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 『どうして……』

 『まだこんなに小さいんだよ……?』

 『やっぱりあの研究が不完全だったんだ、唯……』

 『どこがいけなかったんだ……ちくしょうっ!』

 『私がぬか喜びしてたせいで……憂が死んじゃうよ……』

 『憂……』

憂「……」パチ

憂「あれ……?」

律「起きたか、憂ちゃん」

憂「……ここ、どこなの?」

律「病院だよ。憂ちゃん、風邪引いて倒れたんだ」

憂「風邪……? う、けほっ」

律「安静にしてなって。唯も追試終わったらすぐ来てくれるし」

憂「うん……わかった」

律「お姉ちゃんのこと好きなのは分かるけど、無理しすぎちゃだめだぞ」

律「泣きやませて試験受けさせるの大変だったんだからな?」

憂「ごめんなさい……私、人より体弱くて……」

憂「けほっ、げほっ」

律「いいから今は休んでなって。疲れただろ?」

律「ただの風邪なんだから、安静にしてすぐ治す。いいか?」

憂「……うん」

憂(でも、私には風邪だって一大事なんだよ……? 忘れちゃったの、お母さん?)

律「おっ、唯が追試終わったってさ。すぐこっち来てくれる」

律「つーか電源切るの忘れてたな。いかんいかん」

憂「……」

律「まぁ、なんだ。怒ってやるなよ?」

憂「怒らないよ……私の大事なお母さんだもん」

律「……風邪、早く治そうな」

憂「……」

憂「律さん……未来のこと、すこし話してもいい? お姉ちゃんが来る前に」

律「……ああ」

憂「実は、私……お姉ちゃんと律さんの子供なの」

憂「前も言ったけど、私の時代には女の人同士で子供を作れるようになってて」

律「……」

憂「私は、その技術で生まれた初めての人間なんだけど……実は技術には欠陥があって」

憂「生まれた子供の免疫力が、極端に弱くなってしまうの」

憂「……だから私は、生まれて4年で死んじゃったんだ」

律「……」

憂「けど、私のお願いを、やさしい神様が聞いてくれたの」

憂「もっとお母さんと一緒にいたいって……」

憂「だから、私は死んだ時の姿で……5歳のときのお母さんの家にやってきたんだ」

律「……豪快な話だな」

憂「でも、信じてるよね?」

律「あぁ。演技だったら、そんな顔はできないよ」

律「ちょっと悲しげだけど……すごく幸せそうだ」

律「それに……それに」



律「未来じゃ4つで死んじまった自分の子供が、こんなに成長した姿を見て……」

律「嘘だなんて突きっかえすことできねぇって……」

憂「おかあさんっ……」ダキッ

律「憂……わたし、わかんねぇんだけどさ……なんかすごく嬉しいんだ」

律「また憂に会えたって、感じがするっ……」

律「ありがとう、憂……帰ってきてくれて!」ギュッ

憂「お母さん、会いたかった!」ギュウ

憂「……っ」クラッ

律「あ。ごめん、大丈夫か?」パッ

憂「えへへ……結局一緒なんだ、私の体」

憂「病気に弱いまんまなの……」クタッ

律「……そんな」

憂「ごめんなさい。大きくなってからは、幾分かましだったけど」

憂「ごほ、ごほっ」

律「おい、憂? しっかりしろって……」

憂「ふう、ふぅ……きっと、もう……」

憂「う、おぇっ」

 ビチャビチャッ

律「あ……」

律「な、ナースコールを……」

 カチカチカチ

律「ま、待ってろ……いまお医者さんが来るからな」

憂「おかあ、さ……」

律「目を閉じちゃだめだ! まだ14年だろうが……満足していい歳じゃねえだろ!」

憂「はあ、はあ……」

 ガラッ

 「どうしました……っ!」

律「遅い! 憂が大変なんだよ!」

 「鈴木さん、すぐに斎藤先生を!」

 「はいっ!」

 バタバタ

 「患者は?」

 「昏睡状態です。すぐにでも……」

 「ああ、そうだな」

 ガチャ ガチャン

 「あなた、そっちを!」

律「は、はい」

 「2、1!」

律「……」グッ

 「よし、運んでくれ!」

 ガラララ…

律「……」

 トコ トコ

 ガラララ……パタン

唯「……りっちゃん」

唯「いまの、憂だよね……」

律「……ああ」

唯「これ、憂が……?」ピチャ

律「そうだよ……」


唯「うい……」ポロッ

 ピチャン

律「唯は……憂のこと、どれくらい知ってるんだ」

唯「……よく、わかんない」

唯「けど、ほんとは妹じゃなくて、私の子供なんだって言ってた……」

律「……」

唯「それから、憂の部屋から出てきたその方法についての論文を見て……」

唯「きっと憂は私と、誰か女の子との間に出来た子供なんだと思ってる」

唯「あとは……可愛くて優しい、私の大事な妹。それしか知らない」

律「そうか」

律「……」

律「その論文、今どこにあるんだ……?」

唯「私の部屋に……」

律「じゃあ、憂ちゃんが落ち着いたら……家に行っていいな」

唯「……」コクッ


――――

澪「……遅い、な」

律「ああ……」

紬「信じて待ちましょう。それしか出来ないわ」

律「……今は、そうだな」

澪「憂ちゃん……」

唯「……」

律「……大丈夫だ、唯」ギュッ

唯「でも、りっちゃん……」

律「いいから。まだ泣くんじゃない」フキフキ

唯「やだ、やだよ憂……ういぃ……」

律「……」


――――

 フッ

澪「!」

 キィッ

 「……お待たせいたしました」

唯「憂は……」

