りっちゃん「言えないのか?」

澪「言う必要はない。もうそんな人物はいないんだから」

りっちゃん「……あの話には続きがあってさ。私は最後にソリッド・スネークという男に出会った」

澪「伝説の傭兵…」

りっちゃん「私もそう言ったらあの人は自分をただの怖がりで、臆病なやつだって言ったんだ。自分がそうなると嫌だから自分がやるんだって…おかしいだろ?」

澪「…うん」

りっちゃん「そしてこうとも言ったんだ。迷うなって。これはジョン……ビッグボスにも言われたんだ」

澪「ビッグボス…。知ってるのか? 律。あの二人がどういう関係なのか…」

りっちゃん「前に見た資料を思い出したよ。スネークはビッグボスのクローンで…スネークがビッグボスを殺したって」

澪「…何で生きていたからは今更だな」

りっちゃん「そこら辺は良くわかんないけどさ」ハハ

りっちゃん「でも同じこと言われたんだ…二人に。ぶつかり合って…殺し合いをした二人がおんなじこと言うなんて変だよな」

澪「……」

りっちゃん「二人はやってることは違っても……思いは同じなんだ。自分が信じる道を行くって」

りっちゃん「それを聞いて私は……みんなを助けるだけでも駄目だって思った」

澪「じゃあどうする?」

りっちゃん「みんなと一緒に考えて……みんなが笑える道を行くって決めた」

澪「みんなが笑える…?」

りっちゃん「うん。唯も、梓も、ムギも、憂ちゃんも、和も、さわちゃんも…澪も、そして世界のみんなもだ!」

澪「理想論だな。そんなこと出来るわけないだろ!」

りっちゃん「かもな。澪一人じゃ…な!」ニヤッ

澪「~ッ!」

りっちゃん「澪…お前は今笑えてるか? その道を行って。笑えてるのか?」

澪「……私は、そんなものッ!」

澪「どうだっていいッ! 笑えるとか笑えないとかッ! そんなの…どうだって…」

りっちゃん「そうか…。WORLD OF SONGの澪が邪魔してるんだな」

澪「そうじゃない! 私は私だ!!!」

りっちゃん「……なら、こうしようか」

りっちゃん「勝った方が負けた方の言うことを何でも聞く…。どうだ?」

澪「何でもだな?」

りっちゃん「ああ。わからず屋の澪はこうでもしないと納得しないだろう?」

澪「……いいだろう。律、お前が負けたら一緒にここで死んでもらうからな」

澪が構えを組む。

りっちゃん「万が一負けたらな。でも私が負けるわけないさ」

澪「随分な自信だな。そんなに強くなったのか?」

りっちゃん「だってお前は一人で、こっちはみんななんだから」

澪「」ギリッ──

澪「聞き飽きたよッ! お説教はっ!!!」

漆黒に包まれた澪の体が駆ける───

りっちゃん「日本刀は使わないのか?」

澪「そっちこそッ! お得意の麻酔銃は使わないのか?! もっともそんなものじゃこのコートに傷さえつけられないだろうけどなッ!」

澪「チェッ!」

飛び込み様の蹴り、

これをスウェー気味にかわす。

澪「どうしたっ?! 避けるので精一杯かッ?!」

装填のない矢の様に繰り出される蹴りを私はただ避け続ける。

澪「このぉ……ッ!」

澪が痺れを切らし大振りになった時を狙い、開歩───

澪「なっ(懐に入られた…!)」

りっちゃん「掌底!!!」

蹴りが来る前に鳩尾を一掌。

澪「うっ…」

自分の勢いもあり前のめりに倒れそうになる澪。

りっちゃん「いくら銃弾を防げるからって実際の鉄じゃないのはわかってるんだ。じゃなきゃそんなにふわふわ舞うわけもない」

澪「……」

交差するように倒れ込む澪、あっさり決着がついた……

澪「相変わらず甘いな。律は」

りっちゃん「!?」

焦って振り向いた先に、澪のローファーが空を切りつつ私の顎を……。

りっちゃん「があっ……」

弾き飛ばした。

あまりの威力に二、三歩後退してしまう。

口の中は瞬時に鉄の味と砂利が支配し、一気に気持ち悪くなった。

りっちゃん「ペッ……」

口の血を袖で拭うとようやく私は何をもらったのか理解した。

りっちゃん「カポエィラか…」

澪「へー…知ってるのか。意外だな」

澪は倒れる振りをして地面に手を付き、逆立ちしながら足を開き、回転させて私の顎を撃ち抜いたのだ。

りっちゃん「格闘技全般はやったからな。カポエィラは興味なくて全然やらなかったけど」

澪「ふふ、律らしい。なぁ律。カポエィラの起源を知ってるか?」

りっちゃん「知らないよ。さっきも言ったろ? 興味ないって」

澪「そう言わずに聞いてくれよ」

澪「カポエィラはダンスから派生した格闘技なんだ。私はそれを知った時からずっとこの格闘技を極めてきた。身を守る力もいると思って。音楽を取り戻す私に相応しいかなって」

