…りっちゃん一人なら」
りっちゃん「っ! それじゃあ助かるんだな!?」
梓「唯先輩…!!」
唯「みんなで協力しよう。だから、喧嘩なんてしてる場合じゃないよ、二人とも」
りっちゃん「唯…。全く言ってくれるぜ」
梓「唯先輩に諭されるなんてちょっと心外ですけどね」
唯「酷いなぁあずにゃんは」
梓「それよりそんなこと言い出すってことは何か手があるんですよね?」
唯「手、って言うほどじゃないけどね。多分ムギちゃんは今ショック症状に入ってると思うんだ」
りっちゃん「ショック症状? ってことはまだ生きてるってことか?!」
唯「一応はね」
梓「律先輩脈とか確認したんじゃないんですか!?」
りっちゃん「えっ…だって急にくたって力なくなっちゃうんだもん…。この傷だしさ…。普通そう思う…だろ?」チラッ
梓「はあ…」
唯「でもあながち間違いでもないんだよ。もうあんまりは時間はないと思う。出血多量で死ぬのは体の血の1/3が目安って言われてるの」
りっちゃん「つまり?」
唯「血液量は体重の7~8%って言われてるからムギちゃんなら50キロとして総血液量は約4000cc。つまりこの1/3以上、1333ccが流れた時点で命に関わるってこと」
梓「ムギ先輩は今どれぐらい血を流してるんだろう…」
唯「多分…800ccぐらいだと思う」
りっちゃん「800…。何でわかるんだ?」
唯「ショック症状が起きるのは総血液量の1/5ぐらいだから。もしかしたらもっと流してるかもしれないけどね…」
りっちゃん「理屈はわかった。それでどうやったらムギを助けられるんだ唯!?」
唯「……手術するしかないよ」
梓「手術!? ここでですか?」
唯「うん。それしかないと思う」
唯「ムギちゃん…ちょっとごめんね」
唯はムギの撃たれたお腹の裏を少し擦る。紬は気絶しているのかピクリとも動かなかった。
唯「やっぱり…。弾は貫通してない。ムギちゃんの体の中にあるんだ。取り出さないと…」
りっちゃん「取り出すってどうやって…」
唯「…あずにゃん、ナイフ貸して」
梓「…まさか、唯先輩」
唯「そうするしかもう方法はないの!! いいから貸して!!!」
梓「は、はい!」
唯「出来れば使ってない綺麗なやつがいい」
唯は腕捲りとすると何やらゴソゴソし出した。
梓「これ…」
唯「もっと刃が細いやつじゃなきゃ。それじゃ切った時傷口が広くなって縫うとき大変だから」
梓「わ、わかりました」
りっちゃん「縫うって…?」
その言葉を待っていたかのように唯は懐からあるものを取り出す。
唯「これだよ」
そう言ってちらつかせたのは細く光るギターの弦。
りっちゃん「ギターの弦なんかで出来る…」
唯「出来る出来ないじゃないよりっちゃん! やらないとムギちゃんは死んじゃう…だからやるしかないんだよ」
りっちゃん「唯…。頼む。ムギを助けてやってくれ」
唯「知ってても…こんなことするのは初めてだから上手く出来るかどうか…ううん。やらないといけないよね。わかってる」
りっちゃん「(こんな時憂ちゃんがいてくれたら…。さっきからCALLしてるけど出ないし…あっちにも何かあったのかな)」
唯「実はね…教えてくれたの澪ちゃんなんだ」
りっちゃん「澪が?」
最終更新:2010年10月09日 22:06