唯「うん。私はみんなを守る責任があるから…何かあった時みんなを助けられる様に少しでも知識を詰め込むんだって。凄い色々なこと勉強してた」

りっちゃん「そっか…」

唯「朧気にしか記憶にないんだけどね。その頃はもう私は私じゃなかったから。だからそんなひたむきに頑張る澪ちゃんに……何も言ってあげられなかったんだ。それを今でも後悔してる」

梓「唯先輩、これ…」

唯「ありがとうあずにゃん。あずにゃんもきっと同じ気持ちだと思う」

梓「はい…」

唯「ムギちゃんはメタルギアの開発でほとんどいなかったから……結局澪ちゃんはずっと一人で戦って来たんだよ」

りっちゃん「一人か…」

唯「りっちゃんと同じだね」フフ

りっちゃん「そうだな」フフッ


───────

リキッド「これが弱さだ! 仲間を持つと云うな!!! 世話になったお嬢様を苦しめるわけにもいくまい」

ガンナイフの照準を定める。今度は確実に仕留められるように、紬の頭を────

スネーク「うおおおおおおおお」

雷電「させるか」

リキッド「遅いっ!」

突っ込んで来る二人を無視してガンナイフの引き金を弾こうとした時だった───

突如跳ね上がるガンナイフ、手には強烈な痺れ。

リキッド「なにいいっ」

スネーク「リキッドォォォォォォォォ!!!」

そこにスネークの加速をつけた渾身の体当たりがリキッドを捉えた。

リキッド「がはあッ」

勢いよく吹っ飛んだリキッドは二転三転しながら研究所の壁に激突し、ようやく静止した。


スネーク「終わりだ…リキッド」

雷電「見えてない目でよく当てたな」

スネーク「あいつの声はよく耳に響くからな。雷電、やつをこれで縛ってくれ」

雷電「わかった。それにしてもさっき奴が持っていたナイフが弾き飛ばされたのは一体なんだったんだ」

スネーク「? そんなことがあったのか」

雷電「ああ」



「それは自分がやったんだ」

雷電「……あんたは?」

斎藤「斎藤。琴吹お嬢様に使える従者だ」

肩にモシンナガン掛けた姿で森から出てきた斎藤。

雷電「テロリストの仲間と言うわけか」

斎藤「そんなあなたは政府の犬かな?」

雷電「そんなところだ」

斎藤「ふ、犬と言う点では似ているな、自分と。誰かのおかげで熟睡していたが外がドンシャカとうるさくてね。出てきて見ればあの男がお嬢様を狙い撃っていたところだ。慌てて撃ち落とさせてもらったってわけだ」