りっちゃん「そうかい」

ムッ
澪「それとさっきの掌底、全然効いてないからな。このコートはセラミックとカーボンから作られてるんだ。薄そうに見えるけど厚みもそこそこある…」

澪「メタルギアの弾丸だって効かないぐらいなんだから律の掌底なんかが効くわけないだろう?」

りっちゃん「……それで強くなったつもりかよ。澪」

澪「強くなったさ。律と違ってな」

澪「早くこうさんした方が身のためだぞ律ッ!」

右足に力を入れると土がめり込む感触が伝わってくる。
コンクリートにはない感触、私はその感触が嫌いではない。
嘗ての親友を蹴り倒すのは気分がいいものではない……が、私は意地でも勝って律と一緒にいてやると決めたんだ。

誰にも渡さない…。

私だけの律でいてほしい!!!

あれ…これは誰の気持ちだろう?

私? それとも……

澪「足元がフラフラだぞ律ッ!」

思いとは裏腹に私の脚は律を撃ち抜いて行く。
腕、肩、腹、足……。
律の体に当たる度に私のどこかも痛む気がする…。

澪「止めだっ!!!」

捻りを入れた回転脚を打つ為に律に背を向ける。

トンッ───

と少し飛び上がりながらスケートの半回転ジャンプの様に体を捻ると……

澪「これで……ッ!」

律は私のものだ……!

ガシッ───

えっ…?

止められ…

りっちゃん「澪、歯……食い縛っとけ」

澪「なっ……」

りっちゃん「銃拳…」ボソッ

律の拳が私の腹部を圧迫する。

でも、

澪「無駄だって言って……」

りっちゃん「掌底ッ!!!!」

腕をしなるように上に吊り上げた後、一気に押し出した。

澪「ッッッ!」

声にもならない衝撃が私の腹部辺りを直撃する。
息が出来ない、
まるでトラックにでも跳ねられた様な……。

何mか飛ばされた後、水仙の花の上にどさりと墜落した。

澪「があっ……がはっ……」

打った衝撃と打たれた衝撃で呼吸が怪しい。
舞い上がる水仙の花の中でただ身悶えた。

りっちゃん「密着してからの……掌底なら関係ない……。それがどんな固かろうが……ただの服だよ」

トボトボと歩く音がする。律が近づいてるのだろう。

負ける……?

私が……負けたら、きっと律は私を助けようとする。
どうなっても。
でもそれはこの先きっと後悔する。
私なんて助けるんじゃなかったって…きっとそうなる。
だから……だからって律を巻き込んで死ぬことが正しいのか?
笑って過ごせる道な…の…?

澪「う……あああっ!!!」

死力を尽くして立ち上がる。

負けない、負けたくない!
ただそんな純粋な気持ちが私を奮い立たせた。

澪……。
お前はどうしたい。
ほんとにそのまま死にたいのか?
お前を心配している仲間を残して?

何がお前をそこまで追い込んでるんだよ…!

りっちゃん「私は……」

朧気な視界で澪を見定める。
あっちもさっきの掌底でフラフラだろう。
ここまでさんざカッコいい格好してきたんだ。
最後ぐらい泥臭くていい。
ただ勝ちに貪欲になる。

りっちゃん「私は澪を倒して嫌がってもでも連れていく!!!」

澪「私だって……負けない! 負けたくない!!!」

私は頭のカチューシャを外し、空に投げる───

だらんと長くなった前髪を気にも止めず言ってやる。

律「FOXDIEDのりっちゃんとしてじゃない! 私は田井中律として秋山澪!!! お前を助ける!!!」



澪「はあああっ」
律「うおおおっ」

水仙の花畑の中心でぶつかり合う。

澪「律は! 律はいつだってそうだった!!! 私のことなんて無視して!! 軽音部にだって無理矢理入れて!!!」

律「がっ……」

澪の蹴りが鳩尾を直撃する、けど……っ!

律「嫌だったのかよっ! お前はッ!」

澪「ぶっ……」

律の掌底が私の顎を跳ね上げる、、、けど……っ!