 「どうにか一命は取り留めました。今は落ち着いていますが……」

 「またいつこのような状態になるかわかりません。長期入院をすべきです」

唯「……そうですか」

紬「良かったわね、唯ちゃん」

唯「……そだね。生きててくれてよかった」

律「……」

 「それから、平沢さんは現在かなり衰弱していますから……今日のところは」

唯「……はい。みんな、帰ろう?」

澪「そうだな……」

――――

 コツコツ カツン……

唯「りっちゃんは私の家に来るんだよね?」

律「ああ。少し寄らせてもらう」

紬「……」

澪「そうか。じゃあ、別々だな」

紬「皆、また明日ね」

 ウィーン

律「よし、私たちも行こうか唯」

唯「そうだね。……途中でコンビニ寄ってこ? お腹すいちゃった」

律「あぁ、そうするか。腹が減っては戦はできないからな」

唯「戦うの、りっちゃん?」

律「戦うよ。唯もな」

唯「ほぉ~。なるほど、これは戦いの予感だったんだね」

律「フッフッフ。狼煙が西になびいておる……」

唯「やめてよ」

律「……ごめん」

唯「気をつけてね」

律「ほんとごめん」

唯「もう許したよ」

 テクテク

唯「……セブンあったよ」

律「道路の向こう側だからめんどくさいな」

唯「じゃあ、この先のセブンだね」

律「変な奴がたむろしてる。やめたほうがいいな」

唯「そしたら、ちょっと家を通りすぎちゃうけど、私の家の近くにあるセブンにしよっか」

律「セブンってなんであんなに密集するんだろうな」

唯「みんな仲良しなんだよ」

律「そうだったらいいな」

 テクテク

唯「こっちだよ」

律「おっ、あったな」

 ウィーン

 「しゃらっしゃーせー」

律「唯ってセブン好き?」

唯「うん。セブンじゃないと落ち着かないくらいに」

律「子供のころ近くにあったコンビニが、自分のホームコンビニになるよな」

唯「分かるね、それ。あ、おにぎりが焼たらこと昆布しか残ってない」

律「そういえば、なんでコンビニのおにぎりは短いスパンで進化していくんだろうな」

唯「正直パッケージ以外変わってないよね」

律「唯のことか」

唯「否定できないのが歯痒いなぁ」

唯「言われてみれば私って子供のころから成長しないね」

唯「ハンバーグとかオムライスとか未だに大好きだし、カレーは甘口だしね」

唯「好物は天津飯です、とか言えたらいいのに」

律「半ばオムライスじゃないかそれ……嗜好は別にいいんだけどさ、もっとこう、な?」

唯「ほんとだね……」

唯「あれで憂が死んでたら、私……」

律「……」

律「……私、シャケな」

唯「あれ!? 残ってたんだ。大好きなのに気付かなかったよ」

律「よく見てないからだぜ」


――――

律「で、結局肉まんか」

唯「寒いしねぇ。はふはふ」

律「……」

唯「あちっち! あふいよう……」

唯「ほあほあ、ひたやけどしたー」ベー

律「やれやれ……見ても分かんないって」

唯「んー」

律「ちゃんと前見て歩こうか」

唯「だいじょうぶだよー」ハグハグ



 夜12時 平沢家

律「唯の部屋はこっちだったよな」トントン

唯「うん。憂が持ってた論文が欲しいんだよね? いま持ってくるよ」

律「私も入っていいか? というか、これは私たち二人で見なきゃいけない」

唯「わかった。入って」ガチャ

律「うむ」

 パタン

唯「えっと、確かここに……」ゴソゴソ

唯「これだよ。憂が持ってた、女の子同士で子供を産む方法を研究してまとめた論文」バサッ

律「未来の技術だな。……電気をつけてくれ、唯」

唯「はい、ルーモス・マキシマ」カチ

律「ネタが古い」

唯「私はもう目を通したから、りっちゃん見てていいよ」

唯「憂の着替えとか、用意してあげなきゃいけないし」

律「分かった。ざっと読んでおくよ」

唯「分かんないとこあったら言ってね」ガチャ

 パタン

律「まぁ唯に分かるもんなら私にだって」ペラ

律「……」タラッ

律「……うん?」

律「えーっと……どういうことだろうねぇ」

律「方法自体はなんとなく分かるけど……どうしてこれで子供ができるんだろ」

律「これを理解するには、私は勉強不足すぎるみたいだな……」

律「でも、ひとつ間違いないのは……この研究が未完成だっていうことだ」

律「この方法じゃ駄目なんだ……生まれる子供が免疫力を持てない」

律「子供に問題が出ないよう、改良しなきゃいけないわけで……その為には」

 バサッ

律「まず、この出来損ないをみんな理解しなきゃいけないわけだ」

律「……時間、かかるな」

律「とりあえず、全体に目を通しておくか」ペラッ

律「唯はこれ、どれぐらい理解できたんだろうな」

律「……」ペラッ

 ガチャ

唯「りっちゃん、今晩どうするの?」

律「どうするって?」

唯「すごく遅くなっちゃったけど……帰れる?」

律「確かに、もう日付変わってるな」

唯「だからほら……と、泊まってかない?」

律「あ……うん」

律「そうするか。私も一人じゃ不安だしな……」

唯「えへへ……ありがと」

唯「わたし、お風呂沸かしてくるね!」

律「ああ、サンキュ」

 ガチャ パタン

 トタタタ…

律「……唯とお泊まりか」

憂『私……お姉ちゃんと律さんの子供なの』

律「変なこと考えてる場合じゃないって」


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最終更新:2010年10月12日 23:59