スネーク「雷電。話はそれぐらいにして奴を」

雷電「そうだったな。安心しろ。あんたの体当たりで奴はノびてるさ」

斎藤「……お嬢様。 お嬢様!!!」

スネーク「りっちゃんの仲間が撃たれたのか……」

ようやく視力が戻ってきたところで辺りを確認する。
目を慣らしながら研究所の方を一瞥。
倒れたリキッドを雷電が縛り上げている。

反対側を向くとりっちゃん達が集まって治療か何かをしている。

スネークは少しも迷うことなく研究所とは反対側の方へ踏み出した。

スネーク「(これで俺達から始まった連鎖は終わった。これからの時代を作るのは俺達じゃない)」


─────

唯「誰かライター持ってない?」

りっちゃん「ない…」

梓「持ってないです…」

唯「消毒も兼ねてやっときたかったけど……このままいこう」

唯が持っているナイフがゆっくりと紬の腹部へと降ろされる。

梓「ふううう……」ブルブル

りっちゃん「梓、見たくないならあっち向いてろよ。唯の気が散る」

梓「だ、大丈夫ですっ」

唯「(気絶してるとはいえ麻酔なしで開腹なんて……もしかしたら途中で起きちゃうかもしれない。そしたらムギちゃんはきっと耐えられない…でもっ…)」

ナイフを持つ手が震える。

唯「(怖い…もし失敗してムギちゃんが死んじゃったら…私は…私は…)」

「待て、麻酔を入れる」

バシュッ────

急に現れた男が手にもった何かを紬に打ち込む。

りっちゃん「あんたは…」

斎藤「事態は大体わかっているつもりだ。代わろう、紬様のご友学」

唯「斎藤さん…」

唯「…いえ、私にやらせてください!!」

りっちゃん「唯…」

斎藤「…お嬢様の命がかかっているんです。わかりますね?」

唯「わかってます。それでも…私がやりたいんです! 私がムギちゃんを助けたい!」

斎藤「…わかっているならもう少し気を抜いてください。それではお嬢様も怖がります」

唯「は、はいっ」

斎藤「自分がアドバイスするので唯さんはそれに従ってください。いいですね?」

唯「わかりました!」

りっちゃん「唯! 頑張れ!」

梓「がんばってください唯先輩!」

唯「うん!」

スネーク「切る前にこいつで炙るといい」

りっちゃん「スネーク!」

スネーク「りっちゃん、いざって時に煙草は役に立つ。持っていて損はない」

ポンッと放られたライターをキャッチすると律は笑いながら「吸わないけど持っておくことにするよ」と微笑んだ。

ナイフを炙るといよいよその時がやって来た。

斎藤「お嬢様はレディです。なるべく傷口が残らないよう横に開いてください」

唯「わかりました…やってみます」

持っていた水でしっかりと手を洗いナイフを握る。
ナイフは徐々に紬のお腹へと向かうと、皮膚の上で一度止まり、……

唯「っ」

一気にその尖端を内部へと侵入させた。

斎藤「上手いですよ。あまり時間がないです。ここから血が吹き出ますのでお二人は止血を」

りっちゃん、梓「はい!」

斎藤「唯さんはここから手を入れて弾を取り出してください。レントゲンもクソもないので触診で……女の勘に任せます」

唯「うう……わかりました」

傷口に手を伸ばすと、周りの臓器を傷つけないようゆっくりと捻り込む。

斎藤「ガンナイフの弾は小さいですから注意しながら探ってください。威力もそこまでないのでそんなに奥へは行っていないはずです」

唯「はい……」

唯「(痛いよね……苦しいよね。今助けてあげるからね……ムギちゃん)」

ふと、手に当たる熱を持たない塊。

唯「あった! これだ!」

斎藤「慌てないでください。ゆっくりと引き抜いて」

唯は言われた通りにゆっくりと手を引き抜くと、血だらけになった指先に小さな弾丸を摘まみとっていた。

斎藤「よく頑張りました。衛生上の問題は色々ありましたがとりあえず後は塞いで輸血すれば命に別状はないでしょう。縫合は自分がやります。針も毒針に使ってたやつが余ってるので大丈夫です。糸だけ貸してください」

りっちゃん「毒針って……大丈夫かよ」

斎藤「塗る前だから問題ないですよ。本当はあなたに撃ち込む予定だったんですがね」

りっちゃん「恐ろしや恐ろしや…」

唯「長さはこれぐらいでいいですか?」

斎藤「ええ」

唯「和ちゃんお願い」

和「……」

りっちゃん「うわっ! いたのかよ和」

和「ずっと居たわよ。ただここで出ずっぱるのも悪いと思って」

和はマチェットで極薄弦を一断するとまた少し後方へ下がった。

りっちゃん「そんな気ぃ遣わなくていいのに」

和「ふん……」

りっちゃん「なっ」

唯「早いっ」

梓「まるで針と糸のダンスです!!」

和「ゴッドハンドね…」

スネーク「日本のアニメの闇医者みたいなやつだな」

斎藤「裁縫は執事のたしなみですから。終わりました。この糸はいい素材ですね。本当に弦なのですか?」

唯「和ちゃんに切られちゃったからね。色々な弦のストックを持ち出してたの」

和「私があの時切ってなかったら…ってこと?」

唯「うん。凄い偶然だよ」

スネーク「偶然や奇跡何かはそうそう起きるもんじゃない。それはお前さん達が起こした必然だ」

斎藤「さすが伝説の傭兵、言うことが一々かっこいいですね。癪に障ります」

りっちゃん「まあまあ。これで一件落着なんだしさ! そう目くじら立てない立てない」

斎藤「後は輸血ですが……」

唯「私O型です! ムギちゃんもそうだよね!」

斎藤「はい。唯さんの血ならお嬢様もさぞお喜びになるでしょう。傷口は塞いだのでしばらくは大丈夫でしょう。研究所から器具をとって来ます。すぐ戻ります」

唯「ふう……良かったぁ」ぺたん

梓「お疲れ様でした。唯先輩。また水流すので洗ってください」

唯「ありがとうあずにゃん」

りっちゃん「本当にお疲れ、唯。唯がいなかったと思うとぞっとするよ」

唯「そんなことないよぉ。私はりっちゃんがいない方がぞっとするよ」

りっちゃん「なんだよそれ~」

唯「ふふ」

りっちゃん「ふふふ」

梓「良かったです。本当に…」

紬「すぅ……すぅ……」



りっちゃん「さて……」

スネーク「さてと…」

りっちゃん「あいつ、どうするんだ?」

スネーク「(本当なら殺してしまう一番だが…)知り合いにCIAがいてな。そこから頼んでICPOの厳重な檻に永檻してもらうさ(この子達には俺達みたいな生き方をして欲しくない)」