澪「う……そんなわけないだろうっ!!!」

律「あがあっ」

澪の回転蹴り脇腹にめり込む……。
バキリとイヤな音が耳に入る、それでも止まれない!

律「ならなんでっ!!!!」

澪「うぶっ……」

私の足を抱えたまま律の頭突きが決まる……。
意識が遠退く────

澪「ッ!!!!!」カッ

それでも気を失うわけにはいかない

私は最後の気力を振り絞って律に捕まれてない方の足を振り上げ───

澪「それでもッ!!!!! 私は思い出なんていらないっ!!! 今が欲しい!!!!」

降り下ろす───

澪「ネリョ チャギ!!!!」

俗に言う踵落とし、隠していたテコンドー技をここで使うッ!

踵は律の頭を捉え────

律「だったら───」

澪の足を手で右から押してやり、

澪「そん……」

持ってる足を左手で引っ張ると────

澪「な……」

そのまま投げ伏せる────

律「私がその今を作ってやる!!!!」

澪「はあ……はあ……」

律「はあ……っ……」

澪「最後にCQCとは……やられたよ、律」

律「咄嗟に思いついただけだよ…。多分…もうできない」

澪「そっか…」

律「……澪、これで」

澪「律、この房咲水仙の花言葉……知ってるか?」

律「………」

澪「『思い出』なんだ…。私はいつだってあの頃に憧れてて…またあの頃に戻る為にこんなことまでして…。でもそれじゃ駄目だって…」

澪「だから戒めにこの花をこの研究所に植えたんだ。この房咲水仙もいつか枯れる。その枯れた房咲水仙と共に思い出も枯れさそうって…決めてたんだ」

律「でも知ってるか? 澪」

澪「…?」

律「房咲水仙のもう一つの花言葉は…記念。まだ枯れてない、咲き続けてるんだ房咲水仙は。だからこれは今日から一緒に明日を目指す私達の『記念』なんだ」

澪「…あはははは」
律「くくく…っ」

澪「……参ったよ、律」

律「じゃあ私の勝ちってことで!」

澪「うん。好きにしてくれ」

律「じゃあ……」

澪「……」

律「私と一緒に、ずっと生きてくれ。何があっても」

手を伸ばす────

前は伸ばされて、私が拒んでしまった手を────

澪「わかった」

ぱしんっ───

今度は私が伸ばして……今度こそ離さない────

何があっても、絶対に。


ドオオオオッ

ズオオオオッ

ガタガタガタガタ……

律「なんだっ!?」

澪「始まったか…。軍の爆撃だ」

律「じゃあ早く逃げないと!!!」

澪「わかってるよ。こっちだ律!」

律「うわっ…」

澪の力強い手に引かれるまま水仙畑を抜ける。

律「あっ、カチューシャ…」

澪「あ、ごめん! とってくるよ!」

律「……い~や、いいや」

澪「いいのか?」

律「うん。もう私には必要ないから」

そうだ、もうFOXDIEDの律はいない。
今の私は田井中律、仲間を誰よりも大切に思うただの女の子だ。

澪「わかった、じゃあ行こう! 律!」

律「おうよっ!」

だから、おやすみ

私のカチューシャ。



───研究所 地下 格納庫───

澪「くっ…駄目か。地下のなら無事かと思ってたんだけど」

上のヘリや輸送機は既に瓦礫に埋もれて使い物にならなくなっていた。
地下に逃げ込んだ私達だったがそこでもやはり瓦礫などが降りかかっておりとてもじゃないが発進出来そうなものはない。

澪「駄目だ…他にもう脱出手段が…」

律「私と一緒に生きるって決めたばっかりだろ!? 諦めるなよそう簡単に!!! 何か…必ず何かある!」



「いや~待ちましたよ、ええ」

澪律「!?」

ジョニー「というかこの爆撃の中航空機で逃げ出そうって考えはさすが素人ッスね~…」

律澪「ジョニー!!!」

ジョニー「こっちだ! 紬さんが「こんなこともあろうかと」と作っていた非常脱出用小型潜水艦がある!」

律「さっすがムギ!!! もお~~~大好きッ!」

澪「ン…」

律「澪の次にな!」ニヤニヤ

澪「べ、別にそんなこと言ってないだろ!」

ジョニー「満腹中枢いっぱいごちそうさま。いいから早く!!!」

律「わかった!」

澪「ありがとう、ジョニー」

ジョニー「大したことじゃありませんよ」



「……」

ジョニー「ん…?」


律「おーいジョニー! 早くーー!」

ジョニー「あ、はい!(気のせいか…)」


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最終更新:2010年10月09日 22:15