唯「ただいま~」
律「おかえり」
玄関をくぐるとりっちゃんの声といい匂いが私を迎えてくれた。この匂いは…
唯「今日はシチューだね!?」
律「隠し味は愛情ですわよ奥さん」
唯「わ~い」
日に日に上達するりっちゃん。イイ奥さんになれそうだなぁ
唯「りっちゃんホント凄いよ。イイお嫁さんになれるね」
律「よせやい。…まぁ何だ、本気でミュージシャンを目指そうって言い出したのは私だし。…責任感じてんだぜこれでも」
唯「りっちゃん…」
律「だから、さ。私に出来る事は可能な限りやりたいんだよ」
唯「…だめ!」
律「…え?」
唯「一人で背負い込んじゃ駄目だよ!りっちゃん!」
律「唯……へへ。ありがと」
唯「あわわ」
居間の中心に寂しく置かれたちゃぶ台。その上には恐らく内職の物であろう何かが乱雑に放置されていた
唯「りっちゃーん。これ、腕の関節を繋げばいいのぉ?」
右腕の無いお人形を掴み取る
律「そだよー」
唯「ふふん。簡単だね」
パキッ
律「ふー。出来たぞ」
二人分のシチューを持ちながらりっちゃんが居間までやってきた
律「唯、その人形が入ったダンボールどかして」
唯「…」
律「唯?」
唯「はっ!あ、アイアイサー!」
律「あらら、壊しちゃったのか」
隠し事はよくないよね…
律「ま、仕方ねーよ。次から気、つけてな」
唯「あぐあぐ…ぁい」
律「食べながらしゃべらない。ほら、ほっぺにシチューついてる」
どこから取り出したか、ハンカチで私のほっぺをスリスリするりっちゃん
唯「…ぁう」
律「ははは、全く、唯はいつまでたっても子供みたいだよな」
りっちゃんは日に日にイケメンになってくね
唯「むー」
律「むくれるな、むくれるな。そこが唯のイイところでもあるんだし」
唯「…えっ」
律「可愛いって事だよ」
唯「あ…あ…ぅ」
はい来ましたいただきました!!天然!天然ジゴロ!
唯「私が洗うよ」
食べ終わった食器に腕を伸ばそうとした時、りっちゃんが同じように腕を伸ばして、割に入った
律「いいよ、唯はバイトで疲れてるんだし」
唯「駄目だよ。りっちゃんは炊事洗濯、内職までやってるじゃんか。それだって疲れるでしょ」
律「むむぅ。あ……じゃあ、さ」
唯「はい」
律「一緒にやろうぜ」
唯「むー。少しは楽、してほしいんだけどなぁ…」
律「そこは譲れない。楽しい事も、辛い事も、
その他全部、半分こだ」
唯「……」
顔が火照ってくのが自分でもわかる。あぁだめだ。りっちゃん最高やで
律「唯?」
唯「はいぃ!?」
律「どうしたんだよ…まぁいいや。皿洗い終わったら、一緒に風呂はいろーぜ!」
唯「イエス」
…
唯「りっちゃん肌綺麗だね…ハァハァ」
視界いっぱいに広がるりっちゃんの背中。これはたまりませんね
律「唯には負けるよ~。てなんか鼻息荒くないか」
唯「ハァハはっ!き、気のせい気のせい」
律「そか」
唯「あーん手が滑った~」
私の手がりっちゃんのわき腹を通り胸へと動く。ふっ、貰った…
律「あっ」
唯「!!」
たまりません。お母さんお父さんごめんなさい。唯は変態でした
律「やったなぁ~」
そして計算通り。こうすればりっちゃんは仕返しとばからに私の胸を揉んでくる。これで合法的(?)にちちくりあうことが出来るのだ
唯(エヘヘ…)
…
唯「りっちゃん寝た~?」
背中越しに伝わる大好きな人の温もり
りっちゃんは布団をもう一人分買おうと言ったのだが、私が頑なに断ったのだ
「私は別に一緒で平気だよ。それに置き場所にも困るし、ね」と言った具合。
まぁ本音としては「りっちゃんと…毎日添い寝!!」なのだが。そんな事言えるはずもなく
律「ん~おきてるー」
眠そうに返事をするりっちゃん
唯「…ねぇりっちゃん」
律「んぁ」
唯「て、てて…て、手を、手を繋いでも…い、いいかな?」
律「なんだー、怖い夢でも見たか…」
唯「う、うん」
返事と同時に布団の中がもぞもぞと動く
身体ごと振り向くとりっちゃんがこっちを向いた状態だった
唯「あ…」
そして、手に暖かい感触
律「おやすみ…んが」
唯「うん…おやすみ」
…
唯「んが」
目を開けるとまぶしい光が私を襲った
唯「朝……む」
同時にいい匂い。そしてリズミカルなトントントンという音
律「起きたか。おはよう」
唯「りっちゃん。えへへ、おはよう」
律「そろそろ朝ご飯出来るからな」
唯「ぁい」
上体を起こし背を伸ばす
唯「んーっ。今日は何時からバイトだったかなぁ」
律「10時。あと二時間はあるな」
トレイを2つ持ったりっちゃんが視界に映った
唯(エプロン可愛い…)
唯「ライブは今週末だよね」
律「そだよ。許可貰ったのはその日。はい、唯の分」
味噌汁に焼き魚に漬け物にご飯にお茶…りっちゃん、完璧やで!