りっちゃん「そっか……」

りっちゃん「これで本当に終わったんだ…。この無人島でのことは」

スネーク「俺と雷電がお前達を見過ごせば…な」

りっちゃん「やっぱりそう来るのかよ…」

スネーク「ならどうする? 戦うか? 俺達と」

りっちゃん「…戦いたくないな。出来れば」

スネーク「俺も出来ればそうしたくはないがな。ただここでお前達を逃がせばこれまで俺達がやって来たことが無意味になるからな(越えてみろ…)」

りっちゃん「私はもう決めたんだ。迷わないって! 例え伝説の傭兵が相手でも!!! みんなを連れて帰るって!!!」

スネーク「(そうだ…来い。越えてみろ、時代を)」

りっちゃん「行くぞ…スネーク!!!」

スネーク「かかってこい。ルーキー」

りっちゃん「でやっ」

まず律から動いた。対リキッド戦にも見せた拳法を交えた戦い展開する。
鋭く降り下ろされた手刀をスネークは腕でガード。

スネーク「いいクンフーだ。格闘技はいくつヴァーチャスしたんだ?」

りっちゃん「さあ! 覚えてない!」

律は更にそこからスネークの懐に回り込む様にして肘を穿つ。

スネーク「視線を相手から離すな! 必ずしも当たる攻撃なんてないぞ」

スネークは肘打ちをスウェー気味にかわすと律の勢いを利用して足をかけつつ投げ飛ばす。

りっちゃん「んなあっ」

思いきり背中から地面に叩きつけられるもちゃんと受け身をとって回避。

スネーク「ほぅ、いい受け身だ」

りっちゃん「似たようなことを最近されたからな! 同じものを二度食わされるりっちゃんじゃないぜ!」

律はすぐに立ち上がると今度は打撃戦に打って出た。

りっちゃん「(CQC、CQBじゃあっちが専任だ。なら勝ち目は打撃戦しかないっ!)」

自分より遥かに大きな存在に果敢に打撃を打ち込む。

スネーク「どうした!! そんなもんじゃ人は倒せないぞ!!」

りっちゃん「にゃろぉっ!」

スネーク「焦って出るな!」

りっちゃん「なっ……あーっ!」

体重をかけた拳を捕まれ、後は流れ作業の様に足をかけられ宙に舞う。
顔から地面に落ちるのだけは回避するために律は無理矢理空中で前転し、

律「あだっ」

しかし背中から落ちた。

スネーク「どうした!? お前の覚悟はそんなもんか!」

りっちゃん「まだまだァ!」

唯「あの二人……まるで先生と教え子みたいだよね」

梓「そうですね。律先輩やられてるのになんだか嬉しそうです」

唯「私達の知らないところで色々あったんだね、きっと」

梓「はい。きっとそうです」

唯「……りっちゃん。頑張れ」

梓「頑張ってください律先輩」

斎藤「とって来ましたよ。って何ですかあれ?」

唯「弟子よ! 師を越えてみなさい!」フォッフォッフォ

梓「唯師匠、覚悟っ!」

唯「的な?」

梓「多分そんな感じだと思います」

斎藤「……? まあほっといて輸血しましょうか」



雷電「……」

和「あら、スネークなら取り込み中よ」

雷電「そうみたいだな」

和「あなたも私と決着をつける?」

雷電「やめておこう。俺はスネークみたいにはなれない」

和「どう言う意味?」

雷電「わざと負けてはやれないってことさ」

和「スネークがわざと負ける?」

雷電「ああ。スネークはわざと負けて戦場から去るつもりだろう。新しい時代に身を委ねる為にな」

和「あなたは?」

雷電「俺はまだここにいなければならない。俺を拾ってくれた恩義の為にもな」

和「日本人でもないのに侍なのね、あなた」

雷電「俺は雷電。雷の化身だ。侍ではない」

和「そう…」

雷電「そろそろ俺は迎えが来る手筈になっている。ここでお別れだな」

和「また会えるかしら? 雷電」

雷電「お前が戦場居ればな。ただもう会うことはないだろう。お前達はお前達の戦いをすればいい。戦場だけが戦いの場じゃない」

和「そうね。そうさせてもらうわ。…それじゃあさようならかしら?」

雷電「あぁ。さようなら、侍」


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最終更新:2010年10月09日 22:07