唯「ありがとう。よーし、がんばるぞぉ!」
律「その意気だ、唯!!」
…
唯「ごちそうさまでした」
律「お粗末さま。まだバイトまで時間あるな。どうする?」
唯「えーと…あっ」
律「?」
唯「ブラブラしようよ!りっちゃん!」
律「あはは、唯らしいな」
唯「そうと決まればさっさとお片付けだよ!」
トレイを勢いよく持ち上げる
律「元気だなぁ」
唯(デートっデートっ、りっちゃんとデート~)
律「何だか視線を感じるな。それも複数」
唯「りっちゃんがイケメンだからじゃない?」
律「あんまり嬉しくねぇな…」
今りっちゃんの頭にあれ…(名称なんだっけ忘れた)がついていない。髪を全部おろした状態になっている
律「唯が可愛いからじゃないか?なーんてな」
唯「て、照れるぜ…」
律「あはは」
りっちゃん、そんな何気ない言葉でも私には大ダメージだからね。気をつけてね。いやまぁ嬉しいんですけどね!!!
律「あ…唯、時間だ」
携帯を開いていたりっちゃんが言う。そう…もう0時の金が鳴るのね…なーんてね
唯「ハニー、行ってくるよ」
律「ダーリン!気をつけて!」
唯「…ぷっ」
律「…ぷっ」
あはははと二人して笑う
唯「じゃあ行ってくるね、りっちゃん」
律「おう。行ってら」
律「さて」
家に帰るか。と、そう思った時だった
「律先輩!」
懐かしい声が私を引き止めた。振り向く。そこにはかつての部活仲間がいた
梓「お久しぶりです、律先輩!」
梓だ――――――
梓「お邪魔します」
律「おう」
立ち話もなんだし、家も近かったので、招き入れる事に。何よりも梓が行きたいですオーラを醸し出していた
梓「生活してるって感じですね」
律「そらな。それより…いつ以来だ。卒業して以来かな?」
梓「はい。澪先輩やムギ先輩には結構会ったりしているんですが…お二人は忙しそうだったので声、かけづらかったです」
律「んな寂しい事言うなよなぁ~。可愛い後輩が会いたがってたら会うよ、ちゃんと」
梓「…何だか律先輩、変わりましたね」
律「ん、そう?」
梓「はい。なんだか大人っぽく」
律「そりゃどうも」
そう言ったと同時に、梓のお腹が悲鳴をあげる
梓「そう言えばお昼まだでした」
照れながら、そう言った
梓「先輩、凄いですね」
律「へ?」
面食らったような顔で梓が言う
梓「とっても美味しいです」
律「そりゃどうも」
梓「唯先輩毎日こんなの食べれるなんて…しかも律先輩の手料理ブツブツ」
律「?」
小声でブツブツ呟く梓。よく聞き取れなかった
唯「どーん!!」
律「わっ」
梓「きゃっ」
突然勢いよく開かれる玄関
律「ゆ、唯?!あれ?バイトは?」
唯「クビになりました!」
梓「く、クビ!?」
唯「あれ?あずにゃん?」
律「また落ちたのか~?」
梓「ま、また!?二度目なんですか!?」
唯「ごめんね、りっちゃん。また、すぐ新しいバイト先探すから…」
律「んー。とりあえず落ち着こう。唯、こっち来て座れよ」
唯「う、うん」
唯「最近失敗続きで…『平沢!お前もう来なくていいよ!』って言われちゃった…」
律「そ、か…」
梓「…」
律「まぁ、あれだ。多分、唯、疲れてるんだよ。慣れない生活だし。そろそろ一年経つだろ?溜まっていた疲れが今になって出てきたんだよ」
唯「そう…なのかなぁ……よくわかんないや。あはは…」
梓「…す」
律「え?」
梓「…じゃだめです」
唯「あ、あずにゃん?」
梓「こんなんじゃダメですーっ!!」
律・唯「わっ」
梓「私から見れば律先輩も疲れているように見えます!」
律「え…そうか?」
梓「何でそんなに2人だけで頑張っていたんですか!?何で…何で少しくらい頼ったりしてくれなかったんですか!?」
梓「私は…私はそんなに頼りない後輩でしたかっ…!」
突然立ち上がった梓は身体を震わせながら泣きそうな…いや、泣きながら私たちに訴えかけていた
唯「あずにゃん…」
律「悪い…でもな、梓。これは2人で決めた事なんだ」
梓「え……」
律「ムギや澪、2人には勉強を沢山見てもらって…澪なんか推薦蹴ってまで同じ大学を選んでくれたのに…」
律「そんな2人に、これ以上迷惑はかけられない…」
梓「そんな!迷惑だなんて…思うわけがーーー
唯「ダメなんだよ。あずにゃん。私たちが耐えれないんだ。その優しさに、ね」
唯「だから、2人で決めたんだ。当分は…誰の手も借りずに頑張ろうって…」
梓「…先輩…」
梓「……わかりました」
梓「今日はもう…帰ります」
律「あ、送ってくよ」
梓「いえ。大丈夫です。…それより」
律「…ああ…。…本当に困ったら頼るよ。梓にも。澪やムギにも、な」
梓「ふふ。ならイイんです」
唯「あ、あずにゃん!」
梓「はい?」
唯「今度ね、私たち路上ライブするんだ!!良かったら見に来てよ!」
梓「路上…ライブ!?そんな事してたんですか!?」
律「まぁ、ちょいちょいな。場所は×××の××でやるんだ。今週末」
梓「えっっ」
律「ん?」
場所と時間を伝えると梓が驚きを見せた。と思いきや直後に不適な笑みを浮かべる梓
律「?…梓?」
梓「ふふふ。路上ライブ。楽しみにしていますね。でわっ!」
律「あ、おい!ムギや澪には言うなよ!?まだあいつらには会いづらいんだ」
梓「は~い!」
最終更新:2010年10月15日 03